よい医療はよい経営から~知的障害者の雇用によりノーマライゼーションの企業風土をめざす~
- 事業所名
- 総合メディカル株式会社
- 所在地
- 福岡県福岡市
- 事業内容
- 調剤薬局、医療経営コンサルティング、医療関連機器リース及びレンタル
- 従業員数
- 2,806名
- うち障害者数
- 34名
障害 人数 従事業務 視覚障害 4 ヘルスキーパー、事務業務 聴覚障害 4 経理業務、事務業務 肢体不自由 14 事務業務、営業、IT業務 内部障害 5 事務業務、営業 知的障害 7 事務補助業務、清掃業務 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯・背景
(1)事業所の概要
① 沿革
総合メディカル株式会社(以下「総合メディカル」という。)は、1978年6月12日に医療機器のリース事業の企業として福岡市に設立された。その後、総合的な医業経営コンサルティング、ベッドサイドのテレビレンタル、調剤薬局等の事業を展開し、現在に至っている。
② 事業の特徴
総合メディカルは、「よい医療は、よい経営から」のコンセプトのもと、D to D(医業継承・医療連携・医師転職支援システム)やコンサルティングをベースに、医業経営のトータルサポートを通じて、健全な病院経営と患者さんへの「よい医療」のお手伝いを全国規模で展開している。
同社は、医師の紹介や職員の教育〈人材〉、病院不動産の賃貸・仲介〈施設〉、財務分析・資金繰り〈資金〉、情報誌・会員セミナー〈情報〉など、トータルな医業経営コンサルティングを行う企業である。また、その他に「そうごう薬局」を中心に全国に360店舗以上を展開しており、1,000名以上の薬剤師が月55万枚以上の処方箋を受け付け、患者さんのケアを行っている。さらに、病院の療養環境向上をめざして、医療関連機器のリースやレンタルを行っている。レンタルは病室で患者さんが使用するテレビのレンタルを中心に行っており、全国トップシェアを誇る。
2011年4月にスタートした中期経営計画では、「D to D」と「価値ある薬局」を柱に、D to Dで開業支援ナンバーワン、価値ある薬局で2014年3月末までに500店舗をめざし、より一層社会に貢献できる魅力ある企業をめざしている。
③ 経営方針
総合メディカルは、「よい医療を支え、よりよい社会づくりに貢献する」ことを経営理念としている。そして、創業以来、お客様第一主義を基本に、「お役に立てたか」「喜んでいただけたか」「仲間は増えたか」をいつも問いかけながら、仕事を通して会社とともに成長することを基本方針の一つとしている。
④ 組織構成
2011年6月1日現在で、従業員は正社員2,138名、パート社員668名で、福岡本社の他、拠点数は387で、支社3、支店23、営業所3、出張所1、薬局店舗337、院内売店20となっており、少人数の組織が全国に展開されているのが特徴である。有資格者の従業員が多く、薬剤師1,143名、看護師3名、保健師1名、臨床検査技師4名などの医療資格者をはじめ、精神保健福祉士2名、介護福祉士5名、介護支援専門員43名などの福祉資格者、管理栄養士15名、1級建築士9名、インテリアコーディネーター6名、宅地建物取引主任者43名、中小企業診断士2名のほか、コンサルタントなどの有資格者が多数おり、コンサルタントと薬局という専門性の高い事業に特化していることがよくわかる構成である。
グループ会社も13社あり、いずれも、医業経営コンサルティングや薬局に関連している事業を行っている。
⑤ 障害者雇用の理念
総合メディカルの障害者雇用についての考え方は、障害者雇用義務の法令遵守や社会貢献などの社会的側面はあるが、医療分野に携わる企業の使命として、当然のことと捉えている。
(2)障害者雇用の経緯・背景
総合メディカルは、障害者雇用は当然の使命と考えて障害者雇用に取り組んでいたが、企業の急成長による従業員増加に障害者雇用が追いつかず、2009年には実雇用率が1.45%にまで落ちてしまった。
そこで、従業員のメンタルヘルス対応と障害者雇用を進めるための対策を検討し、2009年4月に、従業員のメンタルヘルス推進と、障害者の安定的な雇用の推進を担当する専門の部署を設置し、精神保健福祉士資格をもつ障害者就業支援の専門職を雇用した。この部署では、現状の課題分析や今後の展開を検討し、以下のことを進めていった。
① 社内コンセンサスアップ
管理職研修や各種研修を活用して社員教育を行う
社内報による情報宣伝活動を行う
② 障害者雇用の計画立案
他部署と連携した障害者雇用計画をたてる
採用基準及び雇用形態を決める
③ 身体障害者以外の障害者雇用
知的障害者の雇用について検討する
④ 各種助成金や制度の積極的利用
「試行雇用(トライアル雇用)奨励金」、「業務遂行援助者の配置助成金」「職務試行法」「特定求職者雇用開発助成金」を活用する
⑤ 障害者就業に関わる専門機関との連携
ハローワーク(障害者担当部署)、地域障害者職業センター、障害福祉サービス事業所、特別支援学校などの機関と連携して進める
⑥ 障害者実習の受け入れ
就労支援機関、障害福祉サービス事業所、特別支援学校などから実習生を受け入れ、雇用を進める
⑦ 障害者が担当できる新たな職務・職域の検討
〇 | 研修施設の清掃業務や名刺作成業務など、アウトソースしている業務を社内業務にする |
〇 | 社内便・宅配便・郵便の仕分け配送業務、ダイレクトメールの準備・発送業務、データ入力業務など、障害のない従業員が担当している業務から切り出す |
