周りが気持ちを大きく持って、障害者を盛り立てながら一緒に働くことが大切。
- 事業所名
- 有限会社谷地林業
- 所在地
- 岩手県久慈市
- 事業内容
- 建設業、製紙用チップ製造、木炭・木酢液製造など
- 従業員数
- 79名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 2 土木、木の伐採 内部障害 1 トラック運転 知的障害 1 木炭製造補助 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
事業所のある岩手県久慈市は、昔も今も豊かな森林に囲まれており、木炭製造が盛んな地域である。そんな中で同社の創業者も約95年前に木炭製造をスタートした。その後、木材チップ製造、造林などの事業にも手を広げ、昭和55(1980)年に法人化してからは土木などの建設業にも進出した。
およそ30年前(昭和58(1983)年ごろ)には、炭材のある場所に運んで2人で簡単に組立設置できる焼窯「組立移動式炭焼がま」を開発した。手軽さと、土盛りできるという安全性が特徴で、炭焼き窯を作る技術者がいない九州などでニーズがあるという。
現在の事業比率は、建設業が約6割、木材チップ製造が3割強、木炭製造が1割弱である。木炭はレジャー用と農業用(土壌改良などに使用)の需要が多い。
事業所の近所に、炭焼き窯(窯4つ)、プラント、木材チップ製造現場がある。
(2)障害者雇用の経緯
お話を伺ったのは、同社の3代目社長の息子で代表取締役副社長の谷地譲氏である。
「最初に雇用した障害者は、地域に住んでいた聴覚障害者だと聞いています。私が生まれる前のことです」とのこと。
事業所のある地方の農村では地域の絆が強く、同社でも創業当時から地元の住民を積極的に雇用してきた。そうした背景から地元住民に「聴覚障害者である自分の子供を雇ってほしい」と言われ、採用したようだ。その人は耳が聞こえないこと以外は問題がなく、機械操作ができたことから、高校卒業の18歳から亡くなる55歳まで働いたという。ちなみに同社の定年は65歳である。
同社ではこのような重機の運転・操作の仕事が少なくないが、「障害の程度によっては障害のない人と同じように働くことができる」と副社長は言い切る。そのため、上肢障害の男性Aさん、Bさんについても、「私が入社する前から働いているので雇用の詳しい経緯はわかりませんが、機械の操作や車の運転に支障がなかったことから採用したのでしょう」と推測する。ちなみにAさんとBさんは、ともに勤続20年以上で、60歳代だという。
内部障害の男性Cさんの場合、入社時は健康体だったが、10年ほど前に病気のため心臓にペースメーカーを入れて「障害者」ということになった。そうした経緯のため、副社長含め社員たちは皆、Cさんを「障害者」と意識することはまったくない。前述のAさん・Bさんについても同様である。
知的障害者の男性Dさんは、地元・久慈市の特別支援学校を卒業して入社し、現在3年目である。同社ではもともと同学校生徒の炭焼き体験授業を受け入れていて、そこから発展して最近ではインターン研修生として受け入れ、雇用につなげている。
Dさんも研修生の一人で、障害の程度が軽く、コミュニケーションがとれること、自動車の運転免許が取得できること(山間地である同社への通勤には自家用車による通勤が必須)、地元の出身であることなどから、正式採用となった。
「研修生として来る人たちは、基本的に特別支援学校から推薦されて入社目的で来るので、まじめで障害の程度が軽い人が多い。研修中は学校の先生も付き添って協力してくれるので、コミュニケーションもとりやすく、採用につながりやすいと思う」と副社長は分析する。
実は今年(平成24(2012)年)7月も木炭製造補助として知的障害者を採用することが決まっていたが、本人の都合で採用見送りとなってしまった。また、10年以上前にも知的障害者を雇用し5〜6年勤めていたが、重複してある障害の程度が進んでしまい退職した人もいた。このような話から、同社では以前から障害者の雇用に積極的だったことがうかがわれる。
2. 障害者の従事業務・職場配置、取り組みの内容
(1)障害者の従事義務・職場配置
AさんとBさんは建設業に従事し、重機の操作や運転を行っている。
Cさんは、以前はトラックの運転手として主に夜間中心に働いていたが、ペースメーカーを入れてからは心臓に負担がかからないよう配慮し、昼間中心の運転に配置転換した。
