頑張り過ぎる障害者を職場の内外で見守り、仕事に適応させていったホテルの取り組み
- 事業所名
- 有限会社高知パレスホテル
- 所在地
- 高知県高知市
- 事業内容
- ホテル、レストラン
- 従業員数
- 90名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 1 調理場の水仕 内部障害 知的障害 1 調理補助 精神障害 1 清掃及び茶葉の袋詰め作業 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯・背景
(1)事業所の概要
① 事業の特徴
昭和51年、高知パレスホテルとして高知市北本町に設立したが、平成7年、現在地(廿代町)に新館落成、隣接して別館(禁煙館)も開設した。この地は、創始者の先祖が元禄初年(1688)に掛川から来て御用商人として商売を始めた場所であるという。
客室270室のほかに、結婚式や会議を行うホールもある街中のビジネスホテルとして地域にもなじんでいる。お洒落なレストランやとんかつ専門店もあり、美味なるものの追求にも努めている。外壁のフランス国旗を模したトリコロール装飾からも分かるように料理はフレンチを得意としている。音楽と料理のコラボ等の催しにも積極的であり、ビジネスホテルでありながらフレンチのパレスホテルとして心に残る楽しい思い出づくりが出来ることで知られている。
② 障害者雇用の理念等
“店は客の為にある”という商業界の精神がある。
当ホテルでもこの精神を目指し、それぞれの立場で考え行動しているが、その根底には「親切・スマート・高品質」という会長の思いがある。当ホテル会長も交通事故により左足が不自由であることから、障害ということで人を判断することもなく、障害者に配慮した施設整備をして、障害者雇用は<社会的使命>として抵抗なく始まったという。
社会的弱者である障害者、高齢者及び子ども達にも安心して楽しく利用してもらいたいという思いは、館内のバリアフリー対応はもちろん、火災訓練、AED及び盲導犬の講習会への参加等への取り組みからもうかがうことができる。
こうした地道な取り組みが、「親切・スマート・高品質」という、表層的になりやすいテーマを地に足の着いたものにしている。
(2)障害者雇用の経緯・背景
障害者雇用の始まりは、平成20年10月高知市旭町にある障害者就業・生活支援センターからの働きかけによるトライアル雇用の取り組みからであった。
5名の訓練者を受け入れた後、平成21年1月に精神障害者1名(男性)、同年4月に知的障害者1名(男性)、23年8月に身体障害者(肢体不自由)1名(女性)を正式に雇用した。
ホテルを裏で支える仕事といえども、作業の手順を覚えたり全体の流れに乗れるようになるまでには時間がかかる。そのため、現場責任者による、支援センターのサポートだけではカバーし切れない仕事や生活面でのフォローアップや気配りも大変重要である。
トライアル訓練中、急に手順が変わった際に、繰り返し入念に説明をするという作業を怠るとパニック気味になったり、コミュニケーションを取ることが不得手な場合は、他の従業員との行き違い等を全て障害のせいにしてしまうことがある。また、障害者だからという訳ではなかろうが、会社の外でトラブルに巻き込まれそうになったりと、仕事は熱心にするが私生活面での配慮の難しさを痛感する出来事もあった。支援センターは、仕事のサポートだけでなく定期的に訪問してくれるので、大変ありがたいが、退社後の私生活の管理までを完全に把握するのは難しいというのが現状である。
一方、トライアル雇用における問題点のひとつに、障害者ではなく指導者側のストレスが挙げられる。仕事より以前に、障害特有の行動等に関しては、細心の注意を払って接してはいるが、仕事をスムーズに進めていく上で、「同じ手順の繰り返し」・「いつもと同じ状態」であることが重要である障害者にとっては、突発的な作業の変更に対して、即座に適応するのが難しい場合も多々見受けられる。
仕事の手順の変更など、障害のない者にとっては別段問題でもないことであろうが、障害者を指導する場合には、指導する側が細心の配慮を持って何度も繰り返し説明することが必要となり、不慣れな指導者にとっては過度なストレスとなる。
