最初の一歩を踏み出してみれば、当初の不安は妄想と消え現実が見えてくる
- 事業所名
- 株式会社 新晃
- 所在地
- 千葉県船橋市
- 事業内容
- コンビニエンスストアー及びスーパーマーケット等への食品輸配送並びに物流センターの運営管理
- 従業員数
- 全社: 1,800名(千葉中央配送センター事業所:107名)
- うち障害者数
- 全社: 53名(千葉中央配送センター事業所: 8名)
- (千葉中央配送センターの内訳)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 1 各種のピッキング (仕分け) 業務 内部障害 知的障害 7 各種のピッキング (仕分け) 業務 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
消費者の食へのこだわりや安全・安心への関心の高まりの中、「次世代卸」を標榜する全国的食品卸である「株式会社日本アクセス」の100%子会社として、当社は、関東エリアにおける末端機能を担っている物流会社である。生鮮三品(魚、肉、野菜)を除く「ドライ・チルド・フローズン」3温度帯の各種食品を、幾多の取引先傘下にある全ての小売店へ、安全・迅速に配送するのが役割である。注文を受ける食品アイテムは数多く、配送センターでは、徹底した品質管理のもと、それらを毎日間違いなく取り纏めて発送するのである。配送先であるコンビニエンス・ストア等小売店の数もまた膨大な数に及ぶため、関東エリアを16の営業拠点(営業所など)に分けるとともに、食品もカテゴリーごとに特化された14の物流拠点(配送センター)を通して、全社的な情報管理システムの下、絶えることなく組織的、かつ効率的な配送を行なっている。
従業員数はパートを含め約1,800名、そのうち約4分の1がトラック輸送に、残り4分の3が配送センターにおける商品のハンドリング業務に従事している。
配送センターでは、取り扱う食品のカテゴリーにより施設・設備がそれぞれ異なるが、品目ごとに仕入れた品物は、「自動仕分けシステム」などの自動化設備、あるいは「デジタルアソートシステム」などの半自動化設備によって、その日のうちに仕向け先ごと仕分けられ、そのまま小型トラックで各小売店舗へ配送される。
(2)障害者雇用の経緯
当社が障害者雇用に取り組み始めたのは10年ほど前(平成14年)からである。当時は納付金を納める側の企業であったが、取り組みを始めた動機は経済的な理由というより、“少なくとも法定雇用率1.8%(平成25年以降2.0%)を満たさなければ!”との強い社会的義務感からであった。そこで、職業安定機関・千葉障害者職業センター・民間支援団体等、各種関係機関との関係づくりを始めたのが契機である。推進者は本社の総務・人事担当役員であった。
当社の障害者雇用は、まず配送センター業務に的を絞り、センターごとに数名の障害者を配置することを目標に置いた。しかし、各配送センターの建屋は、いずれも自動化設備を中心として立体的かつコンパクトに纏まっている。そのような偏狭な場所において、「仕分け業務の多くが細かな手作業を必要としているが、障害者は果たして多くの商品アイテムを一つの間違いもなく仕分けする作業を長時間続けられるだろうか?」また、「障害者は果たして自動化設備の仕分けスピードについていけるだろうか?」あるいは、「狭い倉庫内をフォークリフトが行き交う中、果たして障害者の安全を保つことができるだろうか?」といった不安が先にたち、現場に障害者を配置しようとすること自体が極めて勇気の要る決断であった。
そこで、関係機関に当社の強い決意を述べ、全面的に協力を仰ぐことにした。そして、配送センターの業務を関係機関に良く知ってもらうとともに、そうした業務に適応できる障害者を探すための様々な試行錯誤が始まったのである。まず、障害者関係機関同士の横の繋がりを通じて、各配送センターと、それぞれの配送センターに近い「特別支援学校」や民間の「障害者支援施設」との定期的交流を始めた。具体的には、こうした施設が主催する雇用イベントに当社の方から積極的に参加するとともに、施設側に対しては可能性のある障害者を研修のような形で推薦してもらうようにしたのである。
