障害者も障害のない者も同じ「人」として付き合うことで多数雇用を実現している事例
- 事業所名
- 有限会社 マル平
- 所在地
- 鹿児島県鹿児島市
- 事業内容
- 医療機関、福祉施設等向けの食材(青果・魚介類等)卸売業
- 従業員数
- 30名
- うち障害者数
- 15名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 2 精神障害 13 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用への動機、なぜ精神障害者なのか
(1)事業所の概要
平成元年、鮮魚商をルーツに持つマル平食品を創業。
医療機関や福祉施設向けの食材(主として青果と魚介類)提供を柱とした事業を展開し、平成5年10月、有限会社マル平食品を設立。
平成14年、有限会社マル平に社名を変更し、鹿児島市新栄町に作業所を設置。
平成15年から障害者雇用に取り組んできた。
順調な業績の伸びとともに、従業員数並びに障害者雇用数を増やし、平成21年には重度障害者多数雇用事業所の認定を受け、鹿児島市有屋田町に作業所を新築移転し、現在に至っている。
また、障害者自立の場を増やすことを目的として新規分野の開拓にも挑戦しており、清掃業務や菓子類の販売事業でも実績を上げている。
平瀬社長は、常々障害のない者と障害者の割合が1:1であることが一つの理想だと考えていたが、現在がその状態である。
(2)障害者雇用への動機
ある事業場の厨房で下働きとして働いていた男性知的障害者との出会いがきっかけだったと平瀬社長は語る。
自分の仕事に一所懸命に取り組んでおり、障害のない者と比較してなんの遜色もなく業務を遂行していることに感動した反面、その待遇の低さや扱いに大きな疑問を持った。その後、障害者の可能性を活かし、企業として社会貢献を果たすにはどうしたらよいかと考えに考え、一つの結論としてたどり着いたのが今の形である。
(3)なぜ精神障害者なのか
当事業所では特に精神障害者の雇用が多い。
精神障害者の雇用に特に積極的である理由は、以下の経理理念が前提となっている。
- 自分たちが取り扱っている食材を口にするのは、入院患者や高齢者など言わば「弱者」なのだから、一般の食堂やレストランに納品すること以上に細やかな配慮や高度な注意力が必要であることを理解して業務に当たってほしい。
- 注文された食材を納品すれば業務が終了するというものではなく、これらが食事の材料として使用されて初めて自分たちの仕事が活きるのだと知ってほしい。
- 取り扱っているのは食材だが、売っているのは単に食材だけではなく、それを超えたサービス(食事を作るために必要なもの全てを指す)だとわかってほしい。
こうした平瀬社長の思い、当事業所の経営理念をよく理解し、その都度いちいち上司の裁可を仰いだり、上司の指示を待つのではなく、自分自身で理念に沿った判断を下し迅速に行動する自主性の高い従業員を求めていくと、精神障害者は概して知的レベルが高く、よって理解力、判断力、企画力等が優れていることの多い精神障害者が該当すると考えたからである。
2. 配慮と対応(ソフト面・ハード面)
(1)ソフト面における配慮と対応
精神障害者を採用する際は、通院先・現在の症状を含めたこれまでの経過等々はもちろん、必ず通院日を確認し、その日を休日として確保するようにしている。
当事業所では、仕事柄、全社一斉に休日を取るわけにはいかないので勤務割表を使用しているが、自主性を尊重するために従業員たち自身の手で作成されている。
勤務割であるから、業務がスムーズに運ぶようシフトを組むことは当然、先述した通院のための休日、毎週最低1日の休日を確保し、障害者個々の特性を考慮して、なおかつ互いに難儀したり負担が偏ったりすることのないよう、お互いを思いやる気持ちを持って勤務の割振りを調整しているそうである。
成熟した事業所だと感じた一面である。
障害者の体調は万全かどうか、なにか変化がないかどうかのチェックは決して怠らない。
具体例を以下に挙げる。
- 毎朝の朝礼時の点呼による確認
- 作業中外を問わず障害者の様子の観察
- こまめに声掛けを行い、それに対する反応を観察すること
- 昼食後の残飯の状況を見ること 等々
情報をオープンにし共有化することとし、隠して何も知らせないことが一番いけないことと指導している。労使が情報を共有化し、経営理念が浸透していれば、言われたことだけしかしない単なる指示待ち従業員ではなく、自分で考えて動く自立した従業員が育ち、モチベーションもアップ、生産性も格段に向上する。
要員計画にあっては、病状悪化に伴う障害者の一時離脱をあらかじめ織り込んだ上で少々多めの人員配置を考慮する。
経営分析をすれば、数値的には要員過剰という結果が出るかもしれないが、社長も臨時要員であり、予備要員である。
事業所内全員のコミュニケーションと事業所内の風通しをよりよくするため、全員参加のバーベキュー大会(夏場)及び忘年会(年末)を行っている。
どちらも幹事役(毎年交代)を中心に企画から運営まで全てを従業員の手で行っている。会社からは費用の一部を補助し、平瀬社長は個人として、忘年会恒例の福引抽選会の景品を提供しているそうだ。
「法律があるのは、法律がなくてもよい国にするためにある」であり、法律を遵守しさえすればよいというものではない。何を実現するために、何を保護するためにその法律が存在するのかという目的をきちんと理解したうえで法律を守ることが大切である。職場のルールも同様で、ただ堅苦しく、がんじがらめにするだけではだめで、勤務も長続きしないから、目的をきちんと伝えてルールを守ってもらうことが肝要である。
障害者から退職を申し出てきたときは、最初は基本的に退職を認めない。辞めたい理由などを丁寧に聞き取るとともに、勤務継続を求める。再び退職の申し出があった場合も同様である。
3度目の退職申し出があって初めて、退職を認める方向なのだという。その際も、本人はもとより、家族や主治医の意向や意見を十分考慮して総合的に判断を下すことにしている。(もちろん、常日頃から家族や主治医とのコミュニケーションを密にしておくことがベースにある。)
平瀬社長によれば、新しく障害者が入ってきた場合、2年間の猶予期間を考えているという。
その2年間というのは、周囲が当該障害者固有の障害特性をよく理解するまでに要する期間であり、障害者が職場に溶け込み、職業に従事する生活リズムを確立させるまでにかかる期間である。そしてこの2年間のうちに、障害者はもちろん、それ以上に障害のない者自身が変わってくるのだという。
ちなみに、当事業所の勤務時間は、始業時刻:8時30分、終業時刻:15時30分、休憩:60分間であり、定年は70歳である。
1日の所定労働時間が短いところは精神障害者向きだと言えるし、60歳以降の再雇用制度や勤務延長制度に比して、70歳定年ならば、安心して長く職業生活を続けることが可能である。
(2)ハード面における配慮・対応
「1-(1)事業所概要」で紹介したように、当事業所は平成21年に現在の所在地へ新築移転した。
移転前の事業場では、障害者雇用に対応するためにさまざまな点の改善、改修を行なったが、移転にあたっては最初からこうした障害者対応部分を組み入れ、さらに、より障害者の動線を考慮した設計施工がなされたため、従前以上に充実したハード面を実現するにいたった。
① 静養・相談室の設置
長時間連続して労働を行うことが困難である者に対応するために設けられた部屋である。彼らが勤務時間の途中において、いつでも好きな時に自由に(自分のペースに応じて)、他人の目を気にすることなく休憩できる空間の確保を目的としているため、作業場や食堂とは別室となっている。
その利用は基本的に障害者個々人の自主的判断に任されていて、自身の状態及び業務量やその進捗状況を考慮しながら使われているようである。もちろん、カウンセリングや面談(相談、指導)にも利用され、障害者が気兼ねなく、また安心して利用できる環境になっている。

