働く意欲のある人に、意欲を持って職をつくる
- 事業所名
- 社会福祉法人 まほろば福祉会
- 所在地
- 宮崎県宮崎市
- 事業内容
- 就労移行支援事業、共同生活援助事業、重度訪問介護事業、その他障害者福祉サービス事業全般
- 従業員数
- 125名
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 6 一般・会計事務業務、生活支援業務、相談支援業務 内部障害 知的障害 精神障害 2 生活支援業務 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用について
(1)事業所の概要
社会福祉法人 まほろば福祉会は、宮崎市の中心地から北西約5kmの大淀川沿いに位置する。平成2年4月に障害者の働く場の提供として「共同作業所 やじろべえ」を開所したのが始まりで、平成3年5月には法人化が実現し、これまでに様々な事業を全国に先駆けて展開してきている。
現在の社会福祉法人 まほろば福祉会の主な施設には、①ほっとすてーしょん 翼(入所定員32名、短期入所利用定員3名、平成9年1月1日開所)、②さくらさくら(利用定員20名、平成17年3月1日開所)、③ワークステーション やじろべえ(通所定員36名、平成3年7月1日開所)、④身体障害者地域在宅促進ホーム Be Fine(世帯用13室、単身用4室、平成10年12月19日)、⑤身体障害者福祉ホーム ケアホーム BE・FREE(入居定員17名、平成7年10月1日開所)などがある。
これらの施設で取り組まれている事業には、短期に入浴・排泄・食事の介護を行う短期入所事業、一般企業等への就労を希望する人への就労移行支援事業、一般企業等で就労が困難な人へ働く場を提供する就労継続支援事業(B型)、家庭等へホームヘルパーを派遣する居宅介護事業、屋外での移動が困難な人への移動支援事業などがあり、その他に、生活介護事業、重度訪問介護事業、日中一時支援事業、生活サポート事業、相談支援事業、宮崎市障害者福祉バス運営事業などがある。
下記の1~4は、社会福祉法人 まほろば福祉会の基本方針である。
- 障害のある人がともに社会の一員として、可能な限り充実した普通の生活を送ることができるように、身体・精神面の両面から一視同仁の援助を行っていく。
- 障害があるなしにかかわらず、人としてやさしさ、思いやり、個々の思いを共感し、尊重することで希望を満足へとつなげる支援を行う。
- 利用者の意思及び人格を尊重し、常に利用者の立場にたって指定施設支援を行う。
- できる限り居宅に近い環境で、地域や家庭との結びつきを重視した運営を行い、社会資源を有機的に活用し保健医療・福祉サービスを提供するものとの連携に努める。
障害者雇用においても同様の考え方で取り組まれ、多くの重度障害者を雇用し、またその家族にも職場提供を行っている。障害者とその家族が住みなれた地域で安心して一緒に生活できるようにアパートなどの施設も完備している。社会福祉法人 まほろば福祉会全体が大きなファミリーとして志を一つに、誠意を持って利用者の幸せづくりに努めたいと考えている。
(2)障害者雇用について
障害者雇用のきっかけとなったのは、現在の理事長が日本筋ジストロフィー協会宮崎県支部長をしている際に、理事長と同じ病と闘っている少年に「死ぬまでに一度でいいから働いて、母にエプロンをプレゼントしたい」と相談され、その実現のために作業所を個人で設立したことにある。その後も、筋ジストロフィー患者の「働きたい」という熱意を受けて通所授産施設など開所している。
そうした経緯もあり、まほろば福祉会の障害者雇用の特徴は、重度の筋ジストロフィー患者を雇用しているところであり、重度の障害者でも同じように勤務させたいという思いがある.
実施されている事業は、障害者やその家族等の要望を受け、障害者と家族が安心して地域で生活できることを目標としたものが多い。そして、例えば「障害者と家族が安心して患者や家族が団欒しながら食事ができる場所の確保」といった場合の事業でも、障害者や家族が支援される場としてだけでなく、障害者雇用の場とも考え、障害者をそのスタッフとして雇用している。そのため、まほろば福祉会の各事業部には障害者が雇用されている。
これらは理事長の「障害があってもなくても仲間」ということを基本に雇用全体が考えられており、障害者雇用では障害をマイナスと考えず、「障害がある人でなければできない仕事が必ずある」ことを信念に取り組まれている。働く意欲のある人にはその人にあった職種を考え、新しく作ることさえある。
2012年7月現在、まほろば福祉会全体の障害者雇用数は8名で、利用者の生活支援業務が3名、職業指導業務が1名、相談支援業務が2名、一般・会計事務業務が2名となっている。そのうち筋ジストロフィー患者は3名で相談支援業務1名、事務業務2名である。
勤務時間は、基本的に施設の開所時間となるが、昼食や入浴、体調に考慮した勤務時間になっており、9時から15時の勤務の場合もあれば、10時から16時の場合もある。雇用者自身が一定の定められた時間帯の中で、始業及び終業の時刻を決定するフレックスタイムに近い。なお、住居はまほろば福祉会が管理する身体障害者地域在宅促進ホーム Be Fineまたは身体障害者福祉ホーム ケアホーム BE・FREEで、職場と住居が施設内にあり通勤時間は5分程度である。
雇用契約は1年ごとに行われ、現在雇用されている障害者の雇用年数は、5年以内が6名、10年以上が3名となっている。その中で筋ジストロフィー患者の事務業務の人は14年、相談支援業務の人は17年と最も長い雇用年数である。
2. 取り組み内容
まほろば福祉会の取り組みとして特徴的なことは、障害をマイナスと考えず、「障害がある人でなければできない仕事が必ずある」という信念のもと、だれにでも必ず「できる」ことがあり、障害者をどのように雇用するか工夫している点である。
