地域に根付き品質で勝負する世界のブランド
-気づけば障害者を雇用していただけ-
- 事業所名
- 株式会社サンヨー・インダストリー御山工場
- 所在地
- 福島県福島市
- 事業内容
- 高級メンズウェアの縫製
- 従業員数
- 180名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 4 縫製 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 - 目次

1. 事業所の沿革と事業内容、障害者雇用の概況
(1)事業所の沿革と事業内容
株式会社サンヨー・インダストリーは昭和39年(1964年)12月に西坂縫製有限会社として設立され、昭和50年(1975年)6月に西坂縫製有限会社の生産業務をバーバリースーツ縫製に転換し、昭和52年(1977年)1月に西坂縫製有限会社から株式会社福島サンヨー・ソーイングに営業を譲渡し、昭和52年(1977年)5月に現在地の御山工場に新社屋が完成し、現在に至っている。昭和50年(1975年)6月以来、英国バーバリー社との技術提携により、国内向けのバーバリーメンズウェア工場として、ハイグレードの紳士服を生産し、その品質の高さにはユーザーから厚い信頼が寄せられている。
その後、昭和63年(1988年)12月には株式会社サンヨー・インダストリーは福島市岡島工場団地にも進出し、御山工場と岡島工場の2工場体制となり、今日に至っている。株式会社サンヨー・インダストリーの創業は昭和39年(1964年)だが、設立は昭和63年(1988年)12月となっている。平成3年(1991年)5月には、株式会社サンヨー・インダストリーと株式会社福島サンヨー・ソーイングが合併し、規模を拡大し現在に至っている。会社は資本金1億円、年商8億円で高級メンズウェアの縫製を主な仕事としており、従業員は180名(パート10名を含む)を数え、現在4名の障害者(聴覚障害者)が正社員として働いている。
(2)障害者雇用の概況
① 障害者雇用の経緯と事業所の基本姿勢
株式会社サンヨー・インダストリーでは、昭和39年(1964年)の会社創業以来、当時の西坂縫製有限会社の創業者であった故・西坂定雄氏が障害者雇用に積極的に取り組み、最盛時には6名の障害者を雇用していたが、現在は4名の聴覚障害者が正社員として縫製作業に従事している。そうした会社の永年にわたる障害者雇用促進の功績により、昭和52年(1977年)には労働大臣賞を受賞し、翌昭和53年(1978年)には家内労働者に対する尽力により、労働基準局局長より優良事業所賞を受賞している。また、福島県繊維振興展においては昭和53年(1978年)から昭和57年(1982年)まで5回連続して、優秀企業賞を受賞し、あわせて福島テレビ社長賞や国際羊毛協会長賞、福島市長賞などを受賞するなど、数々の栄誉に浴している。
会社が障害者を雇用した歴史は古く、最長勤続36年の聴覚障害者を筆頭に最短の人でも勤続24年で、4名の平均勤続年数は30年を超えている(表1参照)。したがって、この4名の聴覚障害者は今では会社にとっては無くてはならない人たちばかりで会社にとっては大きな戦力となっている。重要なことは、障害の有無に拘わらず従業員個々人の特性や能力を重視して雇用し、適材適所で仕事に就かせていることである。こうした、会社の「特別視しない」当たり前の対応や配慮が障害者の長期にわたる就労を可能にしている。
こうした背景には創業者の理解もさることながら、地域に根ざし、地域に愛される会社を目指して、地域の中で障害者と共に生きるノーマライゼーションの理念を会社のミッションとして掲げていることにある。そのために会社は障害者雇用を特段に意識しているのではなく、結果的に障害者を雇用し企業としての社会的責任を果たしている。
② 障害者雇用の概況
