地域社会貢献を礎に継続雇用を目指した、本人の自主性を育む指導体制
- 事業所名
- くにびき農業協同組合
- 所在地
- 島根県松江市
- 事業内容
- 農業協同組合法に定めた各事業
- 従業員数
- 506名(平成24年2月1日現在)
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 3 パソコンデータ入力および伝票処理
農産物の集出荷および農産物生産資材供給作業
店舗産直農産物販売および農産物生産資材販売作業肢体不自由 2 収納伝票処理および管理
パソコンデータ管理および補助的事務作業内部障害 1 支店運営管理 知的障害 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要、今後の課題と展望
(1)事業所の概要
平成5年8月1日、旧JA松江市・旧JA八束郡、2つのJAの合併により、JAくにびきが誕生した。以後、様々な事業を展開しており、事業間の連携を強化した総合事業を運営し今日に至っている。
JAくにびきは、島根県の県庁所在地である松江市を管内とし、東は安来市、西は出雲市、南は雲南市と接し、北は日本海、中央部には松江市を挟んで東西に並ぶ中海と宍道湖、そして双方を結ぶ大橋川が管内を南北に分けるエリアとなっている。
JAくにびきのビジョン(目指す姿・姿勢)
「組合員の身近な存在No.1」を目指し、次の4つの柱を掲げ取り組みを進めます。
1 | 多様な担い手づくり・支援を軸とした地域農業振興と安全・安心な農畜産物の提供 | 農業者の所得向上を図り、地域農業を支え、安全・安心な農畜産物を消費者に提供するため、集落営農の組織化、担い手に合わせた事業の対応などを行い、大規模経営を含めた地域の農業者、ひいては消費者ニーズにも応えることを目指します。 |
2 | 安心して暮らせる住みよい地域社会の実現と地域貢献 | 食農教育の実践を含め、事業間の連携を強化して総合事業の強みを発揮し、組合員を含めた地域のニーズに応えます。 |
3 | 組合員加入の促進と組合員組織の活性化など組織・事業基盤づくり | 活力ある組織を創り上げるため、人と人とのつながりを大切にした組合員が参画する協同組合として組織・事業基盤づくりをすすめます。 |
4 | 新たな事業方式の確立等競争力ある事業の展開と万全な経営の確立 | 組合員をはじめとする利用者、地域住民にとって魅力のある商品やサービスを提供するため、担い手への事業対応、競争相手を意識した事業改革に取り組むとともに、万全な経営を確立します。 |
(2)今後の課題と展望
当組合は、ビジョンのなかに「地域社会貢献」を掲げている。
「産地直送」「地産地消」など農畜産物を主体とした供給、および労働の分野においても、今後、少子高齢化によるますますの労働力不足が懸念されるなかで、農業における労働の「多様性」を想定した成長戦略を推進する必要性がある。
そのなかで、「障害者が働きやすい環境を作る努力」を一つのテーマにしており、CSR(社会的責任)を全うしていくためにも、尽くしていく所存である。
2. 農産物生産事業所での取り組み内容
(中海干拓事業所)
国営中海土地改良事業の一環として行われ、中海水域内に干拓適地を選定し、その内の島根県側の揖屋地区内に当組合の事業所を設立し、今日に至っている。
揖屋干拓地の特徴としては、中海・沿岸河川の周りを「干拓堤防」で囲み、「揖屋排水機場」において潮廻し、水路・幹線排水路・排水路からの雨水・排水・海水を、農業用水として適した状態に処理し、「揚水機場」により農業用ため池からの農業用水をポンプにより汲み上げ送り出すという、農業生産性を高める設備等が伴った計画的な生産を支援するシステムが構築されており、豊かな自然に囲まれた島根県において、大きな産業資産となっている。
農地面積は202.8haになり、作目別に作付面積の多い順に、牧草(54ha)、キャベツ(31ha)、サツマイモ(7ha)、ブロッコリー類(6ha)、スイートコーン(5ha)、津田かぶ(3ha)となっている。(平成21年度作付調査結果)