個々の興味を理解し、個々の障害をしっかり把握することに努め、さらに職としての業務は個々の興味関心だけでは遂行できないため、それらの興味関心の中から障害者が継続して「できる」ことを考えている。障害者ができることを障害者自身が気付くのではなく、職員や周りの人が気付き、個々の障害者にあった職種を考え、または創出し、業務体系の中に当てはめている。雇用された場合は、一般職員と同じように与えられた業務をこなすことが求められ、賃金等も職員と同じである。そのため、業務を遂行できない場合には少しシビアではあるが打ち切ることもあり、まほろば福祉会にとって障害者雇用が負担とはなっていない。
この取り組みで最も重要なことは、「障害者自身のやる気」ということである。重度の障害者の場合、当初からやる気のある人は少数でほとんどが自分にはできないと諦めているのが現状だからである。そのため、どのようにして本人にやる気を出してもらえるか、本人が「仕事ができる」と思うかが大きなカギとなる。
理事長や職員は、障害者本人に「働いてみらんね」といった声掛けから始め、上述した個々の障害者の観察から様々な職種を提案し、時間をかけて障害者のやる気を育てるようにしている。
写真1は、相談支援業務を担当する障害者の職員Aさん(写真左)が利用者(写真右)と話をしている様子である。Aさんは筋ジストロフィー患者である。
平成7年当時、まほろば福祉会には相談業務はなかったが、Aさんのそれまでの様々な職種の経験豊富な知識、そして話す力を持っていることから、ピアカウンセリングの講習を受け相談員として雇用された。
利用者の言葉で伝えられるのは3割程度とコミュニケーションの難しい人がほとんどである。Aさんは利用者と同じ病気を体験しているため、その気持ちを理解できる。また、普段から利用者と交流することで、顔色やしぐさで体調の変化にも気付くなどAさんにしかできない仕事になっている。そして、相談員の仕事は、Aさん自身にとっても力になり元気の出る生きがいとなっている。
写真2は、事務業務を担当するBさんの仕事中の様子であり、写真3は、その時のパソコンの画面である。キーボードが使えないため、パソコンの画面にあるキーボード(スクリーンキーボードという)をマウスを使って操作し文字入力、編集、ファイル操作など、全てのパソコン操作をマウスだけで行う。Bさんの業務は文書作成から給与計算、会計などパソコンを使う作業を任されている。コンピュータが好きで知識も豊富なため、職員を含めたまほろば福祉会では一番コンピュータに詳しく、他の職員から頼られる存在になっている。
大学では経営学を学び一時は教員を目指していたほど熱意のある青年である。人工呼吸器を装着し不便そうであるが、人工呼吸器を使うようになって体調は却ってよくなり、任された業務も思い通りに処理できている。
Bさんにとって仕事、そして給料を得ることは生きがいであり、元気になる薬にもなっている。



3. 取り組みの効果、今後の展望
(1)取り組みの効果
重度の筋ジストロフィー患者は、トイレ介助や食事介助、そして体位交換など全介助が必要で、職場でも自宅でも介助者が常時就いている必要がある。そのため、雇用されている障害者は、職場では同僚の職員に介助を受け、自宅では利用者として職員に介助を受けることになる。今回取材した筋ジストロフィー患者の人々は、まほろば福祉会のほっとすてーしょん 翼に勤め、施設内の身体障害者地域在宅促進ホーム Be Fineと身体障害者福祉ホーム ケアホーム BE・FREEに入居されている。
このように職員でもあり利用者でもあることは、施設内で生活する利用者と同じ目線で感じることができ、全職員が参加する職員会議では利用者を代弁して意見を述べることができる。利用者にとっては同じ境遇の職員がいることで悩みや不満を相談することができ、利用者は適切なサービスを受け、安心して施設内で生活できることになる。
一般に障害者が就労する場合、出来ることと出来ないことを事業所に伝達するなど、障害者が円滑に就労できるように、職場内外の支援環境を整えるジョブコーチが就く。まほろば福祉会の場合、職員の多くが介護士で事務職の職員も介護職を兼ねているため、全職員が同僚の障害者のジョブコーチとなって常日頃から支援することになる。職員は同僚の障害者の介助をすることで、ジョブコーチの支援のあり方や考え方を学ぶことができ、それらが自然に身に付くことで、当たり前に出来るようになってきている。
(2)今後の展望
事業所によっては、優れた能力があっても単純作業しかやらせてもらえなかったり、重度障害者は負担が大きいと雇用されなかったりするところもある。しかし、まほろば福祉会では障害をマイナスと考えず「障害がある人でなければできない仕事が必ずある」という信念を持って取り組みしっかりと成果を出している。たとえば、現在雇用されている筋ジストロフィー患者の人は専門的な知識を持ち職員にアドバイスするまでになっている。
障害者雇用では、しっかりと本人の特徴を掴むこと、そして障害をしっかり理解することが大切であり、同時に障害者自身の「やる気」が必要であることがわかった。そして、「やる気」は本人任せではできない場合もあるため、時間をかけて障害者自身の「やる気」を育てる支援をすることも大切であることがわかった。
最後に、取材させて頂いた筋ジストロフィー患者の二名に初めて会ったとき、二名とも電動車いすで、一人は人工呼吸器を装着されていた。話を聞くまでどのような仕事ができるのか想像できなかった。仕事の話をいろいろ伺い、今の仕事に自信を持ち、やり甲斐を持って一生懸命取り組んでいることが伝わってきた。そして、強い信念のある人達であると感じた。支えられている自分を「障害を持ったときに見えてくる支えられる部分が自分の中にある」と表現された。
今後も社会福祉法人 まほろば福祉会の心の通い合った大きなファミリーを目指した活動に期待したい。
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