各支援機関との連携・協力により雇用が進んだ事例
- 事業所名
- 三洋商事株式会社
- 所在地
- 大阪府東大阪市
- 事業内容
- 産業廃棄物処理(収集運搬・処分)業、リサイクル業
- 従業員数
- 260名
- うち障害者数
- 49名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 1 解体分別作業、事務作業 肢体不自由 4 解体分別作業、事務作業 内部障害 知的障害 37 解体分別作業 精神障害 1 解体分別作業 発達障害 6 解体分別作業、事務作業 平成24年2月29日現在
- 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯・背景、障害者の従事業務・職場配置
(1)事業所の概要
① 事業の特徴
三洋商事株式会社は、パソコンや携帯電話・電話交換機等を中心とした、各種機器類等の産業廃棄物を手解体による、きめ細かい分別解体により各素材等に分別しリサイクルを行うことを事業としており、高いリサイクル率を確保している。
また、個人情報や企業の機密情報に深く関係する処理物品が多いことから、セキュリティルーム(情報消去・破壊作業専用作業場)を設置して、情報漏洩対策を講じている。廃棄物の収集については各行政により許可が必要であるが、北は北海道から南は沖縄県まで日本全国の許可を有している。
② 経営方針
<社 是> 従業員とその家族の幸せを何よりも大切にする。
<経営理念> 地球に「ありがとう」を伝える企業
<行動指針> あいさつ、お掃除、SKH運動(名前の「さん」付、敬語の奨励、品格のある行動規範)
(2)障害者雇用の経緯・背景
○障害者雇用の開始
同社が障害者雇用に取り組んだきっかけは、「産業廃棄物処理工場=ごみ処理場」が近くにあるというイメージや、トラックが毎日出入りしていることから、「近隣住民の方々には日頃から迷惑を掛けている」という思いが会社にあり、何か役に立てることは無いかと社内で検討していたことから始まる。
以前、知的障害者の施設より何か仕事は無いかと問い合わせがあった時に、解体品を出していたことがあったが、産業廃棄物は許可の下りている工場でしか処理できないので有価物しか出せず、この時は取引も続かなかった。
その他の場所では産業廃棄物の処理が出来ないのであれば、自社で知的障害者を雇用していこうということになり、平成15年11月より知的障害者の雇用を開始した。
○設立50周年で目標設定
障害者を雇用して約4年間は3~5名程の雇用で推移していたが、平成19年に会社設立50周年を迎えることを契機に、全社でチャレンジド雇用50名(雇用率20%)を目標に設定した。
これにより平成18年からチャレンジド雇用者数が大幅に増加した。
※ | チャレンジド…障害者は、米国では「神様から挑戦すべきことを運命づけられた人達」という意味を込め「チャレンジド」と呼ばれており、同社では、障害者のことを通常「チャレンジド」と呼称を統一している。 |
(3)障害者の従事業務・職場配置
チャレンジドの従事業務は、次の①小解体・分別(軽作業)、②荷降ろし、粗解体・分別(重作業)、③事務員、④在宅事務員 の4種類がある。
① 小解体・分別(軽作業)
- 殆どのチャレンジド作業員がこの作業に従事している。(49名中39名)
- 仕事の内容は、パソコン、モニターや装置のユニット等を作業台の上で、工具を使用して解体・分別を行う作業である。
- 同じ作業場にはシルバー(60歳以上)従業員やパートの女性従業員も在籍し、同じ仕事をしている。
- 新しく従事したチャレンジドは、ベテランのシルバーの人についてもらい作業指導を受ける。


② 荷降ろし、粗解体・分別(重作業)
- 仕事の内容は、トラック等で持ち込まれた物品を重機又は人の手により荷降ろし、また大きなものはユニットを外し筺体を解体。①の作業と比べて重機を使用、また近くで重機が動いているので危険を伴う作業になる。
チャレンジドでもフォークリフトや玉掛け免許を取得して作業している人もいる。 - ①の作業場で作業を行っている人で、本人からの希望があり、且つ職長の推薦のあったチャレンジドの中で、1ヶ月程トライアルで作業してもらい、作業ができることと安全面で問題がないことを確認したチャレンジドのみ、この作業場で勤務している。

③ 事務員
- 事務員(通勤)には発達障害者が2名従事。
- 仕事の内容は、毎日のトラックの運行実績データ整理や手書きデータのパソコンへの入力作業、契約書等の紙データのデジタル処理等の基本的には日々のルーチン作業を主体として、スポットのデジタル作業等を実施している。
- 現在の2名も東京と大阪で別々の事務所であり、同じ事務所では他にチャレンジドはいない。
④ 事務員(在宅)
- 事務員(在宅)には車いすの人が従事している。
- 仕事の内容は、契約書情報のシステムへの入力作業や紙マニフェストや伝票等のシステム入力等が主な業務である。
- 作業の開始時及び作業終了時にはメールで、終了時はその日の成果物の送付をして勤怠管理をしている。
- 在宅作業なので同じ作業をしている他の人が見えるわけでもなく、作業時間も自分で組み立てないといけないので、自己管理ができる人でないと難しい面がある。
※基本的に同じ職場では周りの人と同じ仕事をしている。
