地元を代表する障害者雇用のリーディングカンパニーを目指して
- 事業所名
- 株式会社ギャザー
- 所在地
- 佐賀県佐賀市
- 事業内容
- 婦人服・紳士服の販売、海外直輸入ブランド正規取扱及びその販売
- 従業員数
- 67名
- うち障害者数
- 2名
-
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 2 商品のタグ付、出荷 精神障害 - この事例の対象となる障害
- 知的障害
- 目次
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯と背景・効果
（1）事業所の概要
昭和61年、佐賀市の中心商店街（唐人町）で約8坪の小さな婦人服店にて創業し、平成元年に2店目を出店。地元の顧客を確実に増やし、売り上げも順調に伸ばしてきた。
平成12年に佐賀市内の大手ショッピングセンターへの出店を機に、現在は九州圏内(佐賀、福岡、長崎、宮崎)で8か所のショッピングセンターに出店するとともに、フランチャイズも5店舗を展開している。平成16年には子会社としてアパレル企画会社を東京(代官山)に設立、3ブランドを企画・製造しており、全国に卸し、東京と大阪には直営店を構え販売している。
ファッション業界の不況が叫ばれる中、売り上げは平成13年以降毎年、前年比125～130％で推移している。
創業者社長の石丸良弘氏が、地元・佐賀への思いを胸に28歳の時に地元商店街で独立開業した会社が、“ファッションへの思い”と“情熱”で全国展開を目指すまでに事業を拡大し、自他ともに認める佐賀県のファッション業界のリーディングカンパニーとして成長を続けている。
（2）障害者雇用の経緯と背景・効果
① 事業所の特徴
- 「生き方は服に出る」
国内外の有名ブランドを中心にカジュアルからフォーマルまで様々なタイプの商品を取り扱っている。商品の仕入れは本部を通して実施するが、各店長が自店の客層に合わせたマーチャンダイジング企画を大事にしている。
店毎にターゲットとする顧客像を明確に描き、「生き方は服に出る」のコンセプトのもと、顧客の要望に応えうるブランド・商品を選択する。そのため、同じ商店街内で複数の店舗展開をしても、顧客を取り合うことはなく、既存店も客数を増やし続けている。 - 提案できるスタッフの育成
顧客が増える大きな理由の1つが、スタッフのコーディネイト提案力である。顧客の購買の動機、要望を自然に聞き取り、コーディネイト提案を行うという流れが出来ており、そんなスタッフの育成には力を入れている。
従業員マニュアルを作成して基本訓練を行うことはもちろん、日々ファッションの研究や最新のファッションの情報を収集し、社内で話し合い勉強を重ねている。そうして様々なものを見聞きした中から、独自のセンスで選び抜いたことを店舗だけではなくブログでも地域の顧客に発信している。
社長を含めスタッフ全員が思ったことや感じたことを“話し合う”ことが組織づくりには重要と考え実践している。それが可能な雰囲気の企業となっているのである。
② 障害者雇用の経緯と背景
そんな当社で障害者雇用を進めるようになった経緯を、第一事業部部長兼第二事業部統括の石丸忠道氏に伺った。
石丸 忠道氏
- 経緯
事業を拡大していく中で、法律（雇用率）に対応する必要がでてきた。そんな時、ハローワークからの後押しがあり、踏み切ったのがきっかけとのこと。 - 背景
平成13年(2001)からカジュアル衣料品ブランド「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが積極的な障害者雇用に乗り出した。その後1年で障害者の雇用数は5倍に、現在も雇用率7％を維持し、トップを走り続けている。「1店舗1名以上」を目標に、日本国内の約9割の店舗で障害のあるスタッフが働いているのである。
そんな他社の動きに、同じアパレル業界として関心が強かった。
『「ユニクロ」にできて、自分たちにできないことはないはず。1店舗に1人、これからは店舗にも障害者を雇用していくことを検討している。』と石丸氏は語る。
