知的障害者が戦力になり農業活性化にトライ
- 事業所名
- 株式会社ハートランドひろしま
- 所在地
- 広島県山県郡
- 事業内容
- 農業経営及び障害者福祉サービス事業(就労継続支援A型)
- 従業員数
- 17名
- うち障害者数
- 10名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 10 野菜の栽培・収穫・出荷 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
2008年に発生した中国製冷凍餃子への農薬混入事件をきっかけに、生協ひろしまは食品の安全・安心の確保に全力を尽くすと同時に、日本の食料自給率の低さや農業を取り巻く状況についても改めて考えるようになった。
2001年から、JAグループとの協同組合間提携による地産地消を推進し、食と農について協同した取組みを進めてきたが、今回さらにそれを推進する為、新たな試みとして、2010年7月に農業生産法人株式会社ハートランドひろしまを設立した。
広島県の北部、北広島町にJAグループや行政、地権者の協力で土地(約2ha)を借り、3つの目標を定めて事業を開始した。
- 組合員に供給する農産物を生産する
- 組合員との交流の場を作る
- 障害者雇用をすすめ、働く場を創出する
農業生産法人として経営する一方、2011年4月からは障害者福祉サービス(就労継続支援A型)事業を開始して知的障害者10名を雇用している。サービス利用者(障害者)は主にフィールド養液栽培に従事しており、小松菜・ホウレン草・水菜等を栽培し、出荷している。
現在、3通りの農法(露地栽培・ハウス土耕・フィールド養液栽培)で、生協ひろしまの組合員に供給する農作物を生産している。
(2)障害者雇用の経緯
生協ひろしまは、2007年に障害者の社会参加と自立を支援するため特例子会社である株式会社ハートコープひろしまを設立した。
そこでは、6名の知的障害者が生協ひろしまの組合員から注文を受けた農産品の選別・検品・袋詰め・検量といった業務や、物流センターで発生する不要ダンボールのリサイクルといった業務を行っている。
業務を開始した当初は慣れないこともあり、農産品の出荷点数は一日700点程度であったが、作業手順を社員に理解させるための工夫や、検品基準を写真や見本で示す等、支援する側の努力と社員の潜在能力が噛み合い、2年経過した頃には1,200点以上の出荷を行えるようになってきた。
理解した仕事はまじめにいっさい手を抜かず黙々とこなすことのできる彼らの仕事振りと、社会人として成長していく姿は、親会社の役員から高い評価を受けるようになった。
一方、中国製冷凍餃子への農薬混入事件以降、農業生産法人の設立を検討する上で、農業用地の確保と労働力の確保が主要課題となり、土地についてはJAグループの協力と地元の地権者の理解で確保ができた。
労働力について、専門家から障害者と農業を結びつける助言があり、ハートコープひろしまの社員の評価もマッチして、知的障害者であっても農業経営の戦力に充分なりうると判断され、ハートランドひろしまを障害者福祉サービス(就労継続支援A型)事業所として立ち上げることになった。
2. 業務の内容
当社は「生産部門」と「就労支援部門」に分かれ、障害者は就労支援部門に所属している。
そこでは主に7棟の栽培ハウス(26aの栽培面積)でフィールド養液栽培を行っている。
フィールド養液栽培とは、発泡素材の栽培ベッドに専用のシートを敷き、パミスサンド(軽石)を培地にしてそこに培養液を浸透させて栽培する方法であり、電気を使わない上、廃液を出さないことからローコスト・環境保全型の栽培システムである。また栽培方法が比較的簡素化され、腰をかがめたりする必要もなく立ったままの姿勢で作業ができるため障害者にとって作業しやすい栽培システムでもある。
栽培の手順は、
① | 培地整地(木板を使ってパミスサンドを均等に整地する) |
② | ライン引き(種子を播く箇所を専用のライン引きで記す) |
③ | 播種(以前は播種機を使っていたが、現在は誰もが均等間隔で播種できるようにシーダーテープを使って作業を簡素化している) |
④ | 播種後は、日々の散水と間引き・害虫発生時に害虫駆除をするだけで、夏場で28日、冬場で45日程度の生育期間を経て収穫となる。害虫駆除はサービス利用者と職員が手で行う為、播種から収穫・出荷までの間は農薬を使用していない。 |
⑤ | 収穫は、ハサミで行うがこれもパミスサンド(軽石)の上で育てているため、根と茎の部分が判別しやすいので容易である。 |
⑥ | 調整・袋詰め(収穫後は小さな双葉と破れた葉や折れた茎の部分をとり除き、電子はかりで決められた重量に合わせて専用の袋に入れる) |
⑦ | 出荷(収穫量に応じて100~300パックをダンボールに詰めて出荷する) |
⑧ | 収穫後の残根取り(培地に収穫した後の根が残っているためパミスサンドを掘り起こし根や茎を回収する) |
日々収穫できるように計画的に播種を行っているが、天候や気温の関係上、予定通り生育しない時は収穫作業がない。その際は生産部門で行っている露地栽培の作業を行う。今までにサトイモ・さつまいも・白ねぎ・人参の栽培や、草取り・鳥獣防護柵設置の作業を行ってきた。
農業は言うまでもなくきつい仕事である。県北であっても夏場は栽培ハウスの中は45℃を越えることもある。また冬場は外気温が氷点下の日が多く積雪も多い。夏場は水分・塩分補給をこまめに行い、休憩も多く取るよう配慮を行っている。また冬場は、敷地内や栽培ハウスへの移動時に雪で滑って転倒しないようサービス利用者や職員で雪かきを行っている。


栽培の手順




3. 就労支援の内容、今後の課題
(1)就労支援の内容
