共感に基づく対等な立場からの支援を推進する企業
- 事業所名
- 芦森工業山口株式会社
- 所在地
- 山口県山口市
- 事業内容
- 自動車安全部品のシートベルト・エアバッグ・内装品等の製造
- 従業員数
- 247名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 2 肢体不自由 2 内部障害 知的障害 2 精神障害 1 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用と支援への取り組み
(1)事業所の概要
芦森工業株式会社は、明治11年(1878年)の創業以来、繊維を用いた産業資材の担い手としての地位を築いていった。その後、昭和37年(1962年)に自動車の安全対策に着目し、自動車用シートベルトの製造・販売に着手した。さらにエアバッグ、チャイルドシート、内装品等を商品に加えるなど、多角的な事業を今日まで展開している。当社は国内外に事業所を多く設立しつつあり、芦森工業山口株式会社はアシモリグループの一つとして、平成20年(2008年)、山口市佐山の地に設立された。
(2)障害者雇用と支援への取り組み
① | 障害者支援の部署 当社の総務を担当する部署が「総務グループ」であり、障害者雇用を推進する役割も担っている。当グループの専任課長 由(よし)川嘉信氏に話を伺った。 「障害がおありの従業員に、私どもが何か支援をしているとは思っておりませんので、この度の取材をお受けするのが恥ずかしくて・・・。私たちの方が、支えられています。」と語る由川課長。障害のある従業員が、職場に自然に受け入れられている様子が伝わってきた。 総務グループのなかで、障害者支援に直接対応している職員は現在3名である。由川課長はこのトップとして、障害者支援の陣頭指揮をとっている。現在、障害者職業生活相談員の資格を取得し、従業員への心身両面に渡る幅広い支援にあたっている。そして、この由川課長を支える職員が、同グループで勤務する鬼武朗氏と吉光愛氏である。このお二人も今後、研修を通して障害者職業生活相談員の資格を取得する予定である。 |

② | 障害者雇用への取り組み~「トライアル雇用」の実施~ 「芦森工業山口株式会社の湯田愛一郎工場長から、障害者法定雇用率を達成するよう指示のあったことが、障害者雇用のきっかけになりました。」と由川課長は語る。 芦森工業山口株式会社は平成20年に設立された新しい会社であるが、湯田工場長からの指示後の取り組みは極めて速く、その後の障害者雇用率は3.59%(平成23年6月現在)に上昇した。 当社で障害者雇用を迅速かつ円滑に展開できた要因は何であろうか。 「トライアル雇用を試みたことが、とても良かったですね。」と由川課長。 「障害者雇用を開始するにあたり、当初、安全面についての不安が私共にあったことは事実です。当社では、オールマイティの人材を求めております。一つの仕事にだけしか従事できないという従業員ではなく、三つくらいの仕事をこなせる従業員であってほしいのです。例えば、機械を扱う部署にも配置される可能性がありますので、そこでも安全に作業し続けることのできる人材であってほしいのです。そこで、障害のある4名の入社希望者(聴覚障害2名、知的障害1名、精神障害1名)に、このトライアル雇用を試みました。特に、聴覚障害の人には、こちらからの指示が伝わりにくいのではないか、という不安が当初大きかったのです。」 3ヶ月間のトライアル雇用の結果、このような不安は杞憂に終わった。この4名の従業員は皆、現在も怪我なく仕事に従事している。 「トライアル雇用を実施したことで、ご本人と会社との相互理解が促されました。」と、由川課長はトライアル雇用の意義を語る。 |
2. 当社で働く従業員への支援の様子
当社で働く7名の障害のある従業員のうち、6名を紹介しよう。支援にあたっている鬼武朗氏に話を伺った。
(1) | Aさん(下肢障害・身体障害者手帳「1級」判定) 「車いすを使用するAさんは、仕事も通勤も、全て自分一人でこなしておられます。」と鬼武氏はAさんの実力を認める。 Aさんは高校を卒業した後、他社での勤務を一旦経験したが、その入力業務の手腕を当社から高く評価されたことを縁に、当社に入社の運びとなった。 Aさんの仕事は、入力業務を中心とした生産管理実務であり、当社のサーバー室のパソコンを活用し迅速に入力業務をこなしている。社屋はバリアフリー構造であり、玄関から総務グループの部屋を通り、サーバー室へと進む動線には段差が無い。それゆえ、車いすによるAさんの移動は極めてスムーズである。また、同じ階にあるトイレも車いす対応となっている。 Aさんは、近隣の市から自家用車で通勤している。一般従業員の駐車場は社屋の後方に設置されているが、当社はAさん用の駐車スペースとして、正門にある守衛所の横の一区画を用意した。このスペースは横幅を十分広くとってあるため、Aさんは停車後に自家用車のドアを大きく開け、折りたたまれていた車いすを車外に出し、それを組み立て、そこに座りなおし、その後に車のドアを閉める、という一連の動作を一人でスムーズにこなしている。また、社屋はこのスペースから近距離にあり、Aさんにとっての社屋への移動は短時間ですむ。 もともと入力業務に秀でた力を有するAさんであるが、当社からのこうした支援のもとで、Aさんはその実力をいかんなく発揮し、周囲からの揺るぎない信頼を得ている。 |



