「地元に恩返しをしたい」:リサイクル力の向上と障害者雇用で社会貢献
- 事業所名
- 有限会社協同回収
- 所在地
- 香川県三豊市
- 事業内容
- 総合リサイクル業
- 従業員数
- 55名
- うち障害者数
- 15名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 7 内部障害 知的障害 6 精神障害 2 - 目次

1. 事業の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業の概要
同社は、平成11年にトラック1台での金属くず商として創業した。平成14年に組織変更を行い、総合リサイクル業を目指した現在の有限会社協同回収となった。環境法令の遵守、省資源・省エネルギー化の推進について資源の有効活用の観点から、金属スクラップ(鉄、非鉄金属、貴金属等)、プラスチック類、紙類、古タイヤ、中古商品(家電、家具、厨房、事務用品等)の3R(スリーアール)推進に取り組んできた。3Rとは、①廃棄物の発生抑制(Reduce:リデュース)、②再利用(Reuse:リユース)、③再資源化(Recycle:リサイクル)を意味する。
同社は、平成24年8月現在、主に鉄を中心とした約300品目をリサイクルする7カ所の工場拠点と、鉄以外にも再利用できる貴金属やブランド品、中古携帯電話、その他再販できるものは何でも買い取ってリサイクルする7カ所の店舗を有している。
とりわけ、デジタル家電の基板リサイクルは、工場内で基板の粗破砕後、もう一段階細かく処理し、鉄・銅・アルミ・ステンレス等に手選別する。こうして回収したほとんどの資源が大手精錬メーカーへ売却されている。
またコンプライアンス重視と国内での資源循環の観点から、小型家電リサイクルを促進させるためノウハウを無償提供し、一連のシステムを全国に普及させる活動を行っており、更には、地域と企業を繋ぐ架け橋として障害者雇用の推進に加え地域スポーツ支援にも力を入れているところである。
(2)障害者雇用の経緯
創業当時の代表者の脳裏に常にあったことは「どんなに貧しくとも、やる気さえあればなんとでもなる。」ということであったという。
会社を存続させるために、精一杯の毎日を過ごしてきた。一方で「これまでにいろいろな人にお世話になった」、「恩返しに何が出来るのか」を考えていた。そして、「会社は経営者のものではなく働いている社員とその家族、お客様、地域、業界、企業にかかわるすべての人のものであり、そのすべてを幸せにするためにある」を理念に掲げ「この仕事は障害者にできる仕事ではないか、そしてそれは地元への社会貢献にもつながるのではないか?」という発想から、積極的に障害者雇用を進めることにした。
平成17年春のことであった。この時まで障害者とは知らずにたまたま1名を雇用していた実績があったこともあり、障害者雇用に当たっての抵抗感は障害種別も含めて特になかったようである。
平成18年7月に高等技術学校から障害者向け職業訓練の受託をし、委託訓練生5名を採用した。その間に特別支援学校の実習生の受入れも行うようになり、平成19年には、更に5名を採用した。電子機器を破砕し手作業で分別する作業を主な実習内容としたが、破砕した基板を持続する集中力で選別する姿には感心したという。
また、職場実習を体験した特別支援学校の生徒からは、「家電製品の殆どに電子基板があることを初めて知ったし、今までゴミだと思っていたものがリサイクルできると思ったら、すごく楽しく感じた」とのコメントもあり、人材マッチングが成功し、更には各学校関係者のサポートもあり、結果として多くの職業訓練生や実習生の雇用に結びついており、職業訓練の受託・職場実習の受入からの採用の流れが構築されている。
平成17年には身体障害者1名であったが、現在では15名の障害者雇用を実現している(重度身体障害者2名、身体障害者5名、重度知的障害者2名、知的障害者4名、精神障害者2名)。
2. 障害者の従事業務・職場配置、取組の内容
(1)障害者の従事義務・職場配置
