関連機関との連携、職員の意識の変革、事業所全体での支援
- 事業所名
- 医療法人社団みつわ会
- 所在地
- 山形県鶴岡市
- 事業内容
- 医療、保健、福祉
- 従業員数
- 230名(パート等含む)
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 理学療法士 聴覚障害 1 社会福祉士 肢体不自由 1 介護職員 内部障害 知的障害 3(重度1) 業務職員(環境整備) 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
医療法人社団みつわ会は1992(平成4)年7月1日に設立され、翌1993(平成5)年に「老人保健施設のぞみの園」を開設した。その後、1995(平成7)年に併設診療所「茅原クリニック」、1997(平成9)年に有料老人ホーム「サニーハウス茅原」、2000(平成12)年に居宅介護支援事業所「ケアプランセンターひだまり」など、2001(平成13)年に「のぞみの園訪問介護サービス」、2006(平成18)年に通所介護、介護予防通所リハビリテーション及び認知症対応型通所介護事業所、2012(平成24)年に山形県内初の「サテライト老健ちわら」、「サテライト老健のぞみ」を開設した。
現在、老人保健施設のぞみの園(入所・短期入所・通所リハビリテーション・デイケア)、指定訪問介護事業所のぞみの園訪問介護サービス、指定居宅介護支援事業所ケアプランひだまり、指定地域密着型サービス事業所グループホームひだまりの家、茅原クリニック、有料老人ホーム5所、サテライト老健2ヶ所となっている。
また、関連法人として社会福祉法人めぐみ会(ケアハウス、障害者支援施設)、NPO法人大地(認知症対応型共同生活介護グループホームなごみ)がある。
(2)障害者雇用の経緯
2000(平成12)年に関連法人である社会福祉法人めぐみ会の理事長(みつわ会の副理事長でもある)からの紹介で身体障害者を1名雇用し清掃業務を担当させたのが最初の障害者の雇用である。
知的障害者の雇用は2002(平成14)年に山形県立鶴岡高等養護学校から職場実習の依頼を受けて実習を実施した後、翌年、その実習生を採用することになったことが始まりである。この採用に関連して、担当者(事務職員)は障害者職業生活相談員の講習を受けた。
その後、鶴岡高等養護学校からの実習受け入れは続き、年度の前期にまず実習をして、その中で採用できる見込みがある生徒は後期も実習をして、採用の検討に至るという形がとられている。これまで鶴岡高等養護学校からの採用は、2002(平成14)年、2004(平成16)年、2006(平成18)年、2010(平成22)年の4回(4名)である。そのうち1名はホームヘルパー(以下、「ヘルパー」という。)2級の資格も取得したが、その後病気になり退職した。
2. 障害者の従事業務、取り組みの内容
(1)障害者の従事業務
知的障害者は老人保健施設のぞみの園で、施設内清掃やトイレ清掃、おしぼり・エプロンたたみ、タオルたたみ、利用者の髪をかわかすこと等に従事している。


(2)取り組みの内容
① 障害者雇用にあたっての主な取り組みの内容
- 月1回の面談(障害者職業生活相談員による面談)
面談の目的は介護技術と精神面での支援である。同時に健康状態などのチェックもする(様子を聞く)。
- プリセプター
プリセプターとはマン・ツー・マンでの指導のことである。ただし知的障害者については業務遂行援助者が1名で全員を見ている。身体障害者(介護職員)についてはマン・ツー・マンによる指導がなされている。
- 家族との連携
家族との連携は従業員それぞれの状況によって異なる。
自閉傾向が強く障害程度も重くて、両親とも働いている人に対しては書面で家族との連絡を行っている。母親から連絡ノートのようなものに連絡事項が書かれていて、それを生活相談員がチェックして、サインしている。
ヘルパー資格を取りたいと希望している人については、その前に家族に来てもらって相談した。その人にはヘルパーの資格取得と運転免許の資格取得という2つの目標があったが、両方は無理だったので、本人も交えて話し合った。
ヘルパーを取れば臨時職員となり、ボーナスも出るかもしれないということを伝えて、ヘルパーの資格取得を優先させることになった。資格を取得してからお金を貯めて運転免許に挑戦することになった。この人の場合はよっぽどのことがない限り、本人を通じて家族に連絡している。
- トライアル雇用
