統一した対応と個人指導・相談による人材育成
- 事業所名
- 株式会社希望の里(株式会社アクセス・ジャパン特例子会社)
- 所在地
- 福岡県筑後市
- 事業内容
- ホテル・レストラン、印刷、教育
- 従業員数
- 18名
- うち障害者数
- 12名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 4 レストラン部門調理・皿洗い、印刷部門印刷補助 内部障害 知的障害 6 レストラン部門ホール、皿洗い、印刷部門印刷補助 精神障害 2 ホテル部門ベッドメイキング、印刷部門印刷補助 - 目次


1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社希望の里(以下「希望の里」という。)は2011年3月に、親会社の株式会社アクセス・ジャパンの100%子会社として設立された。そして、2012年1月10日に特例子会社としての認定を受ける。特例子会社であることから、障害者雇用を積極的に行うことが求められ、現在は3つの部門で事業を展開している。なお、各部門の上に、それを統括する総務担当、総括(常務取締役)、代表取締役がいるという組織となっている。
① ホテル・レストラン部門
ホテル・レストラン部門は、アクセス・ジャパングループの一企業である、株式会社AJ・コーポレーション筑後広域公園振興事業団の行っている事業と密接にかかわっている。
筑後広域公園振興事業団は、福岡県、筑後市等の指定管理事業を行っており、そのうちの福岡県指定管理事業として、福岡県営筑後広域公園の運営管理、および福岡県営筑後公園管理棟である「筑後船小屋 公園の宿」の運営管理を行っている。筑後船小屋公園の宿のホテル事業のうち、公園の宿にあるレストラン「ほたる」(以下「ほたる」という。)の飲食提供業務およびホテルの客室清掃業務を希望の里のホテル・レストラン部門が請け負っているのである。
その他、アクセス・ジャパングループの一企業であるもう一つのレストラン「ル・シェル」の皿洗い業務を請け負っている。
このように、ホテル・レストラン部門では、「筑後船小屋 公園の宿」の客室清掃業務、「ほたる」の飲食提供業務、筑後市内にある別のレストラン「レストラン ル・シェル」の皿洗い業務などを請け負い、事業として展開している。
ホテル・レストラン部門の従業員は、責任者を含めて10名であり、そのうち障害を持つ従業員は8名である。
この部門は3つの事業からなっており、中心は「ほたる」の飲食提供業務であるため、以降、「ほたる」を中心に記述する。
「ほたる」は親会社であるアクセス・ジャパングループの一企業である株式会社AJコーポレーション筑後広域公園振興事業団から飲食業務提供を希望の里が請け負うという形式になっている。
店の開店時間は11:30-15:00で、勤務時間は10:00-14:00か10:00-14:30と、11:00-15:30か11:00-16:00のシフト制である。店は年中無休なので、従業員は交代で休みを取ることとしており、ひとりの従業員が1ヵ月50-60時間、年間150日ほどの勤務となるよう調整している。
「ほたる」は和食のバイキングレストランである。従業員が役割分担しやすいことが理由である。また、何か特徴を出そうということで、揚げたて天ぷらが食べられるバイキングレストランとしたことが功を奏し、開店6ヵ月で黒字化し、障害のある従業員も仕事に慣れ、店の方向性も確固たるものとなった。
揚げたての天ぷらを提供する仕組みは、客自身が天ぷら種を自由に選び店員に渡し、その後、他の料理を取って席に着くと、熱々の揚げたて天ぷらが運ばれてくるという流れである。エビ・イカ・野菜など種も充実している。
② 印刷部門
印刷部門は2011年12月に設立された新しい部門である。社内外からの注文により名刺等の印刷業務を行っている。名刺、チラシ、パンフレット、リーフレットなどの印刷が中心であり、社内外から仕事を取ってきて事業を展開している。責任者である総括(常務取締役)及び総務担当を除いて5名態勢となっており、そのうち障害のある従業員は4名である。
③ 教育部門その他
障害児教育の取り組みを始めようとしている段階であり、この部門の従業員は、責任者である総括(常務取締役)を除くと1名であり、障害のある従業員はいない。
さらに2012年4月にはパンの製造・販売部門を設立させる予定である。アクセス・ジャパングループのイタリアンレストランで一般に提供するとともに、レストラン駐車場の一角に販売店を設置し、販売も行う予定である。
