障害者雇用の取り組みにより管理者の成長と定着率の向上を実現した事例
- 事業所名
- アイパックスイケタニ株式会社
- 所在地
- 山梨県中央市
- 事業内容
- 印刷パッケージ・打抜箱製造販売・段ボールケース販売・プラスチック段ボール包装関連資材販売
- 従業員数
- 48名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 1 むしり(バリ取り) 精神障害 1 計数、シュリンク、包装 - 目次

1. 事業所の概要、取り組みの経緯・背景・きっかけ
(1)事業所の概要
① 事業内容
パッケージは人と人をつなぐお手伝いをするコミュニケーション・ツールであり、「容れ物」としての強度や商品とのマッチング、経済性などをはじめ、カラーやデザイン、形態までを考え、効果的なパッケージが生まれる。あらゆる分野でご満足いただける高品質で表情豊かなパッケージを時流にあったアイディアと卓越した技術で創造している。
② 企業理念等
国際的な視野に立ち、多角化経営を図りつつ社会に貢献していきたい気持ちを込めて、「お客様を通じて社会に奉仕する」を企業理念に、企画から製造までという一貫作業システムによって、多様化するお客様のニーズに応えている。紙は唯一、人の手の温もりが伝わる世界に誇る素材であり、自社はその素材を生かしたパッケージを作り出し、パッケージによって社会に貢献したいと考えている。
③ 組織構成
営業部12名、業務・製造部及び配送部36名となっている。
④ 障害者雇用の理念
理念としては、法定雇用率の確保やCSR(企業の社会的責任)としての地域雇用への貢献等もないわけではないが、ごく自然というのが実態に近いと思われる。即ち、義務や責任というより、あくまで自然発生的なものとして、大義名分的なことはあまり意識せずにノーマライゼーション(障害者や高齢者など社会的に不利を受けやすい人々が、社会の中で他の人々と同じように生活し、活動することが社会の本来あるべき姿であるという考え方)を実現している点が他にはあまり見られない事例と思われる。なお、会社の障害者雇用に対する姿勢としては、「やむを得ずリストラする位であれば、最初から雇用はしない」というものであり、それが労働条件等の整備につながっている。
(2)取り組みの経緯・背景・きっかけ
7年位前から、通所・授産施設などに「箱折り」の仕事を依頼しており、一生懸命に自社の仕事をしてもらっていることに対するその恩返しの気持ちも込めて、障害者を雇用したいと思ったのが全ての始まりである。というのも、自社の社員が講師として、通所・授産施設等に招かれた際、利用者の「入社したい」という素直な気持ちに触れ、その気持ちに何とか応えたいと考えるようになったものである。
そして、漠然と障害者の雇用を考えていたところ、丁度、障害者職業センターや県立わかば支援学校より職場実習の依頼を受け、その実習を通じて、自社で雇用できるという確信が得られたことにより、約6年前から障害者雇用に取り組みはじめた。
2. 取り組みの具体的な内容
(1)労働条件
① 期間
期間の定めのない雇用契約を締結している。
② 場所
工場内の現場となっている。
③ 時間
基本的にはフルタイムであり、本人の希望や働く意欲に応じて残業を指示することもある。
④ 賃金
時給であり、最低賃金からスタートする運用となっている。
(2)仕事の内容
主に、以下のような作業を担当している。
- 枚数カウンターによる計数作業
- 包装機による包装作業
- 印刷面の検査
- 打ち抜き後のむしり(バリ取り)作業
- 半製品の移動

