障害特性と各人の個性や能力を生かした最適配置により生きがいと定着化を図った障害者雇用の推進
- 事業所名
- 株式会社日電鉄工所
- 所在地
- 奈良県生駒郡
- 事業内容
- 粉体塗装事業、建築・設計事業、素形材事業(鋳造・鋳物)、鉄骨事業
- 従業員数
- 49名
- うち障害者数
- 11名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 11 粉体塗装作業、梱包作業、組立作業 精神障害 - 目次
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
当社は、先代社長が昭和38年5月に日電鉄工所を創業、主に建設構造物や金物製作・販売を開始した。先代と共に現社長が昭和46年5月に倉敷工場を立ち上げ、製缶・板金製作販売を開始、更には昭和48年5月には、粉体塗装設備1号機を設置し、主として自動車部品及び印刷ロールの塗装を手掛けるようになった。
昭和53年5月には現社名の法人を設立し、同年9月に現在の奈良法隆寺に近い昭和工業団地に移転し、本社・奈良工場として業容拡大し、順次粉体塗装設備を1号機から3号機まで増設をした。
平成元年には増資するとともに現社長が先代に代わり代表取締役に就任し、平成14年10月には、ISO9001認証取得、更には平成18年1月には、ISO14001認証を取得した。その間、(社)日本水道協会の指定工場(防食塗装)の認定を受け、粉体塗装主体の業態に変容した。
平成23年1月には岡山県倉敷市に倉敷工場を設立し、粉体塗装を主とした業容拡大に貢献しつつある。
本社・奈良工場には11名の知的障害者が在籍するが、粉体塗装の製造部門において欠かせない存在となっている。本社・奈良工場における障害者雇用率は25%であり、4人に1人の割合である。なお、平成2年9月には障害者雇用支援月間に当たり奈良県知事から、平成11年9月には労働大臣から障害者雇用と職業の安定並びに職業的自立に寄与したとして表彰状を受けている。また地元の特別支援学校からの工場見学や聾学校からの社会科見学も受け入れている。
(2)障害者雇用の経緯
現在、本社・奈良工場の粉体塗装部門において、塗装課(塗装)7名、製品課(梱包・検査)2名、加工課(ネジ切り等組立)1名、生産管理課1名 合計11名の知的障害者が従事しており、キャリアアップにより、塗装課から製品課へ又は加工課に配置換えし、塗装と組立又は梱包・検査の兼務体制も可能となっている。
障害者の雇用は、昭和62年4月から1年間の職場実習生として受け入れた後、昭和63年3月に正式採用した。以後、隔年毎に1名から2名の雇用が継続され、今日まで24年が経過した。従って、最初のA君は勤続年数24年(年齢は43歳)になり、ハローワークの紹介による途中入社D君及び昨年平成23年3月7日に職場実習生として受け入れている若者K君を加えた年齢構成は幅広い。
障害者雇用を開始した昭和63年3月(24年前)は当社が法人創業開始後10年目の節目に当たり、他社との差別化に加え競合他社との競争が激化していた時期であり、価格競争と優秀な製品作りが欠かせない状況下にあった。かかる折り、地元近隣の特別支援学校からの職場実習生受け入れの要請を受けた。予てから障害者の雇用については関心を持っていたが、知的障害者の受け入れは初めてのことであり、不安要因は沢山有ったが、人材の確保と雇用の安定のために採用を決断した。
それまでは正社員は障害のない者のみであり、管理職等から雇用するのであれば、障害のない者にして欲しい旨の抵抗があったが、社長自ら、各製造工程において、障害者が安心して作業ができる場がないか見直し検討をした。
① | 粉体塗装の作業は、大半が機械化されているが、塗装すべき製品(小ロットかつ規格が多種目)をベルトコンベアで粉体塗装作業室へ運ぶための前処理作業 |
② | 塗装後部品をネジ切り等工程作業(加工) |
③ | 塗装完了後の製品検査(水漏れ)等 |
④ | 出来上がった製品を梱包する作業 |
障害者であっても、能力を発揮し自立してもらうためには絶えず関わり積極的にOJTを行うことで、正社員同様に原則仕事も時間も隔てなく勤務するような体制を構築する。そのために上記①の段階から②へ、そして③から④へと各人の能力を見ながら、最適配置を心がけることにした。