現在雇用されている障害者15名は以下の2工場1店舗に配置されており、それぞれの従事業務等は次のとおりである。
① 詫間経面工場
詫間経面工場は、収集・金属加工・製品出荷の拠点となっている。同工場には障害者7名が配置され、知的障害者2名と精神障害者1名が空き缶等の選別作業を、知的障害者1名が自動車用タイヤ及びアルミホイル加工・分別作業を、精神障害者1名が自動車用タイヤの切断等の作業を、更に、身体障害者1名と重度知的障害者1名のペアが電線被覆の剥離及び手選別の作業を行っている。
② 詫間第二工場
詫間第二工場は、都市鉱山リサイクル(希少金属の回収、分解加工及び選別)を中心業務としている。同工場にも、障害者7名が配置され、重度身体障害者2名、身体障害者3名、重度知的障害者1名及び知的障害者1名が電子基板の選別作業を行っている。具体的には、混ぜればゴミとして埋めたてられる電子機器を破砕し、手作業で鉄部材、銅、ステンレス、アルミ、プラスチック、基板屑及びダスト(細線・廃プラ)に分別するといった細かな作業を行っている。
③ 店舗
店舗に配置される1名は、中途下肢障害者であるが、貴金属、ブランド品、中古携帯電話、金券買い取りに加えて、リサイクル対象の鉄、電化製品の無料回収を行っており、店舗の店長という責任あるポストを任されている。


(2)取組の内容
① 障害者雇用推進室の設置
障害者雇用を積極的に行い且つ適切な管理により雇用の継続をしていくために、平成18年7月に「障害者雇用推進室(以下「推進室」という。)」を設置した。推進室は経営者2名と現場責任者2名の合計4名で構成されている。主な取組は、①障害者の採用に関すること、②雇用継続に関すること、③現場トラブルの解決に関すること、④職場環境に関すること、⑤その他障害者雇用に当たって必要なこととしており、障害者雇用に関連する事案が発生する都度、推進室会議において迅速な対策を講じている。
② 勤務管理
イ メンタル管理
同社においては、可能な限り障害者のリーダーには障害者を任命するよう心掛けている。知的障害者が合計6名在籍しているが、そのリーダーには身体障害者を抜擢し、精神面でのフォローを行うとともに事業主との橋渡しもさせている。
リーダーが少し年齢の離れた女性であることが良かったのか、若い知的障害者たちの母的存在になっている。気軽に相談できる存在は重要なことであり、リーダーが同じ障害者という立場にあることで暖かく皆を包み込むことができ、色々な面でお互いの仲を取り持つことが可能となっている。
このレベルのフォローは他の社員にはなかなか困難であると代表者はいう。
ロ 業務配置
業務は障害者全員を同じ部署に配置させたいが、それぞれに得手不得手があることから、現在の部署にそれぞれ配置している。配置に当たって障害者がやりたいということは一度チャンスを与え、経験させたうえで本人に得手不得手を理解・納得させるようにしている。
フォークリフトの運転をしてみたい」という要望があれば免許取得に挑戦させ、結果として免許を取得して、現在フォークリフト運転業務を行っている知的障害者もいる。
代表者は、とにかくやる気が一番であり、自主性を重んじることにより向上心が育てられるという。
ハ 業務目標値と体調管理の相関
同社には、当然のことながら業務目標値(ノルマ)があるが、障害者個人にノルマを設けてはいないし、能率も問わない。
継続して業務を行っていく中で個々人の可能な一日の仕事量の把握をし、その数値の変動が個々人の心身の状態を表すバロメータになっているという。
外的要因による体調は外から見れば感じ取ることもできるが、精神面での異常は仕事量の増減で把握するようにしているという。
ニ 勤務時間管理
同社の勤務時間は、午前8時から午後5時までである。その他休憩時間として午前10時から20分、午後0時から1時間、午後3時から20分としている。
1名の知的障害者は午後4時になると自己判断で業務を終了して帰ってしまうが、午後4時までは集中して業務をこなしており、業務量にも問題は無いので、これを認めている。
