知的障害者の適性を見きわめて築く“信頼”
1. 事業の概要
(1)事業の概要
株式会社ティーズリンクの事業は、産業廃棄物、中でも有価物の買取である。
産業廃棄物は基本的にゴミとして焼却されるが、その中にはリサイクル可能な資源物が多く含まれており、これらは有価物と呼ばれる。家庭等から排出される一般廃棄物の処理責任は市町村にあるが、産業廃棄物の処理責任は排出事業所にあり、処理の方法は法令等によって定められている。そこで、産業廃棄物を回収・分解し、その中から有価物を分別し、素材メーカー等に買い取ってもらう有価物買取事業が、近年伸長してきたのである。
同じ有価物の買取でも、当社の場合は、パチンコ台・パチスロ台専門の有価物買取を主たる事業としている。パチンコ台・パチスロ台の解体及び有価物買取を専門的に事業化しているケースは少なく、熊本県内でも当社のみ、存在したとしてもほんの数社と思われる。
台を横流しするといった事例もあると言われるが、近年はQRコードで追跡できる部品もあり、不正な処理が判明した場合、その責任は排出事業所(パチンコ事業所)が問われる。そのため、パチンコ台・パチスロ台の回収・処理には処理事業者の信用性が厳しく問われることになる。
具体的な業務としては、まずホールから依頼を受け、パチンコ台を回収に行くことから始まる。回収された台は、順次、手作業で分解され、各パーツ毎に箱に集められる。なお、パチンコ台・パチスロ台には金属、プラスチック、液晶、IC基盤等多くの有価物が組み込まれており、さらにプラスチック部品といってもABSやPP等素材によって、あるいは色付きかどうか等によって細かく分類しなければならないし、基盤もランクによって5種類程度に分かれる。つまりきわめて多様な部品を扱う業務だといえる。
(2)設立の経緯
当社は、平成21年2月、「障害者雇用によって有価物買取を行う。」ことを目的に設立された。つまり、当初から明確な目的をもって設立されたのである。
通常、産業廃棄物処理業界では、新たな事業所を興す場合、もともと業界に何らかの関わりを持っているか、或はネットワークを持っているケースが多いだろう。しかし、当社の場合はそのような背景があったわけではなく新規参入であった。しかも障害者雇用を目的とし、かつパチンコ専門の事業所として設立された。このような事例はきわめて珍しいと思われる。
始まりは、当社が誕生する約7年前に遡る。社長の和田啓良と専務の魚形和美は青年会議所の活動を通じての知人であったが、たまたま宮崎県で「パチンコ台の解体から液晶のリサイクルという事業を興せないか」という相談と、「障害者施設からは野菜の袋詰等の作業を受託しているが、そのような仕事はないだろうか」という2つの相談を同時に受けた。そこで、この2つの相談を組合せて事業化できれば、環境問題にも障害者雇用にも貢献できると和田は考えた。だが、この事業は宮崎県では実を結ばなかった。このことは、結果的に大きな契機となった。その後、2名は、地元熊本県で、思い描いていた事業をさらに進めた形で立ち上げることになる。
先に述べたように、当社は当初から「障害者雇用」を構想していたが、果たして産業廃棄物、特にパチンコ台専門の有価物買取という特殊な業務を受注できるか不安もあった。そこで、設立から1年以上を準備や営業活動に費やし、採算見込みが立つというところで、従業員の雇用に踏み切ったのである。それが約2年前のことである。
(3)現在の業務状況と今後の展開
現在、熊本県内の大手パチンコ店との取引は順調に推移しており、1日に処理しているパチンコ台・パチスロ台は80台程度である。この処理台数はほぼ1年を通じて同じである。いわば、当社の処理能力の規模そのものを示している。
但し、現状では人員に対して受注量が多く、現有人員だけでは処理できない状況であるが、倉庫や作業場のスペースも限られているために、増員もできない。そこで、近隣の就労継続支援A型事業所5カ所程に業務の一部を委託し、業務の消化を図っている。
課題で大きいのは、現状の受注量を確保する営業力である。パチンコ台専門の業者は県内には少ないが、県外の業者が参入するケースもあれば、液晶専門の買取業者もある。最終的には価格次第という面もあり、継続的な営業努力が求められている。
2. 取り組みの概要
(1)障害者の現状と従事業務
現在の従業員数は役員2名(和田社長、魚形専務)のほか、正社員が8名。その8名の内7名が障害者である。障害の内訳は、身体障害1名(内部疾患(心臓疾患))、精神障害1名、知的障害5名(内1名は視覚障害者でもある)。
障害者の業務は、精神障害の1名が気持ちの切り替えのため、社長の補助としてホールへパチンコ台の回収業務に携わっている。他の従業員は全員、台の分解、仕分け作業に従事している。基本的には、従業員の業務分担もパーツ毎に分けられている。
なお、その部品の種類は非常に複雑多岐にわたる。部品には、ほとんど素材表示が行われている。また、パチンコ台は常に新作が市場に投入されているので、部品も頻繁に変更されているように思うが、実は内部の部品はほとんど変わらない。そのため、一旦仕事を身に着けてしまえば、仕分け作業にそれほどの困難は伴わないといえる。
(2)障害者の採用
現在、雇用している7名の従業員のうち6名は、当社が本格的に稼働し始めた2年前に雇用した。採用時はハローワークに相談し、人材の紹介から各種制度の案内等を受けることができた。
その6名の内、5名が障害者、残り1名は意図的に、障害のない高齢者を採用した。
障害者雇用を前提に設立した会社で、障害者に対する知識を有していたとはいえ実際に雇用するのは初めてなので、障害者と共に働ける障害のない者が必要であろうし、その人材は温和で我慢強い「大人の中の大人」である高齢者が望ましい。他人の障害を理解し受容するには、若者よりも人生経験が豊富な高齢者がふさわしいと考えたのである。
