個人の能力を発揮できる場を・・・
~特別支援学校生徒の実習や就職を受け入れて~
- 事業所名
- 株式会社カツユキ(湯けむり屋敷和おんの湯)
- 所在地
- 石川県金沢市
- 事業内容
- スーパー銭湯、レストラン、リラクゼーション、理容・美容
- 従業員数
- 50名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 2 厨房、清掃 精神障害 - 目次

1. 事業の概要、取り組みの概要
(1)事業の概要
金沢駅から普通列車で1つ目にあたる東金沢駅から徒歩5分にある株式会社カツユキの和おんの湯は、その中にスーパー銭湯、お食事処「和おん亭」、リラクゼーションルーム、理容・美容室などがある施設である。
スーパー銭湯内には、岩風呂、寝ころび湯、壺湯、流水浴、ジェットバスなど15種類のお風呂があり、170台分の駐車場も完備している。施設の営業時間は、午前10時から翌午前0時までで、週に6日は早朝5時からの朝風呂も行い、年末年始も入れて年間363日間営業している。
また、関連会社にタクシーや観光バスを扱う「なるわ交通株式会社」等もある。


(2)取り組みの概要
株式会社カツユキの和おん湯の障害者雇用の始まりは、開店から2年後の今から6年前にさかのぼる。ハローワークの担当者が、障害者雇用について説明に来たことがきっかけだという。それまで、障害者についてあまり知らなかった専務は、近隣の障害者施設などを自らの足で回ったり、障害者雇用をしている企業に出向き担当者に話を聞いたり、障害者への理解を深めていった。
その後、特別支援学校の職場実習を受けることになり、実際に雇用するようになった。実際に障害者の様子を間近で見てきて、障害があっても真面目に充分に仕事をやっていけると実感したという。また、ハローワークや特別支援学校の支援に加え、金沢障害者就業・生活支援センターのジョブコーチの支援を活用していることも安心して雇用できる要素の1つだと話された。
2. 特別支援学校からの職場実習の取組
(1)職場実習における仕事内容
和おんの湯では、施設内に様々な設備を備えているので、下記のように様々な仕事がある。これら様々な仕事を本人の適性や能力に合わせて提供して、生徒の意欲につながる職場実習を実施することが可能な状況にある。
① お食事処「和おん亭」での仕事
- レストラン内の清掃(掃除機がけ、テーブル拭き、ガラス拭き等)
- メニューの配置等テーブルセッティング
- 皿洗い、片づけ(食器洗浄機、予洗い等)
- 調理補助(揚げ物、食材下準備(包丁)、盛り付け、配膳等)
② お風呂関係の仕事
- シャンプー、リンス、ボディーソープ等の補充
- タオル、足ふきマット等の洗濯、たたみ、片づけ
- 脱衣所、ロッカー等の清掃(掃除機、モップ等)
- ボイラーの管理
③ 全館の整備・清掃
- 170台分の駐車場等外回りの清掃
- 天井や壁、窓ガラス等の清掃
- 露天風呂や樋の落ち葉等の清掃、メンテナンス
④ その他
- イベントの景品包装等の準備
- チラシ折り、配布
- 従業員の制服洗濯
- 従業員控え室、更衣室、トイレ等の清掃
⑤ 関連会社(なるわ交通)における仕事内容
- タクシーの洗車
(2)職場実習の具体例
① 厨房での仕事中心の職場実習事例
お食事処「和おん亭」では、お客さんが券売機で食券を買い、カウンターに注文し、食事後自分で返却するセルフサービスの形態を取っている。そのために接客のスキルはあまり求められないが、食器類を返却に来られたお客さんに「ありがとうございました」と言うような最低限の言葉は求められる。生徒によっては、なかなか臨機応変にコミュニケーションをとることが難しいこともあるが、ここでのコミュニケーションは、場面とそのときに言う言葉がほぼ決まっているので自信を持ってコミュニケーションできる。
お客さんが返却するときに「ありがとうございました」と言い、返却された食器をスポンジ等で予洗いし、食器洗浄機に入れ、洗浄されたものを棚等に収納する。その他、漬け物等を小鉢に盛りつける、洗濯されたふきん等を干したり、たたんだりするなど周辺の業務も様々である。また、開店前の店内のテーブルをふき、メニューを並べる、座布団を並べ直す等店内の清掃の一部も行った。
それらの仕事を朝9時から14時までの間、タイムスケージュールを組んで実施した。毎日ほぼ同じ流れで作業を行うことによって、2週間の実習の間には自分で次の仕事を考えながら進めることができるようになった。
② 職場実習からアルバイトへつながった事例
Aさんは、高等部入学時から洋服の販売店への就職を希望していたが、コミュニケーションが上手く取れず、自分でも適性がないことを自覚し始めていた。次にどのような職種の仕事を希望するか迷っていたところ、毎日夕食の後片付けのお手伝いをしていることから皿洗い等の厨房補助の仕事を希望した。
職場実習に行くまでに、仕事の流れを掴むため学校の給食を作る厨房で皿洗いの仕事を体験した。このような内容であれば実際の職場でも頑張っていけると本人からの申し出があり、和おんの湯の厨房での職場実習をお願いすることとなった。
2週間の職場実習では、当初たくさんの食器をどのように効率的に洗浄するかとまどったが、黙々と集中して作業することが功を奏して少しずつ効率もあがっていった。また、簡単な盛りつけ等周辺の作業にも幅が広がっていった。
2週間が終わったときに、本人はまだ自信が持てない状況であったが「黙々と真面目に仕事する姿勢がよい」と専務にほめられ、冬休みのアルバイトに来ないかとの申し出があった。今まではっきりと意思表示をするのが苦手なAさんであったが、「アルバイトに来たい」と自分で決定し、冬休み1週間ほどのアルバイトを経験できた。
自分でお金を稼ぐ経験は、今後の就労の意欲を培う上でたいへん貴重な経験となった。

