一度に15人の知的障害者を雇用—全員定着理由は周到な準備と差別のない社風—
- 事業所名
- アステラスビジネスサービス株式会社
つくば御幸が丘(みゆきがおか)事業所 - 所在地
- 茨城県つくば市
- 事業内容
- 屋外清掃、機密文書廃棄、廃棄物回収等のサービス、花卉(かき)・植樹苗栽培
- 従業員数
- 平成23年9月末現在 約200名(全社)
- うち障害者数
- 28名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 13 内部障害 知的障害 15 屋外清掃、機密文書廃棄、廃棄物回収等のサービス、花卉(かき)・植樹苗栽培 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要
アステラスビジネスサービス株式会社は、アステラス製薬株式会社をはじめ、国内のアステラスグループ各社を顧客として、人事・総務・購買・設備・研究支援の実務サービス機能の集中化や業務プロセスの改善を通じて、効率化・均質化された適正なサービスを提供している。
今回ご紹介する「つくば御幸が丘事業所」は、茨城県つくば市にあるアステラス製薬株式会社つくば研究センターの一角にあり、同センターにおける上記サービスの他、屋外清掃、機密文書廃棄、廃棄物回収等のサービス、さらに花卉(かき)・植樹苗栽培も行っている。
アステラスビジネスサービス株式会社の障害者雇用は、同社がアステラス製薬株式会社の各事業所のサービスを提供している関係もあり、これら事業所に付随する形で進めてきている。
一大転換は、平成23年4月。障害を持つ人たちの就業機会を思い切って広げようと、筑波にあるアステラス製薬株式会社つくば研究センターの一角に「つくば御幸が丘事業所グリーンサプライ支援室」を新設した。ここ筑波は、アステラス製薬とは、とくに“深いかかわり”がある。実は、臓器移植に欠かせない世界的に有名な免疫抑制剤タクロリムスが、かつてこの筑波山麓の土壌から発見されたのである。
これまで雇用してきた障害者は、全員肢体不自由の人であったが、「つくば御幸が丘事業所」で初めて知的障害者を雇用した。しかも知的障害者のみなさんは、グリーンスタッフとして15名も一度に採用され、知的障害者雇用の要の職場となっている。
現在、和栗三雄室長の下、室長代理、管理スタッフ3名が業務配分案を作成し、グリーンスタッフに対して幅広いサポートを行っている。
2. 取り組みの内容
(1)障害者に適した仕事は、かならずあるという信念と事実
障害者に向く適当な仕事がないという会社が多い。しかし、支援室を立ち上げたプロジェクトチームは、これだけ大規模な研究センター(19万㎡、東京ドーム4個分の土地に1,200人の頭脳が結集)の中には、「障害者に適した仕事はかならずある」という信念の下、いろいろな切り口から「知的障害を持つ人たちに適した仕事」を徹底して洗い出した。
その結果、新規業務として、湿式シュレッダーを用いた機密文書の廃棄業務(徹底した分別作業を含む)、花卉(かき)や植樹苗の栽培等、また、外部に委託していた落ち葉やグレーチング(側溝の蓋)の清掃や雑草の引き抜き、リサイクル廃棄物の回収作業等を行うようになり、知的障害を持つグリーンスタッフ15人の仕事をつくり出したのである。
(2)知的障害者15人を一度に採用し、全員定着の理由
知的障害者15人(男13名、女2名)を平成23年4月に一度に採用し、1年経過の現在でも全員が定着している。出身は、特別支援学校8名、茨城障害者雇用支援センター5名、就業・生活支援センター2名。障害のない人でも15人も一度に採用すれば1、2名は退職するのが当たり前の世の中であるが、なぜ全員が定着しているのか?
