一人目の障害者雇用の印象が呼び水となり、取り組みを継続・拡大させた事例
- 事業所名
- 株式会社アダストサービス
- 所在地
- 山梨県中巨摩郡・南アルプス市ほか
- 事業内容
- おしぼり・清拭タオル・マット類のクリーニング及びリース、自動販売機の設置・修理・管理、清涼飲料水の販売、宅配天然水事業(南アルプスミネラル天然水)
- 従業員数
- 123名
- うち障害者数
- 25名(平成24年6月30日現在)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 1 自動販売機の設置・修理 内部障害 知的障害 24 仕分け・包装・検品・箱詰め・コンテナ洗浄、マットやモップの洗浄 精神障害 - 目次


1. 事業所の概要、取り組みの経緯・背景・きっかけ
(1)事業所の概要
① 事業内容
『アダストトータルサポートシステム』として、おしぼり・マット・モップをはじめ、芳香剤や浄水器などの環境機器・サニタリー商品など、オフィスや店舗に関するニーズに沿った様々なグッズを取り揃えており、これらをすばやくお客様のお手許へお届けするサービスを主として行っている。
② 企業理念等
当社は、以下の経営理念のとおり、地球環境の保護、お客様の満足を同時に目指す企業であり、「きれいな環境作り」と「社会への貢献」を目指している。
「経営理念(原文のまま)」
- 私たちは、(地球)社会の一員として「きれいな環境づくり」を目指します。
- 私たちは、お客様や取引先と一体になった繁栄を目指します。
- 私たちは、仕事を通じてより向上する人間形成を図ります。
- 私たちは、社会の一員としての企業の立場を尊重し、社会に貢献する企業づくりを目指します。
③ 組織構成
二つの事業部からなり、次のとおりとなっている。
- レンタル事業部:(営業・ルート)本社・諏訪・松本・長野・佐久・静岡各営業所(工場)本社工場・南アルプス工場
- ベンダー事業部:オペレーション部門(韮崎市)・センター部門(韮崎市・松本市)天然水工場(松川町)
④ 障害者雇用の理念
当社においては、上記の経営理念にある、「3.私たちは、仕事を通じてより向上する人間形成を図ります。」「4.私たちは、社会の一員としての企業の立場を尊重し、社会に貢献する企業づくりを目指します。」の実現の一つとしても障害者雇用に取り組んでいる。
結果として、(当社では、)社員全員が障害のある者と障害のない者の分け隔てなくコミュニケーションをとりながら、それぞれの役割について責任を持って果たしている。また、業種からしても、障害者の雇用は必要不可欠と捉えており、また障害者雇用の確保は社会的使命であり、地域のフラッグシップとして、モデル企業たる自負を持ちながら、今後も障害者雇用を継続・拡大していきたいと考えている。
(2)取り組みの経緯・背景・きっかけ
創業当初、工場の隣に住んでいた障害者を預ったのが障害者雇用の第1号であるが、その隣のご家庭は両親が共働きで、知的障害を持つ息子さんが1人という家族構成であった。そして、その息子さんが養護学校(現在の特別支援学校)を卒業した18歳のときに、日中息子さんをひとり残して仕事へ行くのは心配で、自分たちがいない日中に受け入れてもらえる働き場所があると助かる、との話を両親から聞き、社長にもちょうど同世代の息子さんがおり、障害者への偏見を持たせないよう教育するにはよい機会だと思い、採用を決心したのが、障害者雇用の始まりである。
障害者雇用などは全くわからない状況だったが、その彼がとてもよく働き、長期にわたり一生懸命仕事をしてくれたことがとても印象強く、その影響もあって今日まで約30年間、障害者雇用を持続してこられたものである。
即ち、最初の障害者雇用の印象が、その後の積極的な取り組みを決定付けたことになり、障害者雇用においては、導入時の取り組みが極めて大切であることを物語っていると思われる。なお、現状においては、主にハローワークや特別支援学校、支援機関等を通じた障害者雇用となっており、特に、山梨障害者職業センターからの受入を活用している。
2. 取り組みの具体的な内容
