可能性を探り仕事の幅を拡げる
- 事業所名
- 特別養護老人ホーム大畑山苑
- 所在地
- 大阪府八尾市
- 事業内容
- 特別養護老人ホーム
- 従業員数
- 74名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 5 洗濯、事務補助、介護補助 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要・障害者雇用の経緯、障害者を雇用するにあたって配慮した事項
(1)事業所の概要・障害者雇用の経緯
特別養護老人ホーム大畑山苑は、大阪府八尾市の町を見下ろす閑静な山の中腹にあり、木々の緑に包まれて小鳥たちのさえずりを聞くことができ、豊かな自然を直に感じることができる。大畑山苑では利用者の人たちが充実した日々を過ごせるよう、様々なサービスの提供やサークル活動を行っており、環境設備の整備や安全と安心な介護サービスの提供に努めている。年間行事も多彩で、夏祭りやクリスマスの苑まつりでは地域の人たちとの交流も活発に行われている。なお定員は入所70名、ショートステイ5名となっている。
1989年に大阪市が設置し、社会福祉法人四天王寺福祉事業団が運営を行っている。
当法人の障害者雇用のきっかけは、2006年にハローワークから障害のある人の雇用の可能性について問い合わせがあり、採用を検討することになったことである。これよりも以前から、知的障害のある人のヘルパー講座の実習を受け入れており、知的障害者への指導の実績はあった。ちょうどこの時期に実習生であったOさんについて、実習の様子を見る中で、雇用を具体的に進めることになった。
法人内には高齢者施設だけではなく母子施設や障害者施設等24箇所の事業所があり、当時の担当者は障害者施設で勤務した経験もあったため、雇用の方針はすぐに決まり、面接を経て2006年4月からトライアル雇用が開始された。
雇用に際しては、職場内からコミュニケーションを十分取ることができるのかといった不安の声も上がったが、雇用開始後は他の職員と同様の対応を心がけ、自然な形で受け入れているという雰囲気がある。

(2)障害者を雇用するにあたって配慮した事項
仕事内容の調整はトライアル雇用開始後に、Oさんの現場での勤務状態を見ながら手探り状態で行った。
ヘルパー講座の実習中は居室でのシーツ交換が中心であったが、トライアル雇用開始後は清掃などにも従事するようになった。
しかし、現場の職員が勤務の合間に指導を行うのでは十分なフォローができないことや、小柄なOさんには居室での業務は身体的な負担が大きく、面談の場面でもOさんからこのままではしんどいとの訴えがあったため、苑内で検討を行った結果、洗濯場での仕事をすることになった。
洗濯場では、担当職員がOさんの選任指導員となり、洗濯業務の指導を行った。
洗濯場での業務は、70名分の利用者の衣類の洗濯が中心であるが、施設で使用するおしぼりや下用タオル、職員の制服の洗濯も行っており、業務用の洗濯機と乾燥機、家庭用の洗濯機を使い分けている。
利用者の衣類の洗濯業務の流れは以下の通りである。
- 利用者の入浴時に脱衣場にて衣類を回収する。
- 入浴時以外に着替えを行う利用者の衣類を回収する。
- 洗濯場にて衣類の仕分けを行う。
- 種類ごとに洗濯を行う。
- 乾燥機にかける。
- たたみ作業。
- 利用者ごとに仕分け。
- 居室に届ける。
洗濯業務に慣れていない時期には、乾燥時間を誤り利用者のセーターが縮んでしまうといった失敗や、洗濯物の仕分けの間違いや紛失があった。だが、担当職員の継続的な指導とOさんの仕事に対する意欲で、作業の手順や要領を覚えることができた。長期の利用者だけでなく、ショートステイの利用者の洗濯物も扱うため、たたんだ衣類を仕分けする棚にわかりやすく利用者の名前を貼ることで、間違いのない確実な仕事をこなすことができるようになった。
洗濯物の種類によって洗濯や乾燥の設定が異なるが、Oさんはすべて把握できており、複数の物品を同時に洗濯・乾燥する際にも適切な順番を考えて、効率よく洗濯が仕上がるように業務を進めることができる。応援に入った職員に対して指導ができるほどの役割を担っている。