その結果、指導者側に疲労感が溜まるなどの症状になり、対応に苦慮したことがある。どこまで繰り返し指導するかの加減の判断が難しく、ストレスになるようだ。この時は、経験豊富な就業・生活支援センターに対応を依頼し、解決した。
今後は、衛生面が特に厳しいホテル現場への配慮に適した訓練生を紹介してもらう等、人選に考慮し、職場への受け入れを考えていきたい。
2. 障害者の従事業務、雇用管理等
(1)障害者の従事業務
現在当ホテルで働く障害者は3名である。
精神障害の男性の業務は、ホテル客室の清掃補助と茶葉の袋詰め作業である。以前の作業所ではお菓子づくりをしていたが、実習・訓練やトライアル雇用で清掃の仕事を覚え、今はひとりで客室清掃ができるようになっている。
清掃はフロアごとに2~3名が1グループとなり、1部屋ずつに分かれて行い、完了後は清掃責任者のチェックが入る。なお清掃業務は20数名のパート社員が担当しており、常に同じメンバーとは限らないので、誰と組んでも作業ができるように訓練している。
また清掃後は、フロントや客室で使われる地元高知の各種お茶の袋詰め作業も行う。
知的障害の男性は、レストランの厨房で調理補助をしている。授産施設の出身で、施設ではお菓子づくりが中心で包丁を握ったことはなかったが、当ホテルに来てから調理技術を身につけた。現在は、前菜の準備や盛り付けの手伝いやデザート作りから、魚や肉を焼くといったレストランメニューの仕上げにも加わっており、シェフの指導でめきめきと腕を上げつつある。
身体障害者の女性は、厨房の水仕として雇用されたが、調理補助も行う。60代で、これまでに仲居等の経験もある。分からないことは、「聞き」、「確かめて」、「メモを取る」など仕事に熱心である。


(2)雇用管理等
雇用形態は常勤社員として雇用されており、就業規則に添った労働条件や雇用環境が整備されている。
3名の勤務時間は、清掃の場合は午前10時〜午後2時までの4時間のパート勤務であり、調理補助の場合は1日8時間勤務となる。また、調理場の水仕の場合は、午前8時〜午後2時までのパート勤務となっている。
勤務体制は、年中休みのないホテル業のため、月間スケジュールに沿ってシフトが組まれている。基本的には、月6〜7日を休日としているが、宴会や観光シーズン等繁忙期にはそのとおりにはいかないこともあるが、本人の希望は取り入れるようにシフトを組んでおり、年次有給休暇も法定通り取得できるようになっている。賃金形態は、時間給で、最低賃金と連動しているが、仕事能力の向上によっては加算もある。その他各種手当は特に設けていない。
ホテル内の親睦は、年1回開かれる新年会である。普段は顔を会わせない従業員に出会えるチャンスであるとともに、全従業員に障害を理解してもらえるよい機会でもあると考えている。
また、インターネットに従業員専用のサイトをつくり、基本伝達事項の他に従業員からの要望や意見等の投稿があり、全体の動きが分かるようにしてある。その中には、お客さまからのメッセージやお礼の手紙が披露されることもあり、現場の従業員にとっては嬉しいことであり、励みになる。
3. 取り組みの内容、取り組みの効果と課題
(1)取り組みの内容
① 障害者雇用の具体的な内容
業務は、それぞれのチーフが担当して教えている。
例えば、調理では食材の切り方、食器の洗い方、他に食品の安全衛生(手洗い等)を繰り返し教える。それと同時に、危険への対策としてボタン1つでできる真空調理器を活用するなどして危険を自覚させつつ、障害者でもできる方法を取り入れた。
知的障害者はこだわりが強い場合が多く「これはいつもこうするんだ」と自分で決めていると、容易な変更は難しい。当ホテルに勤める調理補助の障害者の場合も厨房に入る時の履物を脱ぐ場所にこだわりがあり、他の社員とは違う所に靴箱を設置している。しかし、大変仕事熱心であり、飽きることなく繰り返し同じ作業を続けられるといった長所を併せ持つ人も多い。ただ、仕事を覚えようと気持ちや身体に力が入り過ぎる場合もあり、そんな時には指導者が適当にセーブすることを教えるのが長続きの秘けつとわかった。
清掃業務は全く初めての状態から始まり、担当者がひとつずつ手順を教えていき、時間はかかったが、最初に指導担当者に注意した点である、「とにかく何も変えない同じ状態・同じ手順で教えること」「臨機応変を求めるのは難しく、障害のない者にとってはちょっとした手順の変更であっても、パニック状態になることもある」ということに注意しながら指導を行った。
