障害者一人ひとりの特性を会社全体で受け入れる企業
- 事業所名
- 株式会社大石膏盛堂
- 所在地
- 佐賀県鳥栖市
- 事業内容
- 医薬品の製造・販売
- 従業員数
- 135名(短時間外:135名、短時間:0名)
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 2 梱包作業 精神障害 - 目次


1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
佐賀県鳥栖市は江戸時代中期より、薩摩街道と長崎街道の分岐点として栄えてきた。現在も鉄道や国道の分岐点であり、九州最大の交通の要衝として物流施設の集積地である。また、昔から医薬品との関わりが深い地でもある。
その鳥栖にて、1907年(明治40年)大石膏盛堂は「朝日万金膏」の製造販売を始める。それから100年を超える歴史の流れを経て、株式会社 大石膏盛堂は現在も発展し続けている。本社は鳥栖市本町にあり、以前は同じ敷地内に工場も併設されていた。その後企業の拡大に伴い、1969年(昭和44年)鳥栖市山浦町に工場を移転する。現在は山浦工場のすぐ横を九州新幹線が通っており、新鳥栖駅も近くに出来たためJRでの出勤が大変便利になった。本社敷地内の以前の工場は現在も製品出荷倉庫として使用している。
「信頼できる医薬品を通じて、健康づくりに貢献することによって社会的価値を作り続ける」を企業理念とし、医療機関のみでなく、ドラッグストアや家庭配置薬、ネット通販なども行なっている全国規模の販売シェアを持つ企業であるが、製品はこの山浦工場のみで生産されている。
(2)障害者雇用の経緯
現在の従業員数は135名で、その内の障害者雇用数は2名(うち重度障害者1名)である。障害者雇用率は2.22%となっている。障害者の雇用自体は20年ほど前から行っており、常に1名の障害者の継続的雇用をしていたが、現在の障害者雇用状況の前には数カ月間のブランクがあったそうである。
現在の2名の障害者のうち、先に雇用された人が軽度の知的障害者だった為、コンプライアンスを考えて、もう1名の知的障害者(重度判定)雇用となる。先に雇用となった人は現在5年目、後に雇用された人は4年目であるが、毎日元気に出勤している。
2. 取り組み内容
(1)募集・採用
現在雇用されている2名の障害者については、いずれの場合も、まず障害者施設からの実習を受け入れた後の採用となっている。先に述べたように障害者雇用が数カ月無かった時期があり、企業の社会的責任、社会的義務から、新たな障害者の雇用を急いでいた。その流れから、企業側より鳥栖市内の入所型就労移行支援事業所へ、人材の紹介を依頼する。その後、当時その事業所を利用していた人の実習受け入れが始まった。
最初の障害者Nさんは、障害もかなり軽度であり、「どこが知的障害なのだろう」と思う従業員もいたそうである。ただ、実習を開始してみると、やはり一度に複数の作業指示は理解する事が出来ず、混乱してしまう場面が見られた。就労移行支援事業所側からNさんの障害特性についての詳しい情報があまりなかったため、『今振り返ってみるともう少し情報をもらった方が良かったのだろうか?』との言葉が聞かれた。3回の実習の後、トライアル雇用3カ月を経て常用雇用となる。Nさんは障害者職業センターのジョブコーチ制度は利用せず、トライアル雇用前に障害者就業・生活支援センターへ登録をし、就業支援員の会社訪問等の支援が入ることとなった。
Nさんが会社生活にも慣れ1年ほど経過した頃に、鳥栖市内の知的障害者授産施設より、障害者の雇用についての依頼があがった。企業としても障害者雇用率の面ではまだ障害者雇用が不足している状態であったため、3週間の実習から始める事となる。2人目となるIさんは重度知的障害の判定を受けていた事もあって、実習の段階から障害者職業センターのジョブコーチと、障害者就業・生活支援センターの就業支援員が支援に入った。実習後、3か月のトライアル雇用を経て、常用雇用となった。
大石膏盛堂としては、同時期に2名の障害者を雇用するようになり3年ほど経過した事となる。二人とも同じ知的障害者とはいえ、当然の事であるが、性格・特性等全く異なり、それぞれに合ったやり方を見つけながら、現場の従業員が対応している状況である。
