障害者雇用に向けての取り組みが、関係機関の指導・支援により解決
- 事業所名
- 財団法人長野県健康づくり事業団
- 所在地
- 長野県長野市
- 事業内容
- 健康診断(巡回・施設)、保健・栄養指導、小児検査、健康増進、普及啓発及び募金事業
- 従業員数
- 200名(うち、臨時・パート50名)
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 1 受診者受付、データ入力処理等 内部障害 1 事務整理 知的障害 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
財団法人長野県健康づくり事業団(以下、「事業団」)は、平成12年4月、結核予防会長野県支部、長野県成人病予防協会(日本対がん協会長野県支部)の2団体を統合して設立された財団法人である。
平成16年4月、県から旧長野県長野総合健康センター・同伊那総合健康センター(同年3月廃止)の業務委譲を受けて、長野健康センター・伊那健康センターを開設、本部を現在の長野市稲里町に移転している。
事業団は、長野県民の健康づくりに寄与するために、国、県、市町村、事業所と連携し、保健活動を実践し、正しい知識の普及啓発に努めることを基本理念に、以下の6事業を行っている。
① | 検診車による集団健診事業 市町村または事業所からの委託を受け、胸部(結核・肺がん)検診、肺がんCT検診、胃検診、大腸検診、乳房検診(超音波)、乳がんマンモグラフィ検診、子宮がん検診、骨健診、循環器(特定健康診査・一般健康診断等)検診、腹部超音波検診、前立腺がん検診、肝炎検査等(循環器検診時に採血)の実施。 |
② | 健康センターにおける施設健診事業 長野健康センター、伊那健康センターにおける、生活習慣病予防健診、日帰り人間ドック、全国健康保険協会健診、一般健康診断、特定健康診査等の実施。 |
③ | 健康増進事業 健康センター受診者の健康増進指導、長野健康センター内「体力づくりエリア」の運営、市町村・事業所の依頼等による地域出張指導等の実施。 |
④ | 小児検査事業 長野健康センター内検査室において、新生児の先天性代謝異常検査等の事業を、県の委託を受けて実施。 |
⑤ | 知識普及啓発事業 イベント・講演会・研修会等の開催、パンフレット・ポスター等の配布、新聞・放送等によるマスメディア広報等の実施。 結核予防婦人会、長野よろこびの会(がん克服者の会)の活動支援の実施。 |
⑥ | 募金事業 複十字シール募金事業、事業団会員募集事業の実施。 |
(2)障害者雇用の経緯
健診の結果等を処理する上で、パソコンを利用した検査結果の入力・確認作業(読み合わせ)が行われる中、事務所内でのデスクワークが中心となる作業が多いことから、当該作業に従事していただく臨時職員の雇用を進めていたところ、ハローワークの担当者より「障害者雇用」の検討について要請があった。
障害者雇用を積極的に行う健診機関であることによるイメージアップの視点からも、検査受付への配置を検討し、また、データ入力処理を行う必要性があるため、パソコン入力が可能な人の紹介を、ハローワークの担当者へお願いした。
業務の内容から、知的・精神障害者の雇用は難しいと思われたが、それ以外の障害者にあっては雇用が可能であろうと判断できたことから、3名の人を紹介(うち、聴覚障害1名、下肢不自由1名の計2名の面接を実施し、下肢不自由者1名を採用)いただき、本人の障害状況を踏まえて採用を検討したところ、下肢不自由者であり、車いすを使用することから、別階への移動に支障が発生することが懸念されたが、担当部署とも何度か打ち合わせを行い、本人が担当する業務を検討することで採用を進めた。
また、当施設は長野市の郊外にあることから、通勤方法については「自家用車」による通勤が必須であったが、採用を検討した人が自力での通勤が可能な人であったことや、施設内の来館者用の障害者駐車スペースが十分確保されており、その一部を本人用に使用することで対処可能であることなど、障害者受け入れのための基本的な環境も整っていることで雇用に至った。
2. 障害者雇用にあたっての取り組みの内容等
(1)障害者雇用への課題と取り組み内容
下肢不自由者Aさんの雇用にあたり雇用予定先部署からは、健診受診者の各検査の進行に伴い、受診者も職員も各所へ移動して決められた時間内に健診を進めることから、①障害のない者以上にスペースや通路幅が必要な車いすによる移動や移動時間についての課題、②Aさんの休憩場所についての課題、③Aさんが担当する業務内容についての課題が発生した。
① | Aさんの職場内での移動についての課題としては、階段の利用が難しいこと等の困難が予想されたが、各階への移動についてはエレベーターを利用し、各階の廊下での移動についても車いすの通行に支障がない箇所を利用することで課題の解決を図った。 また、移動時間についても上記の移動方法であれば特に問題ないことで解決した。 |
② | Aさんの休憩場所についての課題は、和室のうえ入り口に段差もある職員休憩室への入室が困難なことから、段差のない事務室で他の職員とともに休憩することで、課題を解決した。 |
