援助付き雇用の実践から見る、精神障がい者の雇用・就労支援の在り方について
- 事業所名
- 特定非営利活動法人 横浜市精神障がい者就労支援事業会
- 所在地
- (本部)神奈川県横浜市
(事業所・就業場所)横浜市内に14カ所 - 事業内容
- 精神障がい者の就労支援
- 従業員数
- 126名
- うち障害者数
- 94名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 2 清掃業務 精神障害 92 清掃業務、接客販売業務、公園管理業務、地域活動支援センターの運営 - 目次
就労支援受託事業
※北部斎場・湯茶接遇業務(22)
※久保山斎場・湯茶接遇業務(20)
※脳血管医療センター・外構清掃(4)
※常盤・瀬谷・東俣野
本牧市民・岡村・日野中央
=公園管理業務(16)
※北部斎場・売店喫茶(6)
※戸塚斎場・売店(5)
※久保山斎場・駐車場管理業務(6)
多機能事業所
就労移行支援事業所
ジョブアシスト横浜
+就労継続B型事業所
ワークショップメンバーズ
就労継続支援A型事業所さら
・カフェでの調理、接客(14)
地域活動支援センターすきっぷ
・相談員(1)
1. 事業所設立への経緯、援助付き雇用事業所の拡充
(1)事業所設立への経緯
① | 1987年に設立された、*特定非営利活動法人横浜市精神障害者地域生活支援連合会(以下「市精連」)が本格的に就労支援を開始したのは1990年夏、市精連就労援助事業部が運送会社の集団アルバイトを受託、総勢40名の作業所メンバーが、ジョブコーチとして関わった数名のスタッフと共に、中元・歳暮の贈答品の仕分けを行ったことに始まる。 |
② | 1992年は1年間、大手スーパー内レストラン街にある日本蕎麦屋で食器洗浄・調理補助のジョブコーチ支援プロジェクトを実施した。 |
③ | 2社での取り組みは、それぞれ会社側の都合で終了してしまったが、市精連就労援助事業部としては、ジョブコーチ支援を行えば働ける、という確かな手ごたえを得た。 |
④ | その頃、かねてからの要望が汲みいれられ横浜市から久保山斎場の湯茶提供及び一般清掃の業務委託を受け、12名の精神障がい者を作業所から採用することとした。 |
⑤ | 前2社での経験のもと、細かい作業マニュアルを作成、また主治医の意見に従い、1日4時間・週3日・月12日程度の勤務という精神障がい者が働きやすい勤務時間・日数を中心としたシフト勤務からはじめることにより、安定した出勤を確保することができた。 |
⑥ | ここに、わが法人最初の援助付き雇用の場「久保山事業所」が誕生した。1995年6月のことであった。 |
* | (注)特定非営利活動法人横浜市精神障がい者就労支援事業会(横浜SSJ)は、市精連の就労支援部門が、2007年に独立して、精神障がい者の就労支援を専門的に行う団体として独立したものである。 |
(2)援助付き雇用事業所の拡充
① | 「久保山事業所」においては、作業マニュアル、実習体制、安定したシフトづくりが奏功し、半年後には、久保山斎場、同駐車場で8名の当事者従業員を加え、計20名の当事者従業員で業務にあたることとなった。 |

② | 1999年4月には、戸塚斎場売店にて目的外使用許可を受け、「戸塚事業所」として業務を開始した。(2012年4月現在、従業員数4名) |

③ | 1999年6月には、横浜市脳血管医療センターの外構清掃事業を横浜市から受託し、「脳血管センター事業所」として業務を開始した。(2012年4月現在、従業員数4名) |

④ | 2002年4月、新設された横浜市北部斎場の売店業務、湯茶接客業務、葬祭ホール清掃業務を併せて受託、従業員数30名の「北部事業所」として業務を開始する。 |

⑤ | 2005年4月、財団法人横浜市緑の協会と公園管理業務の受託契約を結び、テニスコート、運動広場の市民利用受付、問い合わせ対応、管理棟周辺清掃などを行う「公園管理」業務を受託した。 「久保山事業所」、「戸塚事業所」、「脳血管センター事業所」、「北部事業所」、及び「公園管理」を総称して、「5事業所」と呼んでいる。 |


