障害者と職場が協力し、社会生活を営んでいる事例
- 事業所名
- 株式会社フジ
- 所在地
- 愛媛県松山市
- 事業内容
- チェーンストア業(食料品、衣料品、日用雑貨品の小売販売)
- 従業員数
- 5,776名
- うち障害者数
- 87名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 3 生鮮食品の加工・販売、店舗での検収業務、事務 肢体不自由 13 生鮮食品等の加工・販売、管理職、バイヤー、事務 内部障害 10 食品等の補充・販売、管理職、技術トレーナー 知的障害 57 生鮮食品等の加工や値付け、パック、補充・販売 精神障害 4 生鮮食品の加工や値付け、パック、補充・販売、事務 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社フジは、1967年、愛媛県宇和島市にて創業した。その設立の理念は「地域社会への貢献」と「豊かなくらしの推進」である。初代社長の尾山謙造は、「より良い品を、より安く」「地域、地域に奉仕するフジ」をスローガンに掲げ、チェーンストア業をスタートさせた。以来、創業から現在に至るまで、フジは、「地域」と「人」と「くらし」を常に大切にしてきた。
フジは、お客様に、地域に、そして社会に密着した中四国流通ネットワーク構想を推進することを経営ビジョンとし、今日まで業務展開を進めてきた。その根底にあるのは、「地域の人々と共に生き、その明るい笑顔をいつも見ていたい」という願いである。その願いの下、フジでは、地域の人々に受け継がれた生活スタイルや育まれてきた文化を大切にし、より快適で便利な楽しいくらしを提案している。中四国エリアに広く深く根を張り、地域の生活に溶け込みながら、人々の生活に常に新しい息吹と新鮮な感動を送り込むことを目標とし、「中四国流通ネットワーク構想」をチェーン展開の基本に据え、今日までに96店舗(愛媛県47、高知県8、香川県7、徳島県5、広島県19、山口県10、平成24年1月30日現在)を展開している。
1967年 9月 | チェーンストアの展開を目的として、十和(株) (現(株)アスティ)の全額出資により愛媛県松山市湊町に株式会社フジを設立 |
1967年10月 | 愛媛県宇和島市に第1号店となる宇和島店を開設(第1号店) |
1973年 3月 | 本店所在地を愛媛県松山市宮西に移転 |
1989年12月 | フジグラン松山を開設(旧フジショッピングスクエア松山店を撤去し、新設) |
1995年11月 | 高知県宿毛市にパルティ・フジ宿毛を開設 パルティ・フジ宿毛(近隣購買型ショッピングセンター「パルティ・フジ」第1号店) |
2008年 4月 | 愛媛県伊予郡松前町にエミフルMASAKIを開設 |
2009年 8月 | フジ・ユニー・イズミヤ 共通PB「Style ONE」発売開始 |
(2)障害者雇用の経緯
障害者雇用の経緯について、まず、人事係のYさんにお話しを伺った。フジにおける最初の障害者雇用は1981年のことである。その後、障害者の雇用はされていたものの、2006年まで、法定雇用率は達成されない状態が続いていた。
しかし、「地域に支えられているフジ」という企業理念の下、地域に対し何か貢献できないかとの考えで、地域に住む障害者へ就業の場を提供することとなった。こうした経緯の下、2006年、フジ全体で20人の障害者の雇用に踏み切った。以来、毎年法定雇用率が達成される状況が続き、さらに今日ではその達成率も大幅に上回っており、多くの障害者が戦力としてフジで働いている。そんなフジに対する地域からの信頼も厚く、地域に支えられ、地域に貢献するという関係を築きあげ、今日に至っている。

2. 取り組みの内容
「自動二輪の免許を取得しました」少し照れたような、しかしはっきりとした口調でSさんは語った。Sさんは、パルティ・フジ姫原店精肉部門に勤務している。彼は、終始、少し照れながら、満面の笑みでインタビューに応じた。