ハローワークから声かけがあり、トライアル雇用は今まで2回実施した。そのうち1回は障害者手帳を持っていないてんかんの人(今回紹介する障害者には含まれてはいない人)であった。この人の勤務は現在も継続されている。
② ヘルパー2級の資格取得について
前述したように、現在1名の知的障害者がヘルパー2級の資格取得を目指して勉強中である。
当社で知的障害のある職員のヘルパー2級取得への取り組みは2人目である。最初は2006(平成18)年のことであった。一般の人と同じ講習を受けたのだが、講習先には漢字の読み書きが苦手であるという状況を説明し、読み書き等の部分に関してのみ配慮をお願いした。社内でも講習前日に職員から予習の指導を受けるようにした。
しかし、講習先への事前説明が講師に伝わっておらず、テキストを読めないことを厳しく指導された。そのようなこともあって他の受講生からグループワーク終了時に陰口されたりもした。そこで当社では実技指導など事前学習会を実施し、テキストの内容の説明やレポート記入についてアドバイスを行い、講習先へ配慮を再度お願いした。このようにして、少し時間はかかったが無事ヘルパー2級資格の取得に至った(現在は退職)。
現在資格取得を目指している職員については、講習先に「特別な配慮は必要ないが、突発的な質問や、前に出て黒板に書くこと、グループワークなどは難しいかもしれない」と説明した。講習先から「特に配慮もしていないが、困っている様子もないようだ」と報告を受けている。今回は他の受講生とのグループワークも問題なく進められている。
本人に聞くと、「分からない漢字等があれば、同じ教室の受講生に聞いている」とのことである。講習先で受講生に説明があったのか、本人が自分ことを説明したのか分からないが、一緒に講義を受けている人たちにも助けてもらっている様子である。職員に聞くと、講習が始まる前に自分のテキストを本人に貸して前もって教えてくれた人がいたり、本人も予習して漢字にフリガナをふったりしているようである。
③ 自閉傾向のある従業員への対応—支援機関との連携と職員の意識向上
鶴岡高等養護学校から受け入れた知的障害者の1名は自閉傾向がある。障害程度の判定はB(中軽度)であった。
鶴岡高等養護学校からは障害程度は重度(障害者職業センターでの重度の判定)であること、暗記が得意である一方でコミュニケーションが苦手であるとの説明を受けていた。
最初の2年間は大きな問題もなく過ぎていったが、ある時期から、仕事が雑になり決められた手順を守れなくなったり、施設内のすべての利用者用トイレの壁を掃除道具で汚したりするなどの行動が見られた。また、大声を出して廊下を走り、火災報知器のベルを鳴らしたりもした。そしてそれらのことを何度注意されても改善の気配が見えなかった。担当者(職業生活相談員)もどうしてよいかわからず、それでもできるならば退職に至らないですむ解決方法を探っていった。
家族とも面談し、勤務時間を短縮(5時間30分を3時間に)したり、業務内容を見直したり、保健師からの勧めで精神科への受診も行った。しかし、その後も状況は改善せず、出身校の鶴岡高等養護学校の進路担当教員に相談したところ、障害者就業・生活支援センター「かでる」を紹介された。
「かでる」を介して山形障害者職業センターに登録し、ジョブコーチ支援の申請を行った。担当者は障害者生活相談員の講習を受けていたので、ジョブコーチや障害者職業センターのことは一応知っていたが、ジョブコーチがどのようなことをするのか、どのような場合に支援を受けられるのかは詳しくは知らなかった。
ジョブコーチ、障害者職業カウンセラー、鶴岡高等養護学校の教員、家族、事業所で支援計画を策定し、2009(平成21)年2月からジョブコーチが2ヶ月間集中的に支援に入った。そのなかで、不穏な行動をとることの原因を探るために、本人の勤務状況や生活態度などを丹念に追っていった。そうして少しずつではあるが、1日のスケジュールが急に変わったりするとパニックを起こすことがわかってきた。また、業務遂行援助者が親身になって、「1人でも仕事ができるように」と厳しく指導したことが、本人は「怒られている」と感じ、不穏な行動につながることもあることがわかった。その状態が続くと、遂行援助者が普通に話しかけても「注意されている」「怒られている」と感じるようになるようであった。
そこで担当者(職業生活相談員)は、事業所の全体会議で障害者雇用について話をすることとした。現在、何が起きていて、その原因は何であるか。その対応としてジョブコーチの支援が行われていることなど、少し「踏み込んだ」情報開示をした。
