発達障害者の自立を支援します
- 事業所名
- 株式会社図書館流通センター(指定管理事業所・真岡市立図書館)
- 所在地
- 東京都文京区(本社)、栃木県真岡市(真岡市立図書館)
- 事業内容
- 書誌データベース(TRC MARC)の作成及び販売
公共図書館・学校図書館等への装備付図書等の販売
図書館運営業務(業務委託・指定管理者等による図書館の運営・管理) - 従業員数
真岡市立図書館 12名 株式会社図書館流通センター 4,012名 - うち障害者数
真岡市立図書館 1名 株式会社図書館流通センター 74名 障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 1 図書修理・書架整理・配架・館外清掃等 精神障害 - 目次
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
図書館は、書籍をはじめとする過去の知的生産物を、組織化し、集積し、そして保存しておくところであり、図書館の利用者がいつでも、それらの知識を引き出し、再確認することができる機能を備えることが求められている。
図書館の利用者は、引き出した知識を活用することを通じて適切な知識や技量を得られるだけでなく、他の人々との共同作業や異なる知識を組み合わせ、新しい創造を行なうことができる。こうして知の集積は増殖を続けることになる。
私たちは、図書館をこのように考え、業務を遂行し、また拡大させている。
株式会社図書館流通センター(以下「TRC」という)は、図書館の業務受託サービス事業を行う会社である。図書館の業務受託サービス事業に求められているものは、“費用対効果の高い図書館サービス”と“安心して任せることのできる運営能力”だと認識している。
1996年(平成8年)の福岡市総合図書館の要望によって、TRCの館内業務受託はスタートした。以来、受託している図書館は、指定管理者制度による受託館を含め302館、図書館で働くスタッフの数は3,900名を超えるまでになった。
1979年(昭和54年)の創業以来、当社は図書館業務を効率化する材料と道具を提供してきた。これらを活用しながら新たなサービスを生み出して、専門スタッフの長期雇用と研修・教育、図書館専門企業としての提案、地域に根ざしたサービスメニュー、そしてなにより図書館利用者への満足度の高いサービスを提供している。 そしてPFI(民間資金等活用事業)、指定管理者制度といった新しい形の図書館運営に積極的に参加している。
● 図書館運営理念
私たちは図書館を「人類の英知を未来へと生かす知識と情報の宝庫」と考えている。その図書館を利用するすべての人々が、教養を深め、自らの課題を解決し、心身ともに健康な市民として自立し、働き、暮らすことで地域が活性化する。私たちの使命は、その人々のお手伝いをすることによって地域社会に貢献することである。すべての人々が喜び、しあわせになる図書館づくりをめざしている。
● 障害者雇用の理念
ATARIMAEプロジェクト「ATARIMAE企業サポーター」宣言図書館が地域の人々の自立を支援するように、私たちも障害者の自立を支援している。TRCは障害者と障害のない者が分け隔てなく「ATARIMAE」に働ける職場環境作りを追求していく。
(2)障害者雇用の経緯
真岡市立図書館では、年2回(前期5月〜7月/後期10月〜12月、木曜日/毎週計10回)栃木県立益子特別支援学校の2年生を対象に「校外流通サービス実習」を受け入れている。この実習は「流通やサービスに関する基礎知識・基本的な知識と技術の習得を図り、適切な接客・応対する態度を育てる」ことを目的としている。
Aさんは、2年前の平成22(2010)年度の「校外流通サービス実習」の中にいた。当時のAさんは特に目立った行動もなく大人しい高校生であった。この10日間の実習の中でAさんに変化が現われた。実習が終わったある日、Aさんは担任の先生に、「僕は図書館で働きたい!」と自らの意志で言ったのである。担任の先生は、あの大人しいAさんからの発言に大変驚いた。学校側としても本人の意思を尊重し、真岡市立図書館での本格的な実習を考えた。この話を聞いた私は嬉しくなり、もともと障害者雇用について大きな関心があった私は、受け入れの準備に入った。
TRCにおいても障害者雇用については積極的に取り組んでいるため、スムーズに事が運んだ。
雇用に対する実習は、Aさんが3年生の平成23(2011)年9月からスタートした。先ずは、本人の適性判断である。既に、Aさんは2年生の時「校外流通サービス実習」で図書館業務を経験していため、特に問題無く実習が開始できた。実習期間は3週間、図書館スタッフとマン・ツーマンで図書館業務を行い、3週間後の適性判断は「合格」であった。
また、第2回目の実習からは、通常の図書館業務に加えて図書館資料(書籍)の修理に挑戦した。Aさんはもともと手先が器用で、趣味で紙細工(ガンダム作成)をやっていて、作品を何点か図書館にも持ってきていた。この書籍修理がAさんのやる気に火をつけた。続いて、第3回の実習を経て現在に至っている。
2. 取組みの内容