2012年7月時点の株式会社サンヨー・インダストリーにおける障害者雇用の概況は表1の通りである。4名全員が聴覚障害者で、障害の等級は2級が2名、4級と6級がそれぞれ1名である。年齢構成は42歳から63歳までで平均年齢は55.7歳となっている。勤務年数は短い人で24年、長い人で36年となっており、平均勤続年数は30.8年となっている。仕事の内容は表1に示した通りで、全員が縫製部門で検査や品質のチェック、仕上げ等の熟練した仕事に従事している。表1からも分かるように、障害雇用者の高齢化に伴い、若手の補充、世代交代が当面の課題になっている。
表1 障害者雇用の概況(2012年7月現在)
性 | 年齢 | 等級 | 障害の概要 | 部署 | 業務内容 | |
A | 男 | 63 | 6 | 聴覚障害(勤続36年) | 縫製 | 検査(上着)、品質チェック |
B | 男 | 60 | 2 | 聴覚障害(勤続29年) | 縫製 | 仕上げ、アイロン、上着 |
C | 女 | 58 | 2 | 聴覚障害(勤続34年) | 縫製 | パットづけ |
D | 女 | 42 | 4 | 聴覚障害(勤続24年) | 縫製 | 袖付け、袖とじ |
③ 雇用に際しての会社の配慮
株式会社サンヨー・インダストリーでは、障害者の雇用に際して特段の配慮がなされているわけではなく、ごく普通の対応がなされている。必要に応じて相談にのったり悩みを聞いたりすることはあっても、特段に「障害者だから」といって配慮していることはほとんどない、と総務課長の内藤達也氏は強調されていた。強いて言えば、コミュニケーションの取り方くらいで、必要に応じて筆談を行うことはあっても、手話や手振り身振りで同僚や上司との意思疎通は出来ているとのことであった。そのためか、「どうしてうちの会社がモデル工場に指定されたのか分かりませんし、何度も(モデル工場としての取材を)お断りしたのですが・・・」と謙遜されていた。
会社を訪問取材し工場を見学した結果は、以下の2点に要約出来る。
- 適材適所
聴覚障害者なるが故にコミュニケーションの取り方については配慮が必要であっても、本人の適性や能力に合わせて適材適所で仕事に従事している。もちろん、誰が障害者なのか全く分からない仕事ぶりである。具体的な仕事内容としては、熟練を要する検査や品質管理から、アイロン、パット付け、袖付けなど、それぞれに高度な技術を必要とする要所で仕事に従事している。 - 特別扱いしない(最大の配慮)
障害者だからといって業務の遂行や労働条件面での特別扱いはしてない。職場での労働環境についても、何ら特別な配慮はなされていない(その必要はないと言い換えてもよい)。通勤手段も会社のマイクロバスや自家用車で通勤し、他の従業員と同様で何ら変わりはない。職場では通常の社員と同様にごく普通に当たり前に処遇されており、これが実は障害者への一番の配慮だといえる。障害者本人も「特別扱い」されることを嫌がり、望まないのである。周囲の人たちも敢えて「障害者」として特別な目で見る必要はなく、たまたま聴覚が不自由で、意思疎通に配慮が必要であるというだけで、同じ会社の従業員であることに何ら変わりはないのである。実際、ごく普通に地域に溶け込んで生活している。
このように「特別扱い」しないことが実は障害者への最大の配慮だといえる。
会社も本人も特段に「障害者」と意識してないところが素晴らしいといえる。「どうしてうちの会社が(モデル工場に)選ばれたのか分からない」と繰り返し言っておられた総務課長の内藤氏の言葉がとても印象的であった。
2. 「障害者」を意識しない対応、就労に必要な共通した人間的資質
(1)「障害者」を意識しない対応
株式会社サンヨー・インダストリーの障害者雇用で現在問題になっていることは、「ほとんどない」との回答であった。会社自体が障害者を雇用しているという意識がほとんどないので、当然の返答かも知れない。こういう質問をすること自体が会社にとっては心外なことだったかも知れない。「障害者雇用」を意識し過ぎる我々の認識が的外れなのかも知れない。障害者と言っても全員が知的障害者ではないために、障害者であるが故の問題や課題はほとんどないとのことであった。それだけに職場適応もスムーズで、外から指摘されて初めて、「そういえばうちの会社には聴覚障害者がいたなあ」くらいの感覚(認識)である。強いて課題を挙げれば、世界的に厳しい繊維業界の中で障害者雇用を維持していくためには、世代交代による若手の補充が課題になっている。
