2012年度作成

事業所名

日本通運株式会社  長野支店

所在地

長野県長野市

事業内容

貨物自動車運送、倉庫、通関、重量物の運搬

従業員数

410名

うち障害者数

9名

 

（内訳）

障害	人数	従事業務
視覚障害	1	一般事務
聴覚障害	1	軽作業
肢体不自由	4	一般事務、軽作業
内部障害	2	一般事務
知的障害
精神障害	1	事務補助

目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯・背景
2. 障害者の従事業務・職場配置
3. 取り組みの効果・メリット

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯・背景

（1）事業所の概要

日本通運株式会社は、国内1,100ヶ所の事業所をはじめ、世界37カ国、214都市に386拠点を擁するグローバル企業として、国内はもとより海外において積極的に事業を展開している。

当社は、グローバルロジスティクス企業として、世界のお客様に物流を通じて貢献をし、多様な輸送モードで社会のさらなる発展のために貢献するとともに、環境保全を目指す活動にも力を注いでいる。

当長野支店は、長野県全域を管轄しており、貨物自動車運送、引越、海上輸送、倉庫、通関、重量品輸送等の業務に携わっている。

（2）障害者雇用の経緯・背景

当事業所（長野支店）における障害者雇用率は現在3．9％であるが、過去においては、障害者の雇用促進が図られず対応に苦慮していた。これは運転・荷扱い等の現場業務において、安全面を確保しながら、障害者にどのような業務に就いてもらうかが課題であったからである。

また、内勤である一般事務系においても、「欠員」が出ると、まず補充対応として、障害者で対応することは可能であろうかと、募集活動を実施したものの、結果としてアンマッチとなることが度々あり、障害のない人の採用に踏み切ることが多い実情であった。

しかしながら、このような状況では、障害者雇用率の改善が一向に進まないことから、障害者雇用にあたっては、「欠員補充」という考え方ではなく、応募された人が当事業所でどのような業務に従事できるのか、という観点で検討を行うことにした。従来型の「当社が用意する業務に見合う人を見つける」のではなく、「応募された人に合わせて従事可能な業務を見つける。また業務を生み出す。」という観点で障害者雇用を進めていった。

このような取り組みにより、現在は長野県内で9名の障害者が就業し、それぞれの職場で活躍しており、内1名は精神障害者である。

今回は、この精神障害者の採用経過ならびに現在の従事業務等について紹介する。

2. 障害者の従事業務・職場配置

（1）精神障害者雇用の取り組みについて

障害者雇用については、現在まで「身体障害者」だけを採用してきたが、今回、精神障害者を1名採用するに至った。障害者雇用を進めていく中で、精神障害者を採用することに不安を抱えてはいたものの、地域障害者職業センターの担当者の支援等もあり、現在は勤続2年を経過し、当事業所において必要不可欠な人材となっている。

しかしながら、実は、「精神障害者」の雇用は2人目であり、1人目の人は残念ながら短期間で退職してしまった。退職理由として考えられることは、精神障害者の「障害特性」等について会社担当者に全く知識がなかったため、業務上の配慮等は本人の申し出（自己申告）によるものだけで対応してきたことだ。その人は、面接での受け答えもハキハキとし、パソコンも堪能で事務職希望ということで、当営業所において、トラック輸送に関わる帳票整理等をお願いすることとし、指導係は当該営業所長が担当した。

また来客対応・電話応対等が頻繁にある営業所においては、マンツーマンで業務を教えることがなかなかできず、ある程度業務を教えたら、あとは任せっぱなしという状況となってしまった。業務上の不明点、疑問点等も即座に聞くこともできない状況になってしまったと思われ、2週間経過した時点で体調不良により退職の申し出があった。

本人から詳細な理由を聞くこともできず退職されてしまったが、会社として反省することは、前述のように精神障害者の「障害」の内容・程度を理解していなかったこと、配慮しなければならないこと等の知識がなく接してしまったことなど、実際の雇用の難しさに直面した状況であった。

（2）新たな取り組みについて

以上を踏まえ、再度募集活動を行い、精神障害者を採用することとした。

この人は面接の段階でも障害があるということを全く感じさせず、パソコン学校に通ってスキルアップを図られるなど、社会に出て貢献をしたいという意識が非常に強い人であった。採用するにあたって、前回の事例も踏まえ、地域障害者職業センター担当者から「障害特性」について詳細に説明を受け、配慮が必要な点等について十分に理解できたことは非常に心強かった。特に、他の大多数の人と異なっている点について具体例を提示していただいたことは非常に勉強になった。さらに、何よりも地域障害者職業センター担当者が定期的にバックアップしてもらえるということも大きな安心感となった。

