企業を変える障害者雇用
- 事業所名
- 株式会社第一ビルサービス
- 所在地
- 広島県広島市
- 事業内容
- ビルメンテナンス、設備管理、警備管理、プロパティマネジメント、指定管理、マンション管理、アカウントマネジメント、コンストラクションマネジメント、ヘルプデスク
- 従業員数
- 290名
- うち障害者数
- 16名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 6 清掃、管理人、施設管理 知的障害 8 清掃、事務補助 精神障害 2 清掃 - 目次

1. 事業所の理念、障害者雇用の経緯
株式会社第一ビルサービスは、県内・中四国エリアで不動産総合サービス業を展開する企業である。弊社は以前より、職員の中に障害手帳を持っている人がいたこともあり、元々2.9%程度の障害者雇用率であった。
平成21年10月からは、経営理念の一つである「雇用の創出」という観点から本格的に障害者雇用に取り組んだことにより、障害者雇用率を4.64%(平成23年12月実績)まで押し上げることが出来た。
この12月には広島県より「あいサポート企業」認定もいただいている。
これまでの取り組みを通じて、障害者への配慮とサポートが非常に重要であること、仕事に対する工夫や、同僚スタッフとのコミュニケーションの架け橋の必要性など、障害者が働き易い環境づくりが大切であること、更には、障害者は様々な特性を持ち、仕事の割り当てなど工夫次第で十分に労働力を発揮したり、職場に新鮮な風を吹き込むこともあるなど、秘められた可能性があること等々を知っていた。
2. 取り組み内容と効果
弊社はさほど障害者雇用に力を入れてはいなかったが、一般求人に応募してきた人が身体障害者であったり、紹介で知的障害の人を採用するなどといった形で雇用を進めてきた。
始めに障害者雇用を進めてきたのは清掃現場で、内部疾患や体幹障害の身体障害者を採用してきた。清掃作業を実施出来ることを見極めた上で雇用を実施してきたので、一般の労務管理で問題なく勤務している。
弊社が本格的に障害者雇用に取り組み始めたのは、平成21年10月からである。
HandS事業部という障害者雇用の専門労務管理部署を設立し、障害者雇用率に関わらず障害者を労働力として雇用出来る可能性を探ってきた結果、清掃作業を中心として知的障害者、精神障害者の雇用に取り組むこととなった。彼等は身体障害者とは異なり、専門の労務管理や指導が必要な場合がある。そこで、その役割を担っているのがHandS事業部である。
現在、弊社では知的障害者を8名、精神障害者を2名雇用しているが、基本的な労務管理や業務指導は現場単位で管理をしている。HandS事業部は定期的に現場を訪問し、障害のあるスタッフや他のスタッフに面談やヒアリングを行い、トラブルや問題の改善に取り組んでいる。
特に知的障害者のスタッフは、コミュニケーションなどで問題を抱えることが多く、複雑な指示を理解することが難しいことがある。そんな時は、作業手順書等を作成し仕事を分かり易くするなどの工夫を行っている。
業務上問題が起きた際などに、HandS事業部が指導役のスタッフに代わって注意や面談、業務指導を行うこととしたり、障害を持つ者の同僚に対して、注意の仕方や配慮すべき点、また負担を軽減するアドバイスなども行っている。障害者に対する配慮や工夫をすることで、お互いに仕事がスムーズに出来るようになるが、負担やストレスが過度に発生しては障害者雇用の安定は図れないので、そこに一番注目をしてサポートをするよう心掛けている。
また障害者を雇用する際にHandS事業は活躍している。
まず、障害者雇用に適した現場を検討し、業務内容や通勤アクセスなどをクリアした場合、現場のスタッフに障害者雇用の必要性と会社の方針、障害特性などの事前説明を行い理解を得る。その時に、「現場に任せっきりではなく、必ずHandS事業部がフォローアップに入る」との説明を行う。そうすることで、現場スタッフに負担が偏ることも無く、「いざというときは相談をすることが出来る」という安心感を得られるからである。