② 食堂の設置
食堂は、例えば老人施設のデイルームのように明るく楽しく過ごせる場所、リラックスできる空間でなければならないとの考えから、外光をたっぷりと取り入れることができ、余計な装飾は一切ない極めてシンプルな、しかしゆったりと余裕を持たせた造りになっている。
昼食は、隣接するNPO法人(当事業所の関連法人)で調理されたものが毎日出されている。9品目以上の食材を用いた汁物つきのお弁当で、主食はお代わり可能である。
障害者も障害のない者も同じ職場で働く仲間として、一緒になって「同じ釜の飯を食う」といったところであるが、ここで過ごす時間は社内コミュニケーションに役立つと考えている。
食堂には健康器具も常備されており、さらに勤務中に体調が悪くなった者、疲労を感じた者が速やかに休息を取ることができるよう、アコーディオンカーテンで仕切ったその奥にベッドを備え付けている(下記写真参照)。

③ トイレ
トイレは広く明るくなければならないとの考えに基づいて造られている。
職場で過ごす時間においても、治療のための服薬が欠かせないため、どうしても水分摂取量が多くなり、必然、排尿の回数も多くなる。
食材を扱う仕事なので衛生面の管理が重要であるのは当然だが、とりわけ当事業所の食材は患者や高齢者などいわゆる「弱者」が口にするものであるだけに、通常よりもさらに高度な衛生面の管理が要求されている。
そのため、作業場では作業用雨靴を着用し、トイレは専用スリッパに履き替えて使用することを徹底しており、それが同時に衛生管理意識の向上にも一役買う形になっている。


④ その他衛生面に関すること
手洗いについては、開け閉めが簡単なレバー方式、石鹸、殺菌消毒液、温風乾燥機を備え、作業場前の手洗い場には手洗い手順を写真入りで示してある。