2. 取組の内容と効果
総務部の桐畑氏に様々な取組みについて、お聞きした。
(以下、Qは筆者、Aは桐畑氏)
(1)職域の開発について
Q: | どのように職域の開発をされましたか? |
A: | まず、現状の業務の中から業務の洗い出しを行いました。 事務職の場合は、「毎日ルーチン化している業務」「入力業務」を洗い出しました。他部署からも、比較的単純作業だが、時間がかかり、しかし絶対に誰かが行わなければならない業務を洗い出しました。 次に、業務の選別・検討を行いました。洗い出した業務の中から、本人が出来る業務を抽出し、日々のスケジュールの組み立てを行いました。 |
(2)会社・職場の理解について
Q: | 会社や職場の理解はどのように工夫されましたか? |
A: | 各障害の特性について、社内勉強会を実施しました。 特に職場内から実施してほしいと要望のあった講習を実施した際は、効果がありました。これにより、個別の特性等は同じ職場の人達と情報共有ができました。当社には障害者について専門的な知識を持った人間がいなかったので、ジョブコーチ制度を利用したり、障害者職業生活相談員資格認定講習を受講し、少しでも役に立てる知識等を吸収するよう努めています。 |
Q: | 職場で一緒に働く人達から反対や不満はありませんでしたか? |
A: | 当社の場合もそうですが、中小企業=オーナー企業であることが多いので、トップダウンで実施する方が成功すると思います。 なぜ、障害者を雇用するのか?しなければならないのか? について朝礼、社内報、給与明細内に手紙を入れる等、ことある毎に説明し、社内浸透を図りました。 作業効率は、障害のない者に比べて、平均6割~7割程度になる中で、当社の場合は同じ作業場内については同一賃金・同一給与体系を取っています。賃金等に対して従業員から不満があった場合は、助成金で給与の補助がなされていることを説明できるように準備しましたが、実際はそういう声は出ませんでした。 |
(3)雇用の流れと雇用開始から戦力化まで
Q: | 雇用までの流れについて教えてください。 |
A: | 雇用までは、事前資料と面接によって、会社の決まり事、行動指針(あいさつ・お掃除・SKH運動)の確認を行います。 事前資料で、特徴・特性・クセ・持病・常用している薬・施設での注意していたこと等を確認し、事前資料が無い場合は、改めて作成するようにしました。 その後、原則2週間の実習を行います。 以前は、実習期間は賃金の発生が無いこともあり、実習をしていませんでした。しかし、実際に雇用してみると、仕事が合わないとか思っていたような仕事でなかった等ということで、すぐに辞めてしまう人も出てきたため、それ以降は実習をして、長いことやっていける仕事かどうか確認するようにしました。 当社としても、実習期間中の態度、特にあいさつ、お掃除、SKH運動を主として、指示に対する反応や作業能力等を総合的に見て、採否を判断しています。 |
Q: | 採用後はいかがでしょう? |
A: | 会社の決まり事、行動指針(あいさつ・お掃除・SKH運動)の再確認をします。 技術指導については、ベテラン作業員の隣りで作業をして技術習得を行っています。採算向上、モチベーションについて、日々の出来あがり重量・個数の把握、貼り出し、責任者との面接と振り返りを行いました。 他に、助成金制度も活用しました。 |
(4)雇用管理やサポート体制について
Q: | 雇用管理やサポート体制はどう工夫されましたか? |
A: | チャレンジドの雇用管理として、個人面談の機会を月に1回作って各人の相談事や心配事等を拾い集めようとしました。しかし、改めて機会を作ってもなかなか心を開いて話をしてもらえる人は少なく、始めてみるも継続出来ませんでした。 そこで、何か問題や変化等があった場合は、出身施設の人や障害者就業・生活支援センターに相談し、支援・フォローに入って頂くようにしました。 生活・金銭・ご家族面も含めて、会社がかかわりにくいところをフォローしていただけ、就業面でもアドバイス頂けるので大変助かっています。 福祉施設や能力開発施設等から当社に就職された人は、当社に就業して何年経っても快くフォローしていただけます。今まで施設などかかわりのなかった人で、支援者がいない場合は、障害者就業・生活支援センターにフォローに入っていただいています。 |
Q: | 各現場との連絡体制はどうされていますか? |
A: | 日々の技術指導や実際に直接接する機会が多く、チャレンジドの少しの変化でも把握できるのが現場責任者であり、何か気になることがあれば報告をしてもらい、総務側からもコミュニケーションを取って情報交換するように努めています。チャレンジド本人の細かい生きた情報は、書面より実際の現場担当者が一番よくわかっています。 逆に言えば、現場担当者のチャレンジドに対する意識の高さで、その職場の雰囲気やフォローの深さが決まると言っても過言ではないので、現場責任者とのコミュニケーションや情報交換を図ることと、現場担当者の意識がまだ低い時は、意識向上に努めることが大事だと思っています。 また、当社の場合、同じ現場作業でも主にパソコンのモニターを解体する場所、携帯電話を解体する場所、パソコン本体を解体する場所、ケーブルを解体・分別する場所等、作業場所により取扱う物品が異なります。 本人の解体に対するモチベーションを向上する目的で、希望を募り職場(作業現場)の転換を定期的に行いました。 職場転換した直後は本人がやりたかった物品を扱うので効率も上昇し、マンネリ化を防げる効果もありました。 |
