地域の農業活性化と福祉ニーズの必要性から雇用を生みだした事例~農業のプロ集団に挑む、障害者との連携から事業を拡大していく~
- 事業所名
- 社会福祉法人青山21(げんきファーム)
- 所在地
- 大分県佐伯市
- 事業内容
- 就労継続支援A型事業所
- 従業員数
- 21名
- うち障害者数
- 16名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 農業全般、環境整備 聴覚障害 1 農業全般、環境整備 肢体不自由 3 農業全般 内部障害 知的障害 1 農業全般 精神障害 10 農業全般、環境整備 - 目次


1. 事業所の概要
精神障害者の自立支援を中心に取り組むこの法人は、障害者の働く場としての野菜や花栽培用の温室を設けている。ここで作られる塩熟トマトは糖度が高く、「甘くておいしい」と評判である。社会福祉法人青山21は、元大分県農業改良普及員の五島理事長が中心となって設立した。
温室では現在、20~60歳代の男女17名が働いている。温室はガラス張りの棟が四つあり、広さは計80a(=8,000㎡)である。
野菜の中でも塩熟トマトは特に人気が高く、年間に十数トンを県内外に出荷している。塩熟トマトは2棟を使って栽培しており、一年中出荷できるよう、ブロックごとに毎日種まきをし、1週間に3回収穫している。甘みと酸味を引き出すため、養液に塩を混ぜ、木が必要以上に水分を吸収しないように育てている。「木をあまやかさないことが基本」と五島理事長が言う。
この塩熟トマトは平成22年4月より20aの温室で「高糖度トマト」として生産を開始した。低段密植栽培という特殊な栽培方法で採取の果房を制限し、さらに塩を養液に混ぜる事で、「甘み」と「酸味」の強い濃い味のトマトを作ることができる。一般のトマトの糖度は4度~5度程度であるが「塩熟トマト」は7度~12度と高い。この様なフルーツに近いトマトは市場でも引き合いが強く、一般のトマトの4倍程の単価で取引される。
ここで働く障害者の男性は「まだまだ一人前とは言えないが、農業を学べることはありがたい」と笑顔を見せる。花はパンジーやポインセチア、ナデシコなど約20種類を栽培し、ポット入りの苗木を年間10万個ほど出荷している。五島理事長は「一流品を目指すことが大事。それは障害者の自信につながるから」と話す。11月には温室で、作物販売する毎年恒例の「花いっぱい祭」を開催し、地元はもちろん、市内外から多くの人が集まる。
主な仕事内容
・トマト生産事業・・・・・・・ | ハウス内での高糖度トマト生産業務 |
・野菜・花苗生産事業・・ | ハウス内や畑での生産業務(パンジー、ブロッコリー、おくら、ナデシコなど約20種類) |
・環境整備事業・・・・・・・ | 公園管理業務(主に市委託業務)河川の堤防や農地の草刈り、一般のアパートの草刈り |


