ITによるちょっとした工夫が病院全体を変え障害者雇用の可能性も高めた取り組み
- 事業所名
- 医療法人武田会高知鏡川病院
- 所在地
- 高知県高知市
- 事業内容
- 神経・精神科、睡眠医療センター、高知県認知症疾患医療センター、
重度認知症患者デイケア - 従業員数
- 214名
- うち障害者数
- 5名(重度3名)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 3 医師1名、介護職2名 知的障害 2 洗濯業務2名 精神障害 - 目次
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯・背景
(1)事業所の概要
① 事業の特徴
昭和31年に医療法人清生園として開設し、昭和33年、土佐道路と鏡川に挟まれた現在地に移転した。その後、平成16年に医療法人武田会「高知鏡川病院」に名称変更し病棟増設した。
現在の診療科目は、スタート時からの神経・精神科を中心に、社会ニーズに添った中四国初の日本睡眠学会認定医療機関として睡眠障害の総合的な治療に当たる「睡眠医療センター」や、高知県からの依頼により始まった認知症疾患専門の医療機関として「認知症疾患医療センター」があり、住み慣れた地域で安心して生活ができるよう本人やその家族を支援している。
当病院は、精神疾患を主とする医療機関でありベッド数は200床以上である。これまでの精神疾患は偏見もあり受診が遅れる例もあったが、早期治療や新薬等により社会人として普通の生活ができるようになり、プライベートと仕事をコントロールできるようになっている。“収容からオープンスタイルへ”の方向をとっている。
② 障害者雇用の理念等
事業主体が医療機関であり、しかも精神疾患が中心であるため、知的障害者による患者への直接の業務は難しいとされてきた。ボランティアではなく普通に働くとなると、障害者個々のレベルは多様で不明な点も多いが、社会的使命として受け入れ体制を整えようとしてきた。
以前から、当病院では内部障害者が働いているが障害者だから特別とする考え方はない。仕事は、自然な形で<おもしろい・働きがいがある>ことが大切ではないか、障害者であっても、普通に業務が出来ればそれでいいのではないか、と区別をつけることなく対応してきた。いろんな性格や特技を持った人がいるのと同じように、その人の個性として捉えている。不足しているところは出来る人がカバーするという方法で、協働できる体制に持っていくようにしている。
(2)障害者雇用の経緯・背景
① 障害者雇用の経緯
従業員が交通事故や病気に見舞われ障害を持つ身となることはある。当病院には心臓機能障害による内部障害者が3名いるが、病状回復後は元の職種職場で通常勤務に就いている。彼らに対して、障害者という概念はなく、障害認定以前と変わらない雇用形態である。注意していることは健康管理である。医療機関であるから通常以上に健康安全には取り組んでいるが、障害者にかかわらず早め早めの休養や治療を勧めている。
一方、知的障害者雇用の始まりは、平成18年、高知市立養護学校からの依頼であった。先生方から生徒を雇用して欲しいとの相談を受けたが、介護助手など、臨機応変の判断を必要とする業務は難しく、当病院でどのような仕事が適しているのか、職務の切り出しを行うことは困難であった。
しかし、学校では優等生で、その働きたいという意欲は活かしたいと考え、入院患者の「洗濯」業務はどうだろうということで受け入れが決まった。採用後は、養護学校の先生方の支援はもちろん、家庭でも医療従事者の母親の見守りがあった。以来、高等部卒業から現在まで洗濯場の一員として働いている。
② 取り組みの背景