① 周到な準備で周囲の人の理解を得る
障害者が中途で退職する理由として、同じ会社で働く障害のない人から投げつけられる心ない言葉に端を発することが多い。つくば研究センターに働く良識あるみなさんは、そういう心配はまったくないが、知的障害者の気持ちを十分理解していただくことは必要なことである。そこでグリーンサプライ支援室設置の前から、つくば研究センターのみなさんを対象として知的障害者受け入れのための情報提供や啓発イベント(講演会等)を継続的に行った。
また、支援室設置後、障害者と障害のない人が一緒になって構内の「どんぐり拾い」の交流イベントを行い、ノーマライゼーションの浸透をはかった。「どんぐり拾い」は、筑波山再生のためのイベントでもある。世界的に有名な免疫抑制剤タクロリムスが、筑波山麓の土壌から発見されたと前述したが、その筑波山が荒廃してきており、その再生のためにどんぐりから育てた植樹苗を毎年植えるという活動に、アステラスは参画している。
これらの情報提供、啓発イベント、交流実績等により、知的障害者に対する知識の不足からくる不安は、ほとんど解消されている。


② 設備の新設
親会社の負担で、花卉栽培業務が1年を通して行えるようガラス温室(約200㎡)を新規に設置した。
ガラスの温室内は、冬でも春らんまんであり、ここからアステラス製薬の本社や各事業所に「春」を提供している。また、東日本大震災で被害を受けて仮設住宅で生活するみなさんにも、平成23年11月から継続的にサッカー日本女子代表チーム「なでしこジャパン」の象徴である「なでしこ」の花を含め、時季に応じた花を無償でお届けして喜ばれている。
このほか、20名強を収容できる居室内装工事、居室周辺のバリアフリー工事を実施した。また、一般のシュレッダーは、紙を細かく裁断するので繊維が切れ再生用途が制限されるが、湿式シュレッダーは、紙を水で濡らしたうえで粉砕する方法なので繊維が長いまま保たれ、幅広い再生紙の材料となるので、これを新規に購入し、環境負荷に配慮した機密文書廃棄システムとして運営している。なお、購入の際には、第1種作業施設設置等助成金を活用している。



③ 安全対策
安全対策として、作業の行程改善や安全具の導入、危険予知訓練などを行うと共に安全に作業をするための掲示や毎日唱和を行っている。また、集合型の研修として、安全配慮についての教育を実施している。
安全対策はどこまでやっても「これで万全」という状態には至りにくい。ひとりひとりの自覚が大切なのだが、時々集中が切れることがあるため、可能な限りサポートスタッフが目配りしている(見通しの効かない場所には監視カメラを設置し、モニターを通じて確認している)。安全な作業工程の開発とそのマニュアル化、そしてそれを周知することがサポートスタッフに求められていると感じている。
交通事故は無いが、自転車を安全に運転するための講習会(事業場全社員向けに実施された講習会で上映したVTRを用い平易に解説。ポイントは加害事故を起こすと多額の賠償金が請求される可能性がある)等を実施している。
④ 完璧な教育で、その成果は感動もの!
サポートしているスタッフがその場で注意をするOJTのほか、集合型の研修として倫理教育を実施している。また、茨城障害者雇用支援センターや特別支援学校の指導者と定期的にコンタクトして、個別面談等を行っている。
これらの教育が成果をあげていることは、グリーンスタッフの笑顔をそえた大きな声の挨拶を受けてはっきりする。しかも、だれに会っても、どこで会っても、何回会っても、同じように笑顔をそえた大きな声で挨拶をしてくれる。こちらもつい大きな声で笑顔をそえて挨拶してしまう。
なお、倫理研修は、和栗室長が15名のスタッフ全員に「アステラスのスタートに当たり」と題して行ったもので、大変参考になる。その内容を抜粋して以下にご紹介しよう。
組織で活動する時に大切なこと
- ルールを守る。
- 自分の健康に気をつける。(よく寝る・食事に気をつける)
- 約束を守る。(時間・やると決めたことはやる、やらないと決めたことはやらない)
- ケガをしないように気をつける。
チームワークを大切にすることとは?
- みなさんは、グリーンスタッフと呼ばれる15名のチーム。15名が協力し合い、助け合って仕事をするという気持ちが大切。
- そのためには、相手が困っているのか?喜んでいるのか?怒っているのか?疲れているのか?ということを考えることが大切。
- やさしい気持ちで相手を心配してあげる「こころ」を持って、みんなが気持ちを一つにして、元気で温かくて楽しいチームにしていきましょう。
チームワークを大切にするために必要なこと!
- 元気な挨拶は、「今日も元気に1日がんばっている」という気持ちを相手に伝える。
- はっきりした返事は、「わかって仕事をしてくれているな」と相手が安心する。
- 相手が嫌がることをしないように気をつける。
- 相手のこころを傷つけないように気をつける。(言葉づかいにも気をつける)
- 失敗したと思ったら、早めにあやまる。(隠さずにあやまれば、きっとゆるしてくれる)
もうひとつ心がけたいことは?