(1)労働条件
① 期間
一日体験を入口とし、トライアル雇用制度を利用し、期間の定めのない雇用契約を締結している。
② 場所
本社工場及び南アルプス工場内の現場となっている。
③ 時間
基本的には9時~17時であるが、通勤体系がそれぞれ異なるため、バスや電車の運行状況によっては柔軟に対応し、退社に負担をかけすぎないよう配慮し、仕事を切り上げさせることもある。
④ 賃金
パートタイム労働者と同様に、時給による給与支給となっている。「企業活動の一端を担う」スタッフであるという点については、障害のない者と変わりなく、責任を持って自分の役割を果たしてもらうよう指導している。即ち、障害の有無にかかわらず、貢献度に見合った賃金が原則であるべきと考えている。したがって、最低賃金の減額特例は、会社の姿勢とは趣を異にするため活用していない。
(2)仕事の内容
主に、以下のような工場現場での作業を担当している。
- 回収おしぼりの選別・投入
- 包装・検品
- 検品・整列
- 箱詰め
- コンテナ洗浄







(3)労務管理の工夫
① 設備面について
昨年の12月より独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の第1種重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金の認定を受けた南アルプス工場が稼動し始めている。この工場の最大の特徴としては、作業者がタオルを二つ折にせずに包装できる機械を24台配置している点であり、この装置を設置した最大の理由は、作業環境及び効率の改善である。
この作業そのものは、おしぼりを目視検品し、きれいに二ツ折にし、コンベアに載せるというものであるが、この“キレイに二ツ折にする”という作業が、障害者にとってはハードルが高く、生産性という点では、障害のない者と比べて差が生じやすい部分であった。そのハードルをクリアーすべく、この部分を機械化し、自動化したものである。この装置の設置には、開発段階から関わり、メーカーと意見交換しながら完成させたという経緯がある。現在では、同業他社からも引き合いがあり、注目される設備となっている。
この改善により、南アルプス工場では、障害者に包装担当も任せられるようになり、障害者雇用の幅も拡大することが可能となった。
即ち、障害者に負担のかかる部分を機械化するなどして減らすことで、困難とされていた高度な作業を割り当てることができるようになれば、仕事の幅が広がり、障害者雇用の継続・拡大につながることが認められる。言い換えると、障害者雇用の継続・拡大には、機械化を含めた作業環境の改善が非常に効果的であると言える。
② 仕事の指導・教育について
基本的に、「給料を自分で稼ぐ」という意識付けとその喜びを実感してもらうよう促すことを重視し、指導する側も意識している。仕事である以上、ボランティアではなく、仕事の質や協調性も求められるからである。
したがって、「障害者だから」という甘やかしに繋がる考えは持たず、障害のない者と同様に、注意すべき点は、その場で、はっきり指導・教育するよう意識している点がポイントと思われる。というのも、当職場は、パート社員と障害者の活躍で上手く回っており、高年齢者や女性を含めた多様性のある職場(ダイバーシティー)として機能しているため、自然とそのような雰囲気や意識が醸成されたと思われる。
配属された当初は、障害者にどのように接したらよいか戸惑いもあり、特別視していた点は否めないが、1年半から2年を経ると、肩の力も抜け、勝手に悩んでいたことに気付き、上記のような指導・教育の意識を体得できるようになったと認識している。
具体的には、指導・教育の際、厳しさより「わかりやすさ」に重点をおき、タイムリーに何が間違っているのかをしっかり本人に伝え、はっきり返事をさせるように心がけている。同じ部署で働く従業員は、正社員でもパート社員でも、もちろん役員でも、常に気を配り、声をかけ、就業面でも生活面でもアドバイスをするようにしている。