③ 関連会社(なるわ交通)での実習事例
知的障害のある生徒の職場実習先は、食品や機械などの製造業やスーパー等のサービス業などあまり職種の幅が広くないのが現状である。職種の幅が広がれば、製造業やサービス業に適性が低い生徒でも一般企業での職場実習にチャレンジできる。そのような状況の中、タクシーの洗車という新しい職種は、体を動かして作業することが得意な生徒に向いている。

3. 雇用までの経緯と定着への取組、今後の課題、まとめ
(1)雇用までの経緯と定着への取組
① 厨房での作業で採用になったBさん
落ち着いた性格で、いつももの静かなBさん。そんなBさんは、もともと料理が得意で包丁の腕前は魚を三枚にさばくことができるほどであった。特別支援学校を卒業時に就職する際に、食品関係での仕事を希望しており、食品関係の製造工場、スーパーの鮮魚売り場等での職場実習の経験を経て、和おんの湯での職場実習を行うこととなった。
和おんの湯では、お食事処「和おん亭」の厨房での仕事を担当することになり、食器を予洗いして食洗器に入れ、洗い終わった食器を棚等に片付ける仕事を当初行った。
複数回職場実習を繰り返すうちに、盛りつけや調理等も行うようになり仕事の幅も広がっていった。和おんの湯に職場実習に行く以前に行ったスーパーの鮮魚売り場での実習でも器用で真面目に仕事を行う様子が高い評価を受けていた。
就職先としてどちらかに決める際には、勤務時間が判断の基準の一つとなった。
スーパーは、朝8時から夕方までの勤務時間で、和おんの湯では、夕方4時から夜中1時までの勤務時間を提示された。まったく違う勤務時間で、Bさんもたいへん迷ったようであるが、夜働く和おんの湯でやっていきたいと本人の意思で決定した。
当初、夜の勤務時間では、在学中の職場実習ではその勤務時間を実際に体験できないことや支援に入る予定だった金沢障害者就業・生活支援センターのジョブコーチ支援が日中でないと受けられないことなど心配な要素もあったが、真面目な性格で3年目を迎えた今もその時間で継続して勤務できている。
今では、揚げ物など全てのメニューの調理等、調理場でのほとんどの仕事をこなせるようになったBさん。夜中の閉店時のお風呂のボイラー等の業務も任せれるようになったという。
また、和おん湯の社員として迎えられたBさんは、昨年度の東北の震災のあと会社として現地で炊き出しを行う際には、東北の地まで同行し貴重な経験ができた。
このように、自分の興味ある調理という分野で自分を活かすことができたBさんは、一人暮らしにも挑戦する等新たなチャレンジをしながら成長している。

② 掃除やメンテナンス等で採用になったCさん
体が大きくスポーツが大好きな面と、3cm四方くらいの小さな紙で鶴を折ることができるような器用な面を併せ持ったCさん。
特別支援学校を卒業して和おんの湯に就職して2年目になる。
在学中の職場実習では、朝8時からのオープン前のシャンプー等の補充や脱衣場の清掃を中心に行った。
背の高いCさんは、天井の高い部分のすす払いまで難なく行い、女性スタッフができないような業務もこなした。その他、大型洗濯機を操作して足ふきマットやタオル類の洗濯まで少しずつできるようになった。
また、広い駐車場の清掃や冬場の雪かき、夏にはイベント用のビニールプールの準備等様々な業務を担当している。人なつっこい性格で周りを明るくし、アットホームな現場になじんでいきいきと仕事をしている。

(2)今後の課題
知的障害者には、製造業など単純な作業を繰り返し行うことが向いていると考えることが多いが、和おんの湯のようなサービス業に向いている人材も多く存在すると考える。
製造業に就職するにしろ、このようなサービス業に就職するにしろ、特別支援学校での実習時の支援や卒業後のジョブコーチによる支援が多少なりとも必要になってくる場合もある。その際に支援者の勤務時間が平日の日中であるために、和おんの湯のような土日や早朝、深夜に仕事がある現場に支援が入りにくい状況である。
ジョブコーチ等の制度が定着浸透してきた昨今、今後は更に現場に応じた支援体制が求められる。そのような体制が整備されれば、更に知的障害者が就職できる業種の拡大につながるだろう。
(3)まとめ
和おんの湯のように、障害者の雇用率のためだけに雇用するのではなく、障害に関係なく必要な人材として見てくださる企業はたいへんありがたい。
人間関係が密で、アットホームな現場は、障害者が働きやすい環境だと言えよう。従業員が少ない企業は、障害者を雇うと周りのスタッフの負担が大きいのではないかという声が聞かれるが、必ずしもそうではない。
今後は和おんの湯のように、従業員がみんなで若い人を育てるという意識で受け入れてくれる企業が増えることを願いたい。
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