- 笑顔です!笑顔を忘れないようにしましょう。
⑤ 業務分担表で多能化を促進
グリーンスタッフ全員の担当業務を次のとおり一覧表にまとめている。
これは、一例であり、担当業務はもっと詳細なものとなっている。
色が付いている部分は、各自の責任範囲の状況を表わしている。
氏名
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文書
分別 |
機密文書廃棄
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花卉栽培
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植樹苗栽培(採取~播種)
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雑草引き
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発送業務
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湿式シュレッダー
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回収運搬
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種まき
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土づくり
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ホース灌水
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プランター植え込み
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ピッキング発送
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在庫管理
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A
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B
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C
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上記一覧表は、全員に配布されている。これによって自分が任されている業務の幅が一目瞭然となり、挑戦意欲が湧いてきて多能化の促進がはかられている。また、全員で取り組む業務(A・B・C全員が染まっている「文書分別」、「植樹苗栽培」、「雑草引き」)と一部のメンバーが担当する業務に色分けされているが、全員で行う業務は組織の一体感が醸成されることを期待して取り組んでおり、個々により違う業務は個々の適性を尊重し割り振っている。
⑥ 家族の協力
家族とも連携を取ってできるだけ多様な支援ネットワークを機能させようとしている。
また、お金の管理、栄養指導、健康管理、生活習慣を正しく身につける上で家族の協力は欠かせない。支援室と家族の情報交換は、よいことも、問題点もこまめに行い、共有することが重要であり、問題が出たらすみやかにタイアップして解決させることが大切だと感じている。
記録に残すことも重要であり、とくに様式はないが、必要に応じて連絡帳が職場と家族の間を行き来している。
3. 和栗室長の「今後の課題」

(1)雇用率について
アステラスグループとしてめざすべき雇用率は、2%である。すでにその水準は超えているものの、この水準を安定的に維持できるように障害者雇用に取り組んでいく。
(2)グリーンスタッフの能力の一層の向上のために
業務分担表で多能化を促進しており、実務的な作業はマスターしつつある。これら作業に加えて、書くこと、報告すること、観察すること、考えることについて経験を繰り返すことにより、能力向上することを期待している。この点は、知的障害者が苦手とするところであり簡単には実現できないが、現在も次のようなことを粘り強く継続実施しており、徐々に成果が出てきている。
① | 書くことに慣れるため、毎日の業務報告書を全員が作成している。(午前と午後に分けて、作業の内容を書いている)。また、目標値(時間や数量、ていねいさや安全、取り組み姿勢等)も記載している。 |
② | 話すことに慣れるため、朝礼では、その日の予定と注意事項について共有するだけだが、夕礼では、挙手により自ら業務報告を行うようにしている。 |
(3)社会人の自覚を持った人の養成を期待
技能の向上は実現しやすいが、社会人の自覚を持ってもらうには時間が必要である。日常、具体的な材料を取り上げながら根気強く指導を続けていかなければならないと思っている。この点については特別支援学校をはじめとして、障害者をサポートする各機関にとって共通した課題なのかもしれない。
(4)誇りを持って働く
グリーンサプライ支援室と同じ敷地内にあるつくば研究センターの研究員は、優れた薬品を見つけ出す頭脳集団であり、働く上で容易に社会の役に立っていると自負できると思う。もちろんこれは素晴らしいことであるが、グリーンスタッフの人たちも個々の役割を果たし働くということ、社会に参加し社会の役に立っているという点では同じである。上も下もない。
これからも社会の人のために役に立っているという誇りを持って、いい汗を流してほしいと心から願っている。
筆者からひと言
アステラスグループの教育が実践的であり、かつ半端でないことは、グリーンスタッフの挨拶からもよくわかる。
また、受付の女性の応対も立派を通り越して、すごいという感じである。受付は、会社の入り口と、建家の入り口にあるが、この応対がこれまで見聞きしたことがないほどていねいで、さわやか。応対しているだけで心地よくなってくる。
15人のグリースタッフの賃金は、全員最低賃金を上回っているが、そういうことだけでなく、こういうところで分け隔てなく働けるところが幸せなのだろうと感じ入った次第である。
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