支援機関との連携で段階的に障害者雇用を推進した事例
- 事業所名
- 医療法人社団愛友会 上尾中央総合病院
- 所在地
- 埼玉県上尾市
- 事業内容
- 医療 総合病院
- 従業員数
- 1,554名(平成24年8月現在)
- うち障害者数
- 16名
障害 人数 従事業務 視覚障害 2 事務業務(パソコン入力等) 聴覚障害 1 事務業務(パソコン入力) 肢体不自由 4 事務業務 内部障害 4 事務業務、検査技師、作業療法士他 知的障害 1 洗濯室業務 精神障害 4 事務業務(パソコン入力等) - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
医療法人社団愛友会上尾中央総合病院は埼玉県のJR高崎線上尾駅から徒歩5分の場所に位置し、昭和39年12月に11床の上尾市立病院を前身として開設された。
「高度な医療で愛し愛される病院」という理念のもと、地域住民の信頼と支持を得て発展してきた。現在では753床の急性期医療を中心とした総合病院となり、今や人口22.7万人の上尾市のみならず埼玉県県央保健医療圏の中核病院として重要な役割を果たしている。
また、首都圏を中心に27病院、20介護老人保健施設を有する上尾中央医科グループの基幹病院として、高度最新医療機械を積極的に導入し、日本医療機能評価、ISO9001:2008、プライバシーマークなどの第三者評価を取得し、医療の質の向上、患者本位の医療サービスの提供を心がけている。
平成23年新館完成に伴い、リニアック(放射線治療装置)を導入、埼玉県がん診療指定病院となる。平成26年の開設50周年を迎えるにあたり、県内屈指の945平方メートルのER(救急救命室)、14室の手術室などの機能拡大を目的に新棟建築に着工し、地域医療の発展に向けて成長し続ける病院である。
(2)障害者雇用の経緯
当院の理念は、「高度な医療で愛し愛される病院」を掲げているが、50周年に向けて、企業の社会的責任の一環として障害者雇用にも対応すべく取り組みを展開。
障害者雇用の進め方としては、社内での啓発から、職域の選定、採用活動、職場定着に至るまでステップを踏んで計画的に進行。
【第1ステップ】
「社内の障害者雇用の理解を深める」を取り組みテーマとして、担当者を障害者職業生活相談員資格認定講習会に参加させるとともに、関連部署のスタッフで国立職業リハビリテーションセンターや東京障害者職業能力開発校等の職業能力開発校の見学を実施。
また、精神障害者の採用に際しては、管理職を対象とした研修会も開催。
【第2ステップ】
「職域の選定」については、事務部門へのヒアリングを実施し、職務の切り出しを実施。
【第3ステップ】
「受入れ体制の整備」については、雇用条件の検討や採用計画の立案を実施。
【第4ステップ】
「採用活動」については、職場実習の実施や、トライアル雇用制度を活用し、順次推進。
【第5ステップ】
「職場定着」については、支援機関との連携を図るとともに、ジョブコーチ制度も活用。また新規雇用を機会に既存の障害者の職務の見直しもすすめ、職務のマッチングを踏まえた配置転換を実施。
2. 取り組みの経緯、取り組みの効果
(1)取り組みの経緯
身体障害者を中心に、事務業務での雇用を進めていたが、平成22年7月の障害者雇用促進法の改正(短時間勤務者の参入、除外率の引き下げ等)を踏まえ、新たな職域開発を実施。
【第1段階】
埼玉県障害者雇用サポートセンターの支援を受け、各部署でのヒアリング作業を行い、事務関連業務における職務の洗い出しを実施。
医療情報管理課や健康管理課における業務の現状把握から始め、地域連携課、医事課、総務課、巡回健診課、人事課等の業務内容と作業ボリュームの確認を進める。
医療情報管理課では、紙ベースのカルテを書庫で管理しており、出庫作業の業務が候補として上がるとともに、現在電子カルテ化の作業も進行しており、紙ベースのカルテの電子化作業の検討も対象に上る。
健康管理課では、健診結果の入力作業(車いす可能)や結果を企業に郵送する業務が対象として取り上げられた。
地域連携課では、パソコン入力業務や紹介元病院・診療所への返信業務(車いす可能)、また医事課では、入院会計業務や外来患者の会計処理等の業務が洗い出された。
総務課では、郵便物のチェック・記録・配達業務やパソコン業務や洗濯室業務等、また、巡回健診課では、パソコン入力業務、健康診断の電話受付業務等が対象としてリスト化された。
合わせて、同時進行で国立職業リハビリテーションセンターの見学会を実施するとともに、洗い出しを行った職務の中で、対応できる案件については求人票を提出。
また国立職業リハビリテーションセンターで企業説明会を開催し、即時採用可能な職務について募集を開始。(職務:地域連携課・健康管理課・他の各事務補助業務)
企業説明会後、職場実習として2名を受入れ、トライアル雇用を経て常用雇用として採用に至る。


【第2段階】
更なる雇用を目指し、新たに精神障害者と知的障害者の採用を計画化。
障害者雇用の推進に際しては、近隣の障害者就業・生活支援センター及び上尾市障害者就労支援センター等より、採用段階から定着に至るまでの支援を受けて、管理業務の事務関連業務等に精神障害者3名、知的障害者1名、身体障害者1名を採用。
