人事部人事課の満仲淳之係長は、障害者雇用のポイントとして、何十年という長い歳月をかけて築き上げてきた障害者が育ちやすい環境、風土を挙げた。

これは、社是の「誠実」（社会における約束を厳守し、公正な企業活動と環境保全を行う）、「親切」（気配りのある信用を第一とした企業活動を行う）が日常化されていることから出た言葉だ。このように公正な企業活動と環境保全、気配りは、弱い立場の人たちが働く上で欠かせない“思いやり”につながっている。

満仲係長が次に強調したことは、「偏見、先入観を持たないこと」。残念なことであるが、障害者に対する偏見、先入観を持つ人は依然として多い。しかし、まずは真っ白な気持ちで接し、よく話を聞くことが肝心というわけである。

同情を基本とした“プラスα、付けたし”として障害者を雇用するのではない。あくまで戦力として雇用するのであり、会社の要求はその分厳しくなる。このことは、障害者も十分承知しており、頑張ればそれに見合った処遇を受けられるので、モチベーションは高く、努力もしている。

障害者就職面接会では、応募のあった15名に対し、人事担当者と希望者が一人30分ほどの時間をかけて、処遇や疑問点についてとことん話し合った結果、お互いにもう少し話をしたいという8人に絞られ工場見学に進む。

障害者は、お互いを気にするところがあるので、見学に集中してもらうため、見学時間を30分間隔にしてほかの希望者と顔を合わせることのないようにしている。

最初にU－Car商品課の上妻課長が仕事の内容等を紹介する。次に作業場を見ることになるが、採用されると、そこで自分が働くことになるので全員真剣そのものである。

障害者は、言われたとおりにやっていればよいという生活を送ってきている人もおり、質問をしてよいものか躊躇する人が多い。

「質問をどうぞ」と言うと、「えっ！言ってもいいんですか?!」と言う人がいるほどである。しかし、文字どおり「見学」であり、「採用面接」という硬さはないので、障害者も気軽に質問できる。

以下にいくつかの質問をご紹介する。

③  採用面接

いよいよ採用面接である。ここでも面接者が一方的に話すのではなく、お互いに一人30分の時間を使って、お互いの気持ちの交換を主体に話し合う。

今回の障害者就職面接会では15人もの応募があり、8名が工場見学に残ったため、当初1名の採用予定が3名の採用となった。これもとことん話し合い、お互いの気持ちが通じ合うようになった効果だろう。

（2）粘り強い指導

知的障害者は、複数の仕事を一度に覚えることや曖昧な表現を理解することが苦手である。U－Car商品課に採用したNさんも入社したばかりのころは、“きれいの基準”が分からないで苦労した。しかし、職場リーダーの大内利弘さんの厳しい指導にもめげずに耳を傾ける素直さと自らやろうという姿勢があり、大内さんは元より、周囲の人たちも粘り強く指導を続けることができたと言う。

障害のない人より若干時間はかかったが、一度覚えたことは忘れないという長所もあり、今では障害のない人にも負けない仕事をしている。

Nさんは、「車を新品同様にしていく仕事は気持ちがいい。毎日が楽しく、会社へ来るのが楽しみ」と、1時間30分の車通勤を続けている。

上妻課長は、「最初は何度か心配する場面もあったが、本人のあきらめずにやり抜こうという気力と大内さんたちの思いやりをベースにした粘り強い指導が存在感のある彼らをつくりあげた」と、賞讃している。

障害のない人に負けない仕事をするNさん
洗浄作業に集中している

（3）信頼関係の構築

満仲係長は常日頃から配属先に頻繁に出向き、障害者と周囲の人に声をかけている。「配属したら終わり」ではなく、そこからがスタートというわけである。ここでもフェスツーフェイスで現場スタッフと信頼関係を築き上げながら、そのやり取りの中で障害者雇用に対する会社方針の浸透をはかっている。

人事課がいくら頑張っても、現場に常駐しているわけではない。いつも隣で面倒を見てくれる現場のスタッフに理解の輪が広がらないと、安定した雇用は困難である。現場のスタッフと障害者との間に信頼関係が生まれてくれば、「面倒を見てやりたい」となり、根気強く指導するようになる。また、そういう気持ちで指導を受ければ、「この人についていきたい」ということになり、多少、叱られても「自分のために叱ってくれているんだ」と素直に反省するようになる。相互信頼が生み出す力は大きい。人事担当者は、「机上で仕事をするのではない。現場を知り、障害者を理解することにより、人材を活かすことができる。また、これが本来の仕事である」に、納得である！

（4）携帯ホットラインでトラブル対応

何か問題があるときは、上司だけでなく、満仲係長に直接携帯メールで相談してもよいことにしている。特に聴覚障害者は、唇の動きで話を理解することはできるが、慣れるまでは意志の疎通が難しく、入社したばかりのときは、相談のメールがひっきりなしに入ってきた。しかし、現在では、「便りのないのは、よい便り」の状態で、相談は全くない。独り立ちしたのである。

上妻課長「周囲の思いやり、本人のやる気が成長の源」

満仲係長「現場を知り障害者を理解することが重要」

難関を突破して入社した障害者は、選ばれたという意識があり、モチベーションは高く意欲的で、勤務態度も良好で全員定着している。

しかし、トライアル雇用をした障害者（車いすを使用）は、1年を経過しても、自ら進んでやるという姿勢に改善が見られないので、残念ながら契約期間満了となり採用には至らなかった。この障害者は、意志の強さに疑問符はついていたが、寡黙ながらまじめなところを評価してトライアル雇用に踏み切り、教育も正規入社者と同じようにやってきた。車いすで足は不自由であるが、両手は使える。しかし、障害がない両手でできることは進んでやるという姿勢を持つように指導したが、いくら説明しても理解できなかったようである。この点は、採用時に特に念押し、指導していかなければならないと反省している。

U－Car商品課の仕事は車の移動が付きものであり、普通免許取得が絶対条件となっている。現在当課で雇用している2名の知的障害者はこの条件をクリアしているが、知的障害者にとってはかなり厳しいもので、いかに対策していくかがこれからの課題である。また、今後は、精神障害者の雇用に対してもチャレンジしていきたいという意欲を感ずることができた。

正社員登用制度があり、すでに3名が契約社員から正社員に登用されている。難関ではあるが、障害者はペーパーテストより実践能力を評価するよう柔軟な対応としている。また、人事評価制度を基に、雇用継続の有無、昇給額等を決定しているので、頑張ればそれ相応の評価を得ることもできるので、生活設計も描きやすくなっている。

定年は60歳である。平成25年からは段階的に希望者全員65歳までの雇用が決定しており、この点も安心材料と考える。しかし、いずれは70歳雇用の時代が到来するので、今からそのそなえもお願いしたい。