各工程の基幹作業にはベテラン社員や課長を配置し、そして補助的作業・付帯的作業等の機械化できない手作業の工程を障害者に託してみることにしたのである。そして段階的に一つずつ、徐々に慣らしながら体で覚えてもらえるように、繰り返し指導すれば可能ではないかと考え実践した。今ではこの考えが正しかったと確信し、障害者雇用に自信が持てるようになってきた。
次に、指導体制として製造部長を指導責任者とし、一人の障害者に対し近くで作業するベテラン社員や課長を見回り役につけ指導するようにした。
受け入れ体制を整えた上で、特別支援学校の担当の先生と相談し、当初は、学校が夏季・冬季休みの期間に研修期間を設け、作業の実習を経験してもらうことにした。
その後、ご家族の協力を得ながら1年間の職場実習を経て昭和63年3月から正規の社員として、時間給ながら雇用保険・社会保険加入条件の雇用契約を締結し、スタートした。
いきなりの塗装作業ではなく、製造部長と共に生産管理の補助者として、工場全般の流れを毎日見せながら、塗装部門の作業環境や作業工程をじっくり丁寧に教えるとともに、実際に行って見せて、してはいけないこと等安全に関することや不良品の見本を見せながら、ゆっくりと繰り返し教えることにした。当初は、作業の段取りを覚えてもらうのに、試行錯誤の連続であった。そして障害者の公私に亘りきちんと面倒をみながらその上で一定期間終了後、次の作業から段階的に進めることにした。
① | 塗装部門のベルトコンベアに塗装前の製品を吊るす単純作業に従事 |
② | 続いて、焼き入れ作業前の製品を所定の位置に据え付ける作業に従事 |
③ | 仕事がきちんとできるようになった後、次の作業に従事するベテラン社員や課長の協力を得て、次の作業を細かく何度も同じことを教えるようにした。 |
当初は、作業がスローペースであったが、馴れるにつけ、着実に仕事量や仕事の幅を増やせるようになっていることが分かり、更には食堂の掲示板に各人が翌日担当する作業予定(①か②)を早目に伝えることで、作業に対する安心感を醸成した。
2. 取り組みの内容
(1)障害者の作業の継続性とキャリアアップ
障害者の受け入れ体制について、社内の当初の抵抗に鑑み、事前に社長及び製造部長並びに塗装部門の関係するベテラン社員や課長が集まり、障害者特性について勉強会を行い、受け入れに当たっての注意事項を確認した。障害者特性については、共通項として以下の4項目を挙げ、その上で障害者個々人の個性を把握して、適正な仕事に配置していく方針を確認した。
- 抽象的な概念が理解しにくい
- 自分の意思を表現したり、質問したりすることが苦手
- 知的障害者は何もできない人ではなく、的確なサポートがないためにできないだけ
- 数の概念が難しい等
注意事項として
- 当社奈良工場は最寄り駅(JR法隆寺駅)から徒歩約20分(自転車で10分)かかる為、通勤体制を整える必要があること
- 障害者は初めて社会人として勤務する為、職場で作業することは、不安と緊張感があること
- 慣れてくるまで、丁寧に何度も同じことを指導し、しっかりできるまで繰り返し教えてあげること
- 安全面から、してはいけないことを何度も教えること
- 昼食時は、みんなで一緒に食事をするように心掛けること
- 一般社員と同様の扱いをして、特別視しないこと(ノーマライゼーションを心がけること)等を申し合わせた。
早く慣れてもらうためには製造部長が一定期間、障害者を生産管理補助者として、毎日工場内全般を教え、まずは、塗装すべき製品を所定の場所に運ぶ作業を実際にやって見せ、やらせてみせた。彼等は、覚えるときは「オウム返し」に教えた言葉を確認するように、同じ言葉を返してくる。この反応を見ながら障害者の個性を把握し、適正配置していく方法をとることにした。その上で、担当部署を決めて担当作業を一人でさせるようにした。障害者も当初の作業ペースはゆっくりではあったが、近場にいるベテラン社員・課長の見守りにより、時には言われたことを守りながら、かつ単純な作業にもかかわらず真面目に毎日一生懸命に働く姿勢に、当初抵抗していた周りの社員も安堵感と理解が深まっていった。この体制はいまも新入の障害者受け入れにあたり同じやり方を踏襲している。
初めての障害者の受け入れが成功し、その後も近くにある特別支援学校からの職場見学が度重なり、一人二人と障害者雇用が進んだ。いつの間にか振り返ると、現在11名の在籍となっている。平成23年度にも同じ特別支援学校から実習生K君を受け入れ1年間職場実習生として勤務している。こうして先輩障害者の事例が積み上がり、同僚も増えれば孤独感も感じることなく、更なる雇用の継続に繋がるものと考えている。
