一人ひとりにあった雇用環境を創造し、喜びと満足と自立を提供している雇用事例
- 事業所名
- 株式会社タイヨウ
- 所在地
- 山形県山形市
- 事業内容
- 介護施設・サービス付き高齢者向け住宅・高齢者向け分譲マンション等
管理運営(事業所数16箇所) - 従業員数
- 384名
- うち障害者数
- 16名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 2 看護師・生活相談員 内部障害 知的障害 12 清掃・環境整備・食器洗い等 精神障害 2 清掃・環境整備・軽作業 - 目次
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社タイヨウは、高齢者の住まいの場や生きがいある豊かな生活のための支援を提供する福祉事業所を、山形市を中心に現在16か所運営している。
代表取締役の安藤氏は、これらの福祉事業を開始するにあたり、まずは自らが学び、支援の視点や、より良いサービスのための視点を持たなければならないという高い志から、福祉先進国の最新の取り組みを訪問学習し、社会福祉士や介護支援専門員等の資格も取得している。現在も、利用者や地域に求められる事業所を創造すべく、経営や支援の最前線で強力なリーダーシップを取りながら、先進的な経営展開を通じ、地域の福祉をリードしている。
「わが社はお客様と社員が喜びを共創できる立派な会社を目指します。」という経営理念のもと、お客様や利用者一人ひとりの喜びや満足を第一義とした経営を行っている。
さらに企業方針として、利用者だけでなく、社員本人やその家族の生活の質や生きがい向上等を目指すことを明示している点が特徴的である。
福祉事業所運営では、地域との繋がりを重要視している。災害時等に備え、全ての福祉事業所が地域住民と連携協力体制を構築している。また、『包括的連携に関する協定』を地域と締結し、地域が被災した場合に備え、福祉事業所が食料や飲料、毛布、簡易トイレ等を常時備蓄し、有事の際は地域住民を受け入れる機能を併せ持っている。実際に昨年の東日本大震災では、地域住民に施設を開放し地域福祉の向上に貢献している。実際、事業所に対する利用者やその家族、地域の満足度は非常に高く、働く社員の満足度も高い。この事が示すものは、『利用者、地域、従業員の喜びと満足度の向上』という経営方針が業績向上のための利用者本位等ではなく、それこそが経営の目的である、という企業姿勢の確かな成果である。
(2)障害者雇用の経緯
本部事務局の工藤氏は、雇用の経緯について「利用者はもちろんですが、社員としても人を受け入れていくのが、私たちの仕事だと考えています。」と話してくれた。採用にあたり重要なのは障害の有無ではなく、その人が同じ価値観と意思を共有し協働していけるかということ。まずはその人が事業所内で活躍できる条件を第一義として考え、『できる』条件があれば受け入れるのが事業所の姿勢である、と工藤氏。
最初の雇用は、平成18年に雇用した療育手帳を持つAさんだった。意識的に始めた障害者雇用ではなくハローワークから受けた相談が契機となった。この相談を受けた際も特に驚くことはなく、基本的な考え方は全く変わらなかったようだ。
Aさんの受け入れにあたり行った作業は、
① 事業所内の作業で、出来そうな仕事は何か。
② 安心して活動できる環境とは。
③ 継続した活動を支える関わりや、支援体制とは。
というものだった。職業柄、高齢者支援の専門性を持つ事業所ではあったが、障害者への支援として、その全てが有効とは限らないという懸念があった。そのため、これらの作業を丁寧且つ確実に行うために、障害者支援機関との協働を選択したようだ。
2. 取り組みの内容
(1)支援機関との連携
受け入れに際し妥協できない点があった。それは、本人の障害特性や作業適正を正しく理解することである。既述の3つのポイントも合わせて支援を受けられる機関として、障害者職業センターの機能を利用することになった。
職業カウンセラーやジョブコーチには、雇用前の職域調整や障害に関する理解、具体的な関わり方、雇用管理上のポイント等を示してもらった。また、現場の要求と本人の作業レベルにズレが出ないよう要求や評価目線の調整支援も受けた。初回以降も、障害者雇用時には毎回同様の工程で、個々の職場定着を図っている。
