企業のアットホームな雰囲気と先生方の充実したサポート体制が障害者雇用を定着させた取り組み
- 事業所名
- 株式会社青柳
- 所在地
- 高知県高知市
- 事業内容
- 菓子製造販売
- 従業員数
- 83名
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 1 菓子製造補助及び清掃作業 精神障害 - 目次
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯・背景
(1)事業所の概要
① 事業の特徴
昭和11年、青柳商店として高知市本町に創立。
昭和39年、通商産業省指定大津食品団地で大津工場操業開始。
昭和40年、株式会社青柳と社名変更。
平成6年、大津工場を新築。
平成12年、本社を大津工場に移転現在に至る。
本社工場は、その昔、紀貫之が国司として土佐入りした浦戸湾の奥の舟入川の近くにあり、青柳イズムの原点ともいえるアットホームな雰囲気がよく似合う落ち着いた環境である。
事業内容は菓子製造販売業として、販売店への卸および直営店(10店鋪)にて青柳ブランドを展開している。青柳の代名詞といえば、昭和29年誕生の「土左日記」、半世紀にわたり高知土産の顔として愛されている。受け継いだ味、菓子づくりへの情熱と揺るぎない伝統を土台に、高知を感じる新しいスィーツ作りへの挑戦も続いている。
高知の魅力である海の幸山の幸の地産にこだわり、地元で愛され、全国レベルでも通用する商品を製造することが大切と考えている。
② 障害者雇用の理念等
当社には創業時からアットホームな雰囲気があり、近代化された製造や販売活動の根底にも「和の心」の精神がある。和はバランスであり、素直な心と感謝の和合である。
今も、社員にはお互い家族のように思う気持ちがあり、みんなで“青柳で働いてよかった”と思い合えるような会社を目指している。
もちろん、障害者雇用も特別なものとして捉えていない。その人に意欲があれば、障害のない者と同じように、出来ることを見い出し、その仕事に慣れ、幅を広げていく中で働くよろこびを感じてほしい。だから、育つまでには時間がかかるかもしれないが、アットホームな雰囲気に入れば、自然な形で皆とも仲良くなり、仕事にも慣れるはずと考えている。
入社した知的障害者には裏表のない真面目さがあり、そこを生かして他の従業員と同じように働いて欲しいと考えている。実際に職場に障害者がいるということに対して違和感はなく、自然に声を掛け合っているようだ。障害者に関わらず雇用時点で重要なのは、食品会社としての基本である衛生や安全への意識であり、その意識を素直に身につけることが出来るかどうかといえる。
(2)障害者雇用の経緯・背景
① 障害者雇用の経緯
菓子製造販売業ということから、安心・安全は業務の前提条件となる。そのため、衛生面と機械化による連続作業への対応が必要となり、衛生意識や連続作業への慣れが求められてくる。こうした製造現場で、障害者が普通に働くことは難しいのではないかとの思いが当初はあった。
というのは、当社では以前に知り合いからの紹介と社会的使命からの判断もあり、障害者(姉妹2名)を受け入れた経験がある。担当業務は掃除のみとし、これなら製造作業の流れと切り離して行うことが出来るので問題ないだろうとの判断であったが、生活上の問題が多く、他の従業員にまで影響が出るようになり問題となった。通勤や業務内容に関することであればみんなでフォローやサポートも出来るが、想定外の個人的な問題であったため、その後の処理にも非常に苦労した。障害にも個人差があり、指導が難しいという印象が残った事例であった。