採用にあたっては、訪問した「千葉中央配送センター」では千葉障害者職業センターのジョブ・コーチの支援を受けながらトライアル雇用を行なった。そして採用後も千葉県障害者職業センターおよび民間支援機関の支援を受けて障害者の職場定着を図ってきた。
その間、各配送センターでは、センターごとに受け入れ担当者を任命して受け入れ環境づくりに努めた。具体的には、障害者用の施設・設備の配置をはじめ障害特性や作業に適応する機器を配置して職場改善に取り組んだり、障害者を配置するセクションに責任者を配置して研修を実施するなどの啓発活動を行なった。
その結果、平成25(2012)年1月現在当社の雇用する障害者数は、知的障害者を主体に実人数にして53名、全社平均雇用率7.43%に達するまでになっている。平成23(2011)年には、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構から「平成23年度障害者雇用優良事業所表彰(理事長表彰)」を受け、また、平成24(2012)年には、当社の従業員の一人が「優秀勤労障害者表彰(理事長努力賞)」を受賞している。
2.取組みの内容
各配送センターは取り扱う食品のカテゴリー(種類)や、それに伴う設備条件がそれぞれ異なるため、障害者に対する取組みの内容も異なってくる。
ここでは、千葉港の一角に位置する「千葉中央配送センター」について、その具体的な取組みの内容をみてみよう。
当センターは、コンビニエンス・ストアー向けに常温の飲料や袋菓子など、7つのカテゴリー商品を取り扱っている。比較的重量の軽い物は2階に、重いものは1階に仕分け場を配置した二階建ての建屋で、「入庫→検品→保管→ピッキング→出庫」の工程を持つ「在庫型センター;DC(Distribution Center)」となっている。或るピッキング現場では、品目アイテムごとの在庫棚に取り付けられた「デジタル表示機」の指示に従って商品を配送先ごとに摘み取っていく「デジタルピッキングシステム」が採用されており、作業者はデジタル表示機のランプが点灯する棚を移動しながら、摘み取った商品を「オリコン(折り畳みコンテナ)」と呼ばれる配送先別のプラスチックケースに格納し、一通り移動したところでオリコンをベルトコンベアに載せる一連の作業が一定のスピードで繰り返し行われている。夜勤は無く、午前中に仕入れた商品を午後仕分けして配送する年中無休の業務である。障害者を含むパートは2交代制で勤務時間は午後の時間帯になる。そして、1日5時間の作業で取り扱うオリコンは1,000ケースに及ぶこともある。
また、別のピッキング現場では、「加工ボール」と呼ばれる作業が行なわれている。段ボールケースで入荷した袋菓子類を開梱し、配送先ごとに必要数量を束ねて袋詰めするのである。こうした作業は飲料のカテゴリーでも発生する。ボトル単位の必要数量を仕分けることがあるからである。
当センターでは、こうした作業に障害者を配置する場合、フォークリフトの往来が少なく、安全が確保され管理者の目が届く場所、品目に限って配置している。障害者受け入れのために特別な施設・設備を殆ど設置をしていないにも拘らず、従業員数107名のうち9名の知的障害者を雇用しているので、当社の中でも最も雇用率が高い配送センターになっている。「比較的障害者に向いた職場」と言えるかもしれない。
しかし、当センターがここまでに至るには、地道な「受け入れ体制づくり」の努力があったのだ。これまでを振り返ることにより、更に具体的な姿が明らかになる。
当センターが障害者雇用に取組み始めたのは8〜9年前(平成15(2003)年から平成16(2004)年)で、当社の中でも早い方であった。
当センターの場合、千葉障害者職業センター及び障害者就業・生活支援センターとの交流を通じ、障害者の雇用及び障害者の特性について指導を受けるとともに、当センターの作業を理解してもらいながら情報交換に努めた。そうしているうち、知的障害者は一つのことに集中できるメリットのあることが、概念上の理解ではなく、現実の姿として見えてきた。
