在宅勤務の可能性を広げてきた企業
- 事業所名
- クオールアシスト株式会社
- 所在地
- 東京都新宿区
- 事業内容
- データ入力、各種ポスター・チラシ制作、ホームページ制作、コンサルティング業務
- 従業員数
- 25名
- うち障害者数
- 23名(平成24年12月現在)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 19 データ入力、各種ポスター・チラシ制作、ホームページ制作、コンサルティング業務 内部障害 3 データ入力・印刷、各種ポスター・チラシ制作、ホームページ制作、コンサルティング業務 知的障害 精神障害 1 データ入力、各種ポスター・チラシ制作、ホームページ制作、コンサルティング業務 - この事例の対象となる障害
- 肢体不自由
内部障害
難病(脊髄小脳変性症) - 目次


1.事業所の概要、在宅勤務者としての障害者の雇用促進
(1)事業所の概要
① 事業内容
当社は、調剤事業、非調剤事業を展開するクオール株式会社の特例子会社である。
平成21(2009)年2月に設立し、同年3月に保険薬局業界初の特例子会社として認可された。親会社からデータ入力、各種ポスター・チラシ制作、名刺の作成・印刷、ホームページ制作、コンサルティング業務を受注している。
② 障害者雇用の理念
障害があっても経済的自立、社会参加を積極的に促進し、一人の人間として社会に貢献していく、そうした人材育成と在宅勤務という特徴を生かし個々の障害特性に合わせた職場環境づくりを行い、重度障害者の社会参加と雇用の実現に努めている。
(2)在宅勤務者としての障害者の雇用促進
① 在宅勤務者を中心とした雇用形態に至った経緯
親会社であるクオール株式会社においては、事務部門等を中心に障害者雇用に取り組んでいたものの、従業員の多くは薬剤師としての専門職であり、薬剤師の資格を取得している障害者も少なかったことや、小規模な各薬局で障害者が働きやすい環境を整えていくことも困難であったことから、IT機器を活用した重度障害者の雇用経験をヒントに、通勤が困難な重度障害者に焦点をあて、障害者の雇用を拡大することにした。
とりわけ、人工透析や頸髄損傷の重度障害者の場合、定期的な通院を必要とすることや日常生活において介助者を必要とする場合や、就労時間や勤務場所に特別の配慮を必要とする場合が多いため、就労意欲があっても一般就労に結びつく機会が少ない。
このため、IT技術の進歩により通信手段が多様化され、通勤しなくても仕事ができる環境を整備することにより、定期的な通院時間の確保、生活介助等の時間を確保できる在宅勤務形態での障害者雇用を進めることとし、平成21年2月にクオールアシスト株式会社を設立した。
② 雇用までの流れ
雇用形態を在宅勤務とする採用方針を決定したものの、採用ルートを開拓することが最初の難関であった。近隣都市のハローワークの専門援助部門へ行きつつ、独自でリハビリテーション病院を訪問したこともあったが、なかなか計画どおりの採用ができない状態が続いた。結果としてハローワークから紹介のあった人を採用することとなり、在宅勤務による障害者雇用が開始された。
当社の採用条件の中には、希望する人材として「新しいことにチャレンジすることが楽しいと感じる方」「自分をコントロールでき、コミュニケーションが図れる方」がある。これは、"在宅勤務"という特性に合うかどうかを確認する意味を持っている。
最初に雇用した人の後もハローワークの専門援助部門からの紹介で採用することとなるが、何人かを採用するうち、当社に合う人材の紹介がなされるようになっていった。
採用に当たっては、面接は1回のみで、自宅訪問を行って家族の協力や家庭環境についても確認している。また、採用後は周囲の協力体制と家族も含めた信頼関係を構築するよう努めている。
現在当社で採用している在宅勤務者の就業地域は、北は北海道から南は宮崎と幅広くなっている。このため、頻繁に就労場所を訪問しての直接的な指導管理ができず、インターネットやWeb会議システム等を活用しての状況把握に限定されるので、会社と個人の信頼関係が重要となってくる。そのために必要なこととして、「いい人であること」と在宅事業部部長の青木さんは話す。
「いい人」とは、雇用管理の難しい在宅勤務で重要になる「自己管理ができる」「考える努力をする」「コミュニケーションが図れる」「相互に信頼できる」である。もっとも必要な条件が職歴や経験よりも「いい人」であることだという。
2.取り組みの内容
(1)在宅勤務を支えるIT技術
IT技術の発展が在宅雇用の可能性を格段に広げてきた。通勤しなくても会社のオフィスと繋がり情報を共有する手段が確立され、通勤困難であっても通勤した時と同レベルのスキルを身に付けることが可能なように、当社では次のような環境設備を整えている。
- 会社からの専用PCの貸与
- イントラネット上の管理システムによる出社・退社のメールでの報告
- ワークウェルコミュニケータ※(Web会議システム)での業務の打ち合わせ
- インターネットでの顧客とのやり取り
- Web制作やDTP等による業務分野の拡大
- eラーニングによるスキルアップ
- 共有サーバの使用による既存データ等の活用
※ワークウェルコミュニケータは「株式会社OKIワークウェル」の登録商標である。
(2)雇用管理
当社は、勤務方法にフレックスタイム制を導入し、イントラネット上で出退勤を管理している。これにより、社員個々の体調や障害に合わせた業務を行うことができている。
さらに、通常の雇用形態であれば、一人では困難な仕事も社員間で相談し、支え合うことにより解決できるが、在宅勤務では個人のセルフコントロールが重要となってくる。自らが仕事を見つけ、自己解決していく能力を構築できるように教育方法を工夫し、チームによる業務分担等を行うことで、社員間のコミュニケーションをとれるような体制作りを行っている。
青木さんは、「雇用管理するのではなく、業務を管理することが重要である」と話す。作業報告を確認することで個々の生活状況や体調も見えてくる。そこで必要な援助を行っている。管理者自身が抱え込まないことも重要である。顔を合わせる機会が少ない中で、信頼関係を構築できる秘訣がここにある。
(3)新人教育
入力業務の最初の研修として、わざと中途半端なマニュアルを使用し、先輩社員の指導の下でOJTを行いながら、最終的に完成させるという方法をとっている。自ら作り上げ、完成させることでスムーズな業務把握を促すことを目的としている。
あくまでも結果主義ではなく、業務を完成するまでのプロセスを大切にしているのである。また、新人を教育するために先輩がスーパーバイズする方法をとり、人間関係の構築と先輩である障害者の業務の見直し等にも繋げているのである。直接会うことが困難なため、メールやワークウェルコミュニケータ(Web会議システム)を利用し、教育を行っていることから、質疑応答を繰り返すだけでなく、休憩を利用して雑談する中でのコミュニケーションも推奨している。一人で抱え込んでしまう状況に陥りやすい環境に対しての配慮である。
3.取り組みの効果、今後の展望と課題
(1)取り組みの効果
① 半在半勤のAさん
Aさんは、腎臓機能障害により週3日4時間、透析のため病院へ行かなくてはならない。そのような状況の中で仕事を探し、ハローワークへ登録したところ、専門官から在宅勤務であればできるのではと当社を紹介され、面接を受け採用となった。採用に当たり、半在半勤の提案を受け、1か月トライアル勤務を行い、この勤務形態となった。
現在は、透析がない月・水・金曜日には出社し、会社で印刷業務や梱包・発送作業を行っている。また、新人の在宅社員宅を訪問し、入力業務の研修を行うこともある。自然と他の在宅勤務社員とのパイプ役にもなってくれて、業務が円滑に進むようになった。
透析のある日は、治療後に自宅でデータ入力とイラストデザイン等の仕事を行っている。"体力的に厳しい時もあるが、一人だと怠けてしまうのではないか、緊張感がなくなってしまうのではないか"という思いもあり、現在の半在半勤の勤務を続けている。
また、Aさんは一昨年の東日本大震災の時には出社していたため帰れなくなってしまい、透析を受ける手はずを整えるのが大変だったという。青木さんや家族、病院が連携し、帰宅せず会社近くの病院で次の日に透析を受けられるようにしたという。その後の計画停電時には、計画が公表されるたびに会社とやり取りをし、勤務形態を工夫していたという。
現在も通勤は大変だが、やりがいを感じているという。ただ、もう少し大変になったとしても在宅で就業が続けられるという見通しがあるので、安心して仕事ができると話す。