2. 援助付き雇用の手法・なりたち、援助付き雇用と就労支援
(1)援助付き雇用の手法・なりたち
① | 「5事業所」は、援助付き雇用の場という位置づけとはいえ、実際に接客や清掃を行い、顧客満足度や作業速度、仕上がりの丁寧さが求められる仕事ばかりである。従って、市精連・横浜SSJでは、最低賃金を支払うが、作業の質も一定以上のレベルを要求、障害のある従業員もそのことに納得して働き続けている。 |
② | 精神障がい者の雇用継続においては、Ⅰ 業務内容のマッチング、Ⅱ 通勤時間・通勤方法に無理のないこと、などの一般にも共通する事項に加え、Ⅲ 職場内の支援者・アドバイザーの存在、Ⅳ 主治医のバックアップ(通院・服薬の遵守)、Ⅴ 困ったときの相談相手の存在、等が必要であることが、従前から先駆的な企業、支援機関、医療機関で確認されている。 |
③ | 市精連、横浜SSJの援助付き雇用において、Ⅰ、Ⅱ、Ⅳ、Ⅴについては、欠員や新規雇用枠ができた時、「横浜市内の作業所に公募」、「面接後に2日間程度の実習を実施」という手続きを踏み、「必要な主治医との連絡は作業所が中心になって実施」、「本人雇用後も定期的に作業所を訪問する」などの役割分担で援助付き雇用を組み立てている。 |
④ | 援助付き雇用の事業所では、Ⅲの位置づけである職員が、作業マニュアルの作成、作業への導入支援、職場内の出来事に関する相談、作業所職員との連絡など、作業所職員と分担し、無理のない雇用の継続を支えている。 |
⑤ | 体調不良が続き、一定期間の休養をしてからの職場復帰が望ましい者のために、1年間のうち1回、3か月間の休業制度を設けている。 |
⑥ | また、援助付き雇用の場は、時間給の最低賃金が支払われているが、働きやすくするために就業時間を短く設定しているため(平均週12時間程度)、手取り賃金は限られる。従って毎年、一定数の人が一般企業への転職を希望するわけだが、一般企業においては作業内容や人間関係が厳しく長期継続できない者も多い。そのため、市精連・横浜SSJにては、一般企業等への就職をバックアップするため、3カ月以内であれば戻って来られる「チャレンジ休暇」制度を設けている。 |
(2)援助付き雇用と就労支援
① | 2006年9月、障害者自立支援法の設立を前に就労移行支援事業所づくりの必要性が検討された。これは、援助付き雇用の場で働ける者、一般企業で働ける者を養成するためであり、就労継続支援事業所B型「ワークショップメンバーズ」と併せた「多機能事業所」として、就労移行支援事業所「ジョブアシスト横浜」設立の方向性が議論され、承認された。 |
② | 2007年3月、市精連臨時総会にて「5事業所」と「多機能事業所」を併せた就労援助部門の新法人移管が承認され、横浜SSJは、精神障がい者の地域生活を全般的に支える団体の連合会から、精神障がい者就労全般を支える団体の連合会として独立した。 |
③ | 多機能事業所を立ち上げてから4年目の2011年4月、横浜SSJは、他団体から引き継いだカフェレストラン部門を中心に就労継続支援A型事業所さらを開設、やはり時間給最低賃金保障の14名の雇用を生み出し、ロールプレイなどを取り入れた接客改善プログラムの開発や、地域のネットワークを活用したお菓子の販路拡大など、新たな就労支援に取り組み始めた。就労継続支援A型事業所さらに、2012年7月から、外部企業の清掃業務を請け負い、雇用の場と訓練の場として、システムの確立を目指している。 |
3. 週20時間以上の勤務、今後に向けて~職場定着支援プロジェクト等
(1)週20時間以上の勤務
作業環境への適用が良かったためなのか、近年の精神科医療の発展の効果なのか、十数年前に援助付き雇用を開始した時にくらべ、最近の勤務者は、少しずつ1日、1週間のうち長時間働ける者が増えつつある。その事例を紹介する。
① H氏の場合
地域活動支援センターすきっぷでは、精神保健福祉士の資格を取得した当事者職員を、常勤の相談員として採用した。H氏は9年前、はじめはA作業所から北部事業所へ実習を経て入職、1日4.5時間、週3日程度の勤務で、Ⅰ 会葬者控室の清掃、Ⅱ 湯茶室での食器洗浄、Ⅲ 葬祭ホールの清掃、Ⅳ 売店・喫茶での接客対応、の4カ所(北部事業所では「4ポジション」と呼んでいる)の業務をバランスよくこなした。
入職して2年後、H氏は「一生付き合ってゆかねばならない病気なら自分で何とかしよう」という思いなどから精神保健福祉士の資格取得を決意、働きながら専門学校に約2年間通い、見事に合格した。
H氏は精神保健福祉士取得の前から、自分の体験をミニ講演会、講演会などで発表し、精神障がい者雇用の啓発に一役買ったり、精神保健関係機関での電話相談員を定期的に頼まれたりしていた。
