障害者の「夢」を現実的な「目標」へ
- 事業所名
- 特定非営利活動法人 未来想造舎和一久
- 所在地
- 岡山県倉敷市
- 事業内容
- 干し椎茸の加工・販売、米粉の製粉・販売、菜種油の搾油、食洗作業、カフェの運営
- 従業員数
- 26名
- うち障害者数
- 14名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 6 食洗・椎茸・米粉加工・事務 内部障害 1 給配食 知的障害 5 食洗・椎茸・米粉加工 精神障害 2 食洗・椎茸・米粉加工・カフェ - 目次

1. 事業所の概要・障害者雇用の経緯、事業内容と作業工程
(1)事業所の概要・障害者雇用の経緯
我々の本体事業である株式会社創心會は、介護保険制度が導入される以前の平成8年から訪問リハビリを中心に在宅サービスを提供してきた。現在、15センター36事業所の介護保険サービス事業所を運営しており、約3,000名がサービスを利用している。
利用者の大多数が「身体が良くなったら働きたい。」「もう一度旅行に行きたい。」「家族のために何かしたい。」「迷惑はかけたくない。」などといったことを思いながら、リハビリに取り組んでいる。
介護保険サービスを利用される人のほとんどは65歳以上の高齢者であるが、介護保険では脳卒中などの疾患がある人に対しては40歳から介護保険制度を利用することができる為、若くして障害を負った人も多くサービスを利用している現状がある。
訪問サービスやデイサービスなどでリハビリに取り組まれ身体的・精神的にも安定された人がリハビリの成果を試す、実践、実感するために働きたいといった心の変化が見られても、「働ける場がない」というのが現状であり、在宅やデイサービスで滞留してしまう状況であった。
働く意欲はあっても職場の受け入れが難しく復職が難しかったりすることもあった。
そこで障害者が、気兼ねなく楽しんで働く場やリハビリの成果を実感、実践できる、生きがいを感じられる場を提供することができないかを考え、未来想造舎和一久を平成23年6月に設立した。
未来想造舎和一久の経営理念
私達は、一人ひとりに合わせた社会活動の場を整えることで、
地域に根差し、全ての方が当たり前に地域で暮らせる
心豊かな希望ある未来を想造します。
(2)事業内容と作業工程
事業所は倉敷市茶屋町にあり、作業場は岡山市にある農業公園である「おかやまサウスヴィレッジ」内にある。
事業内容は、デイサービスを中心とした給食調理から配達弁当の調理・販売、菜種油の搾油(委託)、米粉の製粉、椎茸の加工・販売、食洗作業・施設内清掃、カフェの運営である。
特定非営利活動法人未来想造舎和一久には給配食部門と就労継続支援A型の2つの部門がある。
現在、給配食部門は就労継続支援A型の申請は行なわず運営しているが、その理由は、就労継続支援A型が65歳未満の人しか利用できない制度になっているため、65歳を超えても「まだ働きたい。」という意欲のある人には継続して働いてもらえる仕組みを作りたいという思いと、A型に勤務している従業員が一般就労できる状況になった際には、慣れ親しんだ環境やサポートスタッフがいるところでも、働けるという環境も整えておきたいという思いからである。
【椎茸の加工】
椎茸加工は、はさみを使用するため、はさみの管理や使用方法などには十分注意している。片麻痺(身体障害)がある従業員に関しては自助具を作製し、はさみを使いやすいようにしている。椎茸スライサーの使用や干し椎茸の袋詰めなどの作業で、マニュアル化できるところはマニュアル化している。
【食器洗浄】
役割を明確化し、衛生面(手洗い・マスク・帽子の着用・食器洗浄室内における靴の履き換え)の徹底をしている。作業をひとつずつ分け、①食洗機を使う作業②食器を拭く作業③食器を収納する作業及び伝票をはさみでカットする作業に分けてスタッフを配置している。
【菜種油の搾油】
正確性と根気が必要とされるため、少人数(1名~2名)で行っている。
【調理】
刃物を使用したり、数を数えたりすることが多くあり、分かりやすく具体的な指示を伝えるよう心掛けている。調理の仕方で作業手順が変更となるためマニュアル化ができるところと難しいところがあり、口頭での指示が比較的多くなっている。衛生面に関しては、どの作業環境よりも徹底して取り組んでいる。