(2)障害者の業務・職場配置
障害者の業務・職場配置は従業員間で検討し、「ここは任せて大丈夫だろう」という場所を判断し、決定する事にしているが、特に今まで継続的に障害者を雇用してきた経緯もあるため、過去に障害者が配置されたことのある業務が多い。その方が従業員も障害の程度はそれぞれ違っても、受け入れの経験が有るという見解からである。実習期間中であっても、その間に様々な部署を経験させる事はしていないそうである。
先に雇用されたNさんは、障害がかなり軽度だったということもあり、初めからラインでの業務となった。湿布薬が数枚ごとに箱詰めされ、ベルトコンベアー上を流れて来る。その箱をさらにダンボール箱に詰め、まとめて指定の場所に積む作業である。ラインのスピードに慣れるまで多少の時間が掛かったため、補助を行なう従業員を1名配置した。まずは自分のペースで作業をしてもらい、ラインのスピードに遅れそうになると、補助を行なった。ラインのスピードを障害者に合わせるのではなく、スピードに慣れる為の補助をして行くやり方で、短期間の内に周りについて行けるようになっていった。また、Nさんは常に自分で、「どうやったら作業のスピードが上がるか」を考えて工夫しながら作業をしており、実習から一緒に作業をしていた従業員は、側で見ていて「障害を持っているが、自分でやっていける人だ」と思ったそうである。
ただ、一度に複数の指示を受けるとNさんが混乱してしまう事に周りの従業員が気付いたため、指示は1回に一つにし、さらに同時に別の場所(従業員)から指示をしないように気をつけた。また、指示された作業が終了したらその度に報告を受けるようにした。そういった会社や周りの従業員の配慮を受け、段々と他の従業員と変わらない業務が行なえるようになっていった。大石膏盛堂は昼食時間の他に、10時と15時に10分間の休憩時間が設定されているが、Nさんはこの休憩時間も同僚の従業員等と楽しく会話できるようになった。
トライアル雇用が2カ月経過する頃には、小袋に入った湿布等を指定の枚数分数え、ライン上に流していく作業を行なった。作業スピードにも問題なく対応でき、ライン作業に遅れを取る事も見られなかったうえに、作業内容が毎日変わる事への対応も出来ており、検品以外の作業を行なえるようになっていった。
その約1年後に雇用となったもう一人の重度知的障害者のIさんは、実習の段階から職業センターのジョブコーチ支援を受けている。Iさんの場合は行動が何事も緩慢な部分が有り、出勤時間に遅刻したり更衣に時間が掛かったりと、作業以外の部分でも問題が多く見られた。
出勤時間については、JRと自転車で通勤しており、授産施設の職員も含めて、施設での朝食時間や利用するJRの時刻など、色々な検討を行なった。
作業はライン作業であり、初めは製品を入れる中箱を6枚ずつ数え、互い違いに重ねていく作業だったが、やはりスピードに慣れるまでに時間が掛かった。先に入っているNさんに比べると慣れる事への時間の差はかなり大きかったが、周りの従業員は気長にとらえ、「その人に合わせてフォローしていく事」を心掛けた。少しでも作業のスピードが上がるように、ジョブコーチが主となって、作業時の足の向き一つから本人のやりやすい方法を現場で検討して行った。この時もジョブコーチだけでなく、他の従業員にも一緒に考えてもらったそうである。新しい作業を覚える際は、現場の人から作業の指示がジョブコーチと本人に入り、一緒に教えて行く方法が採られ、Iさんは大変素直で、何事も一生懸命に取り組む姿勢が評価された。人見知りの激しい性格であるため、周りに打ち解ける事にも時間を要したが、キーパーソンとなってもらった人を始め、周りの従業員からの多くの声掛けを受け、楽しく実習を行う事が出来た。3週間の実習後、3か月のトライアル雇用を経て常用雇用となる。
Iさんの障害特性のひとつとして、集中力を持続することが難しい点が挙げられる。作業中に集中力が途切れ、動作が緩慢になってしまい、手が止まってしまう事もあった。また、初めは座位での作業だったために居眠りも見られた。そんな時も周りの従業員が「顔を洗っておいで」、「一休み、しようか」等の声掛けを行ない、集中力を回復できるように努めた。現在は立位での作業をするようになっている。