「障害者」を敢えて意識しないことは障害者雇用でとても重要なことで、雇用の経緯はともかく、たまたま結果として4名の障害者が就業しているだけである。会社も障害者だとの認識はほとんどなく、何よりも「普通の同じ社員」だと見ているのである。障害者として見るのではなく、たまたま障害のある「ごく普通の社員」として見ているのである。これは他の社員にも言えることで、同じ社員であることには何ら変わりはなく、ことさら障害や障害者を特別視する必要はないのである。会社全体で障害者を特別視することなく、ごく普通に対応していることが障害者本人の仕事への自覚と就労意欲を高め、それが長期の雇用維持に繋がっているといえる。
(2)就労に必要な共通した人間的資質
株式会社サンヨー・インダストリーを訪問して痛感したことは、障害の有無に関係なく、社会人として求められる資質として、仕事への「意欲」「熱意」、「明るい性格」と「協調性」、それに「根気・忍耐」が挙げられる。またこうした資質を養うためには、家庭教育や学校教育で、小さい時から「コミュニケーション力」「挨拶」「集団活動」や「対人(仲間)関係」といった基本的生活習慣やソーシャルスキルを身につけておくことが重要である。つまり、「人として」の生活の基本がきちんと出来ていることと、コミュニケーション力を身につけておくことが、障害の有無に関係なく社会人(企業人)として共通して求められる重要な人間的資質と言える。
会社訪問を通して、障害者と障害のない者の人間関係よりも、むしろ障害のない従業員同士の人間関係で悩むことが多いと総務課長の内藤氏は指摘されていた。障害者だからという理由でのトラブルはほとんどないとのことであった。女性従業員が多くを占める職場環境ならではの、人間関係を巡る問題で悩むことが多いと言っておられたのが印象的だった。やはり基本はコミュニケーション力と人間関係力であると言える。こうした力を身に付けさせるためには、家庭教育や学校教育で幼少期から成功感や成就感・達成感を多く与え、絶えず称賛して自信を持たせてあげることがとても重要である。また、「身だしなみ」や「礼儀作法(マナー)」、「対人関係」、「指示に従う」等々の生活習慣や性格特性を幼少期から養っていくことが重要であるといえる。こうした特性は障害の有無や職種を超えて、すべての職業人に必要とされる共通した人間的資質といえる。
これまでの筆者の経験や企業訪問を通して毎回痛感することは、雇用する側は共通して作業の「技能面(スキル)」よりはむしろ、「対人関係」「性格」「社会性」「作業態度」「基本的生活習慣」といった、「人間的資質」を重視しているということである。
3. まとめにかえて-特別視しないことが最大の配慮
障害者の就労には上司や同僚や周囲の人々の理解と協力が不可欠である。障害者の就労を可能にするのは、同僚や周囲の人の理解と配慮、上司の励ましや支援等で、これらが障害者雇用の成否を大きく左右する。障害者雇用を可能にし、職場適応を持続していくためには、会社内の雰囲気や温かい人間関係、上司や周囲の従業員の理解と協力、それに本人の努力が不可欠である。障害者自身も他人との協調性に富み、余暇時間やレクレーション活動等にも積極的に参加するなど、職場外の諸活動にもごく普通に参加していく必要がある。そして何よりも、障害者本人のチャレンジ精神、就労への意欲である。要するに障害者本人には、就労に対する「自覚」と「厳しさ」が、そして周囲の人にはそれを支える配慮と「優しさ」が必要である。
今回の会社訪問を通して改めて痛感したことは、会社が障害者雇用を特段に意識することなく、ごく普通に処遇していくことが障害者にとっては働きやすい職場となり、それは結果的に障害のない者にとっても働きやすい職場になっているということである。つまりは、障害者を特別視しないことが障害者への最大の配慮だと言える。
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