能力や性格に適した仕事を見出してあげると、会社に貢献してくれるような人材になる
- 事業所名
- 岩手コンポスト株式会社
- 所在地
- 岩手県花巻市
- 事業内容
- 1) 産業廃棄物や一般廃棄物の運搬及び中間処理業
2) 廃棄物を活用したリサイクル資材の生産 - 従業員数
- 36名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 5 製品の袋詰め補助・積み上げ作業、木くずの選別作業、工場内清掃 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
平成元年3月に設立。岩手県内市町村の産業廃棄物(下水道汚泥・木くず)や一般廃棄物(し尿汚泥・災害廃棄物)の運搬、粉砕、混合発酵処理と、それらを活用したリサイクル資材の生産を行っている。
年々全国的に環境問題が叫ばれ社会的ニーズが増大する中で、同社では平成8年に増資、9年に新工場の新築と設備増強、10年に敷地購入、12年に増資と事業を拡大している。その時期には、新入社員募集とともに障害者の雇用も追加している傾向があるようだ。
生産工場では新しい発酵処理方式や微生物による消臭技術を採用し、現在では高品質の有機質肥料を大量生産することが可能になった。また、汚泥のコンポスト化で問題視されている重金属や有害物質についても定期的に専門機関に分析を依頼するなど、安全面にも配慮している。製品のうち代表的な「コスモグリーン」(農地還元肥料)と「リサイクル緑化基盤材」は、平成15年に岩手県再生資源利用認定製品に認定されている。
平成12年10月には当時6人の障害者を雇用していたことに関して岩手県雇用促進協会より、また、翌13年9月には岩手県知事より表彰を受けている。
(2)障害者雇用の経緯
平成6年、代表取締役の菅原専務が取り引き先の社長から雑談中に、「障害者でも、仕事の内容によっては能力を発揮できる人もいる」「その人に合った仕事を見出してあげれば、会社に貢献してくれるような人材になる」という話を聞いた。それまでも障害者雇用に関する基礎知識や理解を持っていた菅原専務は、「それならうちの会社でも採用してみよう」と考えた。そこで町内にある障害者支援施設「松風園」に相談に行ったところ、当時19歳だった男性を推薦・紹介してもらったという。3ヶ月間の現場研修ではまじめに働き、問題点もなかったことから、12月1日に正式採用。
その後、前述のとおり会社の業務拡大にともない、平成8年に2人目の男性を、平成11年に3人目、4人目の男性を、平成12年に5人目、6人目の男性を同じ「松風園」から採用している。
上記6人の内4人は現在も働いているが、それ以外に本人の意志で退職した障害者も2人いるという。総務部の中島陽司部長は「汚泥などを扱ううえ、力仕事も多いので、キツイ仕事だと思います。そのためどうしても仕事を嫌がって退職するケースはあります」と説明する。ちなみに同社で、工場作業担当やトラック運転手を募集・採用しても、離職率がかなり高いという。それに比べ、4人の障害者たちはそれぞれ17年間、16年間、13年間、12年間と長く働いている。「しかも彼らが作業している工場は、においがしたり室温が高くて暑い。そんな中で本当によく勤めていると思う」と中島部長は感心している。
昨年4月に採用された5人目の男性は、そのような退職者の補充として採用された。「松風園」に適当な人材がいなかったため、そこから紹介された地元の支援学校から推薦された学生だった。
2. 障害者の従事業務・職場配置、取り組みの内容
(1)障害者の従事業務・職場配置
同社で採用しているのは全員知的障害者なので、木くずの選別作業、リサイクル資材製品の袋詰め補助、袋のパレットへの積み込み、工場内清掃といった作業を担当させている。木くずの選別作業は具体的には、破砕機から出てくる木くずをふるいにかける作業で、危険をともなうことはない。
これらの作業は日によって作業がない場合もあり、また個人によって得意・不得意があるので、担当を固定せず、ローテーションを組んで行っている。
同社の作業は大型重機や機械を使うものが多く、危険をともなう。そんな中で彼らに担当させるのは、単純作業で多少間違ってもケガをする可能性がないこと、周囲を大型重機が走り回る環境でないこと、などを考慮している。
一方で、彼らが担当する作業は、重いものを運んだりにおいが強いものを扱ったり、掃除をしたりと、一般的には敬遠されがちな作業でもある。しかし、彼らは大変まじめに作業に取り組み、勤続年数も長いことから、会社に貢献できる人材となっているといえる。
(2)取り組みの内容
最初の6人が採用された頃、中島部長は同社にいなかったため(4年前に中途入社)、入社時の取り組みの詳細は不明だが、現在10年以上のキャリアがある4人はそれぞれ、2~3ヶ月間の研修期間を経て入社している。今では仕事の内容をすっかり覚え、まじめに働いている。
昨年雇用した男性については、他の4人と比べて若いことと身体が小さく線が細いことから、ベテラン社員を一人マンツーマンでつけて作業を教えているという。このベテラン社員は50歳代で、同社の社員の誰もが認める温厚な男性であり、大きな声をあげたり周りに不快感を与えることは決してない。中島部長曰く「気が短い人や性格が粗い人だとトラブルになる可能性があるので、みんなが『穏やかな性格』と認める社員を担当にした」そうだ。
ちなみに同社では、障害者の従業員も障害のない従業員と同じ給与体系で雇用している。そのため仕事をするうえで障害者だからといって甘やかすことはない。
ただ、前述のとおり敷地内では危険がともなう作業が行われているので、5人全員には傷害保険をかけている。というのも、たとえば大型重機が通る際に「通るからどけて」と声をかけても、すぐに反応できないことがあるからだ。「事故を未然に回避するのが一番なのですが、それだけでは不安なので」と中島部長。
それ以外でも、同社では様々な配慮や取り組みを積極的に行っている。
一つは、「松風園」や支援学校、家庭とのまめな情報交換だ。「松風園」から紹介された4人のうち3人は、入社後「松風園」が運営するグループホームに住んでそこから通っている。そこで、帰宅後や出社前にグループホームでは変わった様子がないか気にかけてもらい、少しでも気になることがあれば会社に連絡してもらうようお願いしている。逆に同社でも、会社で何かトラブルがあった時には連絡し、帰宅後の様子を注意して見てもらうこととしている。こうして早めに対処することで、大きなトラブルを未然に防ぐことができるのだという。
また、昨年支援学校を卒業して入社した男性についても、学校の先生が3ヶ月に1回程度の割合で様子を見に来てくれる。
さらに、1年に1回、同社の担当者と「松風園」のスタッフ、5人の家族が同席する「意見交換会」を開催し、情報交換を行っている。5人の家族全員が毎回揃うことは少ないが、声かけはしているという。実はこれは5年ほど前に家族から、「子供が他の社員にいじめられているようだ」と言われたことがきっかけだった。中島部長は「私が知っている範囲ではそうした事実はありませんが、現場はどうしても言葉が荒っぽくなるので、たとえば『ヘルメットをかぶれ!』と大声で注意されたことを、怒られた、いじめられた、と感じるケースもあるようです。言われた障害者はその場では落ち込むようですが、翌日になると忘れていつもどおりに働いているので、その日だけに限ったことも多いのではないでしょうか。そうした誤解を解くためにも、職場での様子をお話しするなど情報交換の場をもうけているんです」と説明する。
そんな中島部長は、ふだんから彼らの仕事の現場を見回って声をかけるようにしている。これも一つの取り組みといえる。「1人目の男性は飲み込みが悪いがいったん覚えると黙々と働く」、「2人目はオールマイティーに仕事をこなすが、ちょっといい加減でおしゃべりが多い」、「3人目はあまり話さないがリーダー的存在で、トラブルになりそうだとなだめたりしている」など、全員の性格や能力をよく把握している。また、今年の夏は暑い日が続き工場内の室温も高いので、ジャグに大量の麦茶を作って作業場に置き「1時間に1回は飲めよ」と声をかけている。「のどの乾きを感じる前に水分をとる」ことを理解しにくい障害者が熱中症などにならないよう、配慮している。
3つめは、障害者の送迎用のワンボックスカーを走らせていること。同社は事業の特性から国道や県道から離れた里山に立地しており、公共バスも通らないため、自家用車以外の通勤手段がない。そこで車の免許を持たない障害者たちを、会社所有のワンボックスカーで送迎しているのだが、昨年まで、走行距離が15万㎞以上という老朽化した車を使っていた。しかし故障が多く修理費もかさむことから、昨年助成金を活用して新車を購入、障害者たちも快適に通勤できるようになった。ちなみに助成金が利用できることは、一昨年の障害者雇用の研修会に中島部長が出席して知ったという。


声をかけるようにしている

3. 取り組みの効果
「その人に合った仕事を見出してあげれば、会社に貢献してくれるような人材になる」ということが実現した、と中島部長は言う。例えば、入社して12年目の男性は、肥料袋をパレットに積むのがとても上手く、「彼が積んだパレットはトラックに積んだ後も絶対荷崩れしない」とトラックの運転手や営業マンに好評なのだとか。「見た目には他の人が積んだ状態と同じなのですが、なぜか彼が積んだ荷物は崩れないそうです。もちろん最初の積み方は先輩から教わったと思いますが、そのあとは自分なりのやり方を確立していったと思います」と感心している。パレットへの積み上げ作業がある時には、必ず彼を配置しているという。
昨年入社した男性も、マンツーマンで教えてくれるベテラン社員のおかげで仕事を覚え、まじめに働いている。「障害のない社員だと、工場内の掃き掃除をなかなか一生懸命にやってくれないと思うのですが、彼は黙々とやってくれる。まじめで我慢強い性格の彼に合っているんでしょうね。会社としても助かっています」と感謝する。
また、施設や家族との情報交換により、「怒られて職場から逃げ出す」、「仕事に行きたがらない」、「無断欠勤する」といったトラブルはこれまでないそうだ。もちろん、職場の環境などに対する家族からのクレームもない。仕事そのものは一般的にはキツイ内容だが、他の社員と同じ待遇で給料をもらえることも、障害者たちにとっては励みになっているのではないだろうか。5人のうち4人が10年以上働いているということは、環境や待遇に満足していることがうかがえる。
中島部長の見回り・声かけも効果を発揮している。声をかけた際に「実はお腹が痛い」と言い出した人がいて、病院に連れて行ったこともあるという。また、昼食時など休憩中には障害者たちだけでかたまっていることが多いが、けんかなどの大きなトラブルもない。
障害を持っていても、無断欠勤や遅刻も少なく、手抜きをすることなく、一生懸命仕事に取り組んでいるため、会社にとって重要な戦力となっていると言える。

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