(2)事業所の取り組み
障害者の就業場所は事業所本部ではなく福祉事業所である。そのため、福祉事業所の増加に伴い雇用ニーズが発生し、社員数も大きく増加する。障害者雇用の根拠が義務的要素が強ければ、これまでの成功事例に倣い、ステレオタイプ的な雇用は可能だ。しかし、各福祉事業所の労働環境が全て同じではないことや、何より働く障害者自身が違うため、雇用の都度、支援機関との連携を図り個別調整を繰り返している。
また、雇用されている障害者全員と家族を対象とした『エルダ—会』という食事会を年1回開催し、当事者間の繋がりを深める機会を作っている。家族からも事業所をより身近に感じてもらえるよう安藤代表も必ず参加し、本人や家族との関わりを通じ、事業所支援のより良いあり方を検討、評価している。他にも、社員を対象にした勉強会を定期的に開き、代表が講師となってスタッフの専門性や意識向上等を図っている。
(3)雇用の状況
現在、株式会社タイヨウでは13事業所に16名の障害者を雇用しており、実雇用率は4%を超えている。その中から2件の雇用事例を紹介する。
① Bさん(20歳、女性、療育B)
Bさんが雇用されたのは平成23年3月。以前勤めていた事業所の閉店を機に、家族と求職活動を行っていた時、ハローワークの紹介で今の事業所と出会った。
雇用にあたり、ジョブコーチ支援を利用した。事業所としても開所初の障害者雇用だったため、Bさんが担う業務の切り出しから定着までのジョブコーチ支援が役立ったようだ。
作業内容は、以下Ⅰ~Ⅲである。
- 施設内廊下の掃除機がけやモップ掃除
- 共用トイレ4か所の清掃
- 洗面台2か所の清掃
施設を利用する高齢者とも明るく挨拶を交わし良好な関係を築いているBさんだが、居室内の作業は担当しないよう配慮されている。
初めは清掃作業に自信を持てなかったと話すBさんは、ジョブコーチに作業手順やスタッフとの関係性を確立するための支援を受けたと振り返る。職場に対する希望を聞くと、「今後も相談に乗ってほしい。」と話した。その言葉の中に、今日に至るまでの様々な苦労が隠れていると感じる。「作業で迷ったりしたときに、何回も同じことを聞いて良いのか不安だった」と話すBさんに、相談し、確認しながら働くことの大切さを助言してくれたのもジョブコーチだった。今では、苦しい時や辛い時に相談できる斎野ホーム長や共に働く仲間たちがBさんの活動を見守っている。
『人の役に立ちたい』という希望を持つBさんは、「これからもここで働いていきたい」と笑顔で話してくれた。そのためには、これからも丁寧な作業を心掛けていくことが大切だと気を引き締めていた。その目からは、責任感だけではなく、この事業所で働き続ける喜びや充実感も感じとれた。
② Cさん(20歳、男性、療育B)
発達障害で自閉的な特徴のあるCさんは、高校卒業前に障害者職業センターでの職業準備支援を利用した際、社会経験も乏しく就労経験もなかった事から、様々な経験を積みながらじっくりと就労に向けた準備を行う活動を提案された。そうして卒業後に山形市内のYC就労移行支援事業所の利用を開始した。その事業所を利用中、障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターとの連携の中から株式会社タイヨウの取り組みを知り、YC事業所がCさんの受け入れ調整を行ったことが雇用の契機となった。
株式会社タイヨウとしても、発達障害や自閉という障害を受け入れるのは初めてだったため、受け入れに際し障害者職業センターとYC事業所と連携し、職域調整や障害特性等の理解を深めた。さらには、ジョブコーチ支援も従来の配置型ジョブコーチのみではなく、YC事業所の第1号ジョブコーチとのペア支援を組むことで、本人や事業所にとって、より安心できる布陣で支援開始したのも特筆すべき点といえる。
「本人の特性に配慮し、できるだけ曖昧な要素のない定型作業を模索しました。」とキーパーソン役を担う武田ホーム長は話す。「本人からの関わりは殆どない。このような障害特性への理解や配慮は当然ですが、同じ人間、同じ仲間として迎えるにあたり、まずは日常の関わりの中で互いの関係性を築きたかった。」と受け入れ当初を振り返る。
