中途障害者の職場復帰のための職務配置と環境改善
- 事業所名
- 松尾建設株式会社
- 所在地
- 佐賀県佐賀市
- 事業内容
- 総合建設業(土木・建築)、その他
- 従業員数
- 656名
- うち障害者数
- 9名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 4 施工管理、購買 内部障害 5 施工管理、安全管理、経営管理 知的障害 精神障害 - 目次
1. 事業所の概要、中途障害から復職までの経緯
(1)事業所の概要
藩政時代から武雄領の林野管理、村道改修、治山・治水工事に従事し、土木工事に長年の経験を積んでいた松尾安兵衛が明治18年に「松尾組」として創業、「良く、早く、安く」を営業方針とする。長崎、佐世保、福岡、小倉、熊本、大分、宮崎と九州各地に出張所(のちに営業所となる。)を開設。昭和23年に「株式会社松尾組」となり、鹿児島を加えた8営業所体制とする。
東京に支店を開設後、創業80年目にあたる昭和39年には「松尾組」から「松尾建設株式会社」に商号を改め、以来、土木・建築を主体とする総合建設業として事業を拡大してきた。1世紀以上たった今も7代目社長の下、九州地方を中心に、全国に営業を展開している。
現在は、「常在 お客様貢献」を企業理念とし、創業当初営業方針としていた「良く、早く、安く」を社是として追求することによって、「信用が『日本最大』」を目指している。従業員の9割以上が有資格者、およそ7割が技術者である。
(事業内容)
- 総合建設業(土木一式、建築一式請負)
- 土木・建築工事の企画設計および監督
- 土木・建築工事に要する材料の販売および販売受託
- 不動産取得・販売および仲介
- 産業廃棄物の処理
- 電気通信機器の販売及び貸付
- 温水器・厨房機器等の販売
- 科学館・博物館・体育館・公営住宅等公共施設の管理および運営
- 全各号に掲げたものの付帯事業
(2)中途障害から復職までの経緯
従業員は656名でその内、障害者は9名である。障害者全員が身体障害者で、中途で障害者となった。
会社側の説明によると、N氏が中途障害者になった経緯は交通事故である。20歳で入社したが、事故により28歳で片足の膝から下を切断することとなった。事故後しばらくは入院、退院後も休職して治療を続けていた。現場での作業に従事していたN氏は、「復帰したら会社に迷惑をかけるのでは」と思い退職も考えていたという。しかし、どうしても仕事を続けていきたいという強い思いがあり、その思いを理解した会社側の配慮から、まずは内勤(デスクワーク)での復職となった。その後も意欲的にリハビリに取り組むなど、本人の努力と、周囲従業員の配慮もあり、2年をかけて元の建設工事現場の技術者(施工管理)としての職に復帰することとなった。39歳となった今も現場で走り回っている。また、私生活では事故の後、2人の子供に恵まれ、今では公私共に充実した毎日を送っている。
2. 職場改善や配慮などの取り組み内容
(1)環境の改善
M氏は高校を卒業後すぐに入社。会社側は、すでに進行性の病気を患っていることを解ったうえで採用を決めた。最初は自力歩行も可能で、自家用車で通勤していた。しかし、病気の進行に伴い車いすが必要となった。そこで、車いすで出社し易いようにと建物のそばに駐車スペースを用意し、入口傍のエレベーターの横には障害者用トイレを設置した。
自力での通勤が難しくなってからは、誰から言われるでもなく、同じ部署の同僚が送迎を行っていたという。出勤できるぎりぎりまで同僚の援助は続いた。その後、入院を余儀なくされたため退職。現在も入院中とのことである。
このトイレに行く際も、同僚が車いすを押してエレベーターの乗り降りの手伝い等を行ない、M氏の就業を援助していた。
また、M氏については、実家を離れて独身寮で生活を行なっていた。独身寮は5階建てで72部屋があり、1階は食堂や風呂等の共有スペース、居住スペースは2階から4階となっている。採用時は病気が進行した場合を考え、2階を利用していたが、エレベーターが無いために、病気の進行に伴い、徐々に階段の昇降が辛くなってきた。そのため所属部署より相談を受けた会社は、1階の物置等に利用していた部屋を障害者でも使えるように改修して、M氏にとって負担のかからない居住空間を確保した。
(2)経験を活かした配置転換
土木技術者のK氏はトンネル工事を主に担当していた。5年ほど前に発病し、現在週3回の透析を行っている。透析が必要になったのが50代後半で、そのため体力的にも以前よりかなり厳しくなっていた。これまで土木技術者として工事現場の作業全般を管理監督する業務を行っていたことから、その経験を活かして、工事現場を巡回し安全を管理する業務に従事するようになった。所属は内勤となったが、各工事現場の危険な個所を確認して回る大事な業務である。
また、工事現場での管理監督業務は重い責任を伴うために制約が大きく、通院のための時間を確保することが難しい状況にあり、そこで、より通院しやすいようにと会社側の配慮での配置転換であった。
午前中仕事をし、午後から早退して透析をうけることもあるが、K氏は現在も正社員のまま勤務を続けている。
(3)障害に配慮した業務への配置