(2)障害者雇用の経緯
① 経緯
親会社の株式会社アクセス・ジャパンは2001年創業で、OA操作・事務等の人材派遣業及び製造物流に関するアウトソーシング事業、各種業務請負業などの事業を展開している。アクセス・ジャパングループとして15の企業を擁しており、従業員も2,000名以上となっている。
急激に企業が成長し、グループ全体の従業員数も2,000名を超えるまでになったことと、人材派遣業という業種が障害者雇用になかなか馴染めないことから、今までは、事務職として数名の身体障害者を雇用するしかできなかった。また、アクセス・ジャパンは青少年の育成およびスポーツ振興に力を入れ、グループ内にはスポーツクラブ、スポーツ用品等の販売・リース、プールの運営管理、アスリート育成、中国での外国語学校運営、学童保育施設などの事業展開を図ってきた。次は社会的責任を果たすという意味も込めて障害者雇用に取り組むこととし、特例子会社等設立促進助成金などの助成金を活用して、障害者雇用を専門に行う部門として、アクセス・ジャパングループ内に特例子会社「株式会社希望の里」を2011年3月に設立した。
特例子会社の事業内容を検討するに当たっては、人材派遣業の経験が生かされた。
株式会社アクセス・ジャパンは急成長を遂げているが、世界中を巻き込んだリーマンショックの影響を大きく受けた。それを乗り越えられたのは、派遣業をはじめ、多様な事業展開をしていたことであった。特例子会社も、ひとつの事業に頼るのではなく、何があっても乗り越えられるように、多業種でいくことをひとつのテーゼとしている。そのため、ホテル・レストラン、印刷、教育、パン製造販売など、多業種で展開しようとしているのが特徴である。
② 現状
希望の里の特徴は、障害者が誰も退職していないことであり、チームワークの良さが大きな特徴である。経営陣が努力し、障害のある従業員がやりがいを感じられることを第一に考えていることが理由として挙げられるであろう。
障害のある従業員の採用に当たっては、「自力通勤できること」「何をやりたいかはっきりしているなど意欲があること」「元気があること」を条件として重視している。そのため、就業支援機関の紹介状や、支援機関スタッフが職場で支援して職場実習・トライアル雇用を行うことが重要であるといえる。実際に、ハローワーク、障害者就業・生活支援センター、障害者就労移行支援事業所、障害者職業センターなど多くの支援機関がかかわっている。
2. レストラン「ほたる」での取り組み、取り組みの効果
(1)レストラン「ほたる」での取り組み
① 店内の様子
取材を兼ねて、昼食時に「ほたる」を利用した。席に着くと、知的障害のある従業員が、天ぷらをその場で揚げること、バレンタインデー(取材は2月だった)の果実スイーツがあることなど、店のシステムやサービスを丁寧に説明してくれた。
料理等を見回すと、肉・魚・野菜などの揚げ物・煮物・炒め物など数種類の一品料理の他、サラダ、ご飯、味噌汁、10種類のスイーツ(フルーツ・チョコフォンデュ・ショートケーキ・フルーツヨーグルト・プリン・ババロアなど)、飲み物、そして10種類近くの天ぷら種が並び多彩だ。席数はテーブルが13、座敷にも3テーブルと多く、それが全て満席であった。
熱々の天ぷらが運ばれてきた。やはり揚げたてはうまい。周りのテーブルの様子を見ても、みんな熱々の天ぷらを美味しそうにほおばっており、皿に天ぷらが山のように盛られているテーブルもあった。
障害のある従業員の仕事ぶりを観察したところ、元気にあいさつし、料理やシステムの説明、料理の運搬、使用された食器の下膳、テーブル拭き、そうじ、そして調理までてきぱきとこなしていた。客への説明など彼らの言葉をよく聞いていると、セリフや対応がパターン化していることに気づく。「接客サービスだから臨機応変でなければならない」などということはなさそうだ。




② 障害状況に配慮した取り組み
Ⅰ.障害者に配慮した内容
(ア)マニュアル
仕事を教えるに当たって、基本的なところは全員共通のマニュアルにて運用している。その中で、作業指示書は、文字・絵・声の3つの情報により伝えるようにしている。
基本が出来たら応用に入るのだが、障害のある従業員が客の声を聴いて自分達で考え、話す言葉を提案しているのである。
障害のない従業員は、ヒントは出すが答えまでは出さない。これが、彼らが自分で考える訓練になり、自立心も自信もつく結果となっているようである。