② 頸髄損傷のBさん
口にマウススティックを咥えてパソコンのキーボードを打っている。大きな電動車いすで作業ができるように会社が専用のテーブルを用意した。テーブル等の設置は、リハビリテーション病院からアドバイスをもらい工夫した。LANケーブルで複数のパソコンを操作し、ペーパーレスで介助レスな作業ができるようにも工夫したことにより、データ入力業務とWeb制作の業務ができるようになり業務分野が拡大した。

③ 脊髄小脳変性症のCさん
仕事はデータ入力(ノートPC)とWeb制作(デスクトップPC)を行っている。会社との連絡は主にメールで行っている。また、ヘッドセットを装着しワークウェルコミュニケータを使い、社員同士でWeb会議を開き、仕事の方針等を話し合ったり情報共有を行っている。

④ 社外活動の推進
会社にとって社員一人一人が広報マンであるという。各地域のボランティア活動にも積極的に参加をしている。これも生活自体を支援するという会社の取り組みをアピールすることができているという。
⑤ 社員間のコミュニケーション
社員自身がホームページを作成し、Q&Aを載せたり、社員紹介等を入れている。会えない中でも関係性を構築していくことに役立っている。掲示板には、情報を共有できるように会議録を入れたり、近況報告をしたりしている。
社員は年1回、都内のホテルで集まっている。会社に集まることは困難であることから家族も含め集まる機会を設けているという。互いを支え合える体制づくりが確立され、お互いのコミュニケーションがより深まるという。
(2)今後の展望と課題
重度障害者の雇用の問題として、個人の体調管理が重要となる。体調を壊すことで長期の入院となることも少なくない。そのためには、生活支援も必要となる。生活支援と就労支援を一体化した支援が必要とされている。
当社の取り組みは、就業環境が整えば、IT技術の発展によりどんな重度障害者でも就業が可能となってきていることを示している。環境を整えること、柔軟な勤務形態を選択できるようにすることを会社が支援していくことで、重度障害者の雇用の可能性を大きく広げている。
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