企業人として品質にこだわり、誇りを持って仕事に取り組む
- 事業所名
- 株式会社旭化成アビリティ延岡営業所
- 所在地
- 宮崎県延岡市
- 事業内容
- 情報システム入力、オフィスサポート、印刷、デザイン、メール配送業務等
- 従業員数
- 113名
- うち障害者数
- 103名
障害 人数 従事業務 視覚障害 2 電子部品製造加工 聴覚障害 16 オフィスOA製造、メール配送、縫製製造 肢体不自由 48 オフィスOA製造、メール配送、デザイン、印刷、事務サービス等 内部障害 26 オフィスOA製造、メール配送、デザイン、印刷、事務サービス等 知的障害 10 オフィスOA製造、メール配送、デザイン 精神障害 1 オフィスOA製造 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用について
(1)事業所の概要
株式会社旭化成アビリティ延岡営業所は、本社と共に宮崎県北部の延岡市にある。昭和60年8月に株式会社サン・アビリティとして東京に本社が設立され、その年の12月に延岡営業所のプレハブ仮作業所が建設された。その後、守山、東京、水島、富士と各地に営業所を開設し、平成5年4月に株式会社サン・アビリティから現在の株式会社旭化成アビリティへ社名変更した。平成9年10月には事務手続きの効率化を図るために、本社(本店)を宮崎県延岡市に移し、現在は、延岡営業所(宮崎県)、東京営業所(東京都)、富士営業所(静岡県)、水島営業所(岡山県)の4営業所となっている。
株式会社旭化成アビリティは、旭化成工業株式会社(現:旭化成株式会社)によって障害者雇用促進法に基づき「特例子会社」として設立された。
「特例子会社」は平成22年4月現在、全国に281社あるが、宮崎県には株式会社旭化成アビリティの1社のみである。
「特例子会社」は、その従業員のほとんどが障害者である場合が多く、株式会社旭化成アビリティの各営業所の従業員数は、平成24年2月末時点で、延岡営業所113名(うち障害者103名)、水島営業所51名(うち障害者45名)、富士営業所22名(うち障害者19名)、東京営業所8名(うち障害者6名)となっている。
株式会社旭化成アビリティの経営方針には「障がい者の雇用促進と職務開発を行い、1人ひとりが安全・健康に活き活きと働き、共に互いの能力と個性を活かして日々挑戦し、職業的成長ができる職場づくりをしていきます。更に、お客様に満足いただける品質・納期・価格を提供し、障がい者が自立できる企業となることを目指して、旭化成グループと社会に貢献していきます。」とあり、明るく楽しい職場作りを目指す一方で、営利法人として品質・納期・コストダウンにこだわるところは、普通の会社と変わりはない。平成6年9月に延岡営業所、平成11年9月には旭化成株式会社が「障害者雇用優良事業所」として労働大臣表彰を受賞している。
(2)障害者雇用について
採用までの流れは、①筆記試験、②面接、③健康診断、④トライアル雇用、⑤採用となっている。現在の求人は欠員補充が主であり、主にハローワークを通じて行われている。
3ヶ月間のトライアル雇用から社員採用となる人は毎年5、6名であり、トライアル雇用期間中は様々な業務を経験してもらうように配慮している。立ち仕事ができるか、荷物を運べるかなど見極める必要はあるが、障害別ではなく、それぞれの個性に合わせた適材適所の職場配置を基本にしている。
雇用条件は、給与の昇給もあり、福利厚生などもしっかりしている。定年は60歳で60歳以上についての再雇用制度もある。勤務時間は、午前8時から午後4時45分で、7時55分からのラジオ体操には全員が揃う。
現在の延岡営業所の業務内容とそれぞれの従業員の配置は、次のようになっている。
① 製造課(41名)
カットレタリング、筆耕、縫製、制服受注販売・管理、書類等仕分け・発送、重要書類等裁断・廃棄、会場設営、各種斡旋、包装、製品制作・加工




