安全第一 誰もが笑顔になれる障害者雇用
- 事業所名
- 電気化学工業株式会社 青海工場
- 所在地
- 新潟県糸魚川市
- 事業内容
- 無機化学製品、有機化学製品、医薬品等の製造
- 従業員数
- 1,175名
- うち障害者数
- 20名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 1 事務(補助)、受付事務、検査、製造等 肢体不自由 6 事務(補助)、受付事務、検査、製造等 内部障害 7 事務(補助)、受付事務、検査、製造等 知的障害 2 梱包作業、清掃 精神障害 4 検査、パソコン入力、分別、製造等 - 目次

1. 事業の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業の概要
① 事業の特徴
1921年(大正10年)に工場を開設し、カーバイドの製造を開始した。
推定埋蔵量50億トンといわれる全山石灰石の黒姫山、水力発電を中心とした自家用発電所の18万キロワットの電力などを所有し、自給自足に近い体制で原料からエネルギーまでまかなっている。
この豊富な自社資源により、独自性の高いカーバイド化学を推進し、さまざまな製品を生み出し、形を変化させながら日々ものづくりを追求している。
また、地域との相互理解を深めるためのコミュニケーション活動も積極的に行っており、2003年から地域におけるコンサート活動や楽器演奏の体験活動等、地域コミュニティーの活性化についても支援している。
② 経営方針
- 高い技術力で『資源』から『価値あるモノ』を生み出す企業になる
- いつまでも信頼されるものづくり企業を目指す
③ 組織構成
本社:東京都
工場:大牟田、千葉、渋川、伊勢崎、大船
他中央研究所、海外、国内に支店、営業所設置
(2)障害者雇用の経緯
現在20名の障害者を雇用している当事業所も、化学薬品や高熱での処理を扱う現場のため、数年前までは、実習受入も躊躇していた。ましてや新規で採用することに対しては強い不安があった。
このような状況だったため、ハローワークからは常々障害者雇用を勧められていたが、なかなか採用に至らなかった。きっかけとなったのは、特別支援学校からの熱心な会社訪問である。
① 2007年から始まった障害者雇用
まずはじめに、現場を知ってもらうための会社見学として、特別支援学校の先生による会社訪問を行った。
現場がいかに危険な場所で障害がなくても怪我をすることがあるという現状を確認してもらい、障害者の職場としては難しいことを知ってもらうために、工場内や関係施設の見学を実施した。
② 安全第一から始まった実習・雇用
会社見学の中で、生徒が作業できそうな安全な場所を探しながら見学していた支援学校の先生から、知的障害のある女子生徒を紹介された。
ハローワークからも障害者雇用を勧められていたこともあり、危険の多い工場ではなく、比較的安全な社員寮の清掃と調理補助での実習を受け入れることに決めた。
在学中に何度か実習を繰り返し実施したが、採用に当たっては、現場で一緒に清掃作業をする女性パート従業員から、障害者とのコミュニケーションの取り方と作業の指導方法の2点に不安があるとの声があり、ジョブコーチ支援を利用しながら採用することとした。障害者雇用において、個々の障害特性にマッチした作業選択も大切であるが、現場の理解も重要であることを大いに感じた。
③ なかなか2人目が進まなかった障害者雇用
会社全体で安全な場所がほとんどないため、その後しばらくは、安全管理への不安から工場内での障害者雇用はすぐには進まなかった。
過去に、車いすを使用している人を採用したものの、本人とのコミュニケーション不足等により、職場定着がうまくいかなかった経験も影響して、障害者雇用の難しさを感じ、躊躇していたことも進められない要因の一つだった。
また、「障害者」という言葉に対し
「教えた会社のルールがしっかりと理解できない」「覚えられない」
↓
「労災につながる」
というイメージを消すことができなかった。
④ 進んでいった障害者雇用
後ろ向きだった障害者雇用であったが、ちょうど2年程前にハローワークから身体障害者を中心に数名の紹介を受け、少しずつ雇用を進めることとしたが、なかなか多数の雇用に繋げるのは難しいと感じていた。
しかし、ハローワークや支援機関から、事故や怪我の問題が全くないわけではないが、「特性を理解していくことで障害者雇用は可能である」というアドバイスを受け、障害者雇用を積極的に進めていこうという前向きな考えに変わっていった。
転換してからは、ハローワークから
- 離転職を繰り返し、発達障害の診断を受け障害者手帳を交付されたケース
- 他社をリストラされ、その後障害者手帳の交付をされたケース
など、一般就労の経験がある人々の紹介を受けた。
その後も、障害者の合同面接会への参加やハローワークからの紹介、特別支援学校の実習受け入れを経由しながら、雇用の機会を増やしていった。
2. 障害者雇用についての当社の特徴 ~特性を生かす~
(1)特別支援学校からの採用 ~実習の活用~
通常、従業員を採用する場合は、人手の不足している現場にその作業ができる人を募集し雇用してきた。
しかし障害者の雇用については
① まずは本人と会う
つぎに
② この人は何が得意だろう、できるだろう
そして
③ 作業内容を決めずに面談を実施
④ | 特別支援学校の先生、ハローワークの担当官、就業・生活支援センターから個々の障害特性や業務遂行上のアドバイスをもらう |
以上の流れで実習期間を含めたそれぞれの業務を決めた。
- 支援学校在学中に実習を繰り返し実施。
- いくつかの現場を経験させる。
特性:自閉的な特性やこだわりがある
→ 根気のいる作業に向いている
→ 数名で行う作業現場で、枠の形は異なるがほとんど同じ作業の繰り返しで、根気が必要な型枠のメンテナンス作業に配置した。