Dさんは、主に木炭製造の補助作業を行っている。具体的には、木炭用の蒔をコンベアの上に乗せ、完成した木炭を窯から出し箱に詰める、粉炭をふるいにかけて選り分ける、などである。木炭製造には、完成した木炭を同じ長さに切断する作業もあるが、これは機械操作を誤ると事故につながる危険があるので、担当させないという。また木炭製造の補助作業以外でも、木材チップ製造の仕事が忙しい時には、木材をコンベアに乗せたり作業所を掃除するなどの補助作業にまわることもある。

(2)取り組みの内容
Dさんには、研修中から、木炭製造の責任者をつけてマンツーマンで指導した。障害のない人よりは覚えるまでにどうしても時間はかかるが、根気強く教えることで覚えることができた。
また、自分から声をかけられない性格なので、最初の頃は「指示待ち」もあったが、責任者の方から積極的に話しかけて会社に慣れるよう改善した。
木炭製造の責任者である谷地司さんは社長の親族で地元の人なので、Dさんのことも子供の頃からよく知っているという。そのため余計に、「早く独り立ちさせてあげたい」という思いもあるそうだ。そうした背景から、根気よく熱心に教えることで少しずつ成長していくことが予想でき、それがDさんにとってもプラスになったと思われる。
「正直なところ、怒りたいと思ったこともありましたよ。例えば、機械を動かすためのガソリンを買ってくるよう頼んだのに、間違って灯油を買ってきて、入れてみたら機械が動かなかった、といった失敗も。でも間違いは誰にでもありますし、怒ってもお互いにとって良いことはまったくない。それよりも説明しながら納得させることが、次の『成功』につながるんです」と谷地さんは説明する。
同じように以前、「これをやっておいてくれ」と仕事を頼んだところ「はい」と返事をしていたにもかかわらず、実際は違うことをやっていたことがあった。その時もいきなり怒ることはせず、「俺が何を頼んだか、覚えているか?」と聞き返し、確認して、あらためて教えたことで成果をあげたという。
このように谷地さんは、「障害者にしっかり働いてもらうためには、周りが気持ちを大きく持ってその人を盛り立てながら一緒に働くことが必要だと思います」とアドバイスする。
もうひとつ谷地さんが心がけているのが、他の社員とコミュニケーションがとれる環境をつくってあげること。Dさんも参加しやすいように共通の話題をさがして、他の社員に投げかけたりすることもあるという。
たまに失敗はあるものの、Dさんは基本的にまじめで覚えた仕事は集中してやり遂げるので、会社としては戦力として計算できているそうだ。逆に、頼まれた仕事をまじめに黙々とやるので、今年のように暑い夏には、休憩しながらやるよう声をかける配慮を忘れない。
3. 取り組みの効果、今後の展望と課題
(1)取り組みの効果
「いったん覚えた仕事は、単純作業はもちろん、応用作業もできるようになる」と副社長はいう。そのため、年々仕事の幅が広がっているそうである。
また、暑い倉庫の中で長袖・長ズボンの作業着とマスクを着用して粉炭の選別をするといったキツイ仕事に対しても、嫌な顔をせず黙々と作業してくれるので、「本当に助かっています」と谷地さん。そばで別の作業をしていた社員もうなずいていた。
遅刻や無断欠勤もなく、急な残業にも文句も言わず対応してくれるので、「逆に、障害のない現代の同年代の男性ではつとまらないのではないか」とも話す。
さらに、若く身体も大きいので体力があり、木炭製造に従事している年配の社員のサポートとしても活躍している。完成した木炭を切って箱詰めする年配の女性たちは、「自分たちができないちょっとした力仕事を頼みやすい」、「話しやすい」とDさんの存在を喜んでいるという。
(2)今後の展望と課題
同社では現在も、地元の特別支援学校から木炭製造の研修生を受け入れているほか、やはり地元の障害者就労支援施設からも研修生を受け入れている。後者については木炭製造以外の仕事も体験させているそうだ。そうした研修生の中で、同社のニーズに合った人材がいれば、今後も障害者を雇用したいと考えている。例えば、事務員として身体障害の人を雇用する可能性もありうるという。
木炭製造については、今年7月にも採用を決めたとおり、今後も条件に合う人がいたら採用したいと考えている。木炭製造事業は以前に比べて同社の主力ではなくなっているうえ、技術を持った人も年をとって引退して減っているが、木炭の需要はまだまだあり、地域に伝わる技術を次の世代に伝える必要性があるとも考えるからだ。一方で木炭製造の仕事は体力的にもきつく、一般的に敬遠されるケースも考えられるので、障害者に頼る部分も大きいと思われる。
障害者雇用のアドバイスとして副社長は、「あらかじめ障害の程度を把握しておくことが必要なので、インターン制度などを利用して特別支援学校の先生や施設の職員から情報をもらうことが大切」と話してくれた。
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