社風を活かして関係機関との連携により雇用継続を達成している事例
- 事業所名
- アーバン株式会社
- 所在地
- 宮城県気仙沼市
- 事業内容
- 冠婚葬祭業
- 従業員数
- 189名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 2 食器洗浄、配膳、料理盛り付け、仕出し、装飾生花作り、水切作業 精神障害 1 食器洗浄、タオル折り - 目次
1. 事業所の概要、取り組みの内容
(1)事業所の概要
アーバン株式会社は昭和48(1973)年の創業以来、「人生の行為を通じて、一人が万人の為に、万人が一人の為に、相互扶助の精神」を経営理念とし、気仙沼市の本社を中心に地域に密着した冠婚葬祭業を展開している。
「大船渡沿線」全域と登米市をカバーするサービス網として8拠点を構え、189名の社員(うち3名は障害者)を雇用しており名実ともに地域を代表する老舗企業である。
また震災当日多くの住民が避難した安波山にチャペルを有することから、現在では様々な復興関連のイベントがそのチャペルにて開催されている。
(2)取り組みの内容
① 障害者雇用の経緯
アーバンでは近年の事業拡大に伴って平成22(2010)年から障害者雇用を開始している。当初は法定雇用率の達成については認識していたが、障害者雇用に一歩踏み出せない状況であった。そんな中で地域の障害者就業・生活支援センターからの提案によってまず調理部で3名の職場実習の受け入れを行うこととなった。その上で雇用を開始することになったわけであるが、当然のことながら企業単独での雇用継続は難しい。さらに初めから複数名の雇用を行ったこともあり、支援機関との密な連携が必須条件でのスタートとなった。
今回の取材では、本社に勤務する精神障害者のAさんと本社の菅井部長、さらに障害者就業・生活支援センター職員の方から聞き取りを行った。
② 事例の概要
Aさんは平成22(2010)年に障害者就業・生活支援センターを通じてアーバンに紹介があり、実習を経て本社の調理部へ配属となった人である。当時はAさんを含め3名の人を一度に採用したこと、障害特性にばらつきがあったこともあり、本社では障害者就業・生活支援センターに加え宮城障害者職業センターに協力を依頼し、職場定着のための支援を受けることができる体制をとることとなった。
業務的にはある程度限定的なものからスタートし徐々に勤務時間を増やしていくこととなったが、雇用継続にあたり業務遂行面で様々な課題が明らかになってきた。そこで必要に応じて支援機関の協力を得ながら本人の職場環境整備、生活面のサポートなどを効果的に行った事例である。さらに、これらの就労環境の形成に当たっては、経営理念でもある相互扶助に基づく社風やその社員の人柄が好影響して、自然とAさんにあったものを形成していくことができた事例でもある。東日本大震災の影響による厳しい環境を会社全体で乗り越えながら、Aさんも他の社員とともに復興に向けて取り組みを継続している最中である。その結果本人だけでなく会社にも良い変化がみられている。このような点について紹介をしていく。
③ 職場環境への支援
Aさんの主な業務の一つは食器の洗浄と収納であるが、Aさんの特性で考えられる課題は「正確に作業を遂行すること」ができるかであった。確かに、食器の種類と手順の複雑さからAさんはなかなか作業の流れを覚えられず、工程を飛ばしてしまうこともしばしばであった。さらに洗浄をした食器を収納する棚が複数あり、調理場の広さと合わせてどの食器をどこにしまうのか、本人にとって非常にわかりにくい環境であった。
そこで障害者職業センターより派遣されたジョブコーチから環境改善の提案が行われた。まず食器洗浄について、一つ一つの工程が視覚的に理解できるように、各工程を写真に撮り、はじめから完了までの流れを写真を使って示すこととした。さらに棚に収納すべき食器の写真を棚に貼り付けし、食器に対応する棚の箇所が明確で具体的になるよう工夫を行った。
