精神障害者を福祉事業所の事務員として、雇用した事例~確実に業務をこなすことを求めたことで、安定した雇用に結びついた~
- 事業所名
- 社会福祉法人やまなみ福祉会
- 所在地
- 大分県竹田市
- 事業内容
- 多機能型障害福祉サービス事業所
就労継続支援B型・自立(生活)訓練事業・グループホーム - 従業員数
- 18名
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 1 事務員(事務全般の業務) - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
社会福祉法人やまなみ福祉会は平成13年7月27日に法人として設立し、平成14年4月1日に「通所授産施設やまなみ」を開所するに至ったが、法人設立までには10年以上の家族会や共同作業所としての活動期間があった。
平成14年11月1日「グループホーム竹田やまなみハウス」開所、平成15年4月1日「グループホーム竹田やまなみハウス飛田川」開所、同年5月には地域の交流場としての「やまなみ交流館」が開所される。その後も、平成21年には「グループホーム竹田やまなみハウス稲葉」開所するまでになる。
平成23年1月1日から多機能型事業所「障害者サポートセンターやまなみ」が開所し、障害者の自立(生活)訓練と就労継続支援B型事業を運営している。現在は39人の登録者が在籍し、1日平均25名ほどの利用者が通所している。
通所者の就労支援事業は農業(米・カボス・栗・野菜)と農産加工(かぼす果汁・かぼすぽん酢・かぼす胡椒・練梅・漬物・乾燥野菜)、施設外就労(草刈り・草取り・墓掃除・農作業・掃除・引越しなど)、他に内職等の多様な作業がある。
平成23年11月27日に社会福祉法人やまなみ福祉会の10周年記念式典が盛大に行われ、これからも地域とともに一歩一歩進めていくことが謳われた。
① 事業所の業種 多機能型障害福祉サービス事業所
- 就労継続支援B型 (定員14名)
- 生活(自立)訓練事業 (定員6名)
- グループホーム
② 事業の内容
利用者(障害者)に対して、主に以下の内容の事業を行っている。
- 就労継続支援B型
期限を設けず、事業所内での福祉的な就労を支援する。授産事業から発生した売上から最低限の経費を差し引いて工賃として利用者に支給するが、地域の最低賃金の3分の1程度である。職員は利用者の工賃収入が上がるように経営努力をするのと同時に、利用者の生きがいのある生活を支援する。
- 生活(自立)訓練事業
身体機能、生活能力向上のために必要な訓練を一定期間実施する。
- グループホーム
知的障害者・精神障害者で共同生活を営むことに支障のない障害者に、夜間、共同生活を営むべき住居において相談、その他日常生活上の援助を行う。
(2)障害者雇用の経緯
数年前に精神障害者となったAさんは、「障害者サポートセンターやまなみ」にボランティアとして通うようになった。
Aさんは体が大きく、実家が農家であった為、当初はこの事業所の農作業を手伝っていた。しかし、Aさんは農作業の後にひどく疲れている様子が時おり見受けられるようになり、その状況を察した職員は、Aさんに農作業は向いていないのではと疑問に思うようになった。
Aさんは、とても物腰が柔らかく気配りの出来る人である。Aさんは過去に職業訓練校で数ヶ月間パソコン講習を受けていた経験もあったため、事務長は今後のAさんの就職活動の助言の参考にと思い、どの程度のパソコン入力が出来るのかを試させてもらった。すると、とても完成度の高い文章を作成でき、その入力方法に無駄がなかった。
また、パソコン入力をしている時のAさんは、農作業の時よりも表情が良く、引き締まった充実感のある表情であった。その後の職員会議で、Aさんは精神障害者としての配慮を受けられれば、事務職員として就職することができるのではないかとの声があがった。
ちょうどその頃、「障害者サポートセンターやまなみ」としても、法改正に対応するために膨大な事務量を抱えており、今後も事務職員の増員が必要であると検討される時期であった。事務長はAさんを事務職の非常勤職員から雇用してみてはと提案した。その後、無事に非常勤職員となったAさんは順調に業務をこなして、5ケ月程で非常勤職員から臨時常勤職員になった。
2. 取り組みの内容と工夫
平成22年11月から非常勤職員として勤務し始めたAさんも、平成23年4月からは臨時の常勤職員と雇用形態が変わった。Aさんは事務仕事を中心に任されており、伝票入力、請求業務、電話応対、銀行での入出金などをこなしている。直属の上司である事務長は、「Aさんは相手が望むことをしてくれる。お願いしたことを早くスムーズに行い、動きにロスがない。本当に助かっている」と何度も言われる。
精神障害者の特性、特にAさんの働く上での工夫としては、決して無理をさせないことである。このことは主治医である精神科医師からの指導であった。そのため、Aさんを職員として受け入れる際に、無理や負担になることを以下の通りにあげて対策を考えた。
【精神障害者であるAさんにとって、無理や負担に感じることと対応策】
〇残業をさせない
事務の仕事は、業務がたまっているときりがなく、周囲も本人も疲れのサインに気が付かなくて無理をしたり、無理をさせてしまう恐れがある。まずは、時間的な制限から疲れを管理する。
〇仕事内容をはっきりさせる
