誰もが当たり前に暮らせる社会に・私たちの当たり前を社会の当たり前に
- 事業所名
- 立積住備工業株式会社(りゅうせきじゅうびこうぎょう)
- 所在地
- 奈良県奈良市
- 事業内容
- ユニットバス部品製造
- 従業員数
- 101名
- うち障害者数
- 31名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 3 生産管理事務 内部障害 知的障害 26 製造 精神障害 2 経理・総務 - 目次

1. 私たちの会社、「障害」に思うこと、私たちの雇用
(1)私たちの会社
設立 | 1975年(昭和50年)5月1日 |
資本金 | 40百万円(積水化学工業株式会社100%出資) |
売上高 | 43億円(2011年度実績) |
業務内容 | 積水ホームテクノ株式会社向けユニットバスの部品生産
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会社沿革 | 昭和50年5月積水化学工業株式会社奈良工場の場内協力会社として設立 平成20年2月障害者の雇用を始める |
(2)「障害」に思うこと
「障害者ってどんな人?」障害者と聞くと、どんな障害か、程度は、どんな行動をするのか、そんなことを人は気にするものである。
その人を知るのに、障害の種類とか、重さとか、行動特性とかが真っ先に重要なことなのであろうか?
私は未だにうちの社員の何が障害なのかは詳しく知らないが、彼はこんなことが好き、彼女はこんな素敵なところがある、みんなこんなに一生懸命生きている。
そんなことは知っている。
障害とは決してその人だけのものではない。
障害とは、人と人の間にあるもの。人と社会の関係を表す言葉である。
私たちが変われば、障害も変わり、社会が変われば、障害もなくなる。
障害とは体が不自由なことや知的能力が不自由なことではない。
それを受け入れられない私たちが、本当の障害者である。
私たちの会社は、「障害者雇用をしている会社。障害者に理解のある会社」と言われているが、そうではない。
一人ひとりが大切。ただそれだけのこと。それはいつも目の前にある、いちばん簡単なことである。
(3)私たちの雇用
「人の能力と価値」人はみんな、もって生れた能力がある。100点の人もいれば、50点や30点の人もいる。いろんな人がいるのが、この社会である。
私たちの会社には知的障害のある社員がいる。彼らの能力は確かに低いかもしれない。でも私たちの会社は、彼らが働くようになって、50点や30点の人がいても今までと同じ、それどころか、今まで以上の結果が出せるんだということが分かってきた。
私が社員を採用する時の基準は、「仕事にふさわしい人を採用する」というものである。普通の会社は応募者を比較して、優秀な者から順に採用する。
AさんとBさんが応募してくれば両者を比較し、Aさんは優秀で、Bさんは能力が低い場合は満場一致でAさんを採用する。
しかし、私は仕事とAさん、仕事とBさんを比較し、その結果、確かにAさんは優秀だが、この仕事ではAさんは能力を遊ばせてしまう、かたやBさんは能力が劣るがこの仕事のレベルにふさわしいと判断すれば、Bさんを採用する。
その考えは今、さらに進んでおり、「仕事を誰でもやりやすく易しく変えていけば、能力の低い人にも働いてもらえる会社になるのだ」との思いにまで到った。逆転の発想で、能力の高い者しか受け入れられない会社は、働きにくい会社なのだと思う。
そして私たちは、この会社に知的障害のある社員を迎え入れてから、それまで目の前にあったのに、誰も気がつかなかったことを沢山教えられるようになった。
「どうやって会社として理解を得て進められたのですか?」と質問をされる。
「現地現物!本人と会って!信念を曲げない!」と答える。
「会社で働ける障害者を雇っているだけだという批判に対してはどう思いますか?」と質問をされる。
「そのとおり。会社はその目的に合った雇用をするのである。お情けで雇うなどは、まさに慈善事業であり、雇われた人も尊厳を損なわれ、お互いにムダである。」と答える。私たちの会社は障害者を雇用しているのではない。その仕事にふさわしい人が、その仕事をやっている。ただの企業活動である。
2. 工夫、職場事例、能力と生産性
(1)工夫
それは障害のある人たちが教えてくれたことである。
「知的障害者を現場に入れて危なくないのですか?」と質問をされる。
なぜ危なく見えるのか?それは危ない職場環境であることを、障害のある人たちが浮き彫りにして見せてくれているからである。危ない職場を私たちが改善できていないということを、障害のある人の働く姿が浮き彫りにして教えてくれるのである。
なぜ作業ができないのか?それは改善が進んでいないやりにくい作業であることを、障害のある人たちが浮き彫りにして見せてくれるのである。