本人のライフスタイルが午後4時で業務終了となっており、仕事が午後5時までという考えが本人にはどうしても理解できなかったようである。これを無理矢理変更することは、本人のためにも同社にとってもプラスに作用しないとの判断であるという。
ホ 暑さ対策及び年休取得の促進
同社工場は、特に夏場に職場環境が厳しくなるが、「暑い」、「体調が悪い」と口にする障害者は少ない。
そこで、7月及び8月の猛暑時は扇風機からミストを飛ばす等の熱中症予防をしている。
また、「サマータイム制」として、普段有給休暇を取得しない障害者に積極的な取得促進をするために、週1回定期的に資材受入をストップし、意図的にラインを止めている。収益上の問題が生じるが、それ以上に大事な社員(特に障害者)の能率、体調管理面を優先させている。
経営上のマイナス部分は、経営者が営業力やアイデアでカバーするものであるという。
③ 勤務評価
同社では「チャレンジド(Challenged)」と呼んでいるが、試行的に人事評価制度を導入している。障害者自身がいつも向上心を持ち続けるために、1年前の自分と現在の自分を比較してどのくらい成長したのかを「見える化」するための「成長シート(評価シート)」を作成し、本人の自己評価及び直属の上司による評価を行っている。評価結果については3ヶ月に一度の面談により相互理解・認識を深めている。
これにより配置転換の希望を申し出た社員に対してはマッチングするかどうかを見極め、希望を受入れることもある。
常に社員の気持ちを中心に考えることが肝要であると代表者はいう。障害者継続雇用において、障害者が環境に馴染むのを待つのではなく、環境を障害者に合わせるという発想も場合によっては必要であるとのことである。
3. 障害者雇用の地域波及効果、今後の展望と課題
(1)障害者雇用の地域波及効果
この仕事は障害者にできる仕事ではないか、そしてそれは地元への社会貢献にもつながるのではないか?という思いから始めた障害者雇用であり、様々な取組を行い、実績も作ってきたところであるが、特に障害者雇用の職域としているこれらの業務については、「地域スポーツ支援」に波及している。
同社は県下企業や商店街などを対象に、スポーツ支援を前提とした資源物の回収イベントを定期的に行っている。集まった資源物は、障害者が処理を行い結果として収益を得る。得られた収益は地域スポーツ団体に活動資金として寄付される。いわゆる企業等は不要品の処分費用の削減ができ、同社は障害者の雇用と仕事を確保し、地域スポーツ団体は資金を得ることで活動の継続ができる三位一体のスキームが確立するわけである。
同社で働く障害者も自分が仕事をすることで地域貢献しているという誇りが持て、更にはモチベーションの向上を図ることができている。
(2)今後の展望と課題
世界がリーマンショックの影響を受けた時、同社もまさしくその渦中にあり、業界不況による営業不振に陥った。経営者判断としては、障害者を含む社員のリストラ選択もやむを得ないものであったが、同社は一切のリストラを行わなかった。
障害者雇用を始めた時から「障害者を雇用する重みは常に感じている」という。雇用した限りは継続して雇う。
辞めたいといった障害者に対しては色々な対策を考えて辞めなくて済む方法を探る。その気持ちが伝わるのか障害者たちは「会社に来ることが楽しい」と口を揃えている。
これから先をどのように考えているのかを聞いてみた。「気楽に出会いを大切にして少しずつ成長できればよい。全てを守りながらただ自然に任せ、自分が一生懸命やっていれば周りもついてきてくれると信じている。」と優しい口調で答えが返ってきた。
一方で、社員である障害者について、身寄りのない又はこれから身寄りが無くなる障害者の職業生活を終えた後のことも心配している。
これについては、一企業が抱えることではなく日本全体で考えていかなければならない事案でもあるが、同社には企業サイドからできることに挑戦していただき、先進的リーダーとして障害者雇用を継続・発展させていただきたいと期待してしまう。
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