みんなが働ける良い会社をめざして
- 事業所名
- 有限会社メタルワーク福山
- 所在地
- 広島県福山市
- 事業内容
- ステンレス溶接加工及び化粧仕上げ、薄物精密鈑金加工
- 従業員数
- 31名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 1 鈑金製造加工 肢体不自由 1 NCデータ作成 内部障害 知的障害 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要
我社はステンレス溶接加工及び化粧仕上げを得意としており、精密鈑金加工の技術は非常に高く、最新のレーザー加工機械により、精密な穴あけ加工も高精度、高品質で高速切断することができる。
~もの創りからまなぶ経営理念(経営理念は我社の根底に流れる考え方です)~
私たちは、もの創りを通じてお客様の求める満足に応え、それによって自己の充実をはかると共に地域社会の発展に尽くします。我社は、「積極心」・「創造心」・「向上心」の三つの心を胸に自己の練成に努め、「お客様に喜んで頂ける製品造り」を目指します。
我社に集う者たちは、もの創りの技術で社会に役立っていこうとする人ばかりです。良い製品、良い技術を目指して切磋琢磨することが喜びの人ばかりです。私たちは、この職場で自由に伸び伸びと働きます。しかし、いつも他人を思いやり、自分だけの勝手な判断では行動しません。
私たちは、この職場は自分を鍛える道場だと思っています。一生懸命働く事が自分を成長させ、人への思いやりを育み、人の役に立つ自分をつくっていく事だと信じています。そして、社会に貢献することにより、会社から適正な報酬を得て、自分の家族を豊かなものにしていきます。
2. 障害者雇用の経緯
(1)日本理化学工業(株)の大山会長のお話しを聞いて
~平成22年2月、中小企業家同友会福山支部での日本理化学工業㈱大山会長の講演内容~
チョーク作りに取り組む社員74人の小さな会社を営んでいる。7割を知的障害者が占めている。手掛けているのは、粉の出が少なく体に害のない「ダストレス・チョーク」である。
障害者を雇用する際、創業者である父に相談した。その時父は「そうした人たちが働く会社が一つぐらい日本にあってもいいだろう」と言った。この言葉で私は障害者の雇用に踏み切った。雇用をする前に行った職場実習が終わった日に、一人の社員(職場の責任者)が「私たちみんなが面倒をみますからこの人を雇ってあげてください」と言ってきたことで障害者雇用がスタートした。
私は当初、施設にいれば楽に過ごせるのに、どうして工場で働きたいのか不思議でならなかった。この疑問はある住職に出会って解けた。「人の幸せは、物や金だけではない。次の4つだ。人に愛されること、人に褒められること、人のお役に立つこと、人から必要とされること」。住職のこの言葉で胸につかえていたものが取れた。障害者たちは工場で「人の役に立っている」、「必要とされている」ことを実感していたのだ。
障害者雇用を始めて50年。経営的には厳しい時期もあった。障害のない社員だけの会社にすれば利益が出るだろう。しかしそれでは障害者に働く喜びを提供できない。半面、企業は利益を生まなければ継続できない。「働いているのが障害者だから仕方ない」というわけにはいかない。全社員が必死でさまざまな工夫をした。それが障害者を主力とした「行程改革」だった。その結果、障害のない者にとっても分かりやすい作業工程となり、効率化につながった。
「思い」を大事にしながら地道に努力すれば、必ず報われる時がくる。50年間にわたる経験からそう断言する。私の思いは、「障害者に働く喜びを提供すること」。そして私に「働く幸せを大事にしたい」という思いを授けてくれたのは、知的障害者だった。
~以上、大山会長の講演内容~
私は、講演が終わっても席を立つことができなかった。身内に障害者がいるのに、私にその「思い」があったのか。涙がこみ上げてきた。経営者としての人間力は?人を生かす経営力?いまの私に何ができるのか、なにをすればいいのか、忸怩たる思いで会場を後にした。
(2)中小企業家同友会での学び
平成22年5月、中小企業家同友会福山支部バリアーフリー(障害者問題)委員会の委員長の要請があった。我社は10年前に障害者雇用に失敗したことへの悔いや、身内の障害者の将来を考えていたことも重なり、前出の大山会長のお話しに感銘を受けたことで、足りないながらもお受けした。
中小企業家同友会が障害者問題や障害者雇用に取り組むのは、同友会の理念である「人を生かす(人間尊重の)経営」に繋がるからである。「人を生かす(人間尊重の)経営」そのために委員会方針の確認から始めた。テーマ:「みんなで働けるいい会社づくり」で方針が決まった。
同友会では「障害者を雇い入れる環境作りこそが企業の生き残る道」であると考えている。今まで、障害者雇用は道徳や社会貢献の価値観でしか捉えられなかった。大企業に比べてどうしても体力・財力で劣る中小企業は、障害者雇用の思いがあっても簡単に決断できないのが現状である。しかし、障害者雇用それ自体を「目的」とするのではなく、職場環境や経営環境を改善するための「手段」と見れば、障害者を迎え入れる準備をすることで、経営基盤・教育体制・会社内の相互理解や業務プロセスの見直しをすることとなり、結果的には「良い会社」づくりをするということになる。