また、障害者就業・生活支援センター等が主催して毎月のように開催する雇用者交流会などのイベントに何度か参加するうち、特別支援学校をはじめとする他の障害者施設とも横の繋がりができるようになった。そのことによって、障害者雇用の間口が拡がったことは大きな収穫である。今では当社の職場に適応できる人材について、関係機関から情報を提供いただけるようになった。また、当センターでは、特別支援学校側からの要請に応じて年2回1週間ほどの研修生の受け入れを行なっている。その結果、平成25(2013)年4月から更に1名を新規に採用する予定である。
当センターでは、障害者を配置するラインごとにそれぞれの職制を通じて障害者の雇用管理体制を整えている。具体的には、作業中はラインの管理者が障害者から目を離さないようにすると共に、別途担当者(障害者職業生活相談員)を配置し、各ラインを横断して日常は必ず障害者に声掛けをしてコミュニケーションをとるよう心掛けている。その結果、今では同じ職場のパートの皆さんも日々声掛けし、家族の一員のように障害者の業務遂行に協力してくれている。

3.取組みの効果
障害者雇用自体について言えば、全社的に採用率・定着率ともに極めて良好である。当センターでも、これまで正式に採用した障害者でまだ辞めた者がいないし、採用に関しても通常の試用期間内に採否を決めている。これまで問題なくやってこられたのは、無理をせず、安全が確認できる範囲内に絞って障害者雇用を進めてきたからであると考えている。その結果、障害者雇用を始める前に抱いていた不安は既に無くなっている。当初想定した心配の多くは偏見による妄想であり、“一歩踏み出して見れば現実が見えてくる!”ことを実感している。
しかし、同時にこれまでの取組みを通じて障害者雇用の限界も見えてきたのも事実である。当配送センターでは7カテゴリーの商品にわたってピッキング作業を行っているが、そのうち障害者が従事できるのは2〜3カテゴリーに止まっており、残りの商品カテゴリーについては適用をストップしている。障害者に不適用のカテゴリーには、重量のある酒類や飲料、フォークリフトによるハンドリングを要するカートンなどがある。視覚と聴覚が敏感に働かないと、トラブルに対する危険回避や機敏な処置をとる事が難しいため、これらのカテゴリーの場合障害者には負担になると考えるからである。
障害者は、仕事に対する集中力が高く、『休み』の指示があるまでいつまでも作業を続けられる良さがあるものの、作業能率自体はどうしても障害のない従業員に比べて若干落ちることが分かってきた。また、「障害者は複数のことを同時に並行してできないので臨機応変な動きができず、仕事を教えるにも時間が掛かる。」といったデメリットもある。敢えて彼らに過度の負担を掛けたり要求をしたりしないようにして、その分賃率を障害のない従業員より低く設定してバランスをとっているのが現状である。それでも彼らの働きが最低賃金を上回っている。
4. 今後の展望と課題
上に述べたように、当社としては障害者雇用に特別のメリットを感じているわけではないので、既に法定を充分上回る雇用率を達成している以上、今後敢えてこれを高めていかなければならない必要性はないかもしれない。しかし、各配送センターでは、これまで、障害者本人の能力や障害の程度に応じた職場配置の創出に努めてきたし、勤務時間についても負荷に配慮して短縮するなど、無理のない形で徐々に適用業務の拡大を図ってきたので、今更これを辞めるつもりはない。したがって、今後も更に雇用率は高まることが予想される。また、障害者自身の努力により職域は拡大し生産性も高まっていくであろう。その結果、当社としては今後彼等を配送センターにおける重要な人材として活用していくことになり、またそうしていくことが今後の課題でもある。具体的には、各配送センターそれぞれの役割や施設・設備に応じて障害者の業務範囲の拡大を図ることが挙げられる。例えば或るセンターでは、入庫工程で、商品ケースに置き場を表示したシールを貼る作業が既に障害者の手で行なわれている。また、当センターでも、配送先ごとに袋詰めしたものに伝票を書く付随作業への適用を検討しようとしている。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。