職員の中には「そこまで情報開示をしてもいいのか」と不安がる人もいたが、職員全員に関わってもらうために詳しい情報開示を行ったことを説明した。この話の後、職場の雰囲気が変わっていった。皆がその障害者を見守るようになり、働いている時の様子を担当者に報告してくれたり、何かあった時も各自で対応してくれたりするようになった。
本人が不安そうな場合には声をかけたり、場合によっては手を握ったりして、本人が落ち着くように工夫してくれるようになった。ジョブコーチの支援は2ヶ月間行われ、その後半年程は月1回のペースで職場を訪問することとなった。
その後しばらく落ち着いていたが、再び不穏な行動をとるようになった。すると今度は通所(デイケア)部門から「朝、歌を歌わないか」という申し出があった。通所部門では朝、利用者と懐かしい歌を2曲歌うというプログラムがあり、その時に一緒に歌ってはどうかというのである。その間は通所部門の職員が様子を見てくれることになった。歌を歌うようになると、周囲の職員も本人の歌う様子を見て、その日の調子がわかるようになった。そして調子が悪いときには通所部門の職員が落ち着くように対応してくれた。
このような対応が続く中で、2012(平成24)年になって本人の様子が変わってきた。朝、調子が悪くても、自分で何とか持ちこたえるようになった。調子が悪かったら、周囲の人に迷惑をかけないところで声を出してみたりと、自分でやり方も工夫しているようである。ジョブコーチの支援を受けていた頃にはできなかったことである。そして、その本人の頑張りを周囲の職員も理解し、認めていることも職場にとっては大きな変化である。現在では職員も、本人が落ち着けるようなアイデアをいろいろと考えてくれている。
また、別の知的障害者の存在も見逃せない。2010(平成22)年に採用された鶴岡高等養護学校の卒業生で、障害程度が軽い従業員が、その人の様子を担当者に教えてくれたり、面倒を見てくれたりしている。
④ 関係機関との関係
鶴岡高等養護学校には、地域の事業所が連携して職場実習をはじめ、生徒の就職を支援しようという「職場実習支援の会」がある。当社もそれに参加して、実習や見学の受け入れも行っており、学校との関係は深い。学校側も卒業後のフォローアップには熱心で、いつでも見ていてくれる、相談できるという存在である。
障害者就業・生活支援センター「かでる」は、鶴岡高等養護学校の後ろにいて、さらにその後ろに障害者職業センターがある。支援してくれるところがあるというのは障害者雇用を続けていく上で大きな安心感につながっている。ジョブコーチが最初に来てくれたときには、本当に「救われた」という感じがしたそうである。そこで初めて「段取りをきちんとすれば、ちゃんとできる」ということが実感できた。
ハローワークとは、障害者雇用の面ではあまり連携はしていないが、トライアル雇用を行うときなどは連携していた。
3. 取り組みの効果
介護老人保健施設で雇用することは、「医師や看護師等、医療従事者を含む各専門職が連携している職場であり、体調不良等に迅速に対応できる」、「職員が福祉に対する共通意識を持っているため、障害者雇用への理解・協力が得やすい」というメリットがある。一方で、「障害者が要介護者を介護することのリスクを考えると仕事の範囲が限定されることもあり、少人数しか雇用できない」、「正しい感染症の予防指導をする必要がある」などのデメリットがある。さらに、経営上、職員数が限られるため、四六時中付き添って指導するということは難しい。
しかし、障害者雇用をしたことで、「継続的に受け入れるために何かできるか」を職員が考え、障害者が働ける環境を作るようになった。これは大きな収穫である。
介護施設では一番大切なのは介護サービスであり、それを担当する介護職員である。その介護職員が気持ちよく、介護に集中して働けるように環境を整備することが、その他の職員の仕事である。障害者が清掃の部分を担当してくれることで、間接的に介護職員を支えてくれている。知的障害の人たちは、決められたことをきちんとする、物事を受け入れて素直であるという良いところがある。また鶴岡高等養護学校での教育が、即戦力となる人材を育成していると感じている。
障害者雇用にはまずは組織のトップの理解と、それを受け入れる職場の理解が必要であるが、きちんと説明をし、話し合っていけばそれは十分にできるということを、このみつわ会の事例は示している。
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