- 支援学校在学中から実習を繰り返し実施。
- 複雑なことへの理解が苦手である。
特性:・こだわりがあまりない
・人と関わることが好きである
→ 他の社員と一緒に、作業着や手が汚れる仕事・外仕事、力仕事を気にせずに行える。
→ 材料の中の不純物(木片や石など)を取り除く業務に配置した。

社会経験が少ない特別支援学校の生徒の採用にあたっては、どのケースも採用の際に、最も重視した点は危険回避ができることである。
化学製品製造業ということもあり、危険物や高温の現場など危険な場所が多くあるため、
① 安全に業務を進めるために必要な身支度ができること
② 決められた危険な場所へは近づかないこと
③ 安全確認をする場所では自分で確認ができること
など、安全管理をもっとも重要な必須な能力とした。
(2)実習を利用しない雇用
特別支援学校在学中以外の採用については、地域の支援機関やハローワークの担当官など、その人の障害特性を理解している支援者から、それぞれの特性を聞き取り、現場での作業の洗い出しを行った。
- 一般就労で離転職を繰り返してきた。
- 発達障害の認定を受け手帳を取得後、ハローワークから紹介を受ける。
本人との面接や支援機関から障害特性を聞き
特性:記憶力がとてもよい → 作業が的確に行える。
→ 柔軟な判断を必要としない作業で、ある程度決められ
パターン化した単独作業であれば指示がなくても確実に遂行できると判断。
→ 毎日必ず行う作業として
① 検査作業
② パソコン入力作業 の担当とした。
業務が円滑に進み、現場もとても助かっており、確実に任せられている作業となっている。

- 中学を卒業してから一般求人として他企業で採用され就労。
- 単純作業で勤務していたが折からの不景気でリストラされる。
- 障害者手帳を取得し就職活動をおこない当社に採用された。
他社での実習経験があり、その頃の話から
特性:覚えることや単独作業が苦手である。
→ 数名での作業が適切と判断。
→ 数名で行う梱包作業の現場へ配属した。
梱包の方法は多様であるが、その都度一緒に作業をする従業員が指示している。特殊な商品の梱包のため、安全確保が必須であるが、ルール通りの身支度ができている。
(3)中途障害者の雇用
過去の職歴と障害の部位や程度にあわせ、内勤での採用としている。事務関係や受付警備の業務などに配置し
- ペースメーカーを装着している者については、電磁波の影響がない部署へ配属。
- 義足等下肢に障害のある者には業務の内容によっては、他の社員が手伝う。
等の配慮を日常的に行っている。
3. 障害者雇用の現在とこれから、まとめ
(1)障害者雇用の現在とこれから
現在も多くの障害者を雇用しているが、ほとんどの障害者が問題なく勤務しており、現場からも「助かっている」と好評価を得ている。
しかし、全員全く課題がないわけではない。その多くは、作業でのミスや作業能力、作業効率の問題ではなく
① 挨拶・報告ができない。
② 指導・助言を素直に受けない。
③ 言い訳をする。
など、就労意欲や職業人としての一般常識が身についていないことによる課題がほとんどである。
ハローワークや支援機関等とは、不定期ではあるが訪問を受けたり連絡をとり連携を図っているが、特に目立った課題が生じた際には、生活面ではグループホームの関係者やジョブコーチ、その他の面ではハローワークや各支援機関の担当者から訪問や連絡、ケース会議などを行い、すぐに課題解決に向けた対応ができるよう支援体制を構築しているため、安心して雇用継続ができている。
今後も実習等を受け入れながら、積極的に雇用の機会を増やしていきたいと考えている。また、職場定着を図る上で、現場の理解は不可欠である。現場や担当者だけに負担をかけないよう、社内における連絡体制の構築や支援機関との連携は今後も継続していきたいと思う。
そして障害のあるないにかかわらず、生きがいを持って笑顔で働けるように、働く場が楽しい場所だと思ってもらえるような事業所でいられるよう努力していきたいと考えている。
(2)まとめ
多くの障害者を採用している当事業所で、障害者雇用の中心となっているのは人事担当のW氏である。
W氏は以前、工場内の技術者として勤務していた経験があり、工場全体の現場の作業内容を熟知している。この経験が、危険の多い化学工場の中で、それぞれの障害特性にあった細かで多様な隙間作業の洗い出しを可能にし、配置業務の決定をスムーズにすすめることができた要因の1つだと思われる。
また、糸魚川地区は、海と山に囲まれた自然豊かな町ではあるが、目立った産業が少なく、雇用の場が限られている。特に障害者はほとんどの人が在宅か施設での生活を余儀なくされている。これらの現状を当事業所に理解してもらえたことが、工場全体で障害者雇用を前向きに進めるきっかけとなったのではないかと感じている。
当事業所においては、「雇用率に関係なく、その人ができる作業を探し、障害特性を生かした就労につなげたい。」言葉通りの障害者雇用と、地域の資源やコミュニケーションを大切にした職場作りを今後もさらに進めていかれることだろう。
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