即ち、特別扱いはなく、常にこちらから呼びかけ、日頃からコミュニケーションをとって、働きやすい環境・雰囲気作りに励んでいる。
なお、相互に声かけをすることは極めて大切であるが、早口や大声、きつい言い方はマイナス効果となってしまうので注意が必要である。これらは、障害者に限った話ではなく、多様性のある職場であればなおさら、労務管理の重要な要素の一つと考えられる。
③ 勤怠について
本人が急に休む場合、安全配慮の点から家に確認の電話をすることもあり、欠勤が目立つような時は、昼食時等にリラックスした状態で話を聞き、励ますような対応を心掛けている。
④ エピソード
入社当初は、人見知りで上手く挨拶できないような状態であった者が、こちらから挨拶を継続することで、自発的に挨拶するようになり、今では、同僚の挨拶が悪いと注意するまでになっている。その成長ぶりは、非常に頼もしく、会社としても経営理念の実現につながるものであり嬉しい限りである。
3. 取り組みの効果、今後の課題と対策・展望、総括
(1)取り組みの効果
会社としては、障害者雇用に対して社会的使命感を持ち、可能な限り障害者が就労できるポストを作り出すよう心掛けている。その取り組みによって、障害者が働ける「仕事」が作り出せない事業所が多いなか、障害者と共に働ける環境にいることは、他では経験のできないことであり、障害者雇用に携わることができることに充実感や幸福感を感じられるのは、最大のメリットと考えられる。
また、障害者本人にとっては、社会参加への第一歩としての環境を享受できるというメリットがあると思われる。同じ職場にいる障害のある者に接する障害のない者にとっても、思いやりや思慮深さを持てるようになり、教育・人材育成の面においても大きな影響力があることが認められる。
個人差はあるが、担当する作業によっては、障害のない者よりも高い能力で仕事に取り組むことができる障害者もおり、その仕事ぶりには障害のない者も、自分を省みて「もう一度初心に帰る」よう促されてしまうほどである。
障害のある者・障害のない者ともに影響し合い、相乗効果でこれからもお互いのレベルアップを計っていけるような職場づくりを続けたいと考えている。
(2)今後の課題と対策・展望
① 課題
長年現場を支えてくれてきた障害者も平均年齢が40歳を超え、最高年齢者は55歳となるなど高齢化し、「世代交代」という問題が現実味をおびてきている。
作業内容としては、体力的な負担も大きく、継続雇用を含め高齢化への対応がますます必要になると考えられる。また、作業内容等の変化に抵抗を感じるケースもあり、いろいろな面を含めた環境変化への柔軟な対応も検討課題の一つと思われる。
② 対策・展望
ハローワークをはじめとする各機関や支援施設などとの情報交換をコンスタントに行い、積極的な障害者雇用を継続・拡大できるように努めたいと考えている。
(3)総括
最後に、今後障害者雇用に取り組む企業に対してアドバイスするとすれば、次のとおりである。
① 「柔軟な考え」を持つ
当社のような『単純な反復作業』のある職場では、障害者雇用は比較的検討しやすいと思われるが、障害者雇用に携わり、セミナーなどに参加して、他企業の取り組みなどを知ると、障害者雇用にも様々な形があり、少し見方を変え、労働条件等を含め柔軟に対応することで、まだまだ障害者雇用の可能性は拡がるのではないかと考えられる。
② 実際に障害者雇用をしている事業所に赴き、現場を見る
「百聞は一見に如かず」であり、まずは現場での作業を知り、障害者と接すれば、また新しい発想が生まれ、障害者雇用の実現可能性を確認できると思われる。
以上であるが、何といっても一番のポイントは、最初の障害者雇用の取り組みの成否と思われる。最初の障害者雇用が労使双方にとって納得できるものであれば、以後の障害者雇用の継続・拡大につながるものと考えられる。したがって、初めての取り組みの際は、障害者職業センターを始め、特別支援学校や支援機関等と緊密に連携し、情報交換等をしながら進めることが極めて効果的と思われる。
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