2012年度作成

事業所名

株式会社プラントフード・ニシムラ

所在地

静岡県袋井市

事業内容

有機肥料製造販売・農業

従業員数

21名

うち障害者数

16名

 

（内訳）

障害	人数	従事業務
視覚障害
聴覚障害
肢体不自由
内部障害
知的障害	16	堆肥製造・農業・原料運搬の補助等
精神障害

目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
2. 取り組み内容
3. 取り組みの効果、今後の展望と課題

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯

（1）事業所の概要

株式会社プラントフード・ニシムラは、袋井市の山あいの、人家が点在する静かな農村地帯に立地する。

農家の長男として産まれた西村社長は、1972年に個人で養豚業を創業した。重労働で求人してもなかなか人が集まらず、人手が足りなかったためもあり、この頃から障害者を雇用していたという。その後、年を重ねるごとに事業を拡大し、有限会社を経て1993年、株式会社プラントフード・ニシムラを設立。

これを機に、採算が合わないという理由から養豚業を廃業し、肥料の製造・販売をメインとする事業を行うこととなったが、障害者雇用は継続して行っていた。

同年には、実弟が株式会社ニシムラ工業所を設立して事業を分割し、FRP製品の製造・販売・加工・組立・設計を手がけることとなった。設立当初は、こちらの会社でも障害者を雇用していたが、細かい作業のため、彼らが作業した後に手直しを行わなければならず、雇用を断念した。

（2）障害者雇用の経緯

株式会社になって初めて障害者を雇用したのは1979年、ハローワークの紹介で2名の知的障害者を雇用した。そのうちの1人は、障害者訓練施設である県立富士見学園から採用した。障害者の受け入れに関しては、同業者が障害者を雇用しているのを見ていたため、抵抗はなかったという。この時代はフォークリフトなどの重機を使用せず、すべて手作業で行っていたため、単純で同じことを繰り返す作業が彼らの特性にマッチした。社長は、障害者が充分戦力になるということを実感したという。

当時雇用した2名は自力で通勤できなかったため、社長が送迎していた。これが、後に生活寮を建設するきっかけとなった。

その後、昭和55年から59年までは毎年知的障害者を雇用しており、採用の基準を設けることはなく、ハローワークから要請があれば受け入れていたという。

現在は16名が雇用されており、そのうち14名は重度の知的障害者である。

重労働の業務が多いため16名はすべて男性で、8時から17時までの勤務。年齢層は33歳から56歳と、比較的年齢の高い人が多く、平均勤続年数は25年で、継続して勤務している様子がうかがえる。

2. 取り組み内容

初めて障害者を雇用した当初は養豚業を営んでおり、社長自ら彼らに手取り足取り、えさのやり方や掃除の仕方などを教えていた。

支援機関を頼らず、1人1人と向き合って、時にはぶつかり合いながらも、彼らの性格や特性を生かしながら指導していくうちに、彼らは単純な作業の繰り返しに向いており、一度覚えてしまえば自立して作業できることがわかったという。

その後、養豚業をやめ、有機肥料の製造・販売を行うようになってからは、比較的能力の高い障害者にフォークリフトの免許を取得させるなど、積極的にスキルアップを勧めてきた。現在フォークリフトの免許を取得している障害者は2名おり、そのうちの1人であるKさんに会うことができた。

彼は時折、鬱の症状が見られることがあるため、社長は、季節の変わり目や彼が落ち込んでいる時などは、様子を見ながら、慎重にかかわることを心がけているという。この日の彼は、小雨が降る中、フォークリフトに乗って、工場の敷地内を縦横無尽に移動し作業をしていた。その姿は、実に頼もしいものであった。

肥料を回転式ふるい機で振り、選別する作業場では、Mさんが働いていた。彼は重度の知的障害があるというが、1人で落ち着いて作業していた。大きなスコップで肥料をすくう作業は、小柄なMさんにとって体力を必要とする作業であるように見受けられたが、黙々と作業するその姿を見て、働く人としての誇りを感じた。

堆肥の製造には原料として、モミガラや下水汚泥肥料、食品工業汚泥肥料等を必要とする。これらの回収や、製造した肥料の運搬はトラック5～6台で行われるが、このトラックの運転を障害のない従業員が行い、それに障害者が助手として1名ずつ付いて、2人1組で作業にあたっている。

助手の仕事は、荷物の積み下ろしが中心で、1日中トラックに乗り、市内を回る。会社の外に出られるので、障害者の多くは助手の仕事を希望するそうだが、社長がそれぞれの能力と、運転手との相性を見て配属・配置を決定している。1度決めたペアは、よほどのことがない限り、変わることはない。

肥料の原料であるモミガラはJAのライスセンターから、下水汚泥や食品工業汚泥は市の施設から回収しているとのことで、肥料の製造はリサイクルにも一役かっている。これらの原料を一定の割合で攪拌、配合し、熟成させたものを袋詰めするのも、障害者の仕事となっている。こうして出来上がった製品は、農協や肥料問屋に卸したり、一般の農家に販売される。堆肥肥料なので、用途が幅広いのが特徴である。

当社は市の中心部から離れた山あいにあるため、公共の交通機関が使用できず、通勤が困難である。そのため、初めて障害者を雇用した当初は、一人ひとり送迎を行っていた。送迎をしないと、些細なことで仕事を休んだり、2～3年勤めると辞めてしまう者が多く、その結果、人手が足りなくなり、他の従業員に負担がかかってしまうこととなったためである。