そんな折、平成20年秋に、高知大学教育学部の附属特別支援学校の先生から生徒の実習・訓練の要望があり、高等部の生徒2名を受け入れた(第1回平成20年9月2日〜26日、第2回平成20年12月22日〜平成21年1月7日)。さらに平成21年4月、公共職業安定所と高知大教育学部の附属特別支援学校からの推薦で高等部を卒業した元訓練生2名(男女)をトライアル雇用する取り組みが始まった。製造現場での補佐や掃除等を実践してもらった。この期間中本人たちも真面目だったが、附属特別支援学校側のフォローが非常にきめ細かであった。3ヵ月のトライアル雇用期間を経て、同年7月男性(A君)の採用が決まった。女性も人物的にはよかったが、仕事内容に力仕事があり、現在勤務中のA君が選ばれた。附属特別支援学校時代から見てきたので、働くことへの不安はなく安心出来た。採用後も先生方のフォローは続き、熱心さに感謝している。現在では、手順通りに作業を進めるだけではなく、<正確に早くする>という仕事の要領も覚えてきて、製造現場の一員として働いている。
② 取り組みの背景
今回、障害者のサポート担当に製造課長が当たった。何度も繰り返し指導・訓練を行った。また、現場の従業員との関係を築きコミュニケーションが取れ、公私に渡って慣れるまで附属特別支援学校の先生が同行してくれたことで、障害者自身も安心して仕事を覚えることが出来たといえる。
ハード面の改善については、身体障害者でも受け入れ可能となるように入口のスロープ・トイレの車いす対応に着手した。
製造現場の受け入れ体制としては、ゼリー製造機の原料、商品名、日付をシールに印字して表示するようにした。色だけで区別するよりも、目で確認しながら覚えていくと間違いも少なくなる。これによって障害者だけでなく作業ミスの排除や作業の効率化にも役立つことが期待出来、障害者にとっては床掃除の仕事から業務範囲を広げることが出来た。
2. 障害者の従事業務・職場配置等、取り組みの内容
(1)障害者の従事義務・職場配置等
① 障害者の従事業務
毎朝、A君は自宅から自転車通勤である。仕事は、製造現場での材料の運搬や供給、加工された製品の回収といった現場補佐業務と工場の掃除である。冷凍庫など危険を伴う場所や危険と思われる作業はさせない方向で仕事を選んでいるが、お菓子づくりの現場すべてがオートメーション化されているわけではないので、A君を必要とする業務がある。まだ材料の配合や混入、微妙な計量、温度管理等々製造の中枢を任せることは出来ないが、そうした中枢業務周辺の手伝いが出来る作業の幅を少しずつ増やしている。
菓子製造補佐の業務は「並べる」「運ぶ」が主で、常に社員の指示の下で作業をするようにしている。例えば、饅頭を製造する場合、包餡機に餡と餡を包む生地をそれぞれの投入口に入れれば、設定した通りの餡入りの饅頭が自動的に出来る。ゼリーの製造手伝いは、ゼリーの製造機から容器に入ったゼリーが製造されて出てくるので、その容器に入ったゼリーをトレーに入れて運搬器の棚に重ね、次の過程の場所まで運ぶのである。また、様々なかたちの菓子製造時に使う型は、使用後洗浄・殺菌されるが、その解体や組立もA君の仕事であり、終了後は社員がチェックする。
清掃は、工場の床(1・2階)のモップがけとトイレ掃除で、毎日1時間半をかけてしっかり行っている。
② 雇用管理
雇用形態は、パート従業員である。勤務は、8時~16時までで、12時~13時は休憩としており、実働時間は1日7時間、週35時間を基本としている。ただし、ゴールデンウィークや夏の盆休み等のお土産物が動く繁忙時期には特別に勤務時間を調整することもある。
休日は、土・日の週休2日制であり、有給休暇などは法定どおりである。賃金形態は、時給であるが、仕事の達成度合や勤続年数等によって加算されていく方式をとっており、諸手当は通勤費が支給されている。また、賞与は現在のところ金一封の形で手渡されている。
会社としては、将来は独立した生活が出来るように金銭面でも考慮したいと考えている。福利厚生面では、社会保険や労働保険は法定どおり、食品製造業であるため、衛生面の啓発や検診等の健康管理には特に注意している。