Q: | 支援機関やご家族との関わり方はどのようにされていますか? |
A: | 本人が思ったり、考えていてもなかなか会社に言いにくいし、伝えることが苦手な人が多いですね。 仕事が終わって、ご家族や出身施設の人へ相談や何気ない会話の中でポツリと発したことが本心であったり、悩んでいたりすることも多いかと思い、定期的に出身施設の人やご家族との意見交換会をはじめました。 ご家族も、実際に会社の人間と会い、直接説明してもらえると不安が払しょくされたという意見もあり、また、実際に働いている職場を見学することにより、安心されます。 意見交換会でも、何か変化があったら直ぐに連絡してほしいとの意見がご家族からありました。 以前は、会社から連絡すれば、逆に心配されるのではないかと考えていましたが、ご家族の人には何か変化があれば、報告事項も含めてなるべく連絡するようにしています。 また、このご家族との意見交換会で「連絡事項が家族に伝わっていない」という意見があり、この問題への改善策として、毎月初めに社内報と当面の会社行事や連絡事項等について、チャレンジドに渡すとともに会社から直接ご家族宛てに送付するようにしました。 「会社で制服のクリーニングを開始しました。」「社員旅行が○月○日にあります。」などの行事等はご家族に確実に知っていただかないといけない情報なので、これにより以前のように連絡が伝わっていないなどの状態は無くなりました。 |
3. 今後の展望と課題、おわりに
(1)今後の展望と課題
桐畑氏に今後の展望と課題についてもお聞きした。
「ただ単に働く場所を提供するだけでは、本当にチャレンジドの人々が気持よく働いているとは限りません。
モチベーションを上げて前向きに働く(=作業効率を上げることに繋がる)には、自分自身がどれくらい出来て、どれくらい成長したかを見える化し、評価(褒め)し、会社の戦力になっていること、「あなた」自身が会社に必要であることを自覚してもらわないといけないし、実際の戦力になっていただくように会社もいろいろ工夫しなければなりません。
社会貢献という言葉自体がふさわしくないかもしれませんが、チャレンジドを雇用すること自体が社会貢献ではなく、会社の戦力とする事で初めて社会貢献となる気がしています。
当社も、試行錯誤する中で「月1回振り返りシートを付けて振り返りをする」ことから開始しました。しかし、これについては毎月の振り返りの面談に時間がかかり、数ヶ月で形式的になってしまったので中止しました。
現在は、それぞれのチャレンジド作業員の作業台の前に先月の実績、昨日の実績今月、今日の目標を個数や重量で記載したものを掲示、目標と実績を見える化し、現場責任者が巡廻時等にチャレンジド本人とその事についてコミュニケーションを取る形を実施しています。」
…まだまだ試行錯誤中だが、目標と実績の「見える化」は作業効率も上がり一定の効果があると思われる。
※ | 同社では、全作業員とも一日の作業ノルマは設定していない。 しかるに人により実績は違うことはもちろん目標数値も全く異なる。 まさに、振り返りの機会(モチベーション)と採算性が今後の課題であり、本当の社会貢献に繋がっていくと考えています。 “人にほめられること、人の役に立つこと、人から必要とされること”をずっと感じていただけるように作業効率の向上、作業及び作業工程の工夫等、まだまだ課題は山積しています。」とのことだった。 |

(2)おわりに
我々支援サイドが、こちらの会社を訪問した際、いつも気持ちのよいイメージを受ける。それは、気持ちのよい挨拶、隅々まで行き届いた掃除だけでなく、厳しい企業現場の中にある、温かい声がけであり、常にある笑顔である。社員旅行・懇親会・定期面談・意見交換会等の相互のコミュニケーションの場が用意されていることが、このような企業風土を生み出しているのだと、今回の取材を通じて感じた。その証拠に、チャレンジドの従業員の定着率も非常に高い(今までに離職された方の離職要因は、体調や病状の悪化や生活環境の変化等である)。
日頃、就労支援の仕事をして、いつも感じることは、障害のある人が、孤立感少なく、生き生きと活躍できる場を恒常的に用意できるかということである。しかし、昨今の就労環境では、雇用形態が多様化し、従業員同士のつながりも薄く、障害のない人でも孤立感を感じやすい状況にある。当事業所以外に就職している人の中で、孤立感を感じ、就労の意味や価値を見いだせず、悶々としている人も少なくない。
このような就労環境の中で、同社の取り組みは特筆すべき取り組みである。
また、「SANYOありがとう祭」に代表されるような地域社会への貢献、エコプロジェクト等、障害者雇用だけでなく様々なCSR活動にも意欲的な取り組みがなされており、これらの取り組みも気持ちのよい企業風土を生み出す一要因だと思われる。
今後、就労継続支援A型の取り組みも考えておられ、益々の活躍を期待したい。
サテライト・オフィス平野 主任 井上 宜子
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