① | 利用者の概要 サービス利用者は10名で全て男性である。年齢は19歳から42歳までで層は幅広く、居住地は広島市や安芸高田市、北広島町と広範囲に亘り、最も遠距離の利用者は約2時間30分かけて通勤している。途中からは当社の送迎バスで事業所まで送迎している。(送迎バスは購入費用の3/4を独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構支給の助成金を活用した) |
② | 勤務条件 勤務時間は9:15~16:15までの6時間勤務である。賃金は最低賃金除外申請を行なわず、広島県の最低賃金以上の金額を保障している。また、福祉サービス事業所での就労支援を受けていることからサービス利用者は毎月利用した分だけ利用料の自己負担(1割負担)が発生する。しかし、当社では利用者負担額の100%減免申請を行っているので利用料をいただくことはない。 休日は日曜日を含む週休2日制である。 |
③ | 職員体制 当社では障害者自立支援法に基づきサービス利用者が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練を適切かつ効果的に行うため、以下のとおり職員を配置している。 |
管理者(非常勤)・・・・・・・ | 職員の管理及び業務の管理を一元的に行うとともに、職員に対し法令等を遵守させるために必要な指揮命令を行う。 |
サービス管理責任者・・・・ | 就労継続支援A型計画及び個別支援計画の作成に関することを行うほか、サービス利用者の心身の状況等の把握、利用者の自立した日常生活に向けた検討、他の職員に対する支援指導又は助言等を行う。 |
職業指導員・・・・・・・・・・・ | 就労継続のために職業能力向上に向けて必要な支援を行う。また、栽培計画や生育状況の管理を行う。 |
生活支援員・・・・・・・・・・・ | 就労継続のために必要な日常生活上の支援、相談、介護を行う。 |
利用者送迎担当・・・・・・・ | サービス利用者の送迎と通勤のマナーについての指導を行う。 |
④ | 支援内容 サービス利用者の心身・障害の特性に応じて適正な支援ができるよう、採用時にアセスメント(個人の状態を理解する為、幼児期の様子、家庭環境や生活面について本人や保護者から聞き取りを行い、必要な支援や行動予測を立案する)を行い、利用者ごとに個別に支援計画を立てて、本人と保護者に提示して承認を得る。 個別支援計画には、社会生活の基本であるあいさつ・言葉づかい・身だしなみから始まり、生産活動における手順・同僚とのコミュニケーション・私生活面に関することなどサービス利用者の状況に応じて必要な課題を盛り込んでいる。 立てた計画に対して毎月の進捗状況を職員で振返りを行い、計画に沿った支援が出来ているかどうか、到達状況はどうなっているかを確認する。また、6ヶ月ごとに支援計画の内容を見直し、サービス利用者と保護者に提示する。 生産活動(農作物の栽培)については、毎日朝礼で職業指導員からサービス利用者に作業予定を伝え、作業ごとに役割を分担する。作業中は手順どおりにできているか観察を行ない、またハサミ等危険な物を扱う為、安全面にも充分配慮して指示を出している。 体調や食事のこと、身の回りの整理整頓や清掃の手順等について、生活指導員が日々相談に乗り支援をしている。また、保護者への連絡書類の配布や管理も行っている。 |
(2)今後の課題
① | 農業生産法人として 現在、国内の食料自給率が低下しており、また農業人口も減少している。さらにTPP参加問題も含め日本の農業情勢は、ますます厳しい状況になっていくと予想される。 当社の取組みをさらに拡大し、障害者の雇用を進めて、生産量を増やしていくことで少しでも地域の農業の活性化に貢献したい。 また、生協ひろしまの組合員に、より安全で、安心して利用してもらえる農産品の供給をしていくことはもちろん、ハートランドひろしまブランドとして支持を得るため、組合員による産地交流や農業体験を積極的に行う等、生産者と消費者を結ぶ取組みの中で、サービス利用者自身が農業を通じた生産活動にやりがいや自信が持てるように進めていく。 |
② | 福祉サービス事業所として 福祉サービス開始以来、多くの福祉施設や事業所、行政の関係者が見学に来られている。 新たな障害者の雇用形態として、農業と福祉のコラボレーションということに注目をされているようである。幸い当社が生産した農産物は、生協ひろしまという販路が確保されているため、新たな販売先を開拓する必要がない。その分、生産活動に労力を集中できる環境にあり、障害者就労継続支援A型事業所として、サービス利用者が一般の企業でも働けるようにその成長を支援していかなければならない。 当然ながらサービス利用者本人が一般就労を希望すれば、それに向けての準備・支援は惜しまない。そのためにも日ごろから職業面はもちろんのこと、通勤時における公共マナー・休日の過ごし方・お金の正しい使い方・健康維持等、生活面に関わる支援も積極的に行っていく必要がある。 |
③ | 自立を願って サービス利用者同士・職員の交流の場も大切にしており、毎月の食事会やボーリング大会、地元の温泉で忘年会を行なう等、自分達が頑張って働いて得た給料で美味しい物を食べ、皆で楽しむという行事も継続しており、今後は社内旅行も計画している。 これらのことは良い消費者・社会人への成長につながり、やりがいを持って働ける原動力の一つである。 これからも当社では、誰一人リタイアさせることなく、皆で励まし合い、彼らが立派に社会的自立ができるよう、保護者や支援機関、行政の協力や連携をとりながら支援を継続していくこととしている。 |
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