◎ | Aさん(聴覚障害)平成21年12月入社 Aさんの勤務時間は、午前8:30から午後5:00までであり(内訳として午前8:30~午後0:00、昼休憩午後0:00~午後1:00、午後1:00~午後5:00となる。)、合計7.5時間である。また業務内容は、学校給食対応及び一般向けの出荷【農家組合員分集荷・仕分け・市場に向けたトラック積込(種類規格等選別・梱包・書類管理含む)等】、キャベツの定植(秋冬作、春夏作の2期)、さつまいも・たまねぎの苗植え、草刈り、野菜追肥、貸出し農機管理・メンテナンスなどがあり幅広い。 当社は、まず聴覚障害者であるAさんの状況をしっかりと精査した結果、ハンディを取り除けば十分業務遂行可能であると判断した。そして、まず1年目はほとんどの業務を所長とペアとなってマンツーマンの状況で取り組んでもらうこととしたが、はじめた当初は相当苦戦を強いられることとなった。 しかし、所長は、業務プロセス、重要なポイント等を筆談や時にはジェスチャーを交えて、じっくりと指導し、Aさんも負けてたまるかと根気強く学んでいき、お互いに熱のこもった、妥協しない1年が続いた。 実は、この積極的なOJTの賜物として、概ねの業務内容及び業務フローの体得に成功し、2年目からは所長が指示を出したことに対し、原則Aさん単独での業務遂行が可能となった。 指導する側も指導される側もお互いにとてもつらいこともあったが、Aさんの成長を促すため、心を鬼にして所長が取り組んでいった「中途半端ではいけない、初志貫徹だ。」の信念が功を奏したといえる。この経験が、Aさんにとって大きな自信に繋がり、以後の職務拡大・職務充実の礎となったことはいうまでもなく、今後のAさんの業務に対する糧として大きな意味を持つこととなった。 Aさんの1日は、事務所前にある業務掲示板から自分の業務を確認し、時間等の配分を考えた上で、計画を立てることから始まる。 まず、主たる業務である学校給食対応においては、納入発注書等により納入日、納入する野菜品目、それぞれの階級・規格(例えば秀・Lなど)納入時間、納入場所、担当者、数量、合計キロ数等をパソコンで管理し、各項目どおりに確実に間違いなく用意するために時間配分を考慮し段取りを行う。 次に、一般野菜集荷・出荷の業務においても、農家組合員集荷・出荷分を管理するためパソコンを使用する。ここでも、野菜市場別の分荷表の中で階級・規格、市場別数量等の管理を行う。特にこの業務では、農家組合員の各々50名の人達と直接顔を合わせるため、当然に顔を覚えた上で、状況に応じたコミュニケーションがとても重要となる。 コミュニケーションにおいては、前に述べた積極的なOJTのおかげで、筆談・ジェスチャーによるコミュニケーションに対して、農家組合員の人達がAさんの一生懸命さに理解を示し、時にはお互いのジェスチャーでの掛け合いによるやり取り等が可能となった。 特に、コミュニケーションに対して所長は「1年間の積極的なOJTは間違いではなかった。」と喜びを隠せないでいる。 今や揖屋干拓地は県内では最大のキャベツ産地となり、当組合の主力であるキャベツは、「くにびきキャベツ」として選果選別の徹底を図ることで当初から高い市場評価を得ており、7月、8月、9月を除く周年である上に、階級・規格等のライン・アイテムが豊富である。 実は、このキャベツは毎日の加工向け契約取引が50ケースもある。 学校給食対応及び一般野菜集荷・出荷業務の労務管理等についても、生産計画等以外の業務の実行・評価・改善は今やほぼAさんに任されており、可能な限りの職務充実を図っているところであり、そこには「積極的なOJT」を推進した所長を始めとし、理解を示した同僚職員の熱心な指導、農家組合員の皆さんの温かい支援があったことはいうまでもない。 |
◎ | ここで、Aさんに何点か筆談での質問を試みた。
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◎ | 今後のAさんについて、所長に抱負を伺った。 農家組合員(干拓増反農家約180戸)とのコミュニケーションがうまく図れるようになってきたことに大変満足している。そして、農家組合員のAさんの業務に対する温かい支援にはただただ感謝する限りである。今後、Aさんにはここで立ち止まらずに、次のステップアップのためにさらなるスキルアップを目指し、そのための具体的な目標を持って、日々の業務に励んでほしい。 |










3. 農産物販売事業所での取り組み内容
(JAグリーンつだ)
中海干拓事業所など、松江市近隣までの地域で作られた組合員、一般のお客様による農産物を平成10年11月より産地直送、地産地消をモチーフに農産物直営を行っている事業所である。
そこには、新鮮な野菜・生花・植木などの農産物が数多く陳列されており、大勢の買物客で賑わっている。
言うまでもないが、「もぎたて新鮮、地域産の農産物」が、多くのお客様の食指を動かしているようだ。
◎ | Bさん(聴覚障害)平成22年5月入社 Bさんの勤務時間は、午前7:00から午後2:00までであり(内訳として、午前7:00~午後0:00、昼休憩午後0:00~午後1:00、午後1:00~午後2:00となる。なお、勤務の合間に一息入れる時間も設けている。)、合計6時間である。また、業務内容は、ライトバンによる配送・追加納品・配達・店舗内の清掃・商品陳列・野菜桶洗浄等となる。 Bさんの無遅刻無欠勤の職務態度、がんばり度が高いことに対して、当事業所としては何とかして応えてあげたく、将来的な職務拡大、職務充実を踏まえた職務設計を意識して取り組んでいった。 |