覚えた仕事を忘れてしまうこともあるが、繰り返し6ヵ月も指導すればできるようになることを、障害のない従業員も経験で学んだようである。叱っても効果がないことも理解したとのことである。繰り返し教えたことは、「勝手に判断せずに、上司に聴く、確認する」で、これも3ヵ月ほどで身についたとのことであった。
障害のある従業員が混乱しないように、上司がみな同じ対応をすることがポイントである。特に交代勤務なので、上司が全員で情報を共有し、対応を統一するよう気を付けており、ミーテイングを重視し、きちんと行うことが成功の秘訣とのことである。
(イ)客への理解
障害のある従業員が主に働いていることは、途中から店の入り口に明示することにしたとのことである。また、アンケート用紙をテーブルに置き、そこには障害のある従業員に対して応援メッセージを入れてもらうようにした。このことで、客の誤解を避けることができ、障害のある従業員の励みにも繋がった。
Ⅱ.障害のある従業員の声
知的障害のある女性従業員Nさんと、知的障害と精神障害のある女性従業員Yさんにインタビューして彼女たちの声を聞いた。
ふたりとも入職当初は、料理が毎日変わるので、種類を覚えるのが大変で、仕事の流れも覚えられなかった。しかし、だんだんと慣れ、今は緊張することもあるが、自信がついてきたので何とかやれているとのこと。
給料の使い道は、Nさんは学費、Yさんは家計を助けているなど、ふたりとも家族や自分のために使っている。
Ⅲ.上司の対応
責任者の役割は、障害のある従業員ひとりひとりの個別支援や個別相談が多いようである。責任者も、最初は障害のある従業員の限界を決めていたとのことであった。しかし、従業員の可能性を信じて様々な仕事をさせていったらどんどん成長し、職域が広がり、障害があるからここまでしかできないと決めることは、企業にとっても、障害のある従業員にとっても不利益になることが分かったとのことであった。
(2)取り組みの効果
野田常務取締役は、特例子会社を設立して障害者雇用に取り組むことになったときに、「障害者には、ただただやさしくしなければいけない」と思い込んでいたという。しかし、障害者就業・生活支援センターなどの就業支援機関から障害者への対応方法や雇用管理方法の指導を受けて、そうではないことに気づいたという。「わかりやすく教える工夫」について指導を受けたことで、いかに戦力にするかが重要であることがわかってきた。口答で指示することを紙に書いて指示する、仕事を一度に色々と教えるのではなく細かなステップで教えることなどで接するうちに、6ヵ月たった頃から、障害のある従業員が本当に戦力になってきたことに驚いたという。
同時に、障害のない従業員がやさしくおだやかになってきたことに気づいたとのことであった。彼らの存在が職場の雰囲気を変えたと言えよう。
3. 今後の展望、おわりに
(1)今後の展望
① 企業としての展望
今後は親企業に頼らず、希望の里が独り立ちすることを考えている。「ほたる」は一定の成果が出たので、今後は印刷とパン製造販売に力を入れていく予定である。印刷部門は、グループ外の一般企業からの仕事を取ってきて業績を伸ばすことを目標としており、パン製造販売部門は、一般の個人顧客を拡大することを目標としている。
ホテル・レストラン部門は委託・請負となっているので、売り上げが伸びても財政的に利益が上がっていくわけではない。いかにして「外貨を稼ぐ」かが企業としての大きな展望となっている。
② 障害者雇用の展望
障害者雇用については、アクセス・ジャパングループとして法定雇用率をクリアすることを最初の目標とし、さらに利益を出して障害者雇用を進めていくことを考えている。また、特別支援学校生徒や就労移行支援事業所利用者への職場体験実習の場の提供、障害のある従業員の人材育成を行い、責任ある立場で仕事ができるようにしていくことが希望の里の展望である。
(2)おわりに~支援機関に対して~
就業支援機関の存在は非常に重要であり、障害のある従業員への接し方のアドバイス、障害特性に応じた関わり方や教え方など多くの支援を受けたことが良かったとのことである。支援機関のスタッフと、障害のある従業員、そして企業の担当者が情報を共有することがすべてにとって有効であることを、この取り組みで企業が感じていることである。


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