2. 障害者雇用の経緯、取り組みの内容と工夫
(1)障害者雇用の経緯
五島理事長の障害者雇用の取り組みは、地域に精神障害者が充実して働く場所がないことと、農業の担い手がいない現実を目の当たりにしたことからである。これらの問題は深刻であり、誰かが何か行動をおこさなければと考えるきっかけになった。
障害者の福祉と農業、労働の問題が上手く組み合わさって、地域の問題が一つでも解消されないだろうかと考え続けた結果、これまでの農業に関する私のノウハウを、障害者の福祉や労働、地域の活性化に役立てられるのではないかと思い、県職員を退職後に自ら事業を起こすこととなった。
(法人と事業の経緯)
○平成10年~ | 五島理事長と、息子でサラリーマンであった五島事務長が、個人的に農業や福祉に関する事業を始める。 |
○平成14年 9月 | 社会福祉法人青山21が発足する。 |
○平成15年 4月1日 | 精神障害者通所授産施設サニーハウス(障害者サポートセンター)を開所する。 |
○平成19年 4月1日 | 農業法人デバンを発足し、塩熟トマトの生産に入る。 |
○平成20年12月1日 | 障害者の相談支援事業所を開所する。 |
○平成22年 4月1日 | げんきファーム(就労継続支援A型事業所)を開所する。 |
農業は多忙であり、重労働である。特に夏のハウス内の暑さは厳しく、逃げ出す人もいる程であり、この現状では確かに担い手が少なくなるのも理解できる。さらに、服薬している精神障害者の中には、30度以上となるハウス内の暑さで体調を崩す人もいる。もちろん、他の知的障害者や身体障害者にとっても大変な仕事である。また、それに加えて、商品の出来具合は自然に左右されるため、四季や天候の移り変わりに応じて臨機応変に仕事を行う必要があり、より難しく厳しい業務となる。
やはり、一流の品質を保つ農業の仕事は厳しいと感じるが、そのお陰で従業員に強い連帯感が生まれてきているようにも感じる。そして、愛情を込めて育てたトマトや花が高い評価を得られれば自分の事のように嬉しく感じ、育てている本人自身も成長したと感じているのではないかと思える。
農業は慣れるまで、いやたとえ慣れたとしても大変であるが、日々の何ともいえない充実感を障害者にも味わってほしいと考えた。このことが、農業を通じての障害者雇用に繋がった。
(2)取り組みの内容と工夫
当法人では、精神障害者だけでなく身体障害者や知的障害者も働いている。障害種別や障害程度により、得手不得手は様々である。これらの特性をお互いが良く理解していないと、チームワークが崩れ、業務にも影響を及ぼし続けて非効率な作業となり、結果として生産性を下げてしまう。そのため、チームワークを守るためにも、積極的に交流会やミーティングを行い、働く者同士のコミュニケーションを図っている。
また、ここで働く障害者の中には、今までに働いた経験のない人も多く、「働くとは…、賃金をもらうとは…。」もう少し細かいことでは、納期の大切さや、品質の保持など、なぜ、そうしなければいけないかをイメージしにくい人もいる。そのため、他の工場などの一般事業所に出向いて、自分たちと同じ賃金でどれ程の仕事をこなしているかを見学することがある。
一例を挙げると、ある工場で仕分け作業をしている従業員の様子を見学して、仕事に対する真剣さ、確実さ、作業の速さ等を感じてもらったことがあった。そして見学後、職場に戻り、早々にミーティングを開き、意見交換を行った。すると、自分たちの仕事に対する甘さ等を振り返る意見が活発に出され、充分に反省した後は前向きに自分の仕事に取り組む意見が出された。こうした試みは職場内で、あれこれ口うるさく指導するよりもずっと効果的であると考えられる。
この見学の後にミーティングで話された内容は以下のとおりである。
- あの工場の人たちは、作業中は話をしないで真剣に黙々と作業に取り組んでいた。
- 賃金をもらうとは厳しいことであるが、自分の成長にもつながると思った。
- 農業も大変と思っていたが、他の仕事も大変だと感じることができた。
- 商品に愛情をもつことの大切さを学んだ。
- もっと合理的に仕事をこなすにはどうすれば良いのであろうか。
- 毎日出勤できない人の仕事をどうする。そういった人の仕事は何が適しているか。
- トマトの売り上げをあげるにはどうしたら良いのか。
3. 取り組みの効果、今後の展望と課題
(1)取り組みの効果
主力商品である塩熟トマトの需要は、年々増すばかりである。特に積極的な宣伝を行ってはいないが、静かに口コミで評判は広がっている。今では地元で最大手のデパートや観光地の旅館などとの取引もあり、シーズンによっては品切れ状態になる。一昨年には、塩熟トマトが、幕張メッセで開催された「FOOD JAPAN」において、大分のブランド野菜として出品された。それを機に全日空機内販売「グルメ倶楽部」にて販売を行う事にもなった。自分たちで作った、愛情たっぷりに育てたこの商品が全国基準でも評価されることは嬉しいことであるし、自信にもつながる。
写真にあるのは、光センサーでトマトの濃度を測定する機械である。この機械の中心部にトマトを置くと瞬時にトマトの濃度(糖度と重量、酸度、水分量)を測定できるようになった。この機械のおかげで、手作業が省けるだけでなく、消費者に対して明確で信用できる商品を提供できるようになった。

(2)今後の展望と課題
これまで、福祉と農業、雇用、地域活性という理想を掲げて職員一同で必死に行ってきたが、実際に農業で稼ぐということの難しさ、合理的に作業を進める上での障害者への配慮など、現実的な課題に直面することが多くあった。
特に農業で利益を上げることについては、塩熟トマトは年末には商品がなくなるほどの盛況ぶりで、多忙にも関わらず、利益はそれほどに上がっていない状態であった。できる限り無駄な経費など抑えた結果でもある。「この状況が続くのであれば、生産量を増やすことや、単価を上げること等も検討する必要があるのではとも思うが、同時に不安もある。」と、五島事務長は言う。また、将来的には、まだ取り組んでいないインターネット販売にも目を向けていきたいとのことである。
ここ数年は、農業に従事したいので見学を希望したいという障害者も増えてきた。とても嬉しいことではあるが、何度も繰り返すとおり、農業は重労働であり、続かない人も多い。私たちは、農業の喜びをどのように伝え、体験してもらえれば良いのかと日々検討している。障害のある人もない人も一緒になって、日々目の前にある仕事を一生懸命にこなし、共に悩み、励まし、工夫し合い続けることが、結果として愛情のこもった商品が出来ることにつながり、その努力が地域にも認められると信じている。「そうなれば、障害者も障害のない人も分からなくなってくるのではないだろうか。」と五島事務長は言う。
五島理事長が掲げた、当法人の運営理念である「福祉と農業をテーマに掲げ、花・野菜の栽培や販売を通じて、心身のリハビリと地域との交流をすすめ、心の障害に対する正しい理解を進める」が地域に根ざしはじめたと実感できる動きがある。
主力商品である塩熟トマトを生産販売したいと希望する企業が現れ、当法人から技術及びデータの提供をこの企業に数カ月~1年間行ったところ、すでに、この企業でも塩熟トマトの販売が好評であり、さらに来年度からは障害者の雇用も予定され、農業と福祉、労働の問題を考える協力企業になりつつある。
最後に、当法人は、塩熟トマトの成功だけに留まることなく、次の商品開発の研究をしている。写真にもあるこの建物は、苗を育てて安価で提供できる施設である。苗を安価で提供すれば地元の農家は大変に助かる。それは、単に農家が助かるだけでなく、また新たな障害者の雇用にもつながるきっかけになるかもしれない。そうなれば、農業の担い手も増える。
これからも農業と福祉の融合について果敢に挑み、同時に農業に従事する障害者の存在も大きくなっていくことを期待している。

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