(1)障害者雇用に対する図書館スタッフの準備
私たち、真岡市立図書館スタッフとしても発達障害者の雇用は初めての経験であり、Aさんに対してどのように接するか大きな不安があった。そのために実施したことは、先ずは、発達障害についてスタッフ全員が理解することであった。栃木障害者職業センターの職業カウンセラーの「発達障害者の雇用について」の講義を受講して、スタッフ全員が共通認識することから始めた。講義終了後の質疑応答は、活発な意見交換が行われスタッフ一人一人が真剣に受け止めていることが分かり、私は嬉しく思った。また、これなら「行ける!」とも思った。
○発達障害者の雇用についての講義資料から
発達障害者の雇用について | |||
障害者雇用について | 発達障害について | 配慮について | 支援体制について |
※発達障害の3つの特徴 | |
a. | 社会性の障害 周りの人の様子を察することが苦手。本人に悪気はないが、気が利かない等と誤解されることがある。 |
b. | コミュニケーションの障害 話すのが苦手、一方的な話し方をする。抽象的な言葉の理解、使用が苦手 |
c. | 想像力の障害 こだわり(予定にこだわることが多く、変更が苦手。又、物の置き方などにもこだわることもある) |
上記の発達障害の3つ特徴全てがAさんに当てはまり、私たち図書館スタッフ全員がAさんを理解し、配慮する行動を事前に備えなければならなかった。
数回に渡る、学校担任・家族・図書館スタッフ(責任者)と打合せを設けて、Aさんの性格や言動そしてパニック発生の初期症状等の確認を行い、雇用の準備に当たった。
(2)Aさんの業務内容
Aさんは平成24(2012)年4月1日付けで正式に株式会社図書館流通センターの契約社員となった。当面は就業時間(6時間)のシェア勤務で午前8:30〜午後3:30、完全週休2日制(日曜日・月曜日休暇)で勤務している。業務内容は、業務責任者が作成するAさん独自のタイムテーブルに沿って業務を遂行している。現状では同じ業務を長時間働くことは集中性に欠けると判断し、1時間サイクルの業務内容で仕事をしている。
タイムテーブルの一例を下記に紹介する。
Aさん(1日タイムテーブル)
時 間 帯 | 業 務 内 容 | |
① | 午前 8:30〜 9:00 | 新聞(朝刊整備)・開館準備作業 |
② | 午前 9:00〜10:00 | 館外清掃 |
③ | 午前 10:00〜11:00 | 配架・書架整理 |
④ | 午前 11:00〜12:00 | 書籍修理 |
⑤ | 午後 0:00〜 1:00 | 昼休み |
⑥ | 午後 1:00〜 2:00 | 図書館イベント準備作業 |
⑦ | 午後 2:00〜 3:00 | 書籍修理 |
⑧ | 午後 3:00〜 3:30 | 配架・書架整理 |
上記、①〜⑧迄のルーチン作業を毎日行っている。
① 開館準備作業(朝刊整備)
朝刊11部(11社)が全て揃っているか確認を行い、不必要の広告・チラシを取り除き、お客様が利用しやすいようにホッチキス止めし、所定の新聞ホルダーに取り付けて棚に設置する作業をAさんひとりで受け持っている。各新聞社別の棚に所蔵された前日以前の新聞が全て揃っているかの確認も同時に行っている。
* 数量の確認
a.朝刊11部の新聞が間違いなく有るか?
b.前日以前の新聞が全て有るか?不明は無いか?
② 館外清掃作業
館外清掃はAさんの好きな仕事のひとつである。館外清掃をしているAさんはいつも笑顔であり、その顔つきには余裕が感じられる。自分で図書館周辺の地図を作成して、地図を見ながら「館長さん、今日はここを重点的にやります!」と積極的に行動する。来館するお客さまへ「おはようございます!」と作業帽を脱いで元気に挨拶する姿は立派である。また、後輩の図書館実習では、地図を取り出し、掃除の仕方・清掃場所等を指示するリーダーシップを発揮していた。
* 時間の確認
図書館は作業範囲が広いので、時間管理が上手にできなかったことが有り、パニックになったケースが何回か発生した。
③ 配架・書架整理作業
この作業はAさんにとって最も難しい作業と言える。
図書館の本には「背ラベル」と言って、その本の戻し場所(番地)が記入されたラベルが背表紙に貼り付けてある。
お客さまが目的の本を探し易いように、所定の本棚(書架)に戻す作業が「配架」である。これらは、NDC(日本十進分類法)で管理されており、本棚(書架)も分類別に設置されている。
ここでは、間違いなく背ラベル通りの本棚(書架)に戻すことが重要である。
入社当初は図書館スタッフとマン・ツーマンで作業をしていたが、作業の確実性が確認できたので、現在はAさんひとりで作業を行っている。ひとり立ちしてからは、1回/月位で図書館業務責任者によるAさんの作業チェックを行っている。
* 正確な作業
お客さまの立場になって、あるべき場所に探す本が無かったらAさんどうする!と言った指導方法で行った。
④ 書籍修理作業
Aさんの適性に合った最も好きな仕事である。元々Aさんは手先が器用で、趣味のペーパークラフトで自作したガンダムが図書館事務室に飾ってあり、Aさんは将来「書籍修理のプロ」になることを目指して日々頑張っている。
