「障害者の自立」を目指す
~障害を個人の特性として捉えた取り組み~
- 事業所名
- 有限会社プラスアルファ
- 所在地
- 福岡県福岡市
- 事業内容
- クリーニング業
- 従業員数
- 13名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 1 洗い、アイロン、検品などの全行程 肢体不自由 内部障害 知的障害 5 洗い、アイロン、検品などの全行程 精神障害 1 洗い、アイロン、検品などの全行程及び集配送 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯、障害者の従事内容
(1)事業所の概要
① 事業所の特徴
職人の手仕上げにこだわりを持っている365日営業のクリーニング店、有限会社プラスアルファ(以下、「プラスアルファ」という)。開店当初は利益中心の経営方針によって業績を上げ、現在は市内に3つの店舗と1つの工場を経営。主に、福岡市内のホテルのリネンやデパートの制服、福岡ドームコンサート出演者の衣装など、個人から業界関係者など幅広い顧客層を獲得している。
障害の有無に関係なく、全従業員がすべての作業工程を把握し業務を行っている。あえて分業制にはせず、全従業員がどの作業工程に入っても問題がないよう、誰もが高い技術力を持つことが求められる会社である。
② 経営方針
経営方針として、「社長一人が経営するのではなく、従業員みんなで作り上げていく会社」ということを掲げており、毎日の休憩時に、従業員一人一人が話したいことを発言できる場や意見交換ができるよう時間を設けている。
また、2週間に1回ミーティングの時間を設定し、今後の会社としての方針などについても、広く従業員から意見を聞くことに重点を置いている。
後にも述べるが、「障害者の自立」ということに焦点を当て、将来会社経営を担う者としていかに力をつけていくか、その一環として従業員が会社の経営に関わる機会を意図的に作っているのである。
(2)障害者雇用の経緯
20年ほど前、社長が田舎に帰省した際、ある障害者と出会ったことをきっかけに「障害者に働く場をつくりたい」と思うようになった。それは、障害者に対する差別が根強くあること、障害があるということだけで働けないと思われてしまい、最初から仕事に就かせてもらえないなど、これまで考えてもみなかった話の連続であり、「世の中には仕事に就きたくてもその機会を与えてもらえない人がいるのだ」と衝撃を受けたのである。
この頃、会社の経営は順調だったものの、金銭を取り巻く人間関係に疲弊し、社長は「なんのために生きているのか」「生きる意味とは」と答えの出ない自問自答を繰り返していた。しかしこれを機に、「自分が人生をかけて取り組むべき事はこれなのだ」と直感し、利益中心の経営から、障害者を雇用していくことで障害者の自立を目指す会社にすると決めたのである。
それから5年ほど経過した後、会社として一人目の障害者を雇用。彼は現在も仲間と一緒に仕事に励んでいる。
(3)障害者の従事内容
事業所の概要でも述べたが、プラスアルファでは全従業員がすべての作業工程を遂行できるよう訓練を行う。これは社長の「障害者の自立」を目指すことと大きく関係する。
クリーニングの作業工程は水洗いの場合であっても洗いからアイロンがけまでの作業は6段階(つけおき、ササラがけ、シミ抜き、洗い、乾燥、アイロンがけ)となる。この他に伝票記入、検品、たたむ、包装などの工程を含めると13段階にも及ぶ。社長は、将来障害者100%の経営を目指すということを見据えて、障害者一人一人がクリーニング業において、すべて自分でできるようになることを目指して指導を行っているのだ。「自分のことは自分でできるようになること」これが社長の考える自立である。
また、この他にも電話対応、チラシの配布、営業、自動車運転免許のある者には顧客への集配送など、クリーニングの技術だけでなく、店舗運営に必要な業務も個性に合わせて徐々に増やしているところである。
2. 具体的な取り組み
(1)障害者への職業指導