私は知的障害者の作業支援の勉強をした時に、こんなことを学んだ。
- 初めから一貫して(同じ方法で)繰り返す
- 指示者、指導者は同じ指導をする
- 理解しやすい方法を考える
- 指導内容を一緒に整理する
- できたことをほめる
- 理解したかどうかの確認をする
紐で作る部品があり、養護学校の生徒には同じ形に揃えるのが難しい作業であった。
私が一緒に作業しながら、つまずいているところを観察して、分かりやすい手順書を作る事で養護学校の生徒にも、この作業が出来るようになった。
後日、製造課に行った時、これは社員全員が分かりやすいと言って、その手順書を使っていた。障害のある人が「この作業は分かりにくいよ」「この作業は力がいってしんどいよ」「この部品は何でこんな形なの?」といろんな疑問を出してくれた。
私たちは一つ一つ改善していった。その結果どうなったのか、障害ある人だけが助かったのであろうか。
そうではない。社員全員が、扱いやすい形の部品に改良され、作業が分かりやすくなり、楽にできるようになったため、健康的な環境になった。
こうやって、障害のある人に気付かされて、色々な改善をしてきた。
指導法など上から目線なものはあるが、同じ気持ちで、目の前にいる相手と学び合うことがいちばんだと思った。
「作業の標準化はどうされますか?」と質問をされる。
標準化=文書化と思われている場合が多いのであるが、文書化は標準化の一部にすぎない。
標準化とは仕事そのものを、バリアフリーでユニバーサルデザインにしていくこと。
誰もが易しくできるように変えていくことである。
できないのは障害のせいではない。
やりにくい作業を私たちが改善せず放置していることを、障害のある人の働く姿が教えてくれるのである。そうやって、障害のある人が入った職場は、より安全に、よりやりやすい作業に変わっていくのである。工夫は、目の前の必要から生じる。
障害者がいたら生産性が落ちるというのは視点を誤っている。それは私たちが何も気付かずにいるだけのことである。そして、何よりも人の心のバリアフリー、ユニバーサルデザインがあれば、何でもできるのだと思う。

(2)職場事例
事例1 「人を光らせるもの」
知的障害のあるRさんは勤めて3年になる。
前に勤めていた会社では「あんたら障害者は雇わんでもええねんで」と言われたそうである。
彼女が初めて会社に来た時、私は当初この実習を受け入れたことを後悔した。なぜかというと、彼女は非常に小柄であったため、工場での勤務は難しいと思えたからである。
うちの会社で働けるわけがないと思ったが、4日間の実習を開始したところ、仕事の覚えはとても遅かったが、彼女は決してあきらめることはしなかった。仕事を終えても自宅に材料を持ち帰り練習をした。ご家族が「今日はこのくらいにしたら」と言っても、やり続けたという。その気持ちがあれば何でもできるのだと思い、彼女を採用した。
入社して研修が終わっても、彼女が達成できた作業スピードはたったの30%であったがそれでも私は彼女を現場に入れた。
1ヵ月がたち、3ヵ月がたち、少しずつ彼女は成長していった。そして6ヵ月がたつと、彼女は一人前の作業者になっていた。それだけではなく彼女は見違えるように、明るく綺麗になっていた。
初めて会った時のことを思うと、人はこんなに変るんだと私は思った。
事例2
特定のことにとてもこだわりのあるM君である。
朝、更衣室で髪型を整える。丸刈りであるため、他からは変化のないように見えるが時間をかけて整える。養護学校在学中に、他の会社に就職が決まっていたが、そこの社員たちから「あんな子と同じ会社だと思われたくない」と言われ就職が取り消しになった。
彼はカウンターという製品を作る仕事をしている。大きなプレス機を使う上、沢山の手順があって、品質基準も厳しいとても難しい仕事である。知的障害者にこんな難しい仕事は任せられないだろうという見方に反して、彼は今1人でこの職場を任されている。何かとこだわりのある彼は、仕事の手順も正確で、検査も、非常に細かい基準に沿って正確に行うため、どんなキズも見落とすことがない。彼が検査したのなら間違いはない、とみんなに言われている。
私は彼が養護学校時代に、絵を描いたり工作をするのを見て、物の成り立ちを見抜く力、物を作る力が優れているのに感心して、この力はもの作りに活かせると思って採用を決めた。
いまだに話をするとかみ合わないこともあるが、4年つき合って、私は一度も困ったことはない。
事例3
1年前に立ち上げた、ある製品の加工職場は、10名余りの社員のほとんどに知的障害がある。
「ありえない」と誰もが思ったが、立ち上げてから1年が経った。
一人ひとりの能力は確かに低く「ありえない採用」「ありえない職場」と思われるかもしれないが、実際にこの彼らは他に引けをとらない仕事をしているのである。