Aさんは色々な人の意見や考えに影響され、困惑して疲れてしまうことがある。結局、Aさんの仕事内容を理解していない人から、あれもこれもと仕事を頼まれることで、仕事の範囲が増えてしまう。その為、直属の上司である事務長のみがAさんに仕事を指示する系統にしている。
〇曖昧な仕事をさせない
Aさんが行う仕事の優先順位を指示することで、集中して業務に専念してもらう。まだ教わってなく、知らない仕事については、とりあえず受けなくても良いことになっている。
〇相談できる人を決める
何事も抱え込んでしまうAさんにとって、気楽に話せる相談相手は大切な存在である。この相談相手は職場内では主に事務長である。事務長との信頼関係が、仕事を長続きさせる一つのパイプであると考えている。
〇遠慮なく服薬できる環境
職場の中に、薬を飲むということは病気が良くなっていないからではないかとマイナスに考える人、薬を飲まない方が良いと助言をする人がいる。そういった人がいると、Aさんはさらに気を遣って飲みづらく感じることがある。そのため、職員や利用者に対して、病気を抱えながら働く場合は必ず主治医の指導どおりに服薬を続ける必要性があると伝えた。
このような工夫のもとでも、過去に3日間体調を崩して休まれた。しかし、この3日間の休養はとても大切で、それ以上に休みが続かなかったことが良かったのではないかと原田事務長は言う。そしてこの3日間の休みで、これ以上は無理してはいけないという境界線ができた。その後は1日のみ休むことはあっても順調に仕事をこなしている。

3. 取り組みの効果、今後の展望と課題
(1)取り組みの効果
Aさんを雇用することで、他の職員の事務量が軽減された。以下が、Aさんの具体的な業務内容と効果である。
〇請求業務
福祉サービスを利用した人を集計して、パソコン入力を行う業務。数ヶ月で一連の流れを習得して、半年程でAさんに任せられる状況になった。この請求業務については、正規職員の事務員が行なっている事業所も多く、他の業務と兼任する者にとっては、とても負担に感じる業務である。
〇会計ソフトへの伝票起票
Aさんは簿記などの経験はなかったが、事務長に教わりながら伝票起票を覚えることができた。この業務も請求業務と同じで、正規職員の事務職員又は、事務職以外の職種の者が行なっている事業所も多い。
〇電話対応
Aさんは落ち着いた声で、明るく的確な対応をされる。営業の電話にも適切にお断りすることができる。また、先方からの伝言なども適切に処理して伝えることができる。
〇銀行への入出金
銀行まで車を運転して入出金を行う。
(副次的な効果)
〇他の職員に余裕ができる
Aさんにこれらの仕事を任せられると、他の職員は営業活動や就労支援作業、利用者へのサービスに時間を割くことができ、新たな仕事を考える余裕ができるようになった。
〇職員間のコミュニケーションの向上
いつも落ち着いているAさんが事務所内にいることで、事務所内が穏やかな雰囲気になる。
〇通所者の励みになる
Aさんが服薬を続けながら安定した仕事をしていることで、将来は就職を目指しているサービス利用者の目標となる。
〇職場のムリ・ムラ・ムダを検証できる
Aさんに無理をさせてしまいそうな状況は、職場間での色々な歪みが発生しているとも考えられる。忙しい時ほど、大きな事故や失敗に繋がりやすいため、職員配置や業務内容を検討するきっかけになる。
〇職場の雰囲気が優しくなった
この雰囲気は、具体的な指標で表せないが、Aさんを雇用する事で大きな変化があった。Aさんの優しさからくる気遣い、配慮は他の職員のモデルにもなる。また、そのように優しいAさんに対する職員側の態度も丁寧になり、穏やかになった。Aさんが一生懸命に業務をこなしている姿は、色々な人に良い影響を与えてくれる。
(2)今後の展望と課題
現在のAさんは障害年金を受給しながら働いている。Aさんの目標は独り暮らしができるほどに自立がしたいという希望である。事業所としては、Aさんがさらに能力を身に付けてもらうことで、将来的には障害年金をもらわなくても生活ができるようになってもらいたいと期待する。
これまでのAさんの雇用について振り返ると、Aさんを精神障害者の雇用と漠然に捉えるのではなく、働く上での、本人の病気や障害と健康な面、人柄やスキルを適切に区別して判断することで、本人をより深く理解することができ、また具体的な対策が練られ、結果として安定した雇用に結びついた。
そして、精神障害者の就労支援を行う障害福祉サービス事業所が、実際に精神障害者を雇用することで、本人の立場と職場側からのメリット、デメリットや本音としての意見、課題や効果等を深く理解することができた。これらのことは、精神障害者の就労支援を行う事業所の支援スキルとしても大切なことである。
最後に、「社会福祉法人やまなみ福祉会」は福祉事業を通じて地域と積極的に関わりを持ち続けている。事業所で加工された農産物の地域の「道の駅」での販売、引っ越しの手伝いや草刈り等の請負業務など、多岐にわたる。そのため、職員は一人何役もこなさなければならず、実際に私が訪問した時も、数名の職員しか事業所におられなかった。職員が色々な所で仕事をして疲れて事業所に戻った時に、いつも穏やかなAさんが事務所にいると落ち着くのではないかと思う。原田事務長が何度も、「Aさんがいて本当に助かる」と言われる気持がとても伝わった。


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