相手の立場に立ちいたわりを持って接すると共に、
時には障害者本人にも課題を与え、組織も個人も上を目指す
- 事業所名
- 社会福祉法人 岩手県社会福祉協議会
- 所在地
- 岩手県盛岡市
- 事業内容
- 市町村社協やボランティアの支援、福祉人材斡旋、福祉交流施設管理等
- 従業員数
- 145名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 3 人材斡旋、ボランティア調整、窓口受け付け 内部障害 知的障害 精神障害 1 スポーツ施設指導員補助 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
岩手県社会福祉協議会は、社会福祉法に基づき、岩手県において地域福祉の推進を図ることを目的として昭和26(1951)年に設立された社会福祉法人である。岩手県内の市町村の社会福祉協議会への個別支援や民生・児童委員の支援などを行う「地域福祉」のほか、「ボランティア・市民活動に関する相談等の対応」、「生活福祉資金貸し付け」、「福祉の人材斡旋」、「施設経営のサポート」、「日常生活自立支援事業」、「福祉サービス苦情解決事業」、「県福祉大会の開催」、「福祉情報の提供」、「福祉団体への助成」など幅広い事業に取り組んでいる。
平成18(2006)年からは、「ふれあいランド岩手」(平成6(1994)年オープン)を岩手県からの指定管理者として、管理・運営も行っている。この施設は、県内の社会福祉活動の拠点として、スポーツ及び文化活動を通じて、障害者、高齢者、幼児等すべての県民の相互理解と交流を図ることを目的として設置されたもので、ホールや教室などの文化施設、陸上競技場やプールなどの体育施設がある。このように同会の事業は多岐にわたっている。なお、同会の本部事務所もこの「ふれあいランド岩手」の施設内にある。
また、平成23(2011)年3月の東日本大震災以降は、県内外のボランティアの受け入れ調整や、県内33市町村の社会福祉協議会と協力して災害ボランティアセンターの設置・運営を行うなど、復興支援の事業が増えているという。特に、仮設住宅の入居者のための生活支援相談員や、高齢者・障害者などいわゆる災害弱者のための「福祉」の専門家の派遣に力を入れている。
(2)障害者雇用の経緯
同会では現在、肢体不自由者3名と精神障害者1名を雇用している。肢体不自由の3名は、全員車いすを利用している。
最初に雇用されたのは、平成9(1997)年に雇用された肢体不自由の男性Aさんである。当時は同会が社会福祉事業を行う事業所ということもあり障害者の雇用について議論はされていたが、まだ、障害者雇用の方針が定まらない時期だった。ちょうどその時、事務職の職員に欠員が出たので、求人を出したところAさんからの応募があった。面接の結果、Aさんは以前勤務していた福祉団体で事務作業をしていた経験があり、こちらが求めるスキルを持っていたうえ、仕事に対する熱意が感じられたので、採用となったという。
ちなみに勤務場所の「ふれあいランド岩手」は、もともとユニバーサルデザインであったこと、Aさんは自家用車による通勤が可能だったこと、施設敷地内の駐車場には融雪箇所があるので積雪時も心配ないことなど、ハード面でも問題がなかったことも、採用の後押しとなったようだ。
平成18(2006)年に、やはり欠員補充として窓口受け付け業務担当として採用した女性のBさん、平成21(2009)年にボランティア調整担当として採用した女性のCさんについても、施設面ではAさん同様問題はなかった。ただ採用時には、例えば出張業務があるが、あった場合には一人でこなせるかなど、仕事をする中でどのような制約が生じるかを確認したという。
精神障害者である男性のDさんは、Cさんと同様、平成21(2009)年の採用である。スポーツ施設内のプールでの監視員や体育館でのスポーツ指導の補助などが主な仕事である「利用者の安全管理担当者」が欠員となり、求人を提出したところに、応募してきた。障害の程度が重くなかったので、採用を決めた。


2. 障害者の従事業務・職場配置、取り組みの内容
(1)障害者の従事業務・職場配置
事務業務、窓口受付担当業務、ボランティア調整担当業務や安全管理担当業務のように、専門職として募集しているので、4名の障害者の従事業務は採用時から決まっている。ちなみにAさんは正職員だが、Bさんは期限付きの契約職員、CさんとDさんは一年更新の契約職員である。
(2)取り組みの内容
「今年の夏は特に暑かったので、基本的に事務職である車いすの3人に対しては、本来障害のない職員以上に配慮しなくてはいけなかったのですが、施設全体の温度管理への配慮もしなくてはならず、難しい面もありました」とは総務部の宇土沢学参事兼部長。宇土沢部長によると、本人たちが顔にミストをかけるなど涼がとれる工夫をしていたという。