3. 障害者の業務内容、障害者雇用の理念、今後の課題(=夢)
(1)障害者の業務内容
当事業所における業務の流れは、簡単にまとめると次のようになる。
① | 医療機関毎、福祉施設毎に受けた注文を食材別にまとめ直す。 |
② | 各食材を魚市場や青果市場などで買い付け、仕入れる。 |
③ | 青果は、一つひとつを選別、計量のうえ、注文先別/品別に袋詰めし、これを得意先の名札が貼られた各コンテナへ詰め合わせる。 鮮魚は、これをさばき、骨を抜き、切り身に加工して真空パック詰めし、青果同様注文先毎に保冷剤を入れた発泡スチロール製の容器に詰め合わせる。 |
④ | 自社便や運送会社のトラック便で配達納品する。 |

配送待ちの青果

鮮魚の切り身
こうした作業の全ての過程において障害者が活躍している。
また、こうした作業をミスなくスムーズに行う為に、注文・発注・仕入れ・請求書など伝票類の処理にはパソコンを用いているが、ここにも障害者が従事している。


(2)障害者雇用の理念~障害者雇用が成功している秘訣~
① 当事業所で障害者雇用がうまくいっているのはなぜか。
取材を通して感じたのは、当事業所は障害者雇用の特にソフト面において成熟した事業所であるということ、障害者を受け入れる態勢や風土がかなり高度な水準で出来上がっているということだ。
だからこそ、特例子会社でもない小規模の事業所でありながら、従業員の半数を障害者が占めるという状態を実現できているのである。
当事業所のような態勢を構築し、維持し続けることができれば、業種や規模等々にかかわらず、どの事業所でも障害者雇用が可能になるのではないかと考える。
② どのようにして、こうした態勢(風土)が作られたのか。
参考になると思われる平瀬社長の話を以下の通り箇条書きで紹介する。(障害者雇用理念というより雇用全般に通ずる経営理念となる。)
- 障害者が寄り添ってきたときに、絶対にはずさない(逃げない)。
- 障害者に対し、怖がる・嫌がる・(できないだろうと)決め付けることが最もだめなこと。
- 障害者と一人でもつきあってみなさい、そうすればわかる。
- (従業員の)いいところを見つければ、いい仕事が与えられる。
- 障害者とどのようにつきあっていくかと考えたことはない、常に人間対人間のつきあいはどうすべきかと考えている。
- (障害者に対し)人間としての生き方を一緒になって考えてあげることが大切。
- 人は上(高み)を目指さないと進歩がなくなり、そこで終わり。
- 常に自分を向上させる気持ちを持ち続けることは、障害のない者にも障害者にも必要不可欠なことである。(だから、障害者にこの仕事はできないと決め付けることを嫌うのである。)
- 単に仕事を振り分けて与えるだけではやがて必ず不満が出てくる。チャレンジする(=高みを目指す)から仕事は楽しいのであって、可能性にふたをせず、いろんな仕事や業務にトライする機会を与えることが重要。
- 障害者を「保護」するという考え方、あり方はよくない。
- 障害者雇用は就労支援ではない。
- いわゆる福祉を行なっているつもりはない、ただ会社をやっているだけ。
- 障害者には、(量的にも質的にも)もっと仕事がやりたいと考えている人が多い。その気持ちを尊重することが大事である。
- 指示・命令では、人は必ずしも心から動かない。上からではなく横からの目線、上下ではなくフラットな横の関係が大切である。
- 障害のない者も障害者もみな仲間。職場というのは、その仲間と長時間一緒に過ごす場所だから、楽しい場所、明日も行きたくなる場所でなければならない。
- 社長とは会社のサービス部門である。仲間が働きやすい職場にするためにはどうしたらよいかを常に考え、実行する部門である。
③ こうした理念が結実した一つの事例を挙げてみよう。
先述「3-(1)障害者の業務内容」で紹介したように、伝票処理作業にはパソコンが用いられている。従来は、これを障害のない者だけで担当していた。
そのデスクの隣に意図的に予備のパソコン一台を置いておいたところ、障害者が隣で行われている伝票処理作業に興味を持ち始めた。始めは見よう見まねで手伝っていたが、徐々に積極的に教わるようになり、今では一人前の担当者になったのである。
知的障害者や精神障害者の特徴にうまくはまったケースだが、機会さえ提供すれば障害のない者を見本にしながら障害者も業務ができるようになる例だと言える。
(3)今後の課題(=夢)
従業員を育て、戦力になってもらうまでには時間と費用がかかるわけで、定着率が低い、すなわち従業員の入れ替わりが激しい事業所にあっては企業の成長は非常に困難となる。
新人が一人前の従業員になり、やがて事業所を支える幹部に育っていくことこそが事業継続に最も必要なことの一つであると考えるが、平瀬社長はそれを認めつつもこう語る。
「マル平での勤務を通して成長し、もっと大きなステージを目指すための退職であれば、それは一向に構わない。ここを『踏み台』にして羽ばたいていくのであれば、素晴らしいことだ。障害のない者ではなく、障害者にそうした人が出てきて、さらにその中から創業する人が出れば、これはもう最高じゃないでしょうか。」
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