書籍修理は簡単なものから複雑なものまで色々あるが、当初は簡単なものから入り、本の大切さを理解することを優先としていた。簡単なものでも制限時間1時間では、数冊の修理しかできなかったが、手先の器用なAさんは、時間経過と共に見る見る腕を上げ、現在では難易度の高い絵本の修理(糸綴じ)ができる程に成長した。Aさんは修理対象本を持って来ては、自分なりにレベル分けを行い、「この本はレベル1」、複雑で難易度の高い本は「レベル9」などと区別して作業を行っている。過去、修理作業で失敗が発生しているが、その都度、原因を明確に理解させ改善することにより、今では失敗しないことを覚えた。
* 本の大切さ
a.より多くのお客さまに利用して頂くため、本の大切さを理解してもらう。
⑤ 昼休み時間
お母さんの手作り弁当を「あっ!」と言う間に食べて、残りの時間は、図書館内での「趣味の本」「興味ある本」などを読んで過ごしている。また、時々Aさんが気にかけていること、疑問に思っていることなどの調べものにも昼休みを利用している。
⑥ 図書館イベント準備作業
図書館では、自主事業として毎月イベントを開催している。そして、その準備作業にAさんの力は必要不可欠である。
夏休みに開催した「恐竜クラフト教室(段ボールクラフト)」では、教材の殆どがAさんの手作業によるものであった。教材の段ボール(図書新刊の空き箱)の解体作業から始まり、恐竜の型取り、カッターでの切断作業、恐竜キットづくり等をコツコツと着実に行い、当日の「恐竜クラフト」では参加した子ども達に丁寧に指導していた姿は印象に残っている。
イベントの最後に図書館スタッフから、「この恐竜は、Aさんが準備してくれました」のコメントに対して、子ども達からの大きな拍手がわき上がり、Aさんはとても照れていた。
「夏休み恐竜クラフト教室」は大盛況に終わり、Aさんは影の功労者であった。
以上、Aさんの日常業務を紹介したが、障害者雇用に関してより一層の理解と適切な配慮を行いながら、Aさんの特性を尊重すると同時に特性を活かし個々の対応を図っていき、Aさんが社会人としての「自立」が達成できるよう、図書館スタッフ一同は見守っていこうと思う。そして、仕事が楽しい!図書館へ行くのが楽しみだ!と言うような環境の整備も同時に行っていくつもりである。
3. 今後の課題と展望
(1)課題
Aさんは入社当時と比べて担当する業務能力は着実に向上し、自信に満ちた行動が見られるようになった。しかし、Aさんは私たちが目標とする位置に一歩近づいた段階であり、より一層の努力が必要となる。私たちは、Aさんの長期雇用を考える中で社会人としての「自立」を優先に取組んでいきたい。
① 課題1
Aさんに対する指示、命令系統が今のところ「私」ひとりであること、私の指示については本人も十分に理解して業務に当たるのであるが、他のスタッフが同じ指示をした場合、スムーズに対応できないことがある。これは、学生時代の「先生と生徒」の信頼関係が根強く残っているのではないかと想像する。この問題は、徐々に「私とAさん」の関係を崩して、他のスタッフからの指示に従うように対応しているが、時間が掛かりそうである。
② 課題2
図書館は幼児からお年寄りまで多くの人が利用する。
Aさんは「挨拶」については何ら問題無く対応できるのだが、利用者から突然の質問に対する行動が苦手のようである。現在はマニュアル通り「分かるスタッフと代わります」と回答しているが、将来的には簡単な質問はAさんが対応できる状態に育てたいと思っている。
また、図書館業務の中にはカウンターでの応対があり。学生時代の実習では経験しているが、本格的なカウンター業務については「接遇」「コミュニケーション」を理解する必要があり、今後の対応への課題となっている。
(2)展望
障害者雇用に関して、身体障害者の公共施設への受入は一般的であるが、発達障害者の公共施設への受入れは殆ど無く、積極的ではない。
発達障害者の個人の特性を理解・研究し、その活用方法を工夫すれば「戦力の一員」となる。
発達障害者・知的障害者は公共施設には向かないという固定観念に捉われず、先ずは本人と接してみて欲しい。接してみれば、誠実・素直・一生懸命さが伝わってくると思う。
TRCでは今年、栃木県では真岡市立図書館で1人、九州・関西・首都圏等の図書館でも8人の障害者を採用した。
県内の公立図書館関係者から聞いた限りであるが、Aさんは栃木県の公立図書館においては初めての発達障害者の雇用と思われる。
Aさんのように、高校生時代「校外流通サービスの実習」で初めて図書館業務を体験して、その図書館業務に興味を抱き「図書館で働きたい」と言う意欲が発せられた。
この様な「体験」がAさんのきっかけとなって現在があるのだから、他の図書館でも「体験」のきっかけとなる「図書館での実習」の受入れ・環境の整備・自治体の調整などを図り、新たな挑戦をすべきだと考える。
栃木県には、TRCが受託する指定管理者導入図書館は8自治体あるので、これらの図書館に横展開していきたいと思っている。
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