清掃の具体的内容は客室清掃全般である。室内のゴミ集め・シーツを剥がす・室内の掃除・ベッドメーキング・浴室掃除・テーブル回りの整備等、3年目の今は自分で手順を考えながらできるようになっている。すべての客室が同じ間取りというわけでもなく、技術の習得は指導する側との根気比べであったようだ。
現在、パート従業員と同様にひとりでしっかり客室清掃を行っている。わからないことはパート仲間に相談しながら、時間内に清掃を済ませており、清掃完了後は客室ごとにチェック専門の担当者が確認することとなっている。この繰り返しの中で何度もやり直しを指摘されてきたが、今ではやりがいのある仕事と思えるようになっているようだ。
嬉しいことは、お客さまの声である。客室清掃ではお客さまに直に接することはないが、忘れ物を通じてご縁ができることもある。忘れ物はマニュアル通り記録しフロントが対応するが、その結果お客さまからお礼のことばが届いたり、「部屋をきれいにしてくれてありがとう」の手紙が届くこともある。「掃除がよかった」のメモが置いてあることもあり、そういった色々な事柄がやりがいとなって益々張り切っている。


② 活用した制度や助成金等
- トライアル雇用奨励金
- 業務遂行援助者の配置助成金
- 障害者雇用助成金
(2)取り組みの効果と課題
① 実施による効果
時間や仕事に関することへの自覚はあり、これまでに問題は起こらずスムーズに進んでいる。障害のある者を育てるには、障害のない者に対する時より、指導担当者の長いスパンでの努力はもちろんであるが、他の大勢の仲間の協力が不可欠である。一人前になるまでには、現場ではある意味で負担と思われたこともあったかも知れないが、一生懸命作業を続ける集中力には逆に感心させられるものがあったようだ。
また、障害者雇用により、職場のみんなが“やさしくなった”ように思えることや、ホテルとして社会貢献が少しでも出来てきていることなどが良かった点として挙げられる。
実際に、障害のことは頭で分かっていても、接してみて初めて分かることも多く、とにかく集中力があり、そしてひたむきに働くという特性は、ホテルに必要な「ホスピタリティー」に通じるものがあると思われた。
② 障害者のコメント
- Aさん:「前の作業所ではお菓子づくりをしていた。ここで掃除の仕事を覚えた。客室の清掃をひとりで仕上げている。多い時は10部屋もする。ベッドメーキングなど、全部を覚えるのに半年かかった。やりがいのある仕事です。自立したいので勤務時間を延ばしたい。」とのこと。仕事の話をするのは好きで、客室の掃除の手順も考えながら話してくれた。しかも、自分のやり方の注釈があり、同僚の仕事振りもしっかり見ているようだ。「仕事以外は家で音楽を聞くのが好き。最近は、あまり友だちとは会わない。」と、自分のこれからを考えているようだ。
- Bさん:「光の村ではお菓子を作っていたので包丁は握ったこともなかった。家では今でも料理をしていない。ここの毎日は楽しい。お母さんも喜んでいる。仕事から帰ったら遅いので、使うことがなくて、給料は貯めている」とのこと。料理の受け持ちの幅を広げているが、本人は前にやっていたお菓子づくりもやってみたいようだ。
- Cさん:「ここでは若い人に囲まれて仕事をしている。何と言っても人間関係が大事。ここはそれが良いんですよ。」色々な所で働いてきたからこそ言える言葉だ。
③ 今後の課題
社会貢献の一端になればと障害者を仕事仲間に迎えたが、頭で理解しているつもりが具体的にどんなものか分かっていなかった。障害者が仕事を覚えるのと同じように、障害者の個性に慣れていく必要があった。実際に接してみて、障害者への接し方がわかってきたように思う。障害者は、非常に根気がある。お金にこだわらないし、働くことをいとわないが、回りが気をつけなければならないことは「頑張り過ぎないようにする」ことだ。
困るのは、飲食業では致命的な衛生面の知識が少ない場合である。
就業・生活支援センターは、ホテルの業態を理解した上で障害者を紹介してくれ、公私に渡りサポートしてくれるのがありがたい。
当方の努力だけでなく、個々の障害を把握し、こまめにサポートを継続する仲介者がいて障害者雇用は成立すると言える。
今後も障害者雇用は検討したいし、既に採用したい障害者がいる。
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