若い障害者に夢を与える職場
- 事業所名
- 株式会社クレハ環境
- 所在地
- 福島県いわき市
- 事業内容
- 廃棄物の収集運搬・処分、環境関連施設の設計・施工
- 従業員数
- 318名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 4 メンテナンス業務・特許管理・経理 内部障害 2 経理・プラント管理 知的障害 精神障害 - 目次

- ホームページアドレス
- http://www.kurekan.co.jp/
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
① 設立の経緯
「いわき市錦町はクレハの関連企業が多く立地する地域です。地元の人たちと共に発展していくことが、当社の企業理念になっています。」人事部人事課長の白旗保光さんは語る。無機質な廃棄物処理プラントの近くにある事務所に入ると、心を和ませる地域の民芸品である「飾り雛」が出迎えてくれる。「地元の皆さんが丹精込めて作ったものを飾っているのです。地域の人たちと共に、地域に根ざした会社にしていきたいと考えているのです。」市民総ぐるみ運動への参加や清掃ボランティアなど地域との交流には積極的である。
1971年、私たちにはクレラップでお馴染みの「呉羽化学工業」の関連会社であった「呉羽運輸」から工場内の荷受業務を行う会社として、前身である「呉羽梱包」が設立された。1977年には「福島県産業廃棄物収集・運搬・処分業」の許可を取得し、廃棄物の処理業務を開始した。1992年以降、全国各地に営業所を開設し、事業規模を拡大していった。2010年4月には神奈川県川崎市に「かながわ事業所」を開設し、いわきと川崎の2ヶ所で廃棄物処分関連の業務を行っている。「自然と人間との調和を保ち、子供たちに豊かな未来を残すためにも廃棄物の適正処理は私たちの大切な使命と考えております。」と白旗課長は胸を張る。
② 事業の現状
事業所は上記の通り、いわき市の本社および川崎市のかながわ事業所2ヶ所だが、仙台から名古屋まで4ヶ所に営業所を構えている。また、北は北海道から西は大阪まで、ほとんどの都道府県にて廃棄物処分業ならびに収集・運搬業の許可を取得しており、広範囲の業務に対応している。社員数は318名と、事業規模に比較してさほど多くない。
「処分場の中は機械化が進み、収集・運搬や機械のメンテナンスには人の手がどうしても必要なのです。」4,000坪ほどある施設には化学工場を思わせる大型プラントが据え付けられており、そのメンテナンスは事故防止の意味でも怠ることは出来ない。現在、全社で障害者の雇用は6名(肢体不自由4名、内部障害2名)となっているが、その全員がクレハ環境の管理職やスペシャリストであり、クレハ環境にとっては無くてはならない存在の人材である。プラントのメンテナンス業務にも1名の障害者(肢体不自由)が従事し、日夜、施設内の安全を保つべく障害のない者と同様の業務を行っている。


(2)障害者雇用の経緯
① 障害者雇用の経緯
「積極的に障害者を採用したわけではありません。ただ、どうしても会社にとって必要な人材を求めたところ、たまたま、その人に障害があったというだけのことなのです。」白旗課長は苦笑いをする。募集や採用に当たって障害のない者だからとか、障害者だからという分け隔ては一切無い。その結果が、障害者といえども、管理職やスペシャリストといった会社の重要な役割を担うポストにこれだけの人数のスタッフを雇用することができたのであろう。
② 障害者雇用の現状
「Aさん。あなたには是非、かながわ事業所の工場部門の責任者になってもらいたい。何とか承諾してください。」
2009年の秋、神奈川県川崎市にある財団法人かながわ廃棄物処理事業団との譲渡契約を締結し、事業を継承することは、会社にとって一大事業であった。
「かながわ事業所」と名づけられたこの施設の立ち上げにあたり、社長の福田弘之さんはAさんを説得した。
2010年4月に「かながわ事業所」を稼動させ、事業を拡大させることは、これからの会社の発展の大変大きな礎となるものであり、福田社長にとっても最重要課題であった。元々、Aさんは財団法人かながわ廃棄物処理事業団時代、この施設の責任者として携わっていたが、60歳を迎え、リタイアを考えていた。
理由は年齢のことだけではなかった。Aさんの心臓にはペースメーカーが埋めこめられているからであった。「福田社長、お言葉はありがたいのですが、私はもう歳ですし、しかも障害者なのですよ。私の出番はもう無いのではないですか。」Aさんは福田社長の申し出を頑なに固辞していた。
しかし、福田社長は諦めなかった。「当社には、Aさんのように障害を持ちながら働いている管理職が何人もいます。彼らの働きが若くして障害を持ってしまった人たちの希望の星となっています。障害を持っていても、能力や技能があればハンデキャップにはならないのだと。Aさんも若い障害者の人たちに夢を持たせる意味で、もう一度考え直してください。」
数日後、社長の熱い言葉に心を動かされたAさんは「かながわ事業所」の工場部門の責任者の仕事を快諾した。今年63歳を向えるAさんは連日、精力的に仕事をこなしている。そして、障害を持つ若者へ常に無言のメッセージを発しているのだ。
Aさん以外にも、クレハ環境には5名の障害者が従事している。いずれも重要なポストの人材ばかりである。
彼らの働く姿は、生まれもって障害を持った人たちや若くして障害を持った人たちの目標となるであろう。がんばれば障害のない者を超えることが出来るのだと。