2. 雇用を継続する中で出てきた課題と対応について
Oさんは順調に業務を習得することができたため、3ヶ月のトライアル雇用終了後は継続して雇用されることとなった。Oさんのトライアル雇用が終了して1ヵ月後、新たに1名洗濯場で知的障害者の雇用を開始し、Oさんが先輩として業務を教えることもあった。
当初は2人仲良く仕事をすることができていたが、いつの頃からか2人の間でもめごとが目立つようになった。
洗濯業務担当の職員が間に入り対応していたが、たびたびトラブルが発生するため、事務所の担当職員や時には施設長が厳しく注意をすることで、他の職員の前で問題が起きることは減少したが、次第に職員の不在時や目に付かないところでのトラブルへと進行していった。
怒鳴り合いだけではなく、洗濯物を投げつけるなど過激化していったため、対応策を考えることになった。
Oさんともう一人が同時に洗濯場で勤務する時間をなるべく少なくするため、相手は居室のフロア業務に従事する時間を設け、Oさんには事務所での業務を指導することになった。
Oさんはヘルパー研修受講時に、障害者能力開発施設にて職業訓練を受講していたが、事務系の訓練は受けておらず、当時の担当職員もOさんの事務作業への適性は把握できていなかった。
しかし、事務所の担当職員が本人の適性を見ながら指導を行うことで、徐々にできる業務が増加してきた。
事務所内での業務は下記の通りである。
- 定型文書の補充(多数の種類があるが、減少したものをパソコンのファイルを開いて必要部数印刷して補充する)
- 回覧物や決裁のファイリング(文書の種別によりファイルを作り、見やすい形に保存)
- 伝票類の仕分け、ファイリング
- 利用者ごとのファイル作成や名札づくり(テプラにて作成するが、操作には習熟しており作業は早い)
- 利用者の住所等のリスト作成など、簡単な入力作業
Oさんの事務所での仕事ぶりは他の職員からも評価され、Oさん自身もやりがいを感じることができた。
トラブルの相手との接点も減少したのであるが、通勤途中や更衣室のロッカーでのトラブルなど、問題は形を変えて継続していた。
お互いに顔を見るだけでもイライラしてしまうような状態になってしまい、関係の改善はとても難しい状況であった。
これらの問題を解決することだけが理由ではないが、2012年1月に相手の職員が異動となったため、Oさんと相手の接点がなくなった。
このためOさんの表情は明るくなり、生き生きと仕事に取り組むことができている。
相手の職員も異動先では元気に働いているとのことである。この異動でOさんの洗濯場での業務が増加し、事務所での勤務時間は減少したが、洗濯場での忙しさと事務所での短時間集中型の勤務が本人にはうまくバランスが取れている様子である。
調子が悪い時期のOさんは、駅からの送迎車の中でも他の職員にあいさつをせずにふてくされた様子であったので、普段直接かかわることのない職員からの評価も低下していたが、最近は調子も安定し元気にあいさつもできるため、周囲の職員からも以前のように戻ったとの声が聞かれた。事務所内でもOさんの笑顔が雰囲気を和ませている。
この数年間にOさんのプライベートな人間関係や家族の入院など、相手の職員との関係だけではない部分でストレスの要因として考えられるものがあった。
プライベートな部分の話はOさんから洗濯場や事務所の職員に報告はあったが、勤務先の職員としてどこまで立ち入っていいのかという思いもあったため、能力開発施設に連絡を取り情報を共有した上で、能力開発施設の職員がアフターフォローとして状況の把握や面談を行ったり、一時的な再訓練を実施するなど、問題の改善に向けた取り組みを行ったりした。
この結果、Oさんも自分の思いを聞いてもらうことができ、アドバイスを受け自分なりに消化して対応策を考えることができた。
現在は、障害者就業・生活支援センターが定着支援を引き継いでいる。

3. まとめ
Oさんが就職して6年が経過したが、この間に職場内の人間関係の悪化やプライベートの問題による就労意欲の低下、家庭の状況など様々な要因で就労の継続が困難になることが数回あった。
このような時にはOさんの定着支援として能力開発施設や就業・生活支援センターの職員が事業所を訪問し、状況の把握とOさんとの面談を行い、問題の解決を試みた。
大きな問題が起こった時には事業所と支援機関の担当者が一緒にOさんに働きかけるが、基本的には仕事上のことは事業所、プライベートに関わる部分は支援機関が対応するという役割分担を行っている。
以前は仕事以外の問題を仕事の場面に持ち込み、イライラで対人トラブルが起こったり仕事の効率の低下が見られたりしたが、Oさんに繰り返し働きかけることにより最近は気持ちの切り替えができるようになった。
事業所担当者も支援機関担当者も、本人が社会人としての意識を持つことができてきたためではないかと感じている。
Oさんは、「もともと介護の仕事で就職したいという思いがありヘルパーの資格を取ったが、実際に介護業務を経験してみると体力的に自分には無理かなと思った。しかし、大畑山苑の人たちがいろいろな仕事を考えてくださり、わかりやすく教えてくださったので、自分にもできる仕事があり、新しい仕事も覚えることができた。」とこの数年を振り返っている。また、「いろいろとイライラがたまって、他の人に迷惑をかけたり携帯電話を使いすぎてしまったりしたけど、社会人として守らないといけないルールや、これからの生活のことも考えて行動していかないといけない。」と話している。そして、「お母さんが病気で入院した時には、仕事をしながら家事も手伝っていたが、本当にこれからどうなるのかととても不安だったけれど、大畑山苑の人たちがいろいろ声をかけてくれたのでうれしかった。」と職場の人たちの支えも感じている。そして「今は洗濯場でも事務所でも自分の仕事がたくさんあるので、忙しいけれどとても楽しくやりがいを感じている。これからもどんどん頑張っていきたい。」と抱負を述べている。
大畑山苑では、Oさんたちの洗濯業務での定着を図りながら、当初検討していた介護補助の業務でも障害者雇用を進めるため、受け入れ態勢を整えてきた。そして、八尾市や東大阪市でのハローワーク主催の障害者就職面接会に参加し、幅広い応募者の中から適性を判断して採用を行ってきた。現在5名の知的障害者が大畑山苑で勤務している。
四天王寺福祉事業団には多数の事業所があり、他にも障害者雇用を行っている施設があるが、大畑山苑での取り組みを各施設にも広めた上で、今後さらに障害者雇用を進めていく予定である。
Oさんがここまで仕事の幅を拡げることができたのは、日常的に関わっている事業所の人々が、Oさんの可能性を信じてできることを探っていくという地道な作業の積み重ねがあったからこそである。
またこの思いに応えるために、Oさん自身の努力があり、家族の支えもあった。
Oさんの社会人としての道のりはこれからも続くであろうが、問題を乗り越えながらより大きく成長してほしいと願っている。
大阪市障害者就業・生活支援センター
主任就業支援ワーカー 山口 雄大
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