〇 | ヘルスキーパーなど、新たな業務を創出する 2009年6月には車いす利用の下肢障害者を、同年9月には知的障害者を初めて雇用した。その後も障害者の雇用に取り組み続けた結果、2010年には実雇用率は1.89%にまで上昇し、法定雇用率を上回ることができた。 |
2. 障害者の従事業務、職場配置
現在、障害のある従業員は34名である。内訳は、身体障害者27名(聴覚障害者4名、視覚障害者4名、内部障害者5名、肢体不自由者14名(うち車いす利用2名))、知的障害者7名(重度3名、重度以外4名)となっている。
従事している職種では、聴覚障害者は設計、薬局事務、本社事務に従事しており、いずれも補聴器対応でコミュニケーション可能な障害程度である。視覚障害者はヘルスキーパー、事務に従事しており、ヘルスキーパーは全盲、事務は軽度障害である。その他の内部障害および肢体障害のある従業員は、事務職、営業職、病院駐在メンテナンス担当、薬剤師、病院売店担当などに従事している。
知的障害者7名は、人事部社員サポートグループに所属しており、担当業務は、研修施設の清掃業務に3名、本社内事務サポート業務に4名が従事している。
3. 取り組みの内容
(1)募集・採用
2008年までは法定雇用率未達成であったため、2009年に障害者就労支援の専門職を雇い入れ、障害者雇用を推進する専門部署を設置した。そして身体障害者のみの障害者雇用という方針を転換し、知的障害者雇用推進を決定した。すぐに知的障害者のための職務を創設し、同年に採用を始め、採用した知的障害者を一人前の社員へと育成し、雇用定着をはかるために、専門職によるOJTを行い、家族や支援機関を巻き込んだ定着支援を継続した。
現在は知的障害者採用までの流れは固定化している。まずは職場実習を行い、本人及び事業所とも雇用に前向きであればトライアル雇用としてパート採用する。トライアル雇用期間終了後に、双方が継続を希望すれば契約社員として正式に雇用し、その後、正社員へと進むようになっている。契約社員として雇用して正社員へと移行するシステムは、総合メディカル全社員に適用となっている。契約社員も正社員も給与体系に差はない。
(2)活用した制度や助成金
活用した助成金制度は、ハローワークの試行雇用(トライアル雇用)奨励金、障害者雇用納付金制度による業務遂行援助者の配置助成金、障害者職業センターの職務試行法協力謝金である。その他、障害者雇用納付金制度による、重度障害者等通勤対策助成金を活用して駐車場を確保している障害者も1名いる。
(3)取り組みの具体的内容
障害者雇用推進の転換となったのは、障害者就労支援の専門職を2名雇用し、知的障害者雇用に舵を切ったことであろう。現在、知的障害者は本社及び研修施設で働いている。研修施設は稼働率が高く、それを管理人夫婦のみで切り盛りしていた。そこに知的障害のある従業員3名を雇用し配置した。障害者就労支援専門職が研修施設においてOJTで支援し、ハローワーク、障害福祉サービス事業所、障害者職業センター、特別支援学校などの支援機関は、間接的なサポートを行った。
本社に勤務する4名の知的障害のある従業員は、障害のない従業員の担当する仕事のうち、知的障害があってもでもできる仕事を切り出し、担当してもらっている。
このことで、知的障害者の雇用が創出され、企業経営的にも効率が良くなるなど、メリットは大きいようである。
企業側の支援としては、採用後1年間の雇用管理が大変だという。家族との対応・調整が重要で、知的障害者が働くということについての家族の考えや協力体制が雇用継続に大きく左右するとのことである。庇護的立場から、働く社会人を応援する立場に家族が変わることが重要であるようである。
また、生活の問題については企業としてはあまり立ち入らず、支援機関につなげて解決してもらうという役割分担が重要とのことであった。
2名の就労支援専門職は、家族との調整や支援機関との調整に多くの時間を取られているようであった。


4. 障害者雇用の波及効果やメリット及び今後の課題と展望
(1)障害者雇用の波及効果やメリット
知的障害のある従業員と障害のない従業員が身近に接したり、知的障害のある従業員が一所懸命に働く姿を障害のない従業員が目の当たりにすることで、感謝の気持ちが芽生えたり、同じ従業員・仲間としての意識づけが醸成されたり、さらに全従業員が意欲的になっているようである。
知的障害のある従業員も、経済的な自立はもちろんのこと、「自分は役に立っているのだ」という自己効力感が醸成され、それが喜びとなって働いているようである。
(2)今後の課題と展望
今後の課題と展望であるが、社是社訓に基づき、さらなる障害者雇用を推進する予定ではあるが、企業が成長を続けている現状では、さらに積極的に障害者雇用を進めていかないと法定雇用率を下回る可能性もある。国による障害者雇用率の算定は毎年6月1日現在の従業員数、障害のある従業員数で計算される。しかし、障害のない新入社員が毎年4月1日に入社するため、全従業員数が4月1日に増えてしまい、結果として実雇用率が下がってしまうということが毎年繰り返されてきた。そこで現在は、障害者採用計画を1年前倒して行い、4月1日を迎えても法定雇用率を下回らないように工夫している。2011年6月1日は実雇用率1.90%であった。
さらに障害者雇用を推進するためには、新たな職務・職域を開拓・創設しなければならない。また、障害のない従業員が障害について理解していくような啓発が必要と考えている。いわゆるノーマライゼーション思想の普及である。このことで、ノーマライゼーションとしての企業風土が醸成されてくるのであろう。さらに、障害のある従業員にとっても公正な人事制度について検討することも考えている。
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