「手伝ってくれる人」から「必要な存在」ヘ
- 事業所名
- 大阪トヨタ自動車株式会社
- 所在地
- 大阪府大阪市
- 事業内容
- 自動車販売・整備
- 従業員数
- 1,243名
- うち障害者数
- 28名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 10 事務業務 内部障害 知的障害 18 洗車業務、事務業務 精神障害 - 目次
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
大阪トヨタ自動車株式会社(以下「大阪トヨタ」という。)は、関西で唯一のトヨタ直営のカーディーラーであり、大阪府下47店舗のネットワークで地域密着型の営業を推進している。
また、社員が働きやすい風土づくりを目指している。
大阪トヨタはトヨタ車の中でもクラウンなどの高級車をメインに取扱っており、他にも環境にやさしいハイブッリドカーであるプリウスやアクア、また根強い人気のエスティマなどを扱っている。
<経営理念>
お客様とともに
真心サービスで、信頼の輪をひろげ、
無限のカーライフ充実をめざす。
社員とともに
市民社会と調和し、いきいきと、
働きがいのある職場づくりにつとめ、
永遠の会社発展をはかる。
社会とともに
社業を通して、豊かな市民文化の
創成に貢献する。
(2)障害者雇用の経緯
障害者雇用促進法に伴い、企業の社会的責任(CSR)が注目・重要視される中で、その一環として、障害者雇用への取り組みを始めた。
最初は、障害者雇用についての経験も浅く、わからないことばかりであったが、いろいろな施設を訪問して障害者雇用について話を聞いた。その中で障害者のできる仕事について、どんな仕事なら個々の能力を発揮できるかを考えたところ、洗車業務(展示車やサービス〔車検・点検・一般修理等〕で入庫された車両を洗うこと)なら能力を発揮でき、会社に貢献してもらえると判断した。
各店舗の店長、マネージャーにCSRの観点から障害者雇用への理解を深めるための活動とともに、行政主催の合同面接会への参加や、定期的な各職業能力開発校や障害者支援センターへの訪問により、障害者雇用に向けて活動した。
2. 取り組みの内容
知的障害のあるAさんは、障害者職業能力開発施設での職業訓練を修了して、大阪府東部の店舗にて、洗車を主な業務としてのトライアル雇用を開始した。
店舗において整備や点検のため入庫されたお客様の車両を引き渡しの前に水洗いして、タオルで水滴をふき取る。また、空き時間を利用して店舗に展示している車両の洗車もおこない、1日に10~15台ほど洗っている。
最初は、店長が常に付き添って一緒に洗車業務をおこなった。店長が見本を見せ、その次に一緒に作業をおこなう。ある程度できるようになったら、一人でも作業出来るよう最終的には口頭での指示のみで作業ができるように根気よく繰り返し指導した。
1日中洗車ばかりの作業なので、やりがいや目標を持ちにくいだろうとの思いから、その日洗車した車両の車種と台数をノートに記録してもらうことにした。そして、これを作業日報の替わりとして、1日の仕事が終わったあとで記入し、店長に提出することとした。
洗車作業自体、休みなく作業があるわけではないので、慣れてくると空き時間を持て余すようになった。本人の負担とならないよう配慮するとともに、確実に作業を自分のものとしてもらえるように、1つずつ洗車以外の作業を増やしていった。
トライアル雇用期間中は、あくまでも試みの期間であるので、じっくり仕事を覚えていけばよいと店長からAさんに伝えていたので、Aさん自身も焦らずじっくりと仕事を覚えていくことができた。「店長に付いて、1つずつ丁寧に繰り返し仕事を教えてもらった。トライアルの間にゆっくり覚えればよいといわれたので、ずいぶん気が楽になりました。」と話している。
Aさんの作業としては、店舗周りの清掃、花壇植え込みの除草、花の植え替え、事務所内でのシュレッダーかけ、カタログへの社判押し、チラシ折り、リサイクル紙の分別、整備工場での廃油処理、スプレー缶廃棄、ごみの分別、タオル洗濯等である。これらの作業は毎日あるわけではないので、当初は店長の指示により作業を実施していたが、徐々に現場の従業員から直接指示するように移行していった。この作業についても洗車と同様に、ノートに記録することにした。
段階的に繰り返し指導したため、トライアル期間中に基本的な業務を1人でおこなうことができるようになった。よって、十分に業務をこなせると判断されたため、3ヶ月後に本雇用へ移行した。


植え込み


3. 取り組みの効果
新しい環境に適応するのに人一倍時間のかかるAさんは、就業当初から不安がいっぱいであった。
就業初日から1週間は、障害者職業能力開発施設の指導員と店長が付き添って、不安感を少しでも取り除くようにした。指導員は徐々に付き添う時間を減らして、最終的には店長のみが付き添うこととした。