(1)Sさんを雇用するに至った経緯
知的障害を持つSさんは平成20年3月入社の21歳(平成23年12月1日現在)である。愛媛県内の養護学校(現 特別支援学校)に通っていた当時、人事担当者のもとに、学校から「良い子がいる。雇っていただけないだろうか」とSさんの紹介があった。後に、当時の人事担当者が、実際にSさんと面会し、Sさんの真面目さを高く評価し、採用することとなった。当時の人事担当者はSさんに対し、「元気で頑張ってくれそうだ」という感想を持ったそうである。
(2)職場でのSさんの様子-Sさんのインタビューより-
Sさんは精肉部門の担当である。主な仕事内容は、精肉加工から、パック詰め、商品の値付け、売り場における商品の陳列や前陳等に至るまで様々である。本人の話によれば、最初は業務内容が分からず、戸惑うことが多々あったようだ。しかし、上司や同僚から仕事を教えてもらうことで不安を少しずつ解消し、現在では「仕事に慣れてきた」と快活に語っていた。中には、Sさんの方が詳しい仕事もあり、商品の値付けの作業では、上司や同僚にSさんが教えることも多い。上司も、話の中で、「値付けの際、分からないことがあればSに聞く。Sが一番詳しい。」と語っており、分からないところは、お互いに教えあって日々の業務を行っている様子がうかがえる。また、Sさんは周囲とのプライベートの対人関係に関しても良好で、一緒に食事に行ったり、忘年会や新年会、パーティーに行ったりすることもあるそうだ。
Sさんに、仕事で最もやりがいを感じている場面を聞いてみると、「商品の加工です」と自信を持って語った。特にSさんは鶏肉の加工が上手にできた時、嬉しいと感じるそうだ。精肉部門の仕事の中には、包丁を使う場面があり、安全面に特に注意を払っていなければ、ケガをしてしまうことがある。しかし、Sさんは、上司からの指導を受ける中で、次第に包丁の使い方、安全面へのケアを習得した。現在では、誰かの助けを借りることなく、ほぼ一人で全ての作業を行っている。安全面に対しては細心の注意を払っているため、現在までにケガをしたことはなく、また、自分だけでなく、周囲にも注意を払いつつ、作業を行っているため、安全に毎日の仕事を行うことができている。
商品の加工においては、一つ一つの商品の重さを揃えるため、計量器を用いて重さを一定に揃える作業がある。この作業では、わずかな重さの違いを見ていくため、繊細な作業を要求されるが、計量の作業も慣れてきたと自信を持って語っていた。
日々の仕事で気をつけていることを聞いてみると、商品を陳列する際、お客様の目線で陳列することだと答えてくれた。実際にSさんの仕事の様子を見たが、お客様の目線で接客にあたっており、お客様が商品をとろうとする際には作業の手を一度止めるなど、気を配っていた。また、商品の前陳(商品棚の後ろにある商品を前に出す作業)も大変スムーズで、10秒とかからない間に一つの売り場の前陳を済ませてしまった。
Sさんは、今後、牛肉や豚肉の加工についても行ってみたいとのことであった。豚肉・牛肉は鶏肉に比べ単価が高く、また、加工の面においては、包丁と並行してスライサーを用いるため、鶏肉の加工と比べると作業の難易度・安全への配慮も高くなる。今後も一層の努力が必要となるであろう。しかし、Sさんは現在、自分にできる仕事を、自信を持って行っている。これからも、上司や同僚の指導の下、できる作業の幅を増やし、ますます充実した職業生活を送っていただきたい。

3. 取り組みの効果
「特別なことは何もしていません。」Sさんの上司であるIさんはそう語った。Sさんを雇用するにあたって、職場で何か特別な支援を行っているのではないかと考えた。しかし、フジでは、全社的方針として障害の有無に関係なく、皆一律に新入社員として研修を行っている。Sさんに対しては、仕事の内容について言葉がけを行い、その後実際に仕事をやってみるということで仕事を教えてきた。Iさんは、以前、別の店舗で、青果・惣菜担当として勤務していた。その際も、上司として、障害者に対して仕事の指導を行ってきた。Iさんにとって、障害者を部下に持つのはSさんで3人目である。