(3)地域及び広域障害者職業センターとの係り
委員会方針「良い会社づくり」に向けての活動として、勉強会で障害(知的、身体、精神、発達障害)について学び、障害者施設や学校行政との連携を行い、障害者雇用の先進事例の企業訪問などを行った。
障害者雇用の雇用手順の事例相談を通じて、広島障害者職業センターの担当者と会い、相談の中で、中小企業の人材不足や専門職の人材不足等の相談すると、国立吉備高原職業リハビリテーションセンターを紹介してもらった。
3. 取り組みの内容、取り組みの効果
(1)取り組みの内容
平成22年8月、国立吉備高原職業リハビリテーションセンターを訪問した。この施設は、就職を希望する障害者を対象に職業訓練を行うところで、施設内は宿舎、食堂、集会所、グランドがあり、病院も併設している。
訓練コースは、メカトロ系、ビジネス情報系、職業開発系に分かれており、障害者の特性等に合わせた訓練内容である。各自、社会復帰に向けて取り組んでいる姿を見学した。
施設見学も終わりAさんとの面接となる。
Aさんは前の会社に在職中に脳梗塞を患い、現在左半身不随ですが、右手でキーボード操作をしながらのCAD技能習得者である。年齢は52歳で、弊社と同じ地域で通勤可能圏内である。人柄は温和で協調性もあり、チームワークも十分取れる人材と確認できた。
Aさんの職場実習の予定が決まり、受け入れのバリアフリーの取り組みを始めた。駐車場の階段の取り付け、トイレの手すりの取り付け、照明器具の取り付け等を行い、普段、当たり前と思われていたことが、障害のない者中心の設備に偏っていたことを思い知らされた。
Aさんは職場実習が終わり、トライアル雇用を経て、我社の社員として能力を発揮している。
また、平成23年9月、吉備高原職業リハビリテーションセンターより聴覚に障害のあるBさんの紹介があり面談を行った。
Bさんは、ろうあ学校を卒業してセンターで訓練生として学んでいた。センターの職員による手話通訳の面談であった。手話通訳も初めての体験であったが、彼の人柄や勤労意欲、弊社の仕事の理解度を感じながら、職場実習を受ける約束をして面談を終了した。
Bさんの雇用に関しての社内確認会議で、なぜ難聴の人を雇わなくてはいけないのか、会話はどうするのか、危険を知らせる方法はどうするのか、等の反対意見が出された。社員に私の思いを伝え、危険な作業環境なら改善すべきだ、指示の方法は会話が全てではない、筆談や身振り手振りでも伝わるし、図面による作業指示もできる。そして最後に「同友会の委員長として、先進事例をつくりたい。Bさんにも、もの創りの楽しさを教えたい。そして、みんなが働ける良い会社をつくりたい」という私の言葉に、何とか理解を得ることができた。
平成24年4月2日、同友会による合同入社式&新入社員研修が行われ、弊社も新入社員がBさん一人のため参加した。Bさんのために手話通訳を二人付けた。
【参考:同友会広報誌の記事】
4月2日、3日に開催された福山会場の合同入社式&新入社員研修は、手話通訳を交えたものとなった。長い研修の歴史の中で初めてのことである。国立吉備高原職業リハビリテーションセンターを卒業し、(有)メタルワーク福山に入社したBさんは、耳に障害があり、会話でのコミュニケーションは難しい状況である。しかし、Bさんの「自分も他の新入社員と同じように、入社式にも新入社員研修にも参加したい」という思いを、大植社長が受け止め、尽力して実現した。研修中のグループ討論や人生設計の作業等でも、スタッフやグループの仲間と筆談で進めた。カリキュラムの最後に書きあげた「五年後の自分への手紙」を読み上げる際には、Bさんも他の新入生と同じように、スタッフのサポートを受けながら壇上で発表した。
「五年後、自分は一人前の溶接職人となり、後輩からも頼りにされる存在になっています。そのため、この一年間、積極的に行動し、どんな手段を使っても目標を実現させます。」という発表であった。この発表は、会場全体をさわやかな感動で包んだ。
共に生き、共に学び、共に働くことの大切さを学んだ合同入社式&新入社員研修となりました。 ~同友会事務局 源田~



(2)取り組みの効果
Aさんが入社して2年目になろうとしている。彼は週一回のリハビリがあり、早退の時間をカバーするために、みんなより早く出社して仕事を始めている。Bさんは、会社が支給した電子メモを片手にコミュニケーションに励んでいる。
そんな彼らと一緒に仕事をしていて、「障害があってもなくても、お互いをサポートすれば、障害者問題は存在しないのではないか」と思う。そして企業が障害者雇用に取り組むことにより、社員同士がお互いを尊重しながら、働くことを通じて、やりがいや生きがいを感じていける企業風土を目指したいと改めて思っている。
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