生活面では、二人とも就職に伴い施設を出る事となった。一人は通勤寮に、もう一人は授産施設の側に住み、そこから出勤している。就職してそれぞれに4~5年経過しているが、今でも会社と通勤寮や授産施設、そして障害者就業・生活支援センターと、小さな事でも連絡を取り合うような関係は続いている。体調不良等で休む時は本人が休みの連絡を会社に入れるようになっているが、その後に必ず支援機関にも連絡をするようにしているためすぐに対応する事ができ、長期の休みにならないようサポートする体制を作っている。




ラインに流す
3. 取り組みの効果
障害者を雇用するにあたって、最初はどこまで責任を持った作業を任せていいのか、不安もあったそうである。その不安の解消については、障害者職業センターのジョブコーチの存在が大きかったと現場担当者は話している。また、「一つずつゆっくりと指示を出す事や、『1~5まで教えたから、5~10までは自分で判るだろう』と勝手に判断せず、丁寧に最後まで詳しく指導する事は、相手が障害を持つ、持たないに関わらず、新しい事を指導する際には大切なことだと気付かされた」、といつも二人の側で仕事を見守ってきた従業員が話していた。判り易く教えるという事は、意外に難しい事である。その事が障害者に限らず、新人教育等にも役立っているということであろう。
ライン上に製品を数えて並べる作業をしている障害者の前に、製品を置く向きを図で示した紙が貼ってあったが、障害を持つ人が判り易いと言う事は、障害を持たない人にも判り易いという事になる。また、ライン横のホワイトボードには当日の作業内容、個数などがマグネットなどを利用して判り易く示してあった。慣れた従業員にとっては当然の事かも知れないが、このボードで彼女が安心して作業できているのは確かである。
会社として新入社員を受け入れた際に、社会人として教育していく上で一番配慮している点を質問すると、「作業スキルの向上はもちろんであるが、周りとのコミュニケーションをいかに図れるか」との答えを頂いた。いかにスキルが向上したとしても、挨拶が出来ない、周りに上手く打ち解ける事が出来ない、悩みを相談する相手もいないようでは会社組織として受け入れる事が出来なくなる。そんな社員とならない様に、何でも話し合えるよう、社員間のコミュニケーションを大切にしているという事である。障害を持つNさんとIさんであるが、毎日他の従業員より大きな声で挨拶をする。社会人として当然のことながら、無断欠勤なく毎日出勤してくる。何より一生懸命に働くニ人の頑張りが、他の社員にも良い刺激になっている。
4. 今後の課題と展望
現在は法定雇用率も達成しており、今雇用しているニ人の障害者が長く勤務できるよう支援に力を入れている。今後の課題点を挙げると、先に述べたように障害者を受け入れている部署は以前も受け入れた事のある部署で有り、今後の障害者雇用を考えるとすれば、受け入れ部署の拡大という事であった。これまでと同じ部署だけではなく、この作業が出来なくても別の作業なら出来るかもしれないといった受け入れ部署が拡がれば、この企業におけるこれからの障害者雇用の発展に、かなりの期待を持つことができる。
大石膏盛堂では障害者雇用の際に「こんな障害を持たれている」という事は現場に伝えるが、特別な配慮まで指示が出される事は無い。周りの社員がそれを気にかけながら、一緒に作業を行ない、障害というよりも個人個人の個性や特性に合わせた工夫、配慮を自然に行っていくというやり方に素晴らしさを感じた。注意すべき事はきちんと伝え、障害の有無にかかわらず分け隔てなく接していく。そんな環境が有り、NさんもIさんも、時に失敗して注意を受けたり、難しい仕事をやっと覚えたりしながら、毎日楽しく出勤している。現在は二人とも手先の感覚で湿布等の枚数を数える事が出来るほど、この会社の大事な戦力になっている。二人の希望である「長く働き続けたい」が実現する事と、二人の後にこの会社で戦力となる障害者が続く事を期待し、微力ながらその力になりたいと感じている。
主任就業支援員 執行 めぐみ
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