障害者を雇用し始めた当初は、繰り返し同じ事を教えても失敗する日々が続き、仕事がなかなか思うように進まなかった。何度説明しても同じ失敗を繰り返すため、時には怒鳴ることもあったという。
知的障害者や精神障害者は認知機能の障害があり、新しいことを覚えることに時間がかかる、一度にたくさんの情報を伝えると混乱する、応用することが苦手などの特徴がある。社長によると、これまでの自分は障害の特徴への配慮がないまま一度に複数の指示を出し、仕事がうまくできないことに腹を立てては苛々しており、すぐに結果を求めていたのだと言う。
大切なことは障害者一人一人を知ることであり、個人のペースに合わせて一つ一つ丁寧に指導することだと気付き、その後は一度に一つの指示、わからないことがあったら勝手に判断せずにすぐに確認するよう、何度も指導を行った。
さらに、できていないことを注意するのではなく、できていることを褒めるように指導方法を変えた。すると次第にできることが増えていき、仕事も上達したのだそうだ。
そして、試行錯誤を繰り返す中、現在では工場の休憩室に絵や写真を用いた作業の工程表が分かりやすく掲示されている。作業工程はまず工程表を見て確認できるようにし、それを見てもわからなかった時は社長に訊ねるようにさせている。
障害者自身が、これは何だろう?どういうことだろう?と気づいた時に的確に指導をすることで理解が深まり、一方的に指導することよりも確実に覚えることができるのである。
さらに従業員一人一人に1年間の目標を決めるよう指導しており、その目標に沿って一人一人の計画書を社長が作成する。例えばクリーニング師に合格することを目標にした場合、試験までの勉強内容の計画を作成するのである。
本人とともに目標と計画内容を確認後、計画に沿って実行し1ヶ月ごとに振り返りを行う。認知機能のある障害者にとって、目標や取り組むべきことが明確になる、具体的な方法を確認することができるという点で計画書の作成は有効である。
また、振り返りを行うことで、達成できたこと、さらに努力が必要なことなどを客観的に理解することの手助けとなっている。

(2)資格の取得を目指す
障害者雇用の柱として力を入れて取り組んでいることのひとつに、クリーニング師の国家資格合格がある。クリーニング師とは、クリーニング工場を経営するために必ず一人以上雇わないと運営できないという基準がクリーニング業法の中にあり、クリーニング業を営む上では必須の資格である。試験は筆記試験と実技試験があり、試験に合格後、免許の申請を行ってクリーニング師原簿に登録することにより初めてクリーニング師として名乗ることができる。プラスアルファでは、筆記試験合格のため、就業時間内に座学の時間(1日2~3時間)を設けて試験勉強を行っている。しかしこれは強制ではなく資格についての説明後、本人の意思によって決めるよう指導している。
また、クリーニング師だけでなく自動車運転免許の取得も会社として協力的だ。自動車運転免許は、顧客への集配や配送をするのになくてはならない免許である。基本的には合宿コースに入校し、合宿期間中も給料を支払っている。就業に必要な資格について、少しでも障害者たちの負担を減らそうと考えての取り組みである。
この他にも、クリーニング師の免許が取れない者に対し、危険物取扱免許や、ボイラー取扱技能講習修了証、有機溶剤作業主任者技能講習修了証など、クリーニング業を営む上で必要な免許の取得を推進している。
(3)職業人としての心を育てる
社長が日頃から心がけていることのひとつに、従業員とのコミュニケーションがある。社長は新しく雇用した障害者に対し、熱心に声をかけたり話を聴く。そうした会話の中から障害者の趣味や興味のあることを聞き、共通の話題を探すのである。
人間は誰もがそうであるように、共通の話題が見つかると自然と心理的な距離が近くなるものだ。こうして徐々に信頼関係を築き、次に「心の開拓」を行う。
「心の開拓」とは何かと言うと、まず一つ目に“感謝の気持をもつ”ということである。
最初は身近な存在である両親に対し、「育ててくれてありがとう」「毎日ご飯を作ってくれてありがとう」という、日常の些細なことにも感謝をし、次に“感謝の気持ちを相手に伝えていく”ということである。