2. 取り組みの内容
(1)雇用管理
「それじゃ、お先に。忙しいところ悪いね。」「後は任せてください。お疲れ様でした。」経理部経理課では毎週このような挨拶が、終業の定刻である午後5時になると聞かれる。経理課長のBさんが重い腎臓病を患い、人工透析を始めてもう数年が経つ。
1週間に3回、かかさずに通わなければならない人工透析は、日中働かなければならない社会人にとって大変大きい負担になる。Bさんも透析を開始しなければならなくなったときには、正社員としての雇用は厳しいと感じていた。「いわき市内にも午後6時から夜間透析をやってくれる病院がありますよ。」知人からこの話を聞いたBさんは「これなら仕事を続けられるかもしれない。」かすかに明るい兆しが見えてきた。
わが国で2011年末に慢性透析療法を実施している患者数は304,592人で初めて30万人を超えた。数としては前年度より6,340人の増加である。また、この16年で患者数は倍になった。しかも、60歳以下の働き盛りで腎不全を患うケースが増加しているのだ。夜間透析はこのような働きながら人工透析を受ける人たちにとっては無くてはならないシステムである。
「私は障害者という認識は特に持っていません。仕事も他の人と同じように出来ますし、体調も悪くないですから。」とBさん。しかし、経理という仕事柄、決算期などはかなりの仕事量があり、その中での夜間透析は同僚スタッフの協力なくしてはありえない。「仲間には大変、感謝しています。」このチームワークの良さが雇用管理の基になっているのであろう。
クレハ環境では、一切、障害者だからという分け隔てをしていない。雇用管理の面においても、給与・賞与・評価などすべて障害のない者と同じ扱いをしている。そのことが、より良いチームワークを醸しだし、すべての従業員のモチベーションアップにつながっている。
(2)企業理念
クレハ環境の企業理念は次のとおりである。
- 人と社会そして地球環境との調和を大切にする会社をめざして、たゆまぬ努力を続けます。
- 安全なサービスと商品を提供し、住みよい豊かな社会づくりに貢献します。
- 地域に根ざした会社として、地域と共に発展し続けます。
- 法令および社会的規範を遵守し、オープンな企業活動を通じて、社会から信頼される誠実な企業市民をめざします。
- 社員一人一人が互いの人格、個性を尊重し、創造力とチームワークを最大限に高め、魅力あふれる企業風土をつくります。
- 時代の流れを先取りした技術の研究と開発に、情熱を持って取り組みます。
自然と人間の調和を保ち、子供たちに豊かな未来を残すためにも廃棄物の適正処理は大切な使命だということが、社員全員に行き渡っている。この企業理念は障害者雇用にも通じるところが多々見受けられる。社員教育により、この企業理念が徹底され、個々の人格が尊重され、思いやりを持ちながら素晴らしいチームワークが醸し出されているのである。そのことは障害者雇用にとって最も重要なことであろう。
3. 取り組みの効果
(1)効果
「人と社会そして地球環境との調和を大切にする会社をめざして、たゆまぬ努力を続けます。」これはクレハ環境が掲げる企業理念の一節である。
クレハ環境には人や社会、環境に対する心遣いという理念がもともと備わっている。したがって、世の中の障害者雇用という考え方自体がこの会社では時代遅れなのかもしれない。
「障害者用のトイレはあるのですがほとんど誰も使わないんですよ。」白旗課長はまた苦笑いをする。障害者用のトイレを使用する使用しないは個人の自由である。使わなければならない人は使うし、使う必要がない人は使わない。
クレハ環境では障害者を障害者として別枠で考えることはほとんどしない。もちろん障害者に対する手助け等はどの社員も欠かさないが、それは手助けした相手がたまたま障害者だったというだけの話しである。障害のない者が障害者に手助けされるケースもあるし、むしろそのケースのほうが多いのかもしれない。それだけクレハ環境には障害のない者と障害者の隔たりが感じられない。
(2)今後の取り組み
一般的に障害者の雇用に関しては、企業が雇用の場を提供するだけでは解決しない問題がある。職場を離れた個人生活の支援が必要な場合も多く、雇用する企業がその全てに対応するには負担が大きすぎる。雇用を継続させるには家族の支援や、地域の支援、そして福祉サイドからの支援が必要となり、それぞれが果たす役割は違っていても、それが繋がれば大きな支援として「障害のある人が働く」ことに役立つ。
クレハ環境ではそんな一般論さえも吹き飛ばす企業風土がある。障害者が就労において「機会」が提供されているだけでなく、障害者が率先して就労できる「参加」型の企業風土である。この障害者に対する「機会」の提供だけでなく、「参加」できる雇用状態はこれから日本が目指す社会そのものである。
来年度の平成25年4月1日から民間企業における障害者の法定雇用率が現行の1.8%から2.0%に引き上げになる。すなわち50人以上を雇用する企業には最低1人の障害者を雇用しなくてはいけない計算になる。
また、企業規模にもよるが障害者法定雇用率を超えて障害者を雇用している場合は、その超えて雇用している障害者数に応じて障害者雇用調整金が支給される。逆に障害者法定雇用率未達成の事業主には法定雇用障害者数に不足する障害者数に応じて障害者雇用納付金を納付しなければならない。
一般の民間企業はより一層障害者の雇用に力を入れるようになるであろう。また、法定雇用率を達成しようと焦燥する企業もあるのかもしれない。しかし、クレハ環境は今まで通りの企業理念、スタイルであればこれからどれだけ法定雇用率が引き上げになろうとも自然と法定雇用率は達成される。
これからは法律で定められているから障害者を雇用するとか障害者雇用調整金の支給される又は徴収されるから雇用するといった理由ではなく、社会全体で障害者を雇用したくなる、障害者が職場で働いていることが自然に感じられる環境づくりが障害者雇用において必要とされる。
まさにクレハ環境がそんな会社であると言える。筆者はそういう会社が増えることを切に願っている。すこしずつではあるが、障害者を取り巻く環境が整備され、雇用の機会も拡大していると実感している。
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