計数作業の様子-1

計数作業の様子-2





(バリ取り)作業の様子

(3)助成金等の活用
助成金に関しては、特に活用していない。また、助成金とは異なるが、職場実習受け入れに係る施設等利用料をいただいたことはある。
(4)労務管理上の工夫
大義名分的なものを意識することなく障害者雇用に取り組んではいるが、無意識というわけではなく、しっかりと次のような体制づくりを行っている。
① 障害者雇用取り組み当初について
障害者雇用に取り組むに当たり、以下のような工夫を試みた。
ア | 職場実習を通じての障害者雇用のノウハウの取得 実習の中で、仕事の割り当て方法を研究した。 |
イ | 人に対しての仕事の割り当て 仕事に人を割り振るのではなく、人に仕事を割り振ることを企図して、仕事の流れを分解し、どの部分であれば、職務遂行が可能か検討した。 |
ウ | 社内説明会の開催 障害者雇用の理解を深め、「特別扱いしない」や「叱り方等も障害のない者と同じにする」といった会社の方針を貫くため、実習中や実習後を含めて毎日現場で話し合いを持った。このような会社方針を考えたのは、障害者は感受性が強く、差別に敏感であり、人の顔色をうかがうことが少なくないからである。 |
エ | 授産施設や支援機関の先生方との意見交換 先生方と様々な話をする中で、障害者雇用のポイントである、「障害者と見ずに人として見る」という意識なども会得することができた。即ち、障害者個人の特性を理解することが大事であり、一人の人として認めることが不可欠であるという基本姿勢を身に付けられた。 |
② 職場実習の受け入れについて
実習生並びに親御さんに対して、社会人としての姿勢を含め、はっきりと仕事に就けるかどうかを伝えるようにしている。なお、ジョブコーチ等にはあえて頼らないようにしている。なぜならば、ジョブコーチ等がいることで、障害者本人がお客様扱いになってしまうことがあり、安全に配慮する関係からも、直接的に頼るのではなく、随時様子を見に来てもらう等の間接的な支援にとどめている。
③ 賃金について
上記の労働条件のところで、最低賃金からのスタートとなっているが、それは、金額が高いと障害のない者からの逆差別という反発を招くおそれがあり、低ければ、仕事に見合わないという不満やモチベーションの低下を招くおそれがあるからである。
その解決策として、あくまで減額特例は利用せず、最低賃金からスタートすることで、障害のない者からは、未経験者の賃金設定として理解できるという納得を、障害者からは仕事と成果に見合ったものとしての納得を得ることが可能となる。
また、今後、最低賃金がアップすれば、それに応じてスタート金額もアップすることになるが、注目すべきは、会社としてそれは当然であり、アップした分に見合う仕事をしてもらえばよいという姿勢を持っている点である。さらには、見合った仕事ができるように障害者の能力を高め、適切な仕事を割り当てるのが管理職の仕事であり、上司としての務めであると心得ていることは、注目に値すると思われる。
④ 配属について
配属の決定に関しては、1日~2日程度ずつ各部署を経験することによって、適性を見るようにしており、適材適所を実践している。
その判断基準であるが、仕事の出来、不出来が絶対的なものではなく、職場の同僚と話ができるか否かを特に重視している。というのも、長く働くことを前提としているため、コミュニケーションが不可欠であり、相性や対人関係が極めて大切であるとの理由からである。これらは、職場実習の経験並びに特別支援学校や支援機関の担当者との情報交換等を通じて会得した方法であり、定着率が100%であることが、その正しさと有効性を証明している。
また、業務上やむを得ず、他の部署の手伝いをしてもらうことがあるが、その場合、単独で配置するのではなく、親しい社員も一緒に配置するようにしている。この工夫により、通常とは異なる仕事であっても、孤立することなく、非常にスムーズに携わることができている。
⑤ 仕事の指導・教育について
作業の難易度によっては、せかしたり無理させることなく、覚えられるまで時間をかけて指導・教育している。即ち、無理して教え込むよりも、じっくりと時間をかけて仕事を覚えられるようにすることが最も効果的だからである。なお、この指導方法のみが障害のない者と異なる部分であり、「急がば回れ」が教育の基本となっている。
さらには、新しい実習生の対応を障害者に任せることにより、責任感を持たせ、意欲を引き出す効果も現れている。
⑥ 日常について