すると、繰り返し行っていくうちに自然と感謝することが習慣となり、仕事に対しても「私たちに仕事をさせてくれてありがとう」と自然と思えるようになるのである。
それは態度にも出てくるのだそうだ。そしてそのことが熱心で丁寧な仕事ぶりとなって商品に表れるのである。
(4)ハローワーク、特別支援学校との連携
現在プラスアルファで働く障害者の多くは、ハローワークからの紹介である。
障害者職業センターが行うジョブコーチ支援を活用している障害者もおり、定期的にジョブコーチが工場に訪問するなど、日頃から連携を行っている。
また社長は、月2回市内の特別支援学校の職業指導(主にクリーニングコース)の講師としても活動している。生徒には在学中から技術力を身に付けてもらい、少しでも就職へ繋がりやすくなるようにとの考えから活動を始めた。
その縁もあり、現在はいろいろな施設、特別支援学校(学級)などから年間20名近い実習生を工場に受け入れ、実際の就業現場においても精力的に指導を行っている。
社長としては、受け入れた実習生の中から一人でも多くプラスアルファへ雇用したいと考えており、そのためにもより安定した経営を目指し、従業員一丸となって努力していくと語っている。
(5)障害者雇用の普及、啓発
プラスアルファの店頭には、「障害者職人の手仕上げです」と明示してあり、障害者雇用に尽力していることがわかるようになっている。同様に社長の名刺にも同じ文句が記載されている。障害があっても就労ができるということを広く色々な人に知ってもらいたいとの思いから明示をしたとのこと。このことは、障害をもつ従業員にも誇りと自信の回復という点で貢献しているようだ。
また、他の施設、企業などからの見学の問い合わせにも応じ、プラスアルファでの取り組みを惜しみなく開示している。
プラスアルファでの取り組みを通じ、従業員である障害者だけでなく、障害者を雇用する他の企業、さらには障害者雇用を通して社会貢献を目指している。
3. 取り組みの効果について、将来の展望
(1)取り組みの効果について
会社として、雇用した従業員に障害の有無についての区別はなく、障害のない従業員も障害者を特別扱いすることなく協働している。
心のバリアフリーである。
また、障害があっても区別されることなく仕事をさせてもらい、技術や資格の取得推進など、障害者にとってもプラスアルファで働くことの意義は大きいと言える。
さらに、自分が必要とされていると感じることで、自尊心の回復や誰かの役に立っているという自己効力感へとつながり、就業に対してより高いモチベーションを持つことができているようだ。
従業員の中には引きこもりであったY氏がいる。そのY氏が今では、朝礼時にはみんなの前に立ち号令をかけるなど、引きこもりからの脱却だけでなく、元気に出社し人前で話せるようになるまでの変化を遂げて活躍しているという。
また、聴覚障害をもつ従業員も、以前は朝礼時の挨拶に無言であったが、現在は他の従業員と一緒になって大きな声で挨拶をしているのだそうだ。
特別な者としての扱いではなく、一人一人と信頼関係を築き、障害の特徴を個性として捉える会社の取り組みが効果を発揮していると言える。
そうした態度が彼らの自尊心を傷つけることなく、礼儀正しい立派な職業人としての成長を支えているのだ。
(2)将来の展望
社長は今後の展望について、「障害者が運営する会社(障害者雇用100%)を作りたい」と話している。
障害者が一人でも自立して生きていけるように、能力を身につけさせたいのだそうだ。
社長は、「夢が叶うにはまだまだ時間がかかる。まだ道のり3割も進んでいないのではないかと思っている。しかし、いずれは彼らの力で会社を経営してもらいたい」と熱心に、かつ冷静に語る社長の姿は、まだまだ夢に向かって走り続けるエネルギーに満ち溢れている。
今後はより多くの障害者雇用を目指すと同時に、彼らに自らが生きる力を養ってもらうべく活動を続けていく。


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