特に社内啓発として、管理職を対象とした受入れ前研修を実施。上尾市障害者就労支援センターから講師を招き、精神障害及び知的障害に関する特性の理解と仕事をする上での配慮(声のかけ方やミスが発生したときの注意の仕方他)等の知識の共有化を図る。


(2)取り組みの効果
① 職務の洗い出しが進行
障害者雇用を機に、関連部署の協力で各部署における職務の洗い出しが進行するとともに、リスト化が図られた。
② 適正配置の見直しが実現
また、複数の職務の洗い出しが出来たことで、全体的な視点で対象者と業務のマッチングの再考が可能となり適正配置の見直しも行うことが出来た。
③ 職場の受入れの理解が進展
特に精神障害者を受入れた部署については、研修で得た障害特性の理解とともに、短時間勤務の活用で月・水・金の隔日勤務から徐々に1日をフルタイムに移行、さらに勤務日数を増やしながら、環境に慣れていく対応を取って進行。またコミュニケーションについても、さりげない声掛けの配慮や上長と支援機関を交えてミーティングを開催したりしてこまめな情報交換を実施している。
総務課管轄の洗濯室業務では、受入れの担当職員が、障害者の指導経験もあり作業台の高さの調整や治具の工夫等で、円滑な支援体制により早期育成が出来たことで、洗濯室全体の業務の効率化が図れている。
④ 支援機関との連携が強化
今回の採用を機に、支援機関との連携が図られ、課題発生時には、担当スタッフからの助言で問題解決に至っており、定着支援体制の整備も進展。
⑤ 職場の感想
【精神障害者の受入れ先の声】
職域開発に伴う職務の洗い出し作業に際し、「いきなり経験の無い人で、なおかつ精神障害者を雇用するのは難しい」と考えていたが、『百聞は一見にしかず』で実際に職業訓練の場を見学したことで、偏った認識をしていることに気づくと共に、ひたむきに一生懸命取り組んでいる姿に胸を打たれ、考えを新たに課内業務の見直しを図った。
その結果、パソコンの入力スキルがあれば、十分に受入れ可能と判断。受入れ時に声掛けを徹底すること、また干渉しすぎないようすること等を課内で確認し、合わせて担当者を決めて、業務教育を実施。受入れ後は、課内の時間外労働の削減に繋がっただけでなく、本人の意欲や向上心が高く信頼ある仕事が出来ている。
【身体障害者の受入れ先の声】
受入れ時、体調管理への対応や依頼する仕事の範囲、またスタッフとのコミュニケーション等に不安があったが、前向きに仕事に取り組んでおり、一緒に仕事をすることで、課のメンバーが同じ視線で物事を進めることが出来るようになったことは、受入れたことで得られた効果だと感じている。
⑥ 障害者自身の感想
【精神障害者の声】
入社前に職場実習の経験をしていたが、実際に仕事に就いてみると、病院業務における使命の重圧、また職員とのコミュニケーションや体力面での心配等があり不安であった。
しかし、就職を自分自身の健康管理や日常生活管理等の職業準備性を律していく機会として捉え直し、業務についても勉強会等の場もあり、任された仕事を着実に行うことが出来るようにしたいと考えて取り組んでいる。また体調面では、精神面からの疲労で休むケースもあったが、最近では対応が取れるようになってきている。健康や精神面の管理スキルの向上を図ることでフルタイムでの体力を身につけて、一日一日が充実した日々として送れるように邁進したいと考えている。
【身体障害者の声】
就職については期待よりも圧倒的に不安でいっぱいであった。特に体調の維持管理や病院業務は全く初めての職種であり、業務がやっていけるのかが心配であった。
入職後は、暖かい上司の配慮があり、体調管理は少し課題があるものの、業務面においては着実にできることの範囲が増えて来ていると実感している。
職場が病院であったこともあり、バリアフリー対応、体調への考慮、業務分担等、きめ細かな受入れに対し感謝している。
3. 今後の展望と課題、おわりに
(1)今後の展望と課題
① 継続的な採用
障害者雇用率の改正に伴う対応や障害者の高齢化も課題の1つになっており、年度別の要員計画策定の中で、継続的な補充対応が課題。
② 新たな職域開発
事務業務関連を中心に職域開発を進めてきたが、今後は看護助手の補助業務も新たな視野に入れて、知的障害者や精神障害者の雇用への取り組みを進めていきたいと考えている。
③ ケア体制の充実や人事諸制度等の整備
障害者雇用数の増加に伴い、トータルでの雇用管理や定着支援の強化等についても課題として認識しており、特に職務の拡大に伴う目標管理や評価制度、表彰制度等の見直しも検討課題。
(2)おわりに
医療・福祉分野での障害者雇用は、一般的に業務の性格上、安全・安心という視点で職域の切り出しが社内的に理解を得ることが困難な事例が多い。清掃や植栽等での職域は、外注されているケースが多く、契約条件の見直し等で内製化の道も残されているが、時間を要する案件となる。
こうした背景の中で、今回の事例は、「障害者雇用を進めるためにはどうしたらよいのか?」というテーマを持ち、前向きに取り組みを進めたことと、関連支援機関との連携にヒントがあると考える。また取り組み課題をステップ展開で計画的に実施し、社内の受入体制を整備したことで、精神障害者や知的障害者の採用にも展開が出来た事例である。
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