いくつか事例を説明したいと思う。
公園の施設管理で清掃作業をしてもらうため、知的障害のある30代の女性を雇用した時のことである。彼女は元々清掃訓練を受けており、清掃作業は器用にこなし理解も良く十分に業務を遂行できる人であった。彼女へのサポートで注意が必要だったのは“コミュニケーションの取り方”であり、彼女はこだわりが強く、頑固な一面を見せる時があった。
「私はみんなとは違うんだ。どうせ障害者なんだ。みんなから要らないと思われているんだ」などと機嫌を悪くするときがあった。そういったときにはHandS事業部に対応依頼が入り、彼女と面談をしてみたが、いくら「あなたは十分に仕事が出来るし、みんなに認めてもらっているんだよ」と言っても機嫌は良くならない。これでは堂々巡りを繰り返すばかりなので、そういうときは【説教】をすることもある。そして、最終的に「ここで働くことを決めたのは自分じゃないか。辞めるのも自分で決めればいいが、働くと決めたからには一生懸命、真面目に働かなくてはダメだ」と諭している。
HandS事業部で障害者雇用のサポートするときに必ず注意していることは、“障害者本人の意思で働くことを決めている”かどうかである。
「働かされている」という気持ちでは、必ずトラブルが起きる。
企業が“雇いたい人”だと思い、障害者本人が“ここで働きたい”と思わない限りは、企業と障害者のマッチングは成立しない。
障害者を雇用する上で、HandS事業部はそのマッチングを見極めるのも重要な仕事のひとつである。知的障害者に対し、優しく接し褒めてばかりでは良い労務管理が出来ない場合が多々ある。時には厳しい言葉を上手に使うのも一つのポイントである。弊社が障害者雇用に取り組むうえで、障害のない者と障害のある者の区別は付けておらず、待遇もその他のスタッフと同じであり、間違っていることに対しても注意・指導を行う。
特に、知的障害のスタッフは社会でもまれるという経験をしていない人が多く、また、自分の能力が低いと思っており、障害のない者と距離を置く人もいる。そのため、困難や壁を乗り越える力が育っていないのも事実である。しかし、厳しく指導をして、自分で考え、決断をすることを繰り返していくと、少しずつ壁を乗り越える強さが育ってくる。それが障害者本人の自信にもなり、仕事もうまく行くようになる。
障害の有無にかかわらず、誰でも経験を積むことによって就業能力は向上する。障害のある人は、少しばかりその経験を積むのに時間と労力が掛かるのだと思う。しっかりと向き合い、お互いの本心を知ることが一番重要なことであり、障害者雇用成功の鍵だと思う。
他に、障害者雇用により職場に良い効果をもたらした事例も紹介する。
HandS事業部が、障害者雇用を現場に推進していくにあたり、どうしてもやっておかなければならないと考えることがあった。それは、“本社で障害者を雇用する”ことである。
それも、知的障害者を雇用する必要があると考えた。それは、「実績の無い者の言うことは一番信憑性が無い」からである。そして、「事務系の仕事で知的障害者を雇用する」ことが、一番説得力があり、障害者雇用の壁を崩す武器になると考えた。
雇用にあたり、まずは本社内で業務の切り出しを行った。すべての部署を回りヒアリングを行い、実際に業務内容を見せてもらうことで知的障害者のための業務を抽出し、それを少しずつ集めて仕事のボリュームを確保していった。そして、「時間があればやりたい、改善したいこと」を各部署でヒアリングし、それをヒントに新たな業務の創出も試みた。社内から業務を抽出し、職場改善のための新業務も考え出すことで、その業務に就くことの出来る人物像をイメージすることが出来た。それから人探しを始め、様々な機関へ情報を発信し、イメージにマッチする人を探した。
半年が過ぎた頃に、ニーズと一致する人物を見つけ出すことが出来た。