◎ | ここで、店長にBさんの業務を振り返っていただく。 正直、Bさんにとって事業場内の業務は対応しやすいが、事業場外での単独の業務はとても難しい。 まず、事業場内の仕事は、清掃・商品陳列・商品袋詰め・コンテナ洗い等であり、基本的に指示した業務をテキパキとこなしている。特に、野菜桶洗浄においては、他の職員の手本となるくらい完璧な状態に仕上げている。 次に、事業場外の仕事は、配送・追加納品・配達等であり、事業場内の仕事は問題ないことから、まず、ここに仕事の「やりがい・モチベーション・成長」を見出してもらうために力を注ぐこととした。 当初OJTを軸にして、本人と一緒に、商品情報の適格性、各関係者とのコミュニケーション、時間・場所・距離等のタイミング、総合判断等を指導していったが、当初考えていた以上に事業場外での業務は難しいようで、Bさんにとって苦戦をしいられることとなった。 たとえば、配送業務の特徴として、ある小店舗に搬入された商品に不足が出てきた場合、他の搬入分から補充する必要があり、全体の小店舗の商品搬入状況がイメージできないと難しい、またタイミングが合わないと遠距離での補充となるため、時間内(おおむね2時間から2時間30分ぐらい)に処理できなくなる。 正直、慣れたベテラン職員でも、時には難しい場面があり、経験・判断基準・コミュニケーション・勇気・決断力といった要素をピンポイントで発揮していく能力が必要となる。 当然それ以外にも、追加納品(別の商品があれば)、配達の業務も行う必要がある。 Bさんは基本的に筆談でコミュニケーションを図るため、初めて接する人とは伝達・意思疎通等に時間がかかってしまうことがある。 以前は、生花部門に手話ができる人が働いていたことがあり、店舗内の業務の際には安心感もあり、コミュニケーションが図りやすかった。 事業場外の現場エリア業務の際は、基本的に本人がその場の判断で処理することになるため、配送等の内容が複雑な日などは、店長が事前に小店舗に連絡しておき、スムーズに業務が遂行できるよう配慮しているが、時にはハプニングが起こることもあるし、特に時間がない時などには判断が難しくなることがある。 最後に、野菜の搬入は、商品の規格等の適格性および鮮度などの、いわゆる選別が重要な要素となる。当然ゼロの状態から理解してもらうことになるので、伝えたことがうまく伝わらないなど、当事業所としても大変苦心を重ねた。 たとえば、品物の名前・特徴・規格などについて、内容を理解してもらうまで繰り返し丁寧に説明して、鮮度については、「先入れ先出しの原則」が配送等で商品補充の際に特に重要なこととなるので、徹底して指導してきた。 その際、小店舗に持って行くものを即座に判断できないことがあり、入荷の商品のうち3分の1ぐらいを持って行ったりしたこともある。 このように困難な事があっても、Bさんのまじめな勤務職務態度や一生懸命な姿勢に対して、事業所の職員の共通の気持ちとして何とかして応えてあげたく、1年6ヵ月ほど徹底して理解してもらえるように、OJTを軸としてその都度丁寧に説明を繰り返してきた。 その根底には、単調な業務のみを行うことにより、本人の仕事上での自己実現・モチベーション等を下げることだけはしたくなく、ある一定の業務フローの中に職務に対する充実感を見出してもらえるように、その都度工夫しながら指導してきた。 しかしながら、小店舗に欲しいものが届かない等の状況が出てきたため、残念ながら平成23年8月からは、職員が選別した商品を持っていく方式に切り替えることとした。 本人のストレス等の状況を把握し、もう少し時間をかけて、余裕ができた頃に再度チャレンジしてもらう方向で検討することとなった。 そこで、まずは決まった作業(商品袋詰め・清掃・コンテナ洗い等)と難しくない作業を任せることとした。ストレス等が減少したためか、作業内容も安定していった。 |
◎ | 今後のBさんへの抱負を店長に伺った 障害を抱える中で、それを克服し業務を遂行することは、とても凄いことだ。このことは無遅刻無欠勤、がんばり度が高いBさんをずっと指導してきて断言できる。 仕事に対して動機付けされているBさんにとって、ある一定の業務の領域において自分で計画し、実行し、評価し、改善できることは、将来仕事を続けていく上でとても重要なことである。 厳しいと思われるかもしれないが、本人の為に何とか一定の業務の中に職務充実を設けてあげたい。 そのために、今後Bさんの仕事の上で「やりがい・モチベーション・成長」を育むプロセスを確立していくために、Bさんの状況を見守っていきたい。 |








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