2. 雇用の現場から、サポートスタッフの配慮事項
(1)雇用の現場から
・中途障害者のAさん(61歳)の事例
Aさんは脳卒中になり左片麻痺の症状が出現し、5年間リハビリに積極的に通われていた。現在は椎茸の加工を中心として障害は左上肢・下肢に残っているが、働ける喜びを改めて感じていると話してくれる。
かつてのAさんは、リハビリがない日は1日中自宅で過ごすことが多く、時間がありすぎることにストレスを感じるようになり、家族のことを考えると精神的に落ち込むことも度々あり、前職においては復職することも難しい現状があったため、休職期間満了後にそのまま退職手続きをとったという過去がある。
未来想造舎に来る前は、管理職の仕事もしており、第一線で活躍していたAさんにとっては働くことができないといったストレスは想像を絶するものだったと思われる。今では、「自分はまだできる」「まだまだ、家族に対しても、社会に対しても役割を果たせる。」と力強く語ってくれる頼もしい従業員である。
・知的障害者Bさんの事例
Bさんは現在、食洗作業・椎茸の加工を中心に作業を行っている。
伝えたことに対して、熱心で正確に作業をこなすことができる、頼もしい人である。食洗作業でマスクを着けずに室内に入ってくる職員や業者の人に対しては、率先し、注意することができ、確認作業も確実に行ってくれるため、正確性といった面に関しての信頼は誰よりも高い。
我々が嬉しかったのは「僕は一生ここで働くことができるんだよね。」と力強く声を掛けてくれたこと。
Bさんは、自分の想いを積極的に伝えることはしないが、自分の好きなゲーム等が、自分の稼いだお金で買える喜びを感じてくれているのではないかと想像できる。
初任給で、ご両親と自分の大好きな焼き肉を食べに行ったという話も聞いた。働けることに対して幸せを感じ、喜びに満ちあふれた表情をいつも見せてくれるBさんである。
・知的障害者Cさんの事例
Cさんは誰に対しても積極的に話しかけることができ、ムードメーカー的な役割を担ってくれている。作業中と休憩中のメリハリもしっかりできている。
誰に対しても気さくに話しかけ、新しく入った従業員や実習生などの関わりも、役割の一つとしてお願いしている。給料日には「給料ありがとう。」と必ず声をかけてくれ、「自分たちがつくった商品が近くの店で販売されているのをみると、これから増々頑張らないといけないと思った。」と、働く喜びを全身で表現してくれるCさんである。



(2)サポートスタッフの配慮事項
【社会人の基本として挨拶の徹底】
いつも気持ちの良い挨拶ですねと、地域の人々から声をかけていただける事を目標として「おはようございます。」「行ってまいります。」「帰りました。」「お先に失礼します。」など、基本的なコミュニケーションがきちんと立ち止まって、誰にでも聞こえるよう、大きな声で挨拶を行えるように取り組んでいる。
これは社会人の基本マナーとして配慮している大事なことである。
【服装・身だしなみ】
作業場となっているおかやまサウスヴィレッジは公共施設でもあり、食品を扱う作業が多い為、服装・身だしなみ・衛生面に関しては注意を払っている。
現在、制服の貸与を検討しており、おかやまサウスヴィレッジ内に作業場があるということもあり、テーマパークの従業員というような雰囲気が出せる服を着ることに意味を持たせ、仕事と職場に愛情を持ってもらえたらと考えている。
【従業員との毎月の面談】
従業員とは面談を毎月行うようにし、個々の心身の状況確認を行っている。
【新しい従業員の紹介】
新しく入社される従業員については、他の従業員が全員で歓迎できる場を設けている。また、サポートスタッフに業務上サポートしてもらいたい点などを入社時に確認し、理解を深めるようにしている。そうすることで、サポートスタッフはもとより従業員の緊張も緩和され、過度に構えることなく迎え入れる事が出来ている。
【安全管理面について】
日常的な健康管理の重要性、作業の状況把握、行動動作の分析、職員の危機意識といったところがキーポイントとなる。