昼食時は休憩室で他の従業員と一緒に過ごし、みんなからも声をかけられコミュニケーションも図られている。社内行事は、忘年会や季節ごとの食事会、慰安旅行等が実施されており、A君も時々参加して楽しんでいる。
(2)取り組みの内容
① 障害者雇用の具体的な内容
職場のサポート役は製造課長で、生活面を含めた精神的サポートは附属特別支援学校の先生である。障害者といっても高等部在学中からのつきあいで、特に手がかかることもなく、トラブルで困ることもなかったというのが現場の声である。仕事を覚えるまでには時間がかかるが、覚えた仕事は真面目にこなしている。
勤務にあたって伝えたことは、毎日遅刻せず会社に来ることであった。遅刻は在学中のことで社会人になってからは皆無である。
また、具体的に仕事を教える段階では、「返事」と「あいさつ」をすることを求め、会話の理解度等を判断するためにも、会話ごとに「返事」をすることや、「あいさつ」をすることを求めた。今は「返事」も「あいさつ」も出来るようになって、皆ともうまくコミュニケーションがとれている。
② 活用した制度や助成金等
これまでに活用した助成金は、次のとおりである。
- トライアル雇用奨励金
- 特定求職者雇用開発助成金
- 作業施設設置等助成金(第1種)
3. 取り組みの効果と課題
(1)実施による効果
作業現場を含む施設が、とにかくきれいになったとみんなが認めている。A君は、まわりの従業員にとっては障害者ではなく、仕事を一生懸命してくれる人だと認められており、また力仕事も厭うことなく取り組んでくれるので頼りにされている。本当に真面目で、頼んだことは最後までやり抜き、手抜きやずる休み、適当にしないので安心して頼める。しかし、いつまでもやり過ぎないように見守りや指示をする必要はある。
A君に、製造の中枢を任せることは難しくても、誰がやってもかまわないが、必ず誰かがやらなければならない過程や作業を行ってもらっている。こうした作業は、単純なことの繰り返しであったり、重労働であることも多いが、作業をスムーズに進めるには必要不可欠であり、皆がA君を頼りにしている。これは職場の人間関係にもよい影響を与え、やさしくなる繋ぎ役にもなっている。嫌がられる作業も厭わず、文句もなくこつこつとこなすA君に誰もがやさしくなる。
(2)障害者のコメント
少し緊張したのか言葉がスムーズに出てこないが、質問に応えようとしてくれたA君。「仕事はずっと続けたい。もっと出来る事を増やしたい。」「職場のみんなとも親しんでいる。」が「今でも先生が来てくれる。」と、附属特別支援学校の先生が様子を見に来てくれることに安心感を抱いている様子である。
「休日は、学校時代の友だちとサッカーの練習をする。その時、友だちとは最近何があったとか、仕事のことを話す。」「お給料はあれこれ使うことはなくて貯金してる。それと家にお金を入れている。」と話してくれたが、A君の視線が下がると同時にインタビューする自分も頭が下がる。製造課長から「A君、下を向かない、上を向いて話して」と注意されたが、初対面だったから恥ずかしかったのかもしれない。
(3)今後の課題と展望
障害者の雇用だけの問題ではないが、安心して採用出来る制度として、トライアル雇用制度を活用してよかった。障害者は根本的に真面目だが、自社に適合するかの判断は面接だけでは無理がある。公共職業安定所と直接指導・援助出来る障害者就業・生活支援センターや附属特別支援学校が連携して、後々までサポートがあると分かれば事業所側の当初の不安も乗り越えられると思う。
当社としては、現場作業の整理、設備の改善、働きやすい環境づくりに努めながら、もう1名の採用を前向きに検討したいと考えている。また、現在の障害者の個性を考慮しながら、もう一歩レベルアップして作業領域を広げるように支援したいと考えており、社会人としてごく普通に結婚して独立出来るように応媛したい。
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