(2)キャリアアップ、レクレーション
社員全員の教育目標計画の中に、障害者も組み入れており、毎年4月に更新する。個性・能力に応じて、OJTによる1ランク上の仕事にチャレンジさせて見守っているが、困難な場合馴れた仕事に従事させつつ、新入社員に備え徐々に関連する他の仕事に就かせるようにして、こなせる仕事の幅が広がっている。
また、食堂に翌日の作業内容を明示して、誰が何を作業するのかが分かるように障害者毎に示すように工夫している。これはなかなか障害者にとっては好評のようで仕事に対する安心感を与えている。
レクレーションについては、ボウリング大会、成人式のお祝金、勤続表彰、担当部署ごとの食事会等障害者を含め全社員で行っている。前述のH23年度職場実習生K君が障害者のスポーツ大会出場ためイタリアへ出発する際には壮行会を行う等、必要があれば都度機会を設けて実施している。
(3)障害者が持つ個性・能力により適正配置
障害者が持つそれぞれの個性・能力については、作業を通じて把握していく訳であるが、以下の個性・能力が分かってきている。その個性・能力に応じて適正配置を心がけている。
- 多品種の製品番号を記憶して、製品を間違いなく区分けできるD君(正規社員以上の能力)⇒梱包作業
- 手先が器用で細かい作業がこなせるF君⇒検査作業
- 比較的数字に強く個数の計算ができるH君⇒梱包作業
- 障害のない者同等の能力があると思われるG君⇒検査作業
- 根気と体力がある者等⇒塗装作業
特に、上記のD君は、ハローワークの紹介により当社に途中入社したが、仕事のコツ・ポイントをしっかり何度も教えることで、特異な才能を発揮しているのである。但し、E君のように言葉で言い表せず、自己表現が苦手で体調不良も訴えられない者もいる為、できる限り声かけをしている。時には大声を出すこともあるが、その場合、近場の管理者が保護して、休憩をとらせ安心感を与えるようにしている。又、作業には落ち着いて集中できるように、休憩時間を設けている。
3. 取り組みの効果・今後の展望と課題
(1) | 社長いわく「今日までいろいろと試行錯誤を繰り返し、障害者の面倒をきちんと見ながら働きやすい環境づくりに苦心してきたが、障害者は慣れてくると、なかなか良く働いてくれます。塗装作業一つについても流れ作業を任せると責任をもって仕事してくれます。しかも仕事をしている最中、彼等はたいへん充実している様子です。働きぶりは障害のない者と変わらない。いまや、彼等のおかげで売り上げを伸ばしているといっていいでしょう。」 |
(2) | 昨年G君が結婚するにあたり、生活の安定を図るために、給与を時間給から月給制に変え、待遇を正社員に変更した。今日まで障害者雇用を進めてきたが、障害者が結婚し、子の親として賢明に生きる姿は、誠に微笑ましく他の社員に勇気と希望をもたらしてくれるものと確信する。長年の苦労が実ってきていることを実感しているところであり、今後とも正社員化への取り組みを図っていきたい。 |
(3) | 障害者の日常の健康管理は、常に心がけているところであるが、体調不良を訴えられない者もいて、休むときは本人から事前に連絡するように義務付けているが、なかなかできないようで、親からの連絡に頼る者がいる。ご家族とは絶えず機会をとらえ連絡を密にしており、勤務形態の変更時や、日常の出来事などを伝えている。幸い雇用している障害者全員が親元からの通勤であり、その点安心な面もある。ただし、残念なことではあるが、これまで雇用に失敗したケースとしては、ご両親が共働きで忙しく一人ぼっちの状態から、自閉的な生活の中で、孤独に陥り周囲になじめなくなり、離職してしまった者がいた。今後、かかる失敗を二度と繰り返さないためにも、ご家族との連携を強め、声を掛けていきたいと考えている。 |
(4) | 長年の障害者雇用を積極的に進めてきた経緯もあって、H君などが頼まれて母校の特別支援学校の先輩として就職に対する経験談を後輩達の前で話したりしており、地元の特別支援学校から当社の障害者雇用に対し評価・信頼を得ていることは大変ありがたく、今後ともこの信頼関係を構築していきたいと願っている。なお、現状は男性ばかりであるが、今後は女性の受け入れも可能ではないかと考えている。また、40代単身社員も増えて、徐々に高齢化になる状況下にあるが、ご家族ともどもこの点についての生活面の対応が今後の課題と思われる。 |
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