目標が決まれば動きは迅速に行われる。決断力、行動力で果敢に取り組むのが当社のもうひとつの特徴でもある。環境が整えば、この言葉が実現していくことは間違いないだろう。 - 各種支援制度を活用
石丸氏が障害者雇用に関わるようになってまだ数年とそう時間は経っておらず、『最初は障害者の能力がわからず、業務の切り出しが難しく困りました。雇用していく中で見出していったんです。』と話していた。
また雇用を実現する際には、職場適応援助者（ジョブコーチ）支援、トライアル雇用（障害者試行雇用）、各種助成金（トライアル雇用奨励金、特定求職者雇用開発助成金）といった事業主支援制度を活用する等、ハローワークや障害者職業センターを中心とした関係機関との連携を大事に、障害者雇用は着実に進めていった。
③ 効果
『障害者に背中を突かれる感じがするんです。全力で行う、その姿勢にハッとさせられるんです。』と笑顔で話をされる石丸氏に、『障害者雇用を進めて良かったことは？』との質問をしてみた。『できない部分を補うために、他の社員が努力をする。最大のチームワークが生まれましたね。』と笑顔で、さらに続けて『一人ひとりのできることを上手く活かすことで一人ひとりを尊重できる。それが会社の発展に繋がっているんです。』との答えが返ってきた。
そして、『雇用率10％を目指して、取り組んでいきたい。』ときっぱりと言い切られた。
一人ひとりを尊重し、会社と個人がともに成長する。障害者雇用を推進すること、障害者と一緒に働くことで、スタッフ同士に自然と細かい配慮や気づかいが生まれ、チームワークが強化される。さらにはお客様へのサービス向上、地域活性化にもつながることをこの佐賀、九州の地で証明し発信していく。そんな意気込みが感じ取れた。
2. 障害者雇用の取り組み内容
（1）働く障害者の様子
現在、商品管理を行う部署で障害者2名が雇用されている。社員は他に6名、合計8名（女性3名、男性5名）で作業を行っている。
| ○ | Tさんは平成23年11月からトライアル雇用を経て、現在は10:00～18:00の正社員として働いている。作業の主な内容は商品のタグ付けと出荷である。 まず2週間ほど、1日2～3時間、職務試行法に基づく実習で作業を体験。 その後現在と同様の時間帯で3か月のトライアル雇用となった。本人も『実習で体験できたことがとても良かった。』と語る。 正式に社員として働くようになった現在、この会社に勤めることができて良かったことは、『大好きなファッションに関わることができること、そして、周りの社員が皆良い人で楽しく仕事ができていること。』と話してくれた。 困った時は何でも話しを聞いてくれる社員がいることが、仕事を続ける中で大きな安心感となっているようだ。『これからも好きなブランドの服に関わっていきたいし、ずっとこの仕事を続けていきたい。』そして、『欲しい服を好きなだけ買ったり、好きなアーティストのコンサートにもどんどん行きたい！』と、仕事に向かう意欲と同時に働くことが本人の生活の充実にしっかり繋がっていること、そのことが本人の自信にもつながっていることを感じさせてくれた。 |
（知的障害・女性）
| ○ | 商品管理部署で働くKさん（知的障害・男性） Kさんは、障害者としての認定を受けず、高校を卒業してから一般で仕事を探してきた。しかし就職しても上手くいかず、自信を無くしていた時期もあった。アルバイトや派遣で仕事を続けてきたが、何とか長く勤めることができる仕事に就きたいとの思いは強く、療育手帳を取得後、今回の雇用となった。 平成24年4月からのトライアル雇用では10:00～16:00の短時間ではあったが、3か月間スムーズに進んだ。そして7月からは10:00～18:00と時間も延び、継続して雇用されることとなった。スムーズに常用雇用に移行した要因としては、本人の言葉を借りれば『何でも聞きやすい雰囲気』があったからとのこと。前述のTさんと共通して聞けたのが『社員が皆優しい。』だ。また『一回聞けば、何をどの様にするのか分かる。』と社員の作業指示の的確さがうかがえる。 Kさんも先に記したTさんと同じタグ付けや出荷作業が主な仕事であり、パソコンを利用してタグを作成することもある。どの色のタグにするか迷った時は近くの社員にすぐ相談すると言う。決して特別扱いを受けているわけではない。『普通に接してくれるこの会社で良かった。心配をかけた両親のためにも、長く働いて親孝行をしたい。』と意欲を見せてくれた。 |