(1)職場の上司、Iさんから見たSさん
IさんにSさんの印象を聞いてみると、真面目であること、あいさつがきっちりできることの2点を挙げた。
まず、Sさんの真面目さについてである。Iさんは、Sさんが仕事を習得できた要因に、この真面目さがあると考えている。Iさんは、Sさんの指示を素直に聞き入れることができる点と指示されたことを的確に実行できる点が、Sさんが仕事内容をスムーズに習得できた一因なのではないかと語った。また、Sさんの健康面についても挙げた。入社してから3年間、体調不良を訴えることがほとんどなく、Sさんは職場にとって貴重な戦力であると語った。
また、Sさんは、商品に値付けを行う機械の操作に関しては、Iさんよりも詳しく、コード表を見なくとも機械に番号を打ち込める。そのため、Iさんは「分からないことがあったらSに聞く」と語り、Sさんに対する信頼を寄せるなど、仕事に対する姿勢も伺えた。
また、あいさつに関してだが、「声は小さめだが、普通にこなすことができる。」と評価した。Sさんは、一見すると照れ屋な印象を受ける。しかし、人付き合いは控えめであるだけで、決して人付き合いが悪い訳ではなく、忘年会や新年会、パーティー等にも積極的に参加し、職場の上司・同僚との交流を楽しんでいるそうだ。IさんはSさんに対し、「気を遣わずに済む。変に気がねしなくて良い」と語っており、IさんとSさんは、プライベートでも良好な関係が築けていることが分かる。

(2)Iさんが考える今後のSさん
Iさんは、今後のSさんの仕事の目標として、段階を追って、鶏肉から豚肉、牛肉の加工ができるよう指導していきたいと語った。鶏肉加工作業を一番に選んだ理由は、たとえ失敗したとしても単価が安いため損失が少ない点、形を整えパック詰めを行うという一連の作業が行いやすい点、こうしたことから新人職員向けの作業であると判断し、指導していった。Sさんは手先が器用であるため、仕事を覚える上で特につまずくことなく、順調に習得していき現在に至っている。Iさんは、Sさんにより長く勤務してもらいたいとの考えから、少しずつ、順を追って指導することとしている。Sさんの実態を大変よく観察し、把握しているため、このような指導を考えることができるのである。

4. 今後の展望と課題
人事係のYさんは、今後の課題として、まず、障害者の職場定着を挙げた。前述の通り、フジではほとんどの店舗において1店舗1人以上の障害者の雇用を達成している。しかし、現在、フジにおいて安定した戦力として力を発揮している彼らが離職してしまわぬよう、職場で長く働ける環境を整備していくことが今後の課題であると語った。
そして、今後の展望としては、Sさんの事例のように、上司・同僚と障害者が連絡を互いに取り合えるような関係形成を行っていくことが重要である。この取り組みは、各職場で進んでいる。このような取り組みが、障害者の職場定着、雇用促進といった問題への解決策となり、地域の障害者雇用を担う企業として貢献していくことが期待されている。
フジの行動指針は「FORWARD -明日を越えて、前進するフジ-」である。これは、「Look Forward (前向きに見、とらえ)」「Think Forward(前向きに考え、計画し)」「Go Forward(積極果敢に行動する)」という3要素から成り立っている。地域の豊かなくらしを提案するフジは、常に明日、未来を見つめ、考え、前進している。Sさんもこの行動指針の下、明日や未来を見つめ、YさんやIさんを中心とする上司・同僚といった職場のサポート体制を受けつつ、今日も元気に働いている。
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