二つ目の作業は葬儀用飾り団子作りであるが、この作業はジョブコーチから、1日の業務の最後の業務に加えるように提案されたもので、一日の仕事の流れの中から切り出された業務であった。当初Aさんは正午までの勤務であり当然のことながらその時間に退勤することとなっていた。しかしAさんは、周囲の状況を気にかけ過ぎることから、まだ勤務している従業員の目を気にして自ら退勤できないことがしばしば見られていた。そこでジョブコーチは業務の区切りをつける目的で、団子作りをその日の最後の業務として加える提案を行ったのである。
また、この作業を切り出したポイントは、粉と水の配分や練り方等、本人に委ねられる部分があるということが重要である。明確な基準がないことから作業の習得には難しさがあるのではと思われたが、Aさんの特性に合う業務を切り出すポイントとして、ストックが可能であること、常に作業過程で本人が追い立てられないもの、つまりある程度本人のペースで作業が進められることが条件となっていたことからも的確な作業となった。結果、時間はかかりながらもAさんも無理のないペースで作業を覚えることができた。
④ 生活面への支援
Aさんには入院歴があり、さらにこれまでの生活状況からも就労を継続していくためには職場だけではなく、当初から関係機関と連携して本人をサポートしていくことが確認されていた。サポートは関係者の支援会議を必要に応じて開催して行うこととしていたが、アーバンでは雇用を開始した当初、関係者による支援会議の必要性を見出すことが難しく、具体的な外部機関とのつながりをつくるまでには至らなかった。しかし雇用を進めていく上で企業だけでは解決できない問題、特に生活面に関しての課題対応に限界を感じる事態が発生したことで初めて、関係機関のサポートの必要性が認識されたという。その後はジョブコーチが行う訪問により明らかになった課題について、支援会議を開催して、障害者就業・生活支援センターが本人と面談を行い、必要に応じて医師や看護師から助言を受けながら本人のサポートを継続している。
⑤ 震災以降の取り組み
震災により本社1F調理部が津波による被害を受け通常の営業活動が困難となった。その復旧作業は相当たるものであったが、自らの申し出により障害のある人たちも会社の一社員として厳しい復旧作業に従事した。その作業に取り組む姿勢や積極性に対しては、多くの社員が驚きと感動を覚えたという。その結果、Aさんをはじめとする障害のある人にも強い帰属意識やつながりが生まれ、会社としても一丸になれたという。
その後調理部が移転を余儀なくされたこともあり、Aさんの業務内容も変更となった。調理部は別の仮設拠点へ移転し、花の水切りやタオル折りの業務を担当することとなったが、室温の調整が困難であることや窮屈な場所での作業にも関わらず、作業場所が本社へ戻るまでAさんは黙々と業務をこなしたという。これらの震災時のエピソードからもAさんが会社にとってかけがえのない存在になっているということがわかる。
2. 取り組みの効果
(1)Aさんの変化
Aさんはこれまで障害の特性により医療的なサポート、福祉的な就労継続支援などを受けながら生活を送ってきた。その頃と今の生活を比べると生活にメリハリがついたこと、寝坊もしなくなったこと、計画的に生活を送るようになったとのことである。これらに加え収入が増えたことから自分が欲しいものの買い物もできるようになったことは、信じられないほどの変化であるという。もし病院から地域に出ていなければ今はもっと状態が悪くなっていたかもしれない。Aさんは現在、できるだけ長く勤めて仕事の内容もステップアップしたいと考えている。
(2)障害者雇用における企業側のメリット
アーバンでは当初、障害者を受け入れること自体が初めてであったため、雇用に当たっては社員が常に優しさを持って対応すること、メンタルヘルス等の知識を活かして接することなどを意識的に心掛けていたが、それはいつしか社員全体の自然な雰囲気になり、障害者本人のことをより深く知りたいという声が上がるようになった。
また震災時に障害者雇用をしていたことによって他地域からの障害者支援団体との出会いがあり、復興のサポートを受けることとなった。がれき撤去等の作業自体も非常に助けられたと感じるが、それ以上に人とのつながりを必要としている時に様々な人達とつながることができ、さらにそれが今でも続いている、そんな他分野の人達との出会いに心からに感謝しているとのことであった。
3. 考察、今後の課題と展望