（2）初めて担当する障害者雇用
障害者雇用の現場の責任者として尽力されているCRG事業部部長代理の田中慎一郎氏にも話を伺った。
田中氏にとっては、現在雇用されている2名が初めての障害者雇用となった。これまで、店舗で気づかないままに障害者に接することはあったかもしれないが、深くかかわったことはなかったため、この2名の雇用で障害者への理解が深まったという。それは、「普通に接すること、自然体で接する事で良い」ということの認識だった。
前述したように自由で闊達な雰囲気の中、社員が皆、仕事をする上でお客様が興味を持ち求めていることを考えながら動いてきたからこそ、障害者雇用を特別なことと思わずにできたのだろう。
その証拠に、障害者と一緒に働く部署の社員に対して何か特別なことを指示したわけではないのに、一人ひとりが個性として受け止め対応しているという。言い換えれば、会社のそんなカルチャーに障害者が自然に溶け込んでいったのである。
自然と仲良くなり、話をしたり食事に行ったりしているという。
『先輩や年上の方に対しての気遣いができてなくて大丈夫だろうか？、と周囲との関りに不安を感じたこともあるが、そんなことを強要するような社風ではないので問題はありませんでした。周囲がゆっくり見ていくことで人は育っていくんです。それは障害者だからということではなく他の社員も同じですね。』という。
田中 慎一郎氏
3. 課題と今後の展望
（1）課題
歴史的に見て、障害者の雇用拡大・就労支援は、まず身体障害者に対する取り組みが先行し、続いて知的障害者へと広がり、現在は精神障害者の支援がようやく本格化してきているところである。支援サービスの領域や内容も広がってきており、うつ病などの気分障害のある人の復職支援、発達障害者や難病患者の就労支援に社会的な関心も高まってきている。
当社が「障害者雇用率10％、1店舗に1人、店舗にも障害者を」を目標に障害者雇用の拡大を進めていくためには、知的障害以外の障害者の雇用とも向き合う必要がある。
どのように考え、どう進めていくか。企業価値や業績の向上に貢献できるような雇用の拡大を行っていくにはどうするべきか。これから課題が明確化してくることであろう。
また「数を増やす」ばかりでなく、今後は定着率を高めるノウハウを積み重ねることも求められる。そのためには、障害者に適した仕事を管理できる社員の育成と能力開発が必要となるなど、企業全体で取り組むべき課題となる。
（2）今後の展望
「共生社会」の実現への期待を背景に、CSR（企業の社会的責任履行）やコンプライアンス（法令の遵守を含めた社会的要請への適応）に対する社会の厳しい眼が、積極的に障害者雇用に取り組むべく行動するよう企業に求めてきているところがある。しかし、当社は実際に障害者を雇用してその効果を実感し、そして、一人の人として障害者が社会参加すること、裏方だけでなく、表に出ていく事が大事なことであることを強く感じている。
企業として力を入れている「ライフスタイルが変わっても、安心して定年まで働ける職場づくり」の中で、目標に向かってどのように障害者雇用を進めていくのか。先に述べた課題を一つ一つクリアし、企業全体で取り組んでいくことが必要となる。
『得意な分野が違うだけ、手を抜くことがない。そんな障害者の優れているところを伸ばし、できないところを補う。そんな風に持ちつ持たれつで、どんな場面でも上手くやっていけることを証明したい。』との石丸忠道氏の言葉が印象に残る。
社会に向かってオープンに、佐賀県を代表する障害者雇用のリーディングカンパニーとなるべく突き進んでほしいと願う。
| 執筆者： | 特定非営利活動法人ステップ・ワーカーズ |
| 障害者就業・生活支援センター ワーカーズ・佐賀 主任就業支援員 石井 有紀 |
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