新たな障害者雇用を契機に業務の見直しが行われ、「洗濯業務支援システム」を導入することとなった。これまでの洗濯業務には、多様な患者毎の品目別仕分け及び記録があり、それに伴う誤仕分け・誤記入があった。そこで、平成21年10月<品目別価格から重量別価格>方式に変更し、仕分けは患者別のネット(網袋)で行い、記録は<患者情報内蔵及び自動価格変換機能付電子秤>により、患者毎のバーコードをバーコードリーダーで読み取り、秤に乗せるだけとなった。現場では、作業手順をいかに正確に効率よく進めるかとなった。それと同時にLANケーブルを介し、洗濯データを事務部門へリアルタイムで送信できるようにし、事務部門での入力作業も自動化となり大幅な業務改善となった。
このように、新システムによるIT化により業務が簡素化され、また前述の障害者も一人前となり指導の余裕ができた。ちょうどその頃、いの公共職業安定所から新たな障害者の雇用の案内があり、その人に対して、就業・生活支援センター「シャイン」から職業訓練の依頼もあったため、平成22年からトライアル雇用に取り組むこととなった。
この2人目に雇用することとなった障害者は、療育手帳においては軽度の扱いだが、雇い入れた場合には重度の扱いとなると担当地域の公共職業安定所から案内されていた。言われたことはできるが、漢字が読めない等の不安もあったが、洗濯場では既にひとりの障害者を受け入れた実績がある。仕事を覚えるには時間はかかるが、まじめで、あいさつもきちんとできるので、洗濯場での受入れが決まった。
しかし、障害者委託訓練は事前に面接もするが、トライアル雇用から正式雇用に行き着くまでには、職場以外の私生活面でフォローする人がいないと難しいと痛感した。とにかく職場まで来れば、みんなでカバーもサポートもできるのだが、退社後は難しい。
2. 障害者の従事業務、職場配置等
(1)障害者の従事業務
当病院で働く知的障害者2名(女性)の業務は入院患者の身の回り品の洗濯である。
(例えば、下着、ジャージ上下、タオル、靴下等で、おむつやカバー、シーツ等は別)各病棟から入院患者の洗濯物が個人別ネットに入って洗濯場に集まってくる。
それについて洗濯場で、<収集、洗濯、乾燥、取り出し、仕分け(たたんでネットに入れる)>を行い、仕上がった洗濯物を病棟に運ぶことで完結する。ここで、病棟の看護師や介護職等とのコミュニケーションも生まれている。
(2)雇用管理
洗濯場の業務は、障害者を含む5名体制(女性)のローテーションで、障害者の勤務時には常に障害のない従業員が加わり2〜3名で作業する。雇用形態は、洗濯責任者を除く4名はパート従業員。障害者2名の勤務時間は、8時30分〜12時30分、13時〜17時に分かれているが午前も午後も1日4時間である。
勤務計画実施表によると、洗濯業務は日曜日は休みで、休日数は土日と祝日の数が月の公休日となっている。常勤雇用であり、就業規則等に添った労働条件や雇用環境が整備されている上に休みの希望も事前に確認し、連休を入れたり、勤務日があまり続かないように無理のないスケジュールが組まれている。年次有給休暇も法定通りである。
賃金形態は、時給でパート従業員4名すべて750円、障害者だからの金額設定はない。他のパートからも特に文句はないとのこと。仲間と同じような内容・質で働いている証拠だ。
福利厚生面は、医療機関であることもあり、特に健康管理や定期検診には留意している。また、親睦会や忘年会のほか手作りレクリエーションが行われ、洗濯場以外のみんなとも知り合いコミュニケーションが図られるよう配慮している。出退勤ではバーコードつきのカードをかざし、ロッカールームで着替え、食堂で昼食を食べるという毎日である。
(3)サポート体制
障害者の管理責任は看護部長が行っている。
現場に出した注文は、
① ことばづかいを分かりやすくする。
② ていねいにくり返し教える。
であった。
さらに、洗濯場には業務用洗濯機や乾燥機等機械類があるが、安全管理のため部屋の鍵と電源は障害のない者が責任を持つこととした。つまり、障害者だけにしないようにした。業務連絡や公休日の出来事は業務日誌を見れば分かるようにしている。
洗濯業務は狭い空間で行なわれているため、同僚は身近な存在となりアットホームな雰囲気が保たれている。障害者たちも自分のことをよく話すし、対応する同僚もよく話を聞いてくれる。