そこで社長は、1985年、会社の敷地内に生活寮を建設し、障害のある社員のために生活の場を確保した。その後、雇用する障害者が増えるたびに寮を増設し、寮の利用者が7～8人になったところで、住み込みの寮母さんを2名雇い入れ、彼らの食事の世話をしてもらった。しかし、障害者に接することに専門的な知識のない人が彼らの面倒をみるのは容易なことではなく、寮母さんの入れ替わりは激しかったという。

現在は、雇用されている障害者全員がこの生活寮で生活している。一人ひとりに6畳の部屋が割り当てられ、自分専用の洗濯機があり、各自がそれを使って洗濯を行っている。寮には消灯時間などの細かい決め事はなく、門限も「暗くなる前に帰ってくる」というアバウトなものである。お金の管理については、ある程度自分で管理できると判断した者に関しては、自分で管理させている。彼らが生き生きと自由な生活を楽しんでいるように見受けられるのは、必要以上に束縛されることなく暮らしていることが一つの要因であろう。

彼らに生活の場を提供するということは、当然、彼らに対する社長の責任も大きくなる。社長が月の半分の日数を、彼らの服用する薬の受け取りや精神科の受診の付き添いに費やしていることからも、その大変さは容易に推測される。

勤続年数の長い障害者は、仕事上での心配はないが、生活面でのサポートは必要である。

自分の洗濯機が壊れたからといって、近所の洗濯機を持ってきてしまったり、近所の畑のみかんを一輪車を使って大量に取って来てしまったり、繁華街で飲み歩いて泥酔し、警察に保護されたり、消費者金融に手を出してしまったり・・・と、挙げればきりがないほど生活面での問題が発生するそうだ。そんな問題にも、一つひとつ誠意を持って対処してきた社長は、「菓子折りを持って謝りに行くのも社長の仕事だと割り切っている。」と話す。その表情は、いっときたりとも気の休まることがない生活を送っているとは思えない穏やかさである。

このように、様々な問題を起こす彼らではあるが、その一方で、地域の住民に必要とされている。それは、社長が彼らを連れ出して積極的に地域の除草作業に参加したり、月に10日ほど、地元の養鶏場に出向き、捕鳥作業を請け負ったりと、地域に貢献しているからだ。走り回る鶏を次から次にコンテナへ入れる捕鳥作業は、一般の人ではなかなかできない作業だが、彼らは実に手際よくやってのけるという。養鶏場の経営者は、そんな彼らの存在に大いに助けられているそうである。

当社では、これらの作業のほかに、農業も行っている。雇用している障害者の作業確保のため、海岸沿いの広大な土地で、自前の肥料を利用し、農作物を栽培している。春は白ねぎを栽培しており、収穫時は彼らが大活躍するそうである。

3. 取り組みの効果、今後の展望と課題

（1）取り組みの効果

障害者が就労する時、通勤や住まいの問題が持ち上がることは少なくない。そのような状況を受け、社長が一念発起して会社の敷地内に生活の場を作ったことにより、雇用した障害者は全員、継続して出勤することが可能となり、安定した就業生活が送れるようになった。彼らの中には、両親がなく、小さい頃から養護施設で育ってきた人も多いとのことで、おそらくこの生活寮は精神面での安定にもつながっているのではないかと思う。しかし、お盆や正月になると親がいる人は実家に帰るので、生活寮に残る社員の中には寂しさから情緒不安定になり、荒れることもあるという。そんな時には、社長が一緒に食事をしたりして、彼らの寂しい気持ちに寄り添うのだそうである。このように、その時その時で対応に試行錯誤しながら、社長は彼らとの信頼関係を築き上げていった。その揺るぎない関係が、障害者の雇用を定着させているのだろう。

取材で生活寮を見学させてもらった時、ちょうどSさんは昼食中であった。彼は勤続年数31年のベテランである。彼に、「部屋の中を撮影してもいいか」と尋ねると、快く許可してくれた。彼の部屋の中はきちんと片付いており、掃除も行き届き、生活能力の高さが感じられた。

多くの障害者の生活面をサポートすることは、雇用する側にとって苦労の連続であるが、そのぶん、社長と彼らとの絆は強く、主従関係というよりは、家族のような温かいつながりを感じた。

彼らが「一番怖いのは社長。一番怖くないのも社長。」と言って頼りにしているのも、大いに納得できる。

フォークリフトの免許を取得したKさんとSさんは、自信がつき、仕事への意欲が高まったという。障害があるなしにかかわらず、何かにチャレンジする機会を与え、目標を達成させることで、彼らを大きく成長させることができたのではないだろうか。

（2）今後の展望と課題

当社に雇用されている障害者の平均年齢は46．8歳である。このことからみても、今後は彼らの高齢化が問題となってくるであろう。また、会社では、後継者として社長の息子さんが一緒に働いており、徐々に世代交代が行われているが、生活寮の維持はいろいろな面で負担が大きく、現在の状況と同じ形で継続できるかは、今後の大きな課題である。

さらに、時代の流れで機械化が進み、肥料の価格も下がる中、機械化すれば生産性は上がるが、彼らの仕事が減ってしまうというジレンマにも悩んでいる。両者のバランスが難しいところである。

そんな中、社長は、今後雇用を維持するためにも、製造する肥料の種類を増やすなど、新たな事業展開を模索している。

それにしても、これだけの苦労をしてもなお、彼らの仕事だけでなく、生活面までサポートする原動力は何なのであろうか。社長に率直に伺うと、「彼らは人間の原点のようなもの。素直で嘘がない。それが、彼らの魅力であり、もはや自分にとって彼らの存在は自分の息子のようなものだから。」という答えが返ってきた。その笑顔は慈愛に満ち、あらためて彼らに対する社長の愛情の深さを知った。

前ページへ