(2) | Bさん(下肢障害・身体障害者手帳「4級」判定) Bさんは近隣の市から自家用車で通勤している。 Bさんは大学を卒業した後、他社での勤務を一旦経験した。当社には、障害者合同面接会を経て入社した。 Bさんの仕事は、物流部門での業務が中心である。製品を保護するための緩衝材をコンテナに詰めたり、あるいは、返却されてきた製品箱から不要な紙などを取り除いたりする作業に取り組んでいる。 「私は、脳卒中が原因で、左手と左足に不自由があります。」と語るBさんだが、コンテナの間を移動し、両手を使って仕事を次々とこなすBさんの姿からは、責任を持って仕事に対峙しようとする真摯な姿勢が伝わってくる。 |

(3) | Cさん(聴覚障害・身体障害者手帳「2級」判定) Cさんは近隣の市から自家用車で通勤している。 Cさんは特別支援学校を卒業した後、他社での勤務を一旦経験した。そして、当社でのトライアル雇用を体験して入社した。 Cさんの仕事は製造部門での業務が中心である。シートベルトのアジャスター(体に合わせてシートベルトの位置を上下させるための部品)の製造に取り組んでいる。聴覚障害のあるCさんは、メモ帳などを使った筆談により、周囲との意思疎通を図っている。 前述したように、当社はCさんをはじめとする4名の障害者の雇用にあたり、指示がうまく伝わるか、あるいは、安全な作業が可能であるかといった不安を当初抱いた。そこでトライアル雇用を実施したところ、こうした不安は払拭されていった。現在、Cさんの迅速かつ正確な機械操作によって、アジャスターが次々と生み出されている。 なお、Cさんはスポーツマンである。平成23年10月に山口県で開催された第11回全国障害者スポーツ大会の陸上競技に山口県代表として出場し、1500メートルで全国第3位、走り高跳びでも同じく全国第3位の栄誉に輝いた。 |

(4) | Dさん(聴覚障害・身体障害者手帳「6級」判定) Dさんは近隣の市から自家用車で通勤している。 Dさんは大学を卒業した後、他社での勤務を一旦経験した。そして、障害者合同面接会を経て、当社でのトライアル雇用を体験して入社した。 Dさんの仕事は、Cさんと同じく製造部門での業務が中心である。シートベルトのパワーユニット(車の衝突時にシートベルトを固定させるための部品)の製造に取り組んでいる。補聴器を使用するDさんは、周囲の従業員との通常の会話が可能であり、意思疎通面での支障はない。パワーユニットの製造部署では、Dさんともう一人の従業員がペアを組んで勤務しているが、Dさんはこの従業員に対して、簡潔明瞭な指示を口頭で出している(「この箱に○○を入れて下さい。」等)。 「Dさんは、新入社員を指導するという役も担っています。」と鬼武氏はDさんの実力を高く評価する。 |

(5) | Eさん(知的障害・療育手帳「B」判定) Eさんは近隣の市にあるグループホーム(共同生活援助)から、バスと自転車を使って通勤している。 Eさんは知的障害特別支援学校を卒業した後、障害者福祉施設での生活を一時期経験した。そして、障害者合同面接会を経て、当社でのトライアル雇用を体験して入社した。 Eさんの仕事は、物流部門での業務が中心である。製品を入れる箱に事前に緩衝材(ダンボール紙やエアーキャップなど)を詰めたり、ダンボール箱を組み立てたりする作業に真剣に取り組んでいる。その手は休まることがない。入社してから1年間の勤務経験によって、Eさんは複数の仕事を熟知した。 「Eさんは本当によく働いてくれます。いくつもの作業が確実にできます。」と鬼武氏は評価している。 |