（3）従事業務等について

就労は短時間勤務とし、1日5時間勤務、週に4日勤務とした。水曜日と土曜日、日曜日は休日とした。勤務は現場の営業所ではなく、「管理部門」の配属とし、パソコンによる入力業務等を担当してもらうこととした。

指導係は地域障害者職業センター担当者から事前レクチャーを受けた従業員1名に限定し、複数名での業務指示は行わないこととした。 そのほかに配慮したことは以下の通りである。

1. 電話応対はしない。来客対応もしない（本人のデスクに電話は置かない）
2. 専用の執務スペース（書棚等で囲まれた簡易スペース）を用意
3. 無理をさせない（本人の体調に合わせる）
4. 「障害」の状況については、所属する同じ部署の同僚に、障害特性について事前説明をした

採用後、定期的に地域障害者職業センター担当者に来社してもらい、業務の進捗状況等について直接本人とのヒアリングをお願いした。会社側の担当者にはなかなか話せないようなことについても相談に乗ってもらえたことは、非常に助かった。

また、そのヒアリング結果を会社担当者にもフィードバックしていただき、情報を共有化することが大きな安心感に繋がり、当初の不安は序々に薄らいでいった。

パソコンでの業務処理は、定例フォーマットに数値等を入力していく単純な作業だが、入力件数も多く、短時間で仕上げなければならない内容である。しかし驚いたことに、入力スピードが予想を上回る速さなので、今までの担当者と比較しても格段に省力化が図られている。入力内容に多少の間違いはあるものの、最終チェックは別の担当者が確認作業を行いフォローしており、短時間である程度の内容にまで仕上がることはありがたい。

現在は、ほぼ入力間違いもなく、しかも処理も早い。任せて安心な状況ではあるが、入力業務を集中的にこなすため、以前は、時間を区切っての「休憩」指示も欠かせない状況であった。「ちょっと休んで・・・」というあいまいな表現ではなく、「10分休憩」と明確な指示が大切であることも地域職業者職業センター担当者から助言された。

採用当初は、休憩時間について上述のような細かな指示も出していたが、現在は業務量に応じて自分でコントロールができるようになり、担当者からの細かな指示も必要のない状況である。

さらに肝心なことは、本人が「理解できているか」を時々確認することであり、任せっぱなしにしておいて、途中経過を確認せずに放置し、本人が疑問点・不明点等を聞くタイミングを逸して、自分の判断の元に業務を進めていってしまうことのないようにすることも大切なことである。

「新規業務」に従事する場合、必ず途中で「つまずいていないか？」を検証することが重要である。以前、「パソコンでこのような帳票を作成して」と中途半端な指示をしたところ、こちらが思っていた資料とは違う内容が出来上がり、明確な指示の重要性を認識した。このように本人の思い込みで作業を進めてしまうことは二度手間ともなるため、具体的で明確な業務指示は何よりも重要である。

（4）現在の状況

現在、既に2年経過し、通常業務については、特段の指示もなくキッチリとこなすようになっている。自分で月間スケジュールを作成して、予定通りに業務を処理するなど非常に手堅い仕事ぶりである。また、基本的な社会ルールも備えており、無断欠勤・遅刻もなく、会社にとってはなくてはならない有能な人材として位置づけられる。

決められた業務を決めた通りに、素早くこなしていく姿勢には頭が下がる。また、非常に責任感が強いため、業務量に応じて、自ら勤務延長を申し出たりすることもあるが、適宜本人にブレーキをかけないといけない状況も見受けられる。そのような場合には、翌日に業務を振り分けるよう指示をしている。

3. 取り組みの効果・メリット

精神障害者雇用は、非常に不安な状況の中でのスタートとなったが、何よりも地域障害者職業センターのバックアップが大きな拠り所となり非常に助かった。試行錯誤を繰り返しながら進めていたものの、専門家の後ろ盾があるという安心感は、企業側からすると何にも変えがたい。

現在は、既に採用当初に支援いただいた人の手を離れ一人立ちを果たしているが、突発的な対応等で困ってしまう事例が発生した場合の相談窓口があることは、企業側にとっても大変心強い。

今回、このような成果をもたらしたことは、何よりも本人の努力があることはいうまでも無いが、事前に「障害特性」を認識した上で、ごく普通に自然に接したことがよい結果を生んだと理解している。障害の特性をあえてうまく引き出し、本人の持っている能力を活用していくことは、本人のみならず、企業側にとっても大きなプラスである。適材適所に配置すれば、驚く程の効果や結果を見出してくれるのだ。

障害者だからといって、先入観で判断することが問題であることも十分理解した。

最後に、障害者にとっては、働くということが何よりも大切であることを実感した。障害者の多くは、皆が驚くほど一生懸命で真面目である。働くことで社会に貢献し、その貢献している達成感や満足感が人間としての幸せを醸し出すものと認識した。

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