不器用で、多能工とはほど遠い彼らであるが、それぞれが自分に与えられた役割をきちんとこなしたら、どういう結果が生まれるであろうか。
例えば穴あけ加工をしている社員がいる。
彼は1年中この仕事をしている。
人が10分でマスターしそうなこの仕事を自分のものにするのに、彼はひと月かかった。
でも、この仕事にかけては、どんなに優秀な者がきても、彼は負けることはないのである。能力が低くても、こうして、みんなが自分のできることに集中すれば、全体として誰にも負けない仕事ができるのである。
立ち上げから1年が経ち、この職場はさらに素晴らしい実績を出していることが分かった。
この職場では品質不具合がほぼゼロなのである。製造現場の品質確保は「作業手順を守ること・守り続けること」に尽きるといっていい。
この最も簡単に見えることが、いちばん難しいのである。
「知恵が回らない」「融通がきかない」「臨機応変の対応が難しい」と言われる彼らだからこそ、教えられたことを守り続ける。彼らは私たちが持たない才能を持っているのである。


(3)能力と生産性
「能力は高いに越したことはない」それは必ずしも本当のことではない。
生産性を下げるものは、能力の高い低いではなく、能力に見合わない仕事をさせることである。能力の高い社員に、低いレベルの仕事をさせるがゆえに、生産性を下げるというケースが、むしろこの社会では一般的である。同じ結果を出すなら、できるだけ能力の低い人でやることが、高い生産性だと私たちは思う。
チームで仕事をするときの役割で言えば、能力の高い者には高いレベルの部分を、能力の低い者には低いレベルの部分を割り当てるのが当然である。
それを逆に考えれば、例えばペア作業をするときは、能力の高い者同士ペアを組ませれば、一見最適のようであるが、実際はいずれもが能力をムダに余らせることになる。能力に大きな違いがある者でペアを組ませて、それぞれにふさわしい部分をやってもらう。能力が高い者は、決して能力の低い者と優劣関係にあるものではなく、お互いが異なる役割を持ち、補完関係となるものである。
3. きっかけ、夢
(1)きっかけ
平成19年6月、地元の養護学校の進路指導の先生が、職場実習の場を求めて、飛び込みで当社に来られたのが最初であった。
「養護学校や職場実習など当社には関係ない」と断りそうになったが、主役である生徒達に会いもせずに断ってはいけないと、一度だけ養護学校に行くことにした。
学校の近くまで行くと、ちょうど休み時間で叫び声や奇声が聞こえてきて私は怖くなり、やっぱり学校に入るのはやめにしようかと迷ったが、約束だからと思い、しかたなく学校に入った。
そうして恐る恐る出会ったのであるが、生徒達は、とても優しく、温かく、私を迎えてくれた。そこでは知的障害のある生徒達と知り合いになった。障害のために就職も難しく、幸せとはほど遠い一生を送る人も多いことを知った。
知的障害者なんて・・・と思っていたが、直接触れ合った生徒達はとても優しく温かであった。
誤解・偏見を持っていた私達が、障害者にとって本当の障害だったと気付き、今日から心を入れ替えて生徒達が幸せになる仕事をしようと思った。
まず初めに、養護学校の生徒の職場実習を受け入れ、会社で職場実習の提案をしたが、「知的障害者は何をするかわからない」「うちの会社に知的障害者が働く職場などない」と言われた。
そんな中、実習期間中は幹部全員が当番制で見守りにつくことで、初めての実習は行われた。
実習に来たのは高校2年生の男女3人である。この3人の生徒が健気に働く姿を幹部全員が見守ってくれ、彼らの活躍は社員たちの目を大きく変えてくれることになった。
それから5年がたち、この間に私達が学んで実行してきたことは、世間的には「非常識」といわれることであるが、非常識の中にこそ真理が隠れているものだと、そう教えてくれたのは障害のある人達であった。
障害のある人たちから沢山のことを学び、ずいぶん遠くへ歩いてきたように思っていた私たちであるが、ふと気がつくと、それはいつも目の前にあった、いちばん簡単なはずのことであった。


(2)夢
私たちのことを知って、行動する人が一人でもいれば、それでいいと思う。
「誰もが当たり前に働ける会社」「誰もが当たり前に暮らせる社会」
私たちの会社には、知的障害がある仲間がいる。
この会社で彼らが幸せに働いてほしい。
彼らが幸せに働ける会社は、みんなが幸せに働ける会社である。
そして、この社会もそうである。
障害のある人たちが幸せに暮らせる社会は、みんなが幸せに暮らせる社会である。
だから、誰もが当たり前に働ける会社に。
誰もが当たり前に暮らせる社会に。
そして、私たちの当たり前を社会の当たり前に。
それが私たちの夢である。
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