仕事仲間は不満もなく業務を遂行している。部長は定期的に現場を見回り勤務状況を確認している。また、サポートの一環として新しい障害者とは帰宅の確認や近況をメールで交換しているという。
私生活の乱れは、遅刻や身なりの乱れ等に表われるため、仕事場に来れば見守ることができるので、保護者や就業・生活支援センターとの連絡は綿密にすることとしている。
また、日常業務では、とにかく<声をかける><あいさつをする>をモットーとしている。
3. 取り組みの内容、取り組みの効果と課題
(1)取り組みの内容
① 障害者雇用の具体的な内容
病院内で目指したのは、洗濯をはじめ様々な業務から無駄な作業をなくし、本来業務を高度化することであった。
幸い、病院内にシステム管理のプロがいたので、当病院現場に適したシステムの開発に取り組むことができ、外部の専門業者の協力も得て、試行錯誤しながら導入した。この開発は、病院独自の発想による取り組みであったため、低価格で充実したシステムとすることができた。
このシステムのおかげで、洗濯場では間違いもなくなり、安心して教える余裕ができた。先輩がOJT担当者となり繰り返し教え、障害者の悩みやとまどいはお母さんがわりになって受け止めている。
二人とも仕事が身に着いている感じで、話をしながらも手は休むことなく洗濯物を片付けていく。仕事の手順を体が覚えている感じで不安がない。おしゃべりもよくするが決められた仕事はしっかりこなしている。
洗濯場の責任者も「毎日の出来事もよく話し、みんなとも和気あいあいでやっている。遅刻や欠勤もなく、力のいる作業もやってくれるので助かっている。」とのことである。
ここでは、障害者だから守るのではなく、業務遂行上すでに戦力の一員となっているようだ。
② 活用した制度や助成金等
- トライアル雇用奨励金
- 障害者介助等助成金
- 障害者雇用調整金
(2)取り組みの効果と課題
① 実施による効果
障害者を迎えて、「時間が掛かってもいいから簡単にできる方法」「間違いをなくす方法」を考えようとしたことが病院全体の作業軽減につながり、業務改善に結びつく結果となった。また、障害者の雇用としてではなく、人間として仕事の達成感を大切にして共に働くことが自然に社会貢献にもなっていくという結果につながっている。
② 障害者のコメント
Aさん:平成18年養護学校高等部を卒業以来勤続6年。
「仕事は気にいっている。ずっと続けて行きたい。
午後は、好きなパソコンでアニメ小説を見たり、本屋にいくのが楽しみ。」という彼女は「まだボーイフレンドはいないけどいつか結婚もしたい」と明るい話ぶりであった。
Bさん:勤務2年。
彼女は「仕事は楽しい。私は半日ここで働いている」という。
電車通勤の彼女は帰宅後、帰り着いたことを知らせるショートメールを看護部長に送っているとのこと。また、就業・生活支援センターの料理やマナー講座、仲間に会えるイベントにも参加している。「どうしたら作業スピードが上がるか」と相談することもあるそうだ。安心できる仲間や雰囲気がある就業・生活支援センターとは連絡をとりあっているようである。
③ 今後の課題と展望
当初は、毎日、勤務が出来るだろうかという不安もあったが、今は仕事にも慣れている。
今後、仕事への責任感のようなものが理解できてくるともっとよくなると思われる。また、電源のON・OFFや、洗濯機のことや洗剤のことなど、業務マニュアルを読める能力がつけば良いと思うが、これは時間がかかるかもしれない。
障害のレベルによっては判読や計算など不得意もあるが、「教えられたことをこなす」から「洗濯作業の順序を効率的にする」など考えが出ている。
訓練や教育で進歩が見られ、今後の雇用で参考になる。ただ、今後も公私共にサポートする家族や就業・生活支援センター等の連携が必要だろう。
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