常に店長が付き添い、一緒に作業することで安心感が芽生え、少しずつ居心地がよくなってきた。また、就業当初より、従業員の名前を覚えること、声をかけるときは名前を必ず呼ぶことをAさんに対して徹底した。このことにより、Aさんだけでなく、他の従業員にも、Aさんが職場の一員であるという意識が早い段階で芽生えてきた。実際にAさん自身も「他の従業員の方の名前を早く覚えることができた。みんなが、自分の名前を呼んでくれるのでうれしかった。」と話している。
作業面においては、毎日記録をつけることでAさん自身が1日の作業を振り返ることができ、達成感や明日への活力につながっている。
ノートには、洗車した車両の車種を記入しないといけないので、洗車作業が終わるたびに近くにいる従業員に「この車は●●ですね。」と確認をして記録をするようにした。このことにより、ノートに記録することが他の従業員に報告・確認する必然性を生んだといえる。
Aさん自身も、「最初はノートを書くのが面倒だったけど、毎日書いているうちに今日はたくさん仕事をしたとか、今日は久しぶりにこの仕事をしたとか、明日はこれをしようとか思うようになった。あとで見返してみるといっぱい仕事をしたことがわかって嬉しくなる。」と語っている。
また、新しい作業を行うときは、常に店長が直接指導し、徐々に他の従業員が直接指示を出すように移行したことも、Aさんだけでなく、他の従業員がAさんはどんなことができるのか、どのように指示を出せばよいのか、店長の関わり方を通して知ることができた。
このことで、Aさんに対する指示の出し方に一貫性が生まれて、Aさんが混乱することなく、スムーズに業務をおこなうことができることとなった。
もともと洗車業務をはじめ、Aさんが携わっている業務は、店長、副店長、マネージャー、営業スタッフ、サービスエンジニアが通常業務の合間にこなしてきた作業であり、それを手伝ってくれる存在として重宝されていたが、ノートに1日の業務を記録することが思わぬ効果を生んだ。
洗車以外の業務は多岐にわたるうえに、不定期であるため、指示を受けて動くことを前提としていたが、Aさん自身がノートの記録を毎日見返す中で、自分のできる仕事、自分の役割を自覚し、自ら業務を探すことができるようになった。
指示を待つ姿勢から、「〇〇をしておきましょうか?」という能動的な行動に変わったことで、店長や従業員もAさんの空き時間に作業を探したり、段取りしたりする負担も軽くなり、「手伝ってくれる人」から「必要な存在」になりつつある。
トライアル雇用の期間を、店長自身が「試みの期間、仕事を覚えるための期間、店長及び従業員とAさんがお互いを知るための期間」ととらえ、焦らせることのないよう徹底し、Aさんに対してすぐに結果をもとめないように根気よく指導をしてきたことが、新しい環境になじむのが人一倍苦手なAさんが安心感をもって少しずつ会社になじむことができ、Aさん自らが社内で自分の仕事・立ち位置を認識して、自信をもって、いきいきと働くことができている最大の要因であったと思われる。
4. 今後の展開と課題
大阪トヨタでは今後も、企業の社会的責任として障害者雇用を推進していく予定である。障害者雇用への取り組みはまだ始まったばかりである。これからは障害のある従業員と密に話し合いの場を持ち、障害のある人は何ができ、どんな仕事なら能力を発揮できるかを考えていかなければならない。特に洗車業務は天候によって繁閑の差がある。雨天時に店舗内で出来る業務の検討がこれからの課題である。
各店舗における障害のある従業員の働きぶりや、担っている役割を他の店舗の店長と情報交換をおこないながら、他の店舗においても障害のある人の職域の拡大に努めていきたい。
また、求めるレベルは高いかもしれないが、障害のある人自身も自分が店舗にとってどういう立場・役割を担っているのかということを考えて仕事に取り組んでもらいたい。洗車を手伝ってくれる人ではなく、必要な一員であると思われるような存在へと成長してほしい。
そのためには、障害のある人に関わる支援機関の存在が重要である。Aさんは、平日の定休日を利用して2~3ヶ月に一度、ノートを持って自身が修了した障害者職業能力開発施設を訪問して、自分の仕事の成果を報告している。「施設の指導員に話をきいてもらって、よくがんばっているとほめられるし、心配なことも聞いてもらえるから、うれしい。」と話している。施設も店長と定期的に連絡をとりあい、Aさんの様子を把握するようにつとめている。
現在までにこれといった大きなトラブルもなく就業できているが、Aさんが今後も安定して働き続けるためには、本人と会社と施設の3者で連携をとっていくことが必要不可欠である。
Aさんの店舗では、Aさんができる業務を少しずつ増やしている。一度覚えたことは、確実に自分のものにし、決して手を抜かず、安心して任せられるレベルになってきている。
まだまだ、Aさんが力を発揮できる業務があるはずなので、少しずつ職域を拡大していき、店舗にとって「必要な存在」になってもらいたい。Aさん自身も「必要とされている存在」であると自覚し、やりがいを持てるように取り組んでもらいたい。
大阪市職業指導センター 主任 安蔵 崇史
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