横浜SSJでは、9年間に渉る北部事業所での働きぶりと、相談支援に関するH氏の指向性と能力を評価し、2012年2月に本格開所した地域生活支援センターの相談員として配置した。
H氏は他の2名の職員と共に、利用者確保のために関係機関を回ったり、利用者のためのプログラム運営や個別相談の業務を行っている。
② 週20時間以上勤務への環境整備、体験の推奨
H氏以外に、横浜SSJ職員(元職員)では、数名が週20時間以上の勤務に挑戦している。自分の持っているイメージよりも働きすぎて、やや過労気味になってしまう者もいるが、支援職員が相談に乗ったり、適度にリフレッシュのための休暇を取ってもらうことなどにより乗り越えている。
以下にその例を示す。
- 4時間勤務の者2名でワークシェアしていた業務を計画的に1名の終日勤務に切り替える。(全事業所)
- 調理、接客にて1日5時間程度で取り組んでいた仕事に、他事業所での清掃業務を加え、1日7時間程度の職務を組み上げる。(さら)
- 公園は通常1か所担当だが、体力的、精神的に2カ所行う余裕のある者については、職員の入念なチェックを経て、2カ所兼務をさせる。(公園管理等)
(2)今後に向けて~職場定着支援プロジェクト等
5事業所における20年の就労支援実績・ノウハウを踏襲して、2007年に開設した多機能事業所(就労移行支援事業所・ジョブアシスト横浜/就労継続支援B型事業所ワークショップメンバーズ)では、下表のとおり5年間で一定の就労支援実績を残している。
雇用支援の実績
ジョブアシスト横浜から一般企業 | ジョブアシスト横浜から横浜SSJ事業所 | ワークショップメンバーズから一般企業 | ワークショップメンバーズから横浜SSJ事業所 | |
2007年度 | 3 | 1 | 1 | |
2008年度 | 5 | 2 | ||
2009年度 | 9 | 7 | 1 | |
2010年度 | 4 | 4 | 3 | |
2011年度 | 7 | 1 | 3 | 4 |
計 | 28 | 15 | 3 | 9 |
雇用への経緯は、①一定期間施設内での基礎訓練を積み、②体力と自信がついた者から久保山事業所、北部事業所、脳血管医療センター事業所、公園管理業務にて計画的に実践的訓練を積み、③十分に働く体力と自信がついたところで横浜市が設置する8カ所の就労支援センターや市内4カ所のハローワークとの連携で職場開拓を実施、④一般企業等への就職(募集のタイミングに合えば法人内の事業所へ就職)、というステップを踏んでいる。
就職後も出身の作業所(最近は就労継続支援B型事業所)等との支援関係を継続するため定着率もよいが、より安定した雇用関係の維持について多角的に検討するため、法人内の中堅職員が、外部の学識経験者や働く当事者従業員の声を聴きながら行う職場定着支援プロジェクトを2012年4月から開始、雇用する立場と就労訓練をする立場、双方のノウハウが融合した検討・検証を行っている。
4. まとめと展望
(1) | 横浜SSJが、市精連時代から含め、約20年に渉り展開してきた援助付き雇用は、医療・福祉の専門家と連携し、1日4時間・週3日程度の短時間雇用から開始したいくつかの安定した雇用の形から、就業環境と職場内支援者の体制が整えば下記の職種・職務内容で、「精神障がい者は働ける」ことを実証してきた。 |
(1)清掃員
(2)湯茶準備担当者
(3)売店での販売員
(4)公園での受付事務員
(5)調理担当者
(6)カフェでの接客担当者
(7)相談員
また、一定の期間実施した就労移行支援サービスの結果、下記のステップを経ることにより働けることを実証してきた。
(1)一定期間施設内での基礎訓練を積む。
(2)基礎訓練でついた体力と自信をもとに法人内事業所で実習をする。
(3)実習での実践的作業を通じて身についた企業で働く体力と自信を元に、職場開拓など、具体的な求職活動の目標を設定する。
(4)就労支援機関との連携で職場開拓をする。
(5)一般企業等へ面接・実習を経て就職する。
(2) | 今後は、2012年度から開始した職場定着推進プロジェクトを中心に、ジョブコーチ支援等の支援技法との融合を図り、より長期的な精神障がい者の職場適応支援への技法追及をすることとしている。 |
新たな取り組みをはじめる度に新たな課題も見えて来るが、なるべく多くの関係者から、可能な限り詳細な情報を集め、決断とチームワークで乗り切っている。
理事長 青栁 智夫
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。