(3)仕事の適性と対策
前述したように、障害者の従事業務はパチンコ台の分解、仕分け作業である。
その作業は、道具を使った作業や多様な部品・素材毎の分類作業であるが、知的障害があっても問題なく遂行されている。筆記者も現場を視察したが、休憩時間から業務時間への切り替えもスムーズで、誰が指示するわけでもなく互いに声を掛け合って自分の席に着き、自然に業務に戻る姿に何ら障害の有無を感じることはなかった。また、作業には工具を用いたりもするが、実に手慣れた作業ぶりである。
しかし、適性を見極めるには入社して1年程必要だという。一つの業務を覚えるだけなら3ヶ月もあればできるが、分解する部品や箇所によっては、分解・仕分けが多様な作業になることもあり、従業員一人一人に最適な職場を探す出すことは容易ではない。が、それが本人のやる気につながり、業務の効率性を高めていくことにもなる。
例えば、知的障害に加えて視力障害のある従業員がいる。その条件下でも仕事をするために、細かな作業が多いパチンコ台の解体は無理と考え、別の簡単な作業を担当させた。ところが仕事が捗らない。そこで、和田社長がパチンコ台の解体をやらせてみたところ、作業が非常に速くできることが判り、今は台の枠部分の解体を担当している。何事もやらせてみなければ分からない。色々な仕事をやらせれば、必ず合う仕事が見つかるはずだ。これが、当社における障害者雇用の基本ルールとなっている。
多様な職能を身に付けられるよう試みており、障害の有無にかかわらず適性を探すことの重要性は同じだと、当社では考えている。
また、人によってケースは様々であろうが、同じ作業だけを繰り返していると仕事にやる気を失くしたり、精神的に追い詰められることがある。このような問題に対して、当社では、午前と午後との作業内容を変えるという工夫を行っている。仕事に変化を持たせることで閉塞感を軽減させるのである。障害者がストレスを感じないように配慮し、また、作業の効率を上げるためにも、彼らの特性を理解し適性を探すことが重要なのである。
(4)障害者雇用の環境づくり
現状、大きな問題もなく、作業においてもほとんど支障が出ないように環境整備も行ってきたからで、そのうちいくつかを紹介してみたい。
① 部品写真の掲示
パチンコ台を分解して部品毎に箱に分類していくのだが、その箱に「部品の写真」を貼っている。多様な部品に仕分けなければならないのに対して、「これが部品A、これが部品B」と口頭で伝えても理解するのは難しい。写真で「見える」化することによって、作業の誤りが減少し、それに伴う管理業務の軽減等、大きな効果が見られる。
② 「見える」化の応用
分解作業にはいくつかの工具を使い、従業員は各々自分の工具箱に保管するようにしている。しかし、自分の工具の管理ができない者もいて、工具がどこに行ったか分からなくなる。そこで、彼の工具箱に「工具の写真」を貼ることにした。言って聞かせるだけでなく、見てわかる工夫である。
③ 軽く使いやすい工具の整備
工具は軽くて使いやすい品質の良いものを整えている。障害者によっては握力や筋力が弱い人がいて、軽量な工具の必要性が高いからである。
また、作業場においては、分解作業に使用する電動工具が、天井からコイルによって手元に吊り下げられている。イスに座った状態で目の前に下げられた工具を取って作業し、手を離せばまた宙に浮く。この仕組みは、工具の上げ下げを少しでも軽くしようと、社長のアイデアである。もちろん、工具の紛失を防ぐという効果もある。
障害者でも使いやすい工具については、熊本県立玉名工業高校の先生の協力を得て「簡単で安全な、障害者にやさしい工具」の開発を進めていただいているところである。障害者には筋力に問題があるケースや握り込みがあるケースなどもある。誰でもが使える工具の開発が広く求められる。
④ 助成金による設備機器の購入
当社では、助成金(第1種作業施設設置等助成金)で2つの設備機器を購入した。
まずひとつは、鉄と非鉄とを選別する機械である。例えばアルミとステンレスといったように、障害のない者でも外見だけでは判別しづらい部品がある。それらを磁力を使って判別する機械で、パチンコ台の分解・分別には欠かせないものである。
もうひとつは、フォークリフトである。心臓疾患を有する従業員は分解した部品の仕分けやトラックへの積み下ろしを担当しているが、部品の入った箱の重量は相当なものである。フォークリフトは、その負担を軽減するために購入したものである。
(5)最後に:障害者ゆえの安心や信頼
障害者雇用はその大変さばかりが強調されるため、敬遠されることが多いが、実はそうではないと、当社では考えている。
まず、ひとつには障害のない者の職場にありがちな人間関係のトラブルはほとんど発生しない。「むしろ、障害のない人達の職場よりもこちらの方が揉めることもなく楽だなと思うことがありますよ。」と魚形専務は笑う。
また、前述したように産業廃棄物処理という業界においては、発注者と受注者との信頼性が何よりも重要である。パチンコ台に限らず、不法投棄等違法な処分という問題は常に起こる可能性があり、それらは排出者責任によって発注者にその責が負わされるからである。その点、障害者の人々の職場ではそのような事件はきわめて発生しにくい。悪意を持って違法行為を行うといったことは、知的障害者には起こりにくいことだからである。このように信頼性が高い企業体質は障害者雇用のすぐれた側面の一つだと言える。
知的障害者の個性や適性に合った職場を探し、ストレスなく働き易い環境を整備することで、誠実な性格という美点を事業の強みとして活かすことができる。障害者がこの社会に必要とされる形で働くことができる。当社は、その生きた事例のひとつであると考える。
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