② 情報システム課(4名)
磁気・ICカード発行、各種データ入力、資料作成、スキャニング・PDF化、CD・DVD複製、ホームページ作成、旭化成工場内入出教育


③ オフィスサポートグループ(25名)
NBC(延岡文書管理センター)保管書類お取り寄せサービス、建築図面・技術情報のデータ化、不動産賃貸契約書の管理、アンケート情報のデータ入力、その他オフィスの各種電子化作業

④ 印刷・デザイン課(11名)
名刺印刷、転勤・退職挨拶状印刷、封筒印刷、各種冊子作成、方針ポスター・カード作成、大型コピー・青焼き、受験・受講手続代行
⑤ メール・配送課(14名)
旭化成社内メール配送・郵送物取扱、各種運搬業務、サンプル採取・水道メーター検針、トナーカートリッジ交換
⑥ 事務サービス課(12名)
給与に関する部門の事務補助、各種書類のチェック、データ入力
製造課が従業員の4割程度、オフィスサポートが3割程度を占め、業務内容は、旭化成グループからの受託がほぼ100%であり、同じグループ内の業務となる。たとえば事務作業では外部に委託するより理解も早くコストメリットがあり、現在、特に問題となってきているセキュリティ面においても多いにメリットがある。近年の情報化の発展により、CD・FDの裁断、図面の電子化など新しい事業も取り組んでいる。
以上のように多種多様な業務内容があるため、幅広い中から個々の障害に応じた仕事を設計でき、障害者の個性を活かした配置を可能にしている。
2. 取り組み内容
取り組みの中で最も重要なことは、一人一人に仕事、業務があることである。設立当初から、旭化成グループが外部に委託してきた仕事を旭化成アビリティの障害者で対応できるものはないか検討してきた。そのためには、旭化成アビリティでできることを旭化成グループの各社に理解してもらう必要もあった。
そのため、担当者は旭化成グループ各社を回り、旭化成アビリティのPRに取り組んできた。現在の事業の中でもその工夫が見られ、延岡地区では、旭化成グループの社員のICカードを全て旭化成アビリティで発行し、講習会も実施している。そのため、社員は必ず一度は旭化成アビリティを訪れるようになっている。
また、工場の作業着の注文の仲介や受け渡しも旭化成アビリティで行われ、その存在を知ってもらう一つのきっかけになっている。旭化成アビリティができて今年で27年目を迎え、これまでの努力の甲斐もあって認知度は高くなり、理解もされてきている。
しかしながら、どのような業務内容があるのか、何かメリットがあるのかなど、旭化成グループ全体に深く理解されているとは言えない現状もある。また、管理者にとっては、社内のマネジメントが最優先事項であり、営業まで手が回らないという状況もある。現在のように、一人ひとりの人脈を頼りに仕事を拡大している状況も徐々に変えていかなければならない。
2010年には旭化成アビリティの業務内容を写真入りで詳しく説明したパンフレットを作成し営業活動に役立て、また、2011年には全国にある旭化成グループのどこからでも業務内容がわかるようにホームページを作成し、業務受注価格もオープンにしている。さらに、旭化成アビリティの紹介用DVDも作成している。情報技術の発展で、距離の問題はなくなり、現在では東京営業所で受付けた仕事を延岡営業所が受けることもあり、全社で取り組む体制が整いつつある。
一方で、旭化成アビリティは普通の企業と同じとは言っても、従業員のほとんどが障害者であるため、いくつかサポートしなければならないことはある。たとえば、健康を第一に考えているため無理はさせられず、忙しい時期にはスケジュールを工夫して対応しているということだった。また障害の種別や程度、特性によっては、不得手な作業や困難な仕事があることも認識されている。
従業員とのコミュニケーションは、3か月のトライアル雇用期間中は、1ヶ月面接、2ヶ月面接など行い、不満など聞くようにしている。また、従業員の相談に関しても各グループのリーダーに相談する人もいるが、ほとんどは営業部長に直接相談する体制になっている。従業員と担当者の信頼関係が築かれていることがわかる。
聴覚障害者とのコミュニケーションは、簡単な手話で対応しているが、それだけでは難しい面もあるため、多くは筆談も行っている。また、連絡事項などは各課に掲示したり、サーバー内に記録して残すことで、いつでも確認できるようにしている。これは、欠勤者にとっても便利なものとなっている。