日常においては、とにかく障害のない者と全く同じである。ただし、健康面で体調の変化の兆候を察することは極めて重要であり、特に顔色には注意している。具体的には、辛そうであれば、早退を含め、送っていくなどの配慮をしている。
⑦ エピソード
本人並びに直属の上司の人の話を伺うことができたので、一部をエピソードとして紹介する。
- Aさん
「皆と一緒に仕事をするのが楽しい。皆の前で話ができるようになった。働いて給料をもらい自分の欲しいものが買えるようになった。」 - Aさんの上司
「入社時は挨拶もできず、周りとの会話もできなかったが、最近では、挨拶や仕事上の意見交換もするようになり指示したことは責任を持って最後までやってくれる。また、朝礼で話ができるようになった。」 - Bさん
「挨拶ができるようになって仕事を覚えるのが楽しいけど、たまに叱られてしまう。というのも、まだ覚えることがいっぱいあるので頑張るが、たまに気を抜いてしまい、叱られることがある。」 - Bさんの上司
「指示されたことは確実にできるようになり、自分でも考え、行動できるようになったが、注意されたことを忘れてしまう場合があるので、忘れないように、覚えるまで時間をかけて教えていく。」
以上であるが、障害者のコメントからは、希望にあふれて生き生きと仕事をしている姿がはっきりと伝わってくる。
一方、直属の上司のコメントからは、障害者である部下を認め、その成長を温かく見守り、さらなる成長をしっかりと支える姿勢が感じられる。したがって、これこそが労務管理のノウハウと言っても過言ではないであろう。
3. 取り組みの効果、今後の課題と対策・展望
(1)取り組みの効果
取り組みの効果としては、まず、若いリーダーの管理職としての成長が認められる点が挙げられる。それは、日々、現場を通じて管理能力が磨かれているからに他ならず、命を預かっているという使命感と、障害者の在籍が生産性や歩留まりに影響しないようにするのが管理職の仕事という自覚が成せる効果と思われる。と同時に、周りの社員がしっかりしてきたことも認められる。さらには、パート社員も障害者を誉め、「怒る」と「叱る」の違いを理解する努力をすることにより、職場全体のレベルが向上したことは明らかである。
そして、上記の取り組み等によりもたらされた最大の成果は、定着率の向上である。7年前の障害者雇用に取り組む前と比較して、辞める人がほとんどいなくなった事実は、取り組みの成果であるといえる。なお、具体的な成長事例は次のとおりである。
- 安全を含め、よく見ることができるようになり視野が広くなると同時に、感性が鋭くなった。
- 教え方や指示の出し方が丁寧で分かりやすくなった。
- なぜ、今注意しているのかを説明できるようになった。
(2)今後の課題と対策・展望
① 課題
実習を通じて採用したいと思う障害者がいたとしても、経営計画上、規模を拡大することが難しいため、増員することがままならないという実情があり、もどかしさを感じることもある。
② 対策・展望
増員については、特例子会社の活用以外の選択肢の有無を含め検討したいと考えている。また、仕事に見合った賃金が原則であるため、障害者の能力を高めることにより仕事のレベルアップを図り、賃金の向上につなげたいと考えている。さらには、もっと視野を広げ、可能性に挑戦するような気持ちを持ってもらえるようになるくらいまで成長して欲しいと願っており、その育成に継続して取り組みたいと考えている。
③ 総括
最後に、今後障害者雇用に取り組む企業に対してアドバイスするとすれば、次のとおりである。とりあえず門を開くことによって、実現可能性が高まるのであり、まずは、職業センターなどの支援機関等と連携し、職場実習を受け入れることから始めることが、遠回りのようで障害者雇用の近道となる。
- 会社の一部だけが取り組むのではなく、全体で取り組む。
- 職場実習を十分に活用し、障害者本人の特性を理解した上で、仕事の割り当て等を行う。
- 特別支援学校や職業センターと連携し、求人を含め情報交換を行う。
- 特別扱いはしないが、健康の配慮や気持ちを理解するために顔色をよく見る。
- 障害者の働ける職場は、他の人も働きやすい職場であり、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)やダイバーシティー(多様な働き方)を大切にする。
以上であるが、障害者雇用の取り組みによって、全社的な定着率の向上という素晴らしい成果が得られたことは、その取り組みが、会社全体のレベルアップにとって、極めて効果的であることを物語っている事例である。
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