(1)考察
① 社風と障害者受け入れの土壌
アーバンは創業40年の老舗であり地域に密着した冠婚葬祭業を行っているが、顧客のニーズに合わせたサービスの提供だけでなく、経営理念にある相互扶助の精神が示すように社員がお互いの存在を尊重する姿勢を重視していると思われる。ゆえにベテラン社員であっても部下を業務に携わる一人と見る前に一人の人間であることを重視し、その一人ひとりにあった配慮や働きかけを行っている。
従来のサービス業は顧客の対応に重点が置かれることばかりが目立ち、これらを追及するあまり従業員への配慮に欠けることがある。このことが障害者雇用においては高いハードルとなりうるのである。個別対応や特性に応じた環境調整が必要な場合がそうである。
しかしアーバンでは経験年数の長い発言力のある従業員が核となり本人を支えてきたことから、個別の配慮が自然な形でもモデル的に実行され、外部資源の活用も柔軟に行うことができたと思われる。
さらにこれらのことが自然な形で行われていることが注目すべき点である。自然発生的であるということは従来の環境との差異がほとんどないということである。つまりこの事例では従来の社風がそのまま障害者の受け入れに影響し、本人のできる力や自信、自己肯定感を高める良い方向に働いたと言える。雇用の土壌がすでにあることから今後多くの好事例の報告を期待したい。
② 対等な関係性
特に知的な遅れがなく認知特性における実行機能が高い精神障害者や発達障害者の場合、自身の立場や役割によって業務遂行や就業継続の動機づけに大きな影響が出ることはよく知られている。
障害者雇用の場合、ほとんどの事業所では障害者の立ち位置について、障害のない従業員と明確にラインが引かれ、その後も大きな変化がみられないこともしばしばである。つまり「あなたは障害者である」と区別され、その後も社内での対応が変わらない場合がある。
しかしながらアーバンでは、採用時こそ障害者枠が存在するが、雇用後はその区別がほぼなくなり、対等な関係性でやり取りが行われる。それによりAさんは会社での自己存在感を獲得しながら業務に対するモチベーションを高めていったものと思われる。つまり障害者であっても他者と同等な関係を望んでいるのである。
さらに特筆すべきは、対等な関係性を重視するあまり個別の配慮に欠けてしまう事例も少なくない中で、アーバンはしっかりと個別の支援も行いながら対等な関係性を維持している。ここに障害者雇用を継続し成功させるヒントがあるように思われる。
③ 本人と企業のメリット
最近では障害者雇用でもWin-winの関係という言葉が使われるようになったが、まさにこのことが障害者の就労を考える上で前提となることは言うまでもない。しかしこの事例では他と異なる点があると考える。
まず本人へのメリットを改めて整理してみると、自身が自分のできることを自覚し、自己肯定感が高められることで生活上の意欲が回復していること、生活の質が上がり本人の選択肢が確実に増えていること、震災により職場環境が変化したことにより、会社への帰属意識を獲得し、社会的な役割を担えていること、などが挙げられる。
これに対して企業側では、当然のことながら法定雇用率の達成であり、加えて障害者が従業員の一員として戦力になっていることである。
(2)今後の課題と展望
今回の取材を通してアーバン社員の温かい人柄とAさんの勤勉な姿勢がうかがわれた。この両者が障害者雇用の観点からこの事例をさらに良いものとしていけるよう課題と展望を示していく。
Aさんは就労を継続しており、一定の評価のもと社員の一員として業務に就くことができている。次は、本人も希望している段階的なステップアップを目指すことである。このため、業務の幅の広がりや作業精度の高まりが求められる。つまり課題はキャリアアップである。
雇用継続という点では、障害者の受け入れにおける基本的な配慮や環境調整などの事項はすでに整備されていることからも、その土壌のもとで新たな職域の開拓、熟練技術の習得などを図りながら企業の期待に応え、地域での障害者キャリア形成のモデルとなることを期待したい。
センター長 黒澤 哲
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