彼女は自閉症と弱視を重複した21歳の知的障害者であった。彼女の就業能力を確かめたところ、PC作業や読解能力が比較的高いということで雇用を検討した。実習を行い、就業の可能性を確かめたところ、十分に就業可能だと判断出来たので、本人の意思を確認し、互いの思いが一致したので雇用契約を結ぶこととなった。
始めのうちはHandS事業部が頻繁にフォローアップに入り、同僚社員への情報の提供やコミュニケーションのコツなどを伝授して行った。彼女は自閉症と言うこともあって、人とのコミュニケーションが得意ではなかったが、その特性からか黙々と業務に取り組み雇用は順調かと思えた。
しかし彼女を雇用して半年が経ったころから問題が発生した。業務中の私語が増え、同僚スタッフの仕事に悪影響を及ぼし始めた。彼女はコミュニケーションのスキルが低く、状況を読むといった能力が欠けている。そして、彼女のこだわり(気になったこと)を頻繁に聞いてくるようになったのである。障害のない者であれば暗黙の了解として、業務中の私語や周りに掛ける影響を独自で判断できるが、彼女にはそれが出来なかったのである。他にもルーティン作業に飽きてきて、しばしばサボるようになってきた。同僚スタッフもどのように対応したら良いか分からず戸惑っていた。
そんな時にはHandS事業部が彼女と面談する。
まず、問題のある内容を箇条書きにして、一つひとつ「なぜいけないのか?」と言うことを説明し、理解をしてもらうことから始める。そして、仕事をするということの意味を今一度確認し、仕事をすることができる環境がどんなに貴重で喜ばしいことなのかを再確認してもらう。
ここで良い方向へ修正が効くかどうかは、本人の人間性が非常に重要である。
彼女は自閉症がありコミュニケーションが下手であるが、働いているうちに色々な人と接することに喜びを感じ、私語をするようになったのだと思う。これは、彼女にとっては“成長”だと思われる。「働く」という環境が彼女を成長させるのである。
他にも、彼女はイライラしやすいといった特徴もあり、仕事中に何かのきっかけでイライラし物に当たる行動をとることがある。初めは同僚社員もその行動に驚き、対処方法を悩んでいたが、最終的には放っておくのが一番だということで解決した。今ではちょっとやそっとでは周りの方が動じないようになった。
彼女を本社に雇用したことで、本社社員の労務管理能力が上がったと思われる。
「分かり易い指導法や言葉を使う」「相手が理解するためにはどうするかを考える」ようになった。そして、相手の特性を理解し受け止めることが出来るようになった。
会社全体が、障害のある者とない者が、皆同じ空間で仕事をすることに慣れてきた。
会社に新しい人が入社して共に働いていれば、相手を理解し楽しく仕事が出来るようになる。それと全く同じで、障害の有無に関係なく共に働いていくと気心が知れた同僚になるのである。

事務作業中
3. 今後の展望と課題
企業にとって障害者雇用とは、社会的貢献(CSR)だけではなく、取り組み方によっては非常に有益なことであることを知った。
また、少子高齢化が進行し労働人口の減少していく社会では、障害者雇用は労働力の確保といった意味合いも持つようになると思う。
弊社は、この障害者雇用のノウハウを活かし『HandSジョブマッチサービス』を展開している。
『HandSジョブマッチサービス』とは、求職希望の障害者を人材バンクに登録し、特性・人間性などを把握したうえで企業へ紹介し、また企業へ障害者雇用の全般的なコンサルティングサービスを提供するものである。
障害者と企業のニーズがマッチングすれば、障害者雇用は必ず成功する。日本国民の義務である【勤労・納税・教育】を果たすために、公的支援サービスを少しでも補完する、民間による仕組み作りが必要であると思い、事業を展開している。
弊社にとってのCSRは単に障害者を雇用するだけではなく、より多くの企業と障害者が雇用関係を結ぶためのサポートをすることであり、地域全体の障害者雇用が進むことを願っている。
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