また、Bさんは、自宅で介助犬と暮らしていることから、勤務場所に介助犬も一緒に通勤している。窓口スペースはせまいので、物を落とした時に拾うのも大変なのだが、介助犬がいるとその役目を果たしてくれるという。また、狭い場所で長時間勤務することへのストレスも、そばに介助犬がいることで解消されているようだ。
一方、精神障害者のDさんについては事業所全体で様々な取り組みをしてサポートしている。まず、一緒に働く現場のリーダーには、Dさんのかかりつけの医師と連絡を取りながら、「必要な時には休ませること」、「勤務の内容を総務部に報告すること」を徹底している。「もともと施設利用者に障害者がいるので、職員たちも障害者に対して一定の理解はあります。でもそれが同じ職員だと、仕事への厳しさから問題が生じる可能性もあるのも事実です。そこで利用者への対応の知識を引用して、朝のミーティング時に、例えばその日の利用者に障害がある人がいる場合には、その障害の特性や配慮すべき事項を引き合いに出して説明することで、障害に対する理解を促しています」と宇土沢部長。このように障害に対する正しい理解を職員に徹底し、職員の和が乱れることのないよう取り組んでいる。
スポーツ施設の現場の職員は体育会出身者が多いので、言葉が多少きつくなる時もあるが、そのような時、宇土沢部長は現場の職員に、「Dさんに『利用者の安全を確保するために指導しているんだよ』『これをやらないと事故につながるんだよ』と、注意した意味を繰り返し丁寧に教えてほしい」とアドバイスしたそうだ。
基本的に同会の職員は利用者に対して、「相手の立場にたった対応」が原則である。この原則を仕事仲間に対しても応用するよう指導している。
障害のない職員だけでなく、Dさん自身への対応も重要である。同会では普段から職員のアイデアによる職場の改善を目指していることから、Dさんにもアイデアを求め、仕事に積極的に参加するきっかけをつくっているそうだ。

3. 取り組みの効果、今後の展望と課題、障害者雇用に対する企業向けアドバイス
(1)取り組みの効果
現場の職員の丁寧な対応が奏功し、1年ほど経った頃からDさんは気持ちが少しずつ前向きになり、休憩時間に落ち込むといったことがなくなった。利用者に対しても、自然に笑顔で接したり、積極的に声をかけるなど、心が安定しているそうだ。
利用者の中には些細なことで大声を出す人もいるため、そういう場面にDさんが遭遇した時、以前は他の職員が先回りしてDさんをかばっていたが、今はDさんが自然体で相手の話を聞くようになった。Dさんも自分なりに学び、心の中にゆとりができたのではないかと推測できる。そんなDさんは今では他の職員と同じ仕事を、時にはそれ以上の仕事をしているという。
一方、障害のない職員にも良い波及効果が出ている。障害のある人への本当のいたわりというものを実感しているようだ。「利用者に対し、より良いサービスを提供するためにも、同じ職員にもいたわりの気持ちを持って接することが大切。そういうことを職員が学び、自然に受け入れたようだ」と宇土沢部長は分析する。
(2)今後の展望と課題
同会の職員数は震災前が約80名だったのに対し、現在は145名と、60名以上増えている。全員が障害のない人である。というのも、震災に関する仕事向けの雇用で、すぐ結果を出さないといけなかったからだが、今後はこの人数を保ちつつ、障害者の雇用も増やしていきたいと考えている。
同会は営利企業ではなく、「人に喜ばれる仕事をする」職場なので、障害者を雇用しやすい環境にある。できれば障害者自身がスキルアップできるような雇用が理想だという。
また、労働契約法の改正により、平成25(2013)年4月からは、有期労働契約を通算して5年を超え反復更新した場合は、労働者の申し込みにより無期労働契約に転換しなくてはならないこととなっている。いわゆる正規職員として雇用しなくてはいけなくなる。同会も現在雇用する障害者4名のうち3名は、いわゆる非正規職員として雇用している。同会としてもこれに対する対策を考えたいという希望があるようだ。
(3)障害者雇用に対する企業向けアドバイス
障害者と接する機会が多い宇土沢部長に、障害者雇用をしてきた経験から、障害者雇用をこれから行おうとする企業に対するアドバイスをいただいた。
障害者を雇用するとした方針を持つ場合は、経験上、障害者個人の長所・短所を十分に理解した上での採用が大切である。その為には雇用前に1ヶ月間程度の研修を行う他、トライアル雇用を実施した方が良いのではないだろうか。これは障害者雇用だけに当てはまることではないが、マッチングのためには時間が必要だ。特に知的障害者や精神障害者は、本人の特性を理解することから始まるので、この部分に相当気を遣わないといけない。逆にぴたりとはまると、障害者は企業に対して大きな戦力となる。そしてその力を常に発揮してもらう為にはどういう条件をそろえれば良いかを考え、時には本人に課題を与えることも求められるだろう。
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