当事業所の本体事業である株式会社創心會には、専門的な支援者として、リハビリスタッフや看護スタッフ、介護スタッフなど様々な専門スタッフがいる為、障害の理解や相談などは各専門職に相談することができる体制を組織としてとっている。
脳卒中など色々な疾患や合併症をもった人もいるので健康状況の確認については特に重要視している。
年齢・疾患に問わず毎日の健康管理に関しては、血圧、体温、脈拍といったものを正確に測定し、その日の健康状態を把握するようしている。血圧が高すぎる際には時間をおいて血圧を測り直し1日勤務できる状況であるのかを判断するようにしている。
通勤は自転車、自家用車、公共交通機関を使い、駅から徒歩の人もおり様々である。ある時、近隣の人から「急に道路に飛び出したり、走りだしたり、ジャンプしたりされるので事故につながりかねない。」といった声を頂いたことがあった。そこで、公共交通機関を利用し、そこから徒歩で通勤される人に関しては一緒に同行し、普段の行動を観察し、現状分析と注意した方が良いところを検証し指導するといった取り組みを行っている。
作業に関しても同様で、個々の能力評価を行い、障害を個人の問題とするのではなく、環境との関係でとらえる考え方(ICFの視点)が昨今広まってきている。そのような視点で常に物事を考えるようにし、「○○があると、○○出来る。」という考え方で個々にあった自助具を作製し、環境を整えたりしている。
また安全面に関して事業所では「自分の当たり前が当たり前ではない」「自分のものさしで相手を評価しない」ということを前提にした物事の考え方をするように気をつけ、少しの変化にも気づける感性を磨けるような、サポートスタッフの感性を育てることに力を入れている。
3. 課題に対しての今後の取り組み
未来想造舎和一久においては就労継続支援A型から一般就労への道筋は給配食部門しか整えることができていない為、障害者の「働きたい」といった思いを途中で途切らせるようなことがないように、地域企業との就労支援ネットワークを広げ、個々の障害特性や環境に合わせた次のステップを紹介できる仕組みを作っていきたいと考えている。
そこで地域の企業と支援ネットワークを構築していく上で個々の企業の環境・職務内容を十分に把握した上で、個々の能力・特性に合わせた個別プログラムを立案し、個々の企業が求める業務がこなせる事が出来る人財育成にも力を入れていきたいと考えている。
また、今後は農業分野において障害者の活躍の場として環境を整える事が出来ないかを現在検討している。
「農福教(共)(農業・福祉・教(共)育)連携」を意識した活動を行いながら、地域に根差し、全ての人が当たり前に地域で暮らせる心豊かな希望ある未来を想造していくために、色々な人からのアドバイスや知恵が必要である為、ネットワークを意識した取り組みをしていきたいと考えている。
障害者の中には「働く」ということが困難な人も多い。障害の種類や程度によっては、何らかの支援をすることにより、働くことが可能になるケースもあると思う。就労の場を拡大する中で、軽易な作業を体験することで、「できなかった」ことが、「できるようになる」ことは充分に考えられる。働くことが可能な障害者の一方で、そういった人に対する雇用の場はどのように考えていくべきか、具現化することが我々の抜本的な雇用促進につながるのではないかと考えている。
今後は、障害者やそのご家族が抱いている「夢」を夢のまま終わらせるのではなく、その「夢」を「夢」から「目標」に変えて、実現できるような仕組みを構築し、サポートできるよう取り組んでいきたいと思う。
我々の事業本体のグループは医療・介護サービスを中心に事業展開してきたため、高齢者・障害者との関わりに関しては特に大きな課題となる点はないが、事業運営をしていく際に最も重要である販路の拡大に関してや、制度の活用には苦労している面が多々ある。
しかし、最も重要な事は助成金等の制度を利用しなくても、事業運営できる強い組織の構築をしなければいけないということが我々に与えられた課題でもあり、それは永遠の使命だと考えている。
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