A氏は入社当初から右腕が使用できず、左腕だけで作業を行っている。パソコンを使用しての資材の発注など、片腕でも対応できる作業に従事している。職員の多くは異動があるが、A氏は入社してからまだ遠隔地への異動はない。会社は、障害者については基本的には遠隔地への異動がないように配慮している。業務の都合上どうしても異動が必要な場合は、本人の体調と意思を十分に確認している。
しかし、心臓に疾患のあるT氏(50代)は、異動により、現在沖縄支店に勤務している。現場での業務に従事しているということもあるが、周囲の従業員が配慮していることは、「必要以上に気をつかわないこと」だという。だから、異動もまったく拒むことなく受け入れ、その環境に対応していく。例えば、通院も慣れたところが良いという人もいるだろうが、彼は異動と同時に病院もその地域で見つける。病気になる前と変わらない対応がT氏にとって一番なのだという。
会社は、それぞれの障害者の希望を最優先に従事できるよう検討し配慮している。
3. 取り組みの効果
当社は勤務していた従業員が中途障害者になった時点で、解雇するのではなく、部署を変え、障害に配慮した業務に配置することで、継続して雇用している会社である。もちろん、時間、賃金等の労働条件は、障害の有無にかかわらず同様のものとしている。
障害者雇用に取り組むことにより、従業員は意識することなく協調性や思いやりの気持ちが培われている。また、職場環境の改善は、障害のある従業員のためだけではなく事業所全体の安全意識の高揚、定着率や働きやすさなどに、そして当社に対する信頼感や安心感の向上につながり、事業の活性化が促進されている。対外的には、地域に貢献する企業としての社会的責任を果たし、コンプライアンスを実践していることを証明している。
『働く従業員を大事にすることは、創業以来の伝統的な経営者の考え方。それが従業員それぞれに受け継がれ、自然と障害者となった従業員を受け入れる環境ができている。』と、人事部人事課の坂本氏は言う。
もともとあったその考え方と、実際に障害者を雇用し続けることで培われてきたものが融合して、よりよい環境が作られている。
中途で障害者となっても、全員が今までに培った自分の持っている技術を活かして仕事に貢献している。また、会社側もその技術を必要としている。彼ら一人ひとりが、会社にとって、なくてはならない存在となっているのである。
従業員のほとんどが技術者である。土木・建設業ではどうしても危険が伴うため、本人の状態や希望に合わせて業務に従事できるよう、そして危険の無いようにしなければならない。また、配属が現場となると厳しい労働環境となるので、今は障害者本人一人ひとりと相談しながら対応している。
N氏は勤続18年、K氏は現在62歳。障害者すべてが皆、長年勤務しているのは、こういった配慮が、なによりも障害者のみならず企業のためでもあるという証しであろう。
雇用した人が障害者であろうと、中途で障害者となろうと、同じ従業員として大事にすることで、自然と温かい眼で見る風土が作られてきている。
障害があることを特別なこととせず、「してあげる」ではなく、少しの配慮と「困っているときはお互い様」といった考えが職場定着に大きく影響しているのであろう。
4. 今後の展望と課題
毎年20名を超える新入社員が入社している。また、建設技術者の中途採用も行っている。障害者雇用率は現在1.98%。会社としても、法定雇用率をクリアしていくだけではなく、社会連帯責任として、今後も障害者の雇用は行っていきたいと考えている。
『一番に会社が求めるものは「やる気」。もちろん経験があり、それを活かしていけると判断すれば、障害があっても、なくても皆同じように受け入れていく予定である』とのことである。
【課題】
事業内容の特性として危険度が非常に高い業務が中心となっているため、今後障害者雇用を進めていく中で、新たな課題に直面することも多いであろう。
【今後】
中途で障害者となっても継続して活躍してもらうことは、企業、障害者本人の双方にとって、とてもメリットが大きいと感じる。企業としては、これまで培ってきた高度な技術や能力、経験を有する従業員を失うことなく、本人にとってもキャリアを中断することなく職業生活を送っていくことができる。有能な人材の確保と併せて、先にも記したように企業への信頼感や安心感の向上につながり、対外的には、地域に貢献する企業としての社会的責任を果たすことができる。
今後、少子高齢化による労働力不足がいわれる中、戦力として十分に活躍できる職務がある限り、障害者雇用は重要な労働力確保の一つであり、企業にとっては必要不可欠となるであろう。
今後は必要に応じて地域障害者職業センターへの相談やジョブコーチ支援、その他の支援機関等の関係機関、そして助成金等を上手に活用し、障害があることを特別なこととせず自然と温かい眼で見る現在の風土を活かして、障害者が各職場でその能力を更に発揮し、企業に貢献できるよう、なお一層の配慮と、障害者の新規雇用にむけた労務管理システムが発展することを期待したい。
障害者就業・生活支援センター ワーカーズ・佐賀
主任就業支援員 石井 有紀
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