(6) | Fさん(発達障害・精神障害者保健福祉手帳「2級」判定) Fさんは近隣の市にあるグループホーム(共同生活援助)から、自家用車で通勤している。 Fさんは高校を卒業した後、他社での勤務を一旦経験した。そして、障害者合同面接会を経て、当社でのトライアル雇用を体験して入社した。 Fさんの仕事は、前述のEさんとほぼ同じ業務であり、物流部門での業務が中心である。製品を入れる箱に事前に緩衝材(ダンボール紙やエアキャップなど)を詰めたりする作業に取り組んでいる。 |

発達障害のあるFさんには、対人関係に苦手な面がある。例えば、目の前を人が通ったり、ドアの開く音が聞こえたりすると、Fさんは気持ちが不安定になることがある。また、人の会話がふと聞こえたりすると、「自分のことを噂されているのではないか」といった思いの生じることもある。そこでFさんには、地域障害者職業センターのジョブコーチが寄り添った支援を行い、これまで当社にアドバイスを続けてきた。その内容の一つが「Fさんを通路から離すこと。Fさんにとって人の見えない環境を用意すること。」である。早速、当社は職場環境の改善に取り組んだ。
入社当初、Fさんの立ち位置からは、製造部門と物流部門とを隔てるロールシャッター(人の出入り時に上下する)が直接見えていた。すると、当シートが巻きあがる時の音がFさんに聞こえ、さらに、出入りする人の姿がFさんの視野に入る。そのため、Fさんはなかなか落ち着くことができなかった。そこで、ジョブコーチからのアドバイスに従い、当シートが見える方向ではなく、そばにある棚の方向を向いて作業できるよう、Fさんの立ち位置を変えてみた。その効果は即現れ、Fさんは落ち着いて作業に取り組むことができるようになった。そのうち、Fさんの周囲に物品が増え、次第に手狭になったため、そこから奥まったところにある広いスペースに移動することになった。ここでもFさんは、ダンボール箱などが整然と並べられた棚の方向に体を向け、落ち着いて作業に取り組むことができている。設置物で人の姿を遮る職場環境のもとで、Fさんはその力を発揮し、さらに伸ばすことができるようになった。
Fさんの入社当時は、ジョブコーチがFさんの支援に1週間に1回来社していた。その後2週間に1回、さらに1ヶ月に1回と、Fさんの勤務状態が良好になるにつれて、来社回数を徐々に減らしていった。平成23年12月現在で、ジョブコーチは2ヶ月に1回の来社である。
「Fさんは、入社後の一時期、休みがちになりました。そこで地域障害者職業センターのジョブコーチからのアドバイスをもとに職場環境を改善し、さらにFさんが心に抱く思いをジョブコーチに聞いてもらいました。こうした取り組みによってFさんは精神的に安定していきました。今後もなんらかの課題が生じてくるかもしれませんので、その時にはまた改善を加えたいと思っています。」と鬼武氏は語る。ジョブコーチからの支援と、当社からのきめ細かな支援が、Fさんの就労生活を支え続けていると言えよう。
「これまで、Fさんが不調の時には、ジョブコーチと親御さんが主に相談しておられました。でも今では、Fさんご本人がジョブコーチと相談しつつ決断しておられます。就労を機に、Fさんは自立したのでしょう。」と鬼武氏は微笑んだ。
3. 障害者雇用への取り組みと今後の展望
芦森工業山口株式会社では、自動車のエアバッグも製造している。現時点(平成23年12月)では、障害のある従業員はこの製造部門に携わっていないが、由川課長は次のように語る。
「このエアバッグの製造には、縫製作業が含まれます。この縫製の工程に、障害者雇用の可能性があるように思います。」
同社による、障害者雇用へのさらなる取り組みを期待したい。
「人は誰でも皆、障害を有します。」と由川課長は最後に語った。人は年齢を重ねるうちに、体の機能が徐々に低下したり、どこかに疾病が生じる可能性を誰もが秘めている。その意味で、「障害」は決して人ごとではなく、身近な私たちの問題である。芦森工業山口株式会社では、7名の障害のある従業員に対し、共感に基づく対等な立場からの支援が講じられている。
障害の有無にかかわらず、人は皆、その持てる力をこの社会で発揮し、社会参加したいと願っている。芦森工業山口株式会社は、就労を通した社会参加という理念の実現に向け、地域に根ざした企業としての社会的責任を果たす経営を今日も続けている。
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