③ | Aさんが担当する業務内容についての課題に対しては、医療職が行う必要のない業務全体を洗い出し、その業務のうち各階への移動や同じフロア内でも移動をできる限り抑えて行える業務を中心に検討し、本人の負担を考慮してなるべく移動しないで作業が可能となるパソコンを使用したデスクワークに従事することで課題を解決した。 |
当初は、雇用予定先部署においては、雇用に対し後ろ向きな発言があったが、上記のような取り組みを行うことで、雇用予定先部署の職員の理解を促し、最終的には所属長の判断により雇用を進めた。
雇用当初は、職員にも下肢不自由者とともに業務を行うことの対応方法等に戸惑いがあったが、業務の切り分けによる明確化により、日々解決するとともに加えて、ハローワークの担当者の定期訪問等により雇用者側と就労者側からの双方の問題点等を随時解決した。そのような取り組みの結果、雇用開始から1年が経過しようとしており、安定した継続雇用が図られている。
(2)雇用継続を図る上での課題
当施設は障害者にも利用いただける施設として、点字ブロック、障害者用駐車スペース、玄関階段脇スロープ、バリアフリー、エレベーター及び車いす利用可能な多目的トイレ等を設置し開所していたが、Aさんを採用したことにより改めて施設面において(1)に記載した内容や、扉や通路等の課題があるため、就労場所を限定せざるを得ない状況にあり、以下の改善点が見えている。
① | ある検査場所の出入り口ドアが鉄扉であり、扉自体の重量がある上、引き戸でないため障害者が簡単に開閉できない状態となっている。 |
② | 職員の出入りが頻繁な事務所への入室に使用する場所の出入り口ドアが引き戸でないため、改善が必要となっている。 |
③ | 施設内の一部の廊下で車いすの通行に支障をきたすほどの狭い通路があるため、改善が必要となっている。 |
上記の課題については、今後の就業継続や新たな雇用の創出においても課題となることが予想されるため、課題の改善に向けた取り組みを実施して行きたいと考えている。
3. 取り組みの効果
(1)障害のない者のみでは見えなかったものが発見
障害のない者では想定できなかった以下の事象が発生し、新たな検討を要する必要性が起きている。
- 災害等緊急時の避難誘導体制
主たる健診フロアが2階であるため、エレベーターが使用不能な場合の避難誘導の際、車いす利用者にあっては階段により避難が必要であるが、自衛消防による体制・訓練がなされておらず、早急な体制づくりの必要性がある。 - 顧客(受診者)の動線に合致した障害者対応施設
主な健診フロアである2階への動線は、車いす利用の受診者について、長野施設では、エレベーターにより確保されているが、伊那施設ではエレベーターが無く、車いす利用の受診者の受け入れが不可能な状況となっている。
(2)障害者への理解が深まる
従来、健診機関としての考え方は、顧客である受診者は障害のない者のみであり、障害者は主治医があり、かかりつけの医療機関で継続的に検査を進めるものとの考え方があったと思われる。しかし顧客は障害のない者のみではなく、県民への共通な医療サービスを提供すべき健診機関としての役割は、障害のない者、障害者共通と考えられる。
このことからも、職員が対応にあたり障害者に対する配慮が図られ、医療サービスを進める上で大きな効果を見せている。
(3)障害者雇用の促進
内勤事務職等にあっては、頻繁に移動し業務を行う必要性が少ないことから健診結果処理業務においては、今後も障害者の雇用の促進が可能であるものと思われる。
また、Aさんを受け入れ、その定着が図られていることから、職員の障害者雇用に対する意識が変化してきている状況も感じており、施設面の整備を可能な限り進めることで障害者の雇用の促進が図れるものと思われる。
4. 今後の展望と課題
現状における施設整備面での課題としては、施設内の移動については顧客(受診者)の動線のみを意識したものとなっており、障害者雇用を意識した環境整備が成されていない状況である。
事務局フロア内すべての扉が引き戸ではなく、車いす利用者にとって開閉が困難であるばかりか、フロア内の通路が十分確保されておらず、車いすでの通行に支障がある。
車いすでの通行が可能となるための通路の確保については、職員の意識によりある程度の解決が可能だが、扉の改造等の施設面の改善については多額の費用が見込まれることから、各種施設整備補助金を活用した施設整備による改善が必要となっている。この障害者雇用を意識した施設整備により、障害者の作業環境が整備され、雇用の促進につなげることができるものと考えている。
また、採用にあたり面接の上で重視すべき内容として、人柄(コミュニケーション力)・勤勉さ(仕事に向かう姿勢)があげらるが、障害の有無にかかわらず、公正な視点で選考することが重要であると考えている。
今回Aさんを雇用したことで、職員の障害者雇用に対する偏見が少なくなってきたものと思うが、受け入れ側である職員への教育が重要であり「障害者雇用マニュアル」等を活用し、年2回開催される職員全体の研修会や部門ごとの細かな教育等の機会を捕らえて、総務部門から積極的に発信することが必要であると考えている。
事業所としても障害者雇用を進める上で、期間雇用者を含めて随時ハローワークの担当者へ相談し、雇用が可能な人については積極的に雇用していきたいと考えている。
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