3. 取り組みの効果、今後の展望
(1)取り組みの効果
旭化成アビリティでは、従業員のほとんどが障害者である中、その他一般の企業と同じような取り組みを目指してきた。
「障害があるから、これくらいでいいだろう」と考えがちなところを、「相手に喜んでもらう仕事をおこなうこと」、「今以上の品質を作り込むこと」など、一般企業と同様の取り組みを行ってきている。担当者からも「これは仕事であって福祉活動ではない」とも言われた。
そのことで、従業員の仕事に対する甘えがなくなり、品質の高い信頼できる仕事に繋がり、委託を受ける業務も多くなってきている。
また、従業員一人ひとりに対しても、その仕事ぶりから、お礼を言われたり声をかけられたりすることも多くなり、それぞれの達成感に繋がってきている。働くこと本来の喜びを皆で実感できる素晴らしい効果である。
また、従業員の障害は幅がひろく、いろんなハンディをもっているが、従業員同士では障害のことを意識はしていない。重いものを持てない人がいれば手伝い、視覚に障害があれば言葉で伝える。お互い助け合いながらという思いではなく、普通に自然な対応として行われている。皆がそれぞれ自立している証拠であろう。
従業員のスポーツ・文化活動も盛んで、それぞれの障害を越えて会社外でのスポーツ大会や文化活動に挑戦し、自らの生活の充実を計り、観ている人々に夢と感動を与えている。延岡営業所の近年の活躍は、「平成22年度宮崎県優秀勤労障がい者表彰」で知事表彰を受賞、スポーツでは2010年10月第10回全国障害者スポーツ大会「ゆめ半島千葉大会」の陸上1500mで金賞、男子バレーボールは4位、2011年の第11回全国障害者スポーツ大会「おいでませ!山口大会」にも出場している。これらの競技に参加する従業員は、勤務時間などの免除等があるわけではなく、勤務時間が終わった後に、各自で練習を重ねている。
そんな中、新しい取り組みとして、旭化成のこれまでの歴史がわかる古い書類などの画像や書籍の電子化の仕事を受注している。旭化成の歴史で、旭化成のある延岡市のこれまでの発展の過程をたどることもできる。仕事でもスポーツ・文化活動でも必死に努力する姿は、自立した一人ひとりの従業員の皆さんの姿でもあるが、その中にはここに刻まれている「伝統ある旭化成の社員」というプライドが根底にあるようにも感じられる。

(2)今後の展望
従業員の多くが障害者という状況は、一般の企業では考えられない様々な課題があることは当然のことだろう。
東日本大震災があり、担当者は津波の場合など特に危機感を感じていた。移動が困難な人も多く、もしもの時には避難に多くの時間を要するからである。日頃より避難訓練を実施し、社屋の状況など新たな課題を検討し始めていた。また、障害は加齢とともに進行するケースもあるため、それにあった仕事の設計がこれからの課題として挙げられている。
そして、社名にもなっている「アビリティ(ability)」とは、「能力」「技量」「才能」「適正」「技能」などの意味を持ち、担当者の思いは、障害があっても色々な人をもっと雇用したいということだった。実際には難しい面もあると言われたが、前向きな姿勢で望まれており、今後も新たな工夫が期待される。
最後に失礼とは思いながら、旭化成株式会社本社からの出向者である延岡営業所の営業部長に「何年くらいで本社に戻られるのか」と尋ねた。部長の答えは、「本社に戻るつもりでこの仕事をしたら良い仕事はできない。じっくりと腰を据え従業員の皆と一緒にグループ会社に貢献し、最後はアビリティ従業員の皆から送り出してもらいたい。」と、はっきり答えてくれた。多くの障害者を抱えて、一つの企業としてどのように特徴を活かしていくか、支援活動ではなく一人の企業人として必死に取り組んでいる姿に見えた。
個々の従業員の自立と共に、一つの企業として旭化成アビリティの自立に向けた取り組みはきっと実を結ぶだろう。
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