この先も劇的な変化はないでしょうと前置きしたうえで、「高齢者との関わりの中に、本人なりの気付きや気配り等も芽生えてきている。そんな様子が見られるようになった。」と嬉しそうに話してくれた。その点Cさんは、「がんばっています。」と発言するだけで、自分の活動にピンと来ていない様子ではあるが、社員や利用者との関わりや懸命に働く毎日が、喜びや自信に繋がり、自己認識できない無意識の中で、自分を確かに育んでいるのだろう。
3. 今後の展望と課題
安藤代表は、「雇用を受け入れることで、生活の自立を支援したい。ここの給料で十分な自立を果たせるようにしたい。」と話してくれた。現在の限定的職域での就労から、可能性を広げるための支援や新たな職域開拓を支援し、障害者もステップアップできる職場を目指している。本人の意欲や希望に応えるためには事業所の努力と支援機関の協力が不可欠であるとした上で、「本人の枠を決めて職場定着させる支援だけでなく、外部支援者にはステップアップニーズに応えるための積極的な支援機能を期待したい。」という代表の話が印象的だった。
新たな職域については、直接的な介護ではなく介護補助を検討しているという。確かにヘルパー等の資格を取り介護補助に従事する雇用事例は多い。しかし、介護補助とはいえ経験則による柔軟な対応を要する支援や介護という職域では、単なる資格だけでは対応できない局面も多い。現場のスタッフもサービスの質は妥協できないポイントであり、今後の雇用にあたり、職域や作業要求レベルの設定はもちろんだが、介護スタッフとのコンセンサスが重要となると考える。
そこで、事業所内業務の殆どを自社社員が担っている点に目を向けてみる。例えば厨房業務なら、食器洗浄作業や洗浄後の食器管理業務等も十分に職域となり得る。また、リネンクリーニング部門も、食器洗浄同様に全国的に障害者雇用の職域となっており新たな職域として考えられる。これらの作業は、手順もある程度定型化できるので、障害者の職域に適している。ただし、調理作業や食品の盛り付け作業は難しい。また、クリーニング部門では洗濯物たたみ作業はまだ適応を図りやすいが、洗濯物を利用者別に仕分けする作業等は、十分に方法を検討する必要があると考える。
今後、事業所に期待したいことは、これまでの知的障害者中心の雇用から、求職ニーズが高い精神障害者や発達障害者などの雇用の受け皿となっていただくことである。新たな障害特性を受け入れるには新たな苦難等が発生すると思われるが、この事業所だから取り組める要素も多いと感じる。また、山形市近郊地域にとって非常に重要な社会資源となると思われる。
精神や発達障害者の職域としては、これまでの職域や既述の厨房やリネンも十分対応が可能と思われるが、事務部門等での可能性も見える。もちろん、どの職域でも対象者に合わせた合理的な配慮等が必要となるが、これまでと同様にジョブコーチや関係支援機関、就労移行支援事業所などと連携しながら、新たな領域を創造していってほしい。
また、今まで以上に雇用管理や新規展開を強化するために、雇用を管理する本部と現場を担うキーパーソン等で行う定例会議等があっても良いと考える。特に、新たな取り組みや受け入れる障害の拡大を図るとなると、福祉事業所単体の取り組みだけでは不安も大きく、担当スタッフの負担増も懸念される。この会議を持つことで、各事業所が抱える課題や取り組み、支援視点等の共有や、本部の運営計画等を示し、現場と一緒に可能性を探ることができれば、強い推進力となるのではないだろうか。
今後も株式会社タイヨウは、高い意識と方針のもと、山形地域の雇用をリードしていく事業所であることは間違いない。高齢者福祉事業もより幅広い事業を運営しながら、また運営するための形をとりながら、地域の障害者はもちろん、高齢者の雇用をも力強く支えている。私自身、今回の取材を通じて、この事業所から多くのことを学ばせてもらった。今後も株式会社タイヨウおよび関連法人の事業展開とその